「じゃあ今日は村を出る準備をするぞー!」
「はーい」
朝食の後片付けを済ませ、ミリアと話しあった結果、ふたりは村を出ることにした。
この村にもたぶん役人や行商人は来るだろうし、ミリア以外の全員が死んでいることが発覚したら厄介な事態になりかねない。
特に影夫を討伐するために軍隊でもやってきたら大変なことになる。
なので、村から持っていけるだけ物を持ち出して旅に出るということにした。
家族との思い出が残りすぎているこの村にいるとミリアも記憶のフラッシュバックがあって辛いだろうという影夫の配慮もある。
「よし、じゃあまずは村中の物資をかき集めるか」
「りょうかい!」
村人が全滅したからといって、金品を根こそぎ我が物にするのは、強盗殺人以外の何ものでもない気がして罪悪感が相当だ。
だが、そもそも悪いのは村人達だし、ここに金品を残しておいても無駄になるだけだろう。
(ここはひとつ一家虐殺事件の被害者であるミリアへの賠償金ということで仏さん達には許してもらおう)
「では出発ー!」
「おーー」
気持ちをすっぱりと切り替え、影夫とミリアは10軒ある家を1つずつ家捜しして金目のものや使えそうなものをかたっぱしから、持ち出していく。
「あ! 呪文書発見」
「え? ナニナニ?」
「えっと、魔法使いの初歩呪文の契約や使い方とかがのってるみたいだなー」
「メラ、ヒャド、ギラ、イオ……あとで契約を試してみるか。そういや僧侶の呪文書にも色々あったけ。そっちも一緒にやるか」
「楽しみー」
古びた外観の民家の本棚から呪文書を見つけたり。
「わあ!なんかいっぱいはいってる!」
「こりゃすげえな、コレクションか?」
古服や埃を被ったアイテムの収納倉庫を見つけたり。
「わあ、なにこれ?」
「んん?どしたー?」
「この壁の奥に変なのがあるよ」
「どれどれ……ってこりゃなんかの仕掛けかな? ポチっとな」
「あ! 隠し扉だ!」
「うおーなんだこりゃ」
「うわ! すごいお金!」
村長の家で隠し扉を見つけその中に財宝をみつけたりした。
村長の家からは日記も見つかり、不正の証拠を見つけたりした。
この村を担当する徴税官とグルになって税金を誤魔化し村人からは多く取って国には少なく納めていたらしい。
ミリアに聞いたら村の暮らしは余裕がないものだったらしい。村人に歳寄りがいなかったのは……まさか貧しさからの口減らしだろうか?
そして、ミリアの家族は厳しい現状にある村のために村長の不正を正そうとしてあんな目にあったんだろうなあ。
「家捜し終了!」
「つかれたー」
「えーそれでは。集まった物資と金を発表します!」
「わー、ぱちぱちぱち」
「まずはお金が9259G。溜め込んでやがんなあオイ」
「あの豚めぇ~!」
1Gは大体1000円だとネットで見たことがある。すると925万9千円という大金が眠っていたことになる。もちろんほとんどが村長の家にあった分だ。
「次に宝石や装飾品類。価値は不明!でもきっと高いだろう! 豚村長の家から山ほど出てきたぞ」
「みんな苦しんでたのに!」
「次は古着や古装備等多数。これは売るまで価値はまったくわからないな。使えそうなものは残しておいて装備するぞ」
「たのしみ~」
「次が聖水やらのアイテム多数。消耗品だけど埃塗れで古めかしいので使うのが怖い。だから全部街で売ることにする!」
「おぬしもワルよのぉー」
「次。生鮮食料に保存食料がふたり分換算で数ヶ月分。持ち出しきれないが売ってもそんなに金にはならないだろうな。売れるだけ売ろう」
「最後が布や生活雑貨。かさばるわりに安値だろうから放置だ! こういうのを大量にうると怪しまれそうだし。まぁ宝石とか売りまくる予定だから今更な気もするけどな」
しかし、村に残すものをのぞいても、街にもっていけば結構な金額になるのではないだろうか。2万Gくらいになると大変助かる。
さすがに村中の財貨を集めるとすごい。
旅立ちの時点でこんな大金と豊富な物資を所持だなんてすさまじい。
端金を渡されて放り出される勇者とは雲泥の差である。
「うへへ、濡れ手に粟、濡れ手に粟」
ついつい目がGマークになって涎が垂れてしまう。
「お兄ちゃん……」
じとーっとした目でミリアが見つめてきて影夫は正気に戻る。
「ごほん。あとは村の共有財産として、牛3頭に馬2頭に鳥が5羽と馬車が1台か。農具等もあったがあれは放置だなあんなのを大量処分したら怪しさ爆発だろうし」
「ミリア、一番近い町までは村からどのくらい?」
「一番近いのはガーナの町だよ。それなら、前に馬車で村からみんなと買い物に出かけたときは、半日くらいだったかな?」
「思ったより時間が掛かるなぁ」
影夫の脳内でもったいないという気持ちと早く村を出るべきではという考えがぶつかる。
しかし影夫は貧乏性だった。
目の前にあって拾えるお金は拾ってしまうのだ。
昔彼がプレイしていたネトゲでもいつも倉庫がゴミアイテムで溢れていた。
「よし、もったいないから何度も往復して売れるだけ売りさばくぞ!!」
「おおーー!」
「ところで、馬車なんて乗ったことないけど大丈夫なんだろうか?」
「私はいつも馬車の中にいたからよくわかんない!」
「とりあえず馬車に荷物をのせて、やってみるか!」
「あいあいさー」
影夫が金に目がくらんで無謀なことを言い出すがミリアはノリノリで影夫が教えた前世世界風の返事を返した。