「紹介するよ師匠、この子が俺の弟子のミリア。こっちがクロス。ミリアの保護者で、悪友みたいなもんです」
「えっとはじめましてロカさん。急に押しかけてしまってすみません」
「こんにちは、ロカだいししょー!」
「おうっよろしくな。この俺に孫弟子か。人生分からねえもんだ」
でろりんに連れられ、ロカの部屋までやってきた影夫とミリアは、彼と対面していた。
「俺達がお邪魔しちゃって、お加減は大丈夫ですか?」
「ああ、話すくらいなら問題ねえさ」
ロカはんなことは気にすんなとばかりに、軽く手を振る。
だが影夫が見たところ、かなり体調は悪そうだ。
頬はこけており、目の下には隈があり、髪や肌からも枯れ木のような生気の無さが感じられた。
体中の生命力が枯渇しかけていて、気力だけで生きているような危うい状態にすら見える。
回復呪文が効かない病という話だったので、影夫は暗黒闘気の影響がないか探ってみたのだが、何も感じなかったので、原因は違うようだ。
よくよく考えてみれば、ミスト級の濃厚な暗黒闘気でもない限りは、アバンやマトリフがなんとかしてしまいそうだが、彼らでもダメだったのだ。
分かる範囲で原因を考えてみるが影夫には思いつくことができなかった。
しょうがないので、思考を打ち切り、話を再開することにする。
「そうだ、マトリフさんからの手紙を預かっています。な、ミリア?」
「はいっ! ロカだいししょー」
目の前でだらだらと考えに耽っていると、ロカに負担をかけてしまうことになりかねない。
「届けてくれてありがとよ。あと俺のことは呼びたいように呼べばいいぞ。敬語もいらん」
「えへへ。わかったよ、だいししょー!」
ロカはミリアから手渡された手紙に目を通していく。
柔和な表情で手紙を開いたロカは、真剣な表情になったかと思うと、ほぅ、と意外そうな笑みを浮かべた。
一体、何が書かれていたのだろうか。と周囲が疑問に思う中、ロカは、視線をでろりんに向ける。
「でろりん。ミリアに何を教えた?」
「剣術や実戦での立会いなんかについてと鍛え方を少し。師匠から受け売りとか勝手な解釈で教えたことも多いですけど」
「それでいい。自分なりに消化したモンを教えてやりゃあいいんだ。ご大層な一子相伝の流派とか秘伝とかじゃねえからな」
改めてロカは、ミリアとクロスをベッドの傍らに呼んで、ミリアの頭に手を乗せたと思ったら腕や手を触って観察したり、猫ぐるみに入ったクロスを凝視して手で持ち上げてみたりする。
「えっと……ロカさん?」
「だいししょー?」
一通りふたりを調べた後、ロカは唐突に真剣な表情になって、クロスとミリアをねめつけてくる。
「ミリア。なんでお前は暗黒闘気なんて物騒なモンを使うんだ?」
「っ」
一瞬、ミリアはきゅっと、ドレスの裾を摘みながらも、怯まずにロカを見返してはっきりと言葉を紡ぐ。
「暗黒闘気は……この力は、私の絆だから」
「……絆か」
「ひとりぼっちになった私の側にいてくれるお兄ちゃんが与えてくれた力が暗黒闘気なの。この力はお兄ちゃんそのもので、大好きだから使う! 使い続ける!」
「んで、クロスって言ったか。お前暗黒闘気の魔物だろ? 何でこの娘に肩入れしてる?」
易々と影夫の正体を看破され、ミリアが影夫を守るようにきゅっと抱き寄せる。
不安げなミリアを落ち着けるようにミリアの手をさすって宥めつつ、影夫も言葉を紡ぐ。
「ミリアは俺の守るべき、かけがえのない大事な家族だから」
影夫は一点の迷いもなく、言い切る。
その言葉に嘘偽りなく、心からの言葉だった。
「ははっ。そうかそうか。お前らは気持ちのいい奴らだな! 気に入った!!」
「ありがとっ、だいししょー!」
「しっかし、あのへそ曲がりの偏屈じじいを孫の世話を焼くじじいみたいにしちまうとは……とんだ人たらしどもだな」
手紙をひらひらと振りながら、ロカが苦笑してみせる。
きっと魔王ハドラーと戦っていた頃のことを思い出しているんだろう。
「えっと師匠。暗黒闘気って何なんですか?」
場がなごんだところで、そろーっとでろりんが手を挙げた。
そういえばでろりんには、自らの正体もミリアの使う闘気の詳細も教えてなかったことに影夫は今更気付いた。
「ああ。闘気の一種で、負の感情を源にしてる。危なっかしいわおっかないわ、魔族が多用してるわで、人間の使い手は俺の知る限り誰もいねえな」
どうやらでろりんは、暗黒闘気のことはまったく知らなかったらしい。
そのあたりの知識を教えてもらう前に逃げ出していたのだろうか。
「黙っててすまん! 俺は元人間の暗黒闘気生命体なんだよ。誤解されるから嘘ついてたんだ」
「あ~なんか時折ゾクっとしたのはそれでか」
「ごめんなさい……でろりんししょー」
「まぁしょうがねえよ。会った時に教えられてたら、びびって逃げてただろうしな。気にすんなよ」
「……うん」
「大丈夫だ。今は別に怖くもなんともねえし、もう俺らは仲間なんだからな」
「うん!」
ぽんぽんと、不安げなミリアの頭に手を乗せて、でろりんが言う。
「それででろりんししょーの修行は順調なの?」
「ああ、すごい技も特訓中なんだぜ。使えるようになったらみせてやるよ」
「孫弟子にも修行つけてやりたいが、情けないぜ。ったく病の身がうらめしい」
「あっ!? ちょっと待っててねだいししょー! レイラさんあれ貸してー!!」
急に思いついたようにミリアはマァムの家の中に駆け込んでいったかと思うと、すぐに玄関から飛び出して、そのままルーラでどこかに飛んで行ってしまった……
☆☆☆
「はぁはぁっ、だいししょー、これ飲んでみて!」
数十分後、大きな水がめを抱えたミリアがマァムとともに部屋に入ってきたかと思うと、マァムが素早く水をコップに入れてロカに差し出した。
「あっ。奇跡の泉の水か!」
「なんだそりゃ?」
清らかで生命の力が感じられるその水を見て、影夫は思い至った。
たしかに生気を失い、生命力が枯れているようなロカの身体には効くかもしれない。
「伝説の竜の騎士の傷をも癒すという癒しの力が込められた奇跡の泉の水。言ってみりゃあ神様からの贈り物みたいな水だな」
「ありがとよ。わざわざ取りにいってくれたのか」
「でも、生水で大丈夫かな。でも煮沸して効能が飛んだら意味ないし……」
「腹痛やら病気やらはホイミで治せる。俺のこの病以外ならな」
そういえば、そんなことは原作の設定にあった気がする。
難病奇病の類以外は、怪我も病もぜんぶ回復呪文で治せるのだとか。
影夫が思い返しているうちに、ロカは奇跡の泉の水を飲み干していた。
「どうかな?」
「ふぅー。そうだな、力が湧いてくる気がするよ」
「ほんと!?」
「ああ。寿命が伸びたんじゃねえかな?」
「ありがとうミリア!」
それを聞いたマァムは感極まって笑顔を浮かべながら、ミリアの手を掴んで手を上下に振ったり、抱きついたり、大はしゃぎだ。
「いいよ、だいししょーの為だもん。でも効いてよかったぁ。無くなったらまた汲みにいくね!」
「ミリア! お礼に、私の大好きな場所教えてあげるわ! こっちよ!!」
「うんっ」
嬉しそうなマァムがミリアをつれて外に飛び出ていくと、ロカは苦笑する。
「俺はずいぶん心配かけちまってんだなぁ」
「マァムは心優しい子ですからね……それで師匠。ほんとに効いたんですか?」
「ああ。少しだが力が戻ってる。多少は生命力が戻ったんじゃないか」
「すげえな奇跡の泉!」
「正直、でろりんが仕上がるまで持たないと思ってたんだが、大丈夫そうだ。その後に家族のために時間も取ってやれるかもしれねぇ。クロス、ありがとよ」
そういって、影夫に頭を下げたロカは、ベッドに身を横たえて瞳を閉じた。
「明日に備えて俺は寝る。クロスとミリアもしばらくウチに泊まっていけ。アドバイスくらいならくれてやれるからな。明日から楽しみにしとけ。アバン越えをさせてやるからよ……zzz」
でろりん&ミリア&影夫は、ロカにアドバイスを受けつつ、連日実戦形式の手合わせと稽古を立ち上がれなくなるまで続けることになった。
会話するだけの話が続いて……なんかすみません。
文章がスムーズにかけない……。スランプです。
正直投稿するレベルか非常に迷ったんですが速度重視です。
後から見返したらと思うと怖いですが……とりあえず進行優先です。ぼちぼち進めていきますね。