2週間後。影夫とミリアは、ネイル村を飛び立っていた。
「それじゃ、ポルトスの町とソフィアの港町にお願いします。場所はこことここ。まずはポルトスの町のほうに。それと、ロモスの山脈のどこかで一度休憩させてください。」
「はっ了解しました。地図をお借りいたします!」
「その、何とかって町で何かするの?」
「いや。ルーラでこれるようにするだけだよ」
「ふぅん。ねぇご飯くらいは食べようよ。美味しい料理があるかも!」
「まぁそうするか」
ちなみに、ポルトスの町というのは、ピラァ・オブ・バーンの落下地点となる場所であり、ソフィアの港町は、劇場版で出てくる港町のことである。
影夫は、好きな漫画と設定集を暗記するほどに何度も読み返すのが大好きであったために、ちょろっと出てきただけの町の名前もなんとか覚えているのだ。
余談であるが影夫は、某漫画の白衣観音経やアニメ版のオリジナル経文も無駄に言えたりもするほどに、無駄な暗記は得意だった。
「あれ? ブロキーナさんは探さないの?」
「うーん。『ロモスの山奥』ってだけじゃあ情報が少なすぎるんだよなぁ」
ロモス王の話では例の翁はロモスの山奥を気ままに動き回っているらしく、ここにいけば会えるという場所はわからないらしい。
時折、ロモスの山で活動する猟師が出会ったという話があるが、場所も時間もバラバラなので手がかりはない。
「じゃあ爆裂呪文でもぶちこんで、反応をみるとか?」
「いやいや。山火事になったらどえらいことだぞ」
「や、やめていただけますと幸いです……」
原作ではマァムがすぐに見つけているみたいだったが、そんな幸運は期待薄だろう。
そもそもミリアは武闘家ではないし、どうしても修行をつけてもらう意義は薄い。
悩んだ末に止むなく探索は中止に決めたのだ。
「でも残念。すっごい強い技とか使えるおじいさんなんだよね」
「まぁー武術の神様って言われるくらいの人だし。あの歳でミストバーンと生身でやりあえるとかありえん人だよ」
ミリアの言うとおり、強力な技が山とあり、あの人の元で修行すれば剛の拳も柔の拳も極められそうだし、文字通りの必殺拳も覚えられるかもだしで影夫としては本当に残念ではあるのだ。
「そうだな、じゃあ3日だけ。探してみるか」
「見つかるといいね~」
「あっ、降りるならあそこがいいな。アキームさん、そこにお願い」
「了解です」
その後、ロモスの山奥のふもとにある村を拠点として、山をいくつか回ってみたのの、結局影夫達はブロキーナには出会うことは出来なかった。
捜索を諦めた一行は、ポルトスの町とソフィアの港町に寄りつつ、次なる国へ向かうのだった。
★★★
パプニカにつくなり、影夫とミリアはパプニカ王宮で王に謁見して、国内遊覧の許可を貰った。
そして今、王宮内の一室へと向かっていた。
「レーオーナー! 遊びましょ!」
「はぁーいミリア。いらっしゃい!」
ミリアの言動は、一国の姫に対する態度ではないが、レオナは気にしてないどころか嬉しそうだ。
謁見した時に、王様にもひとりの友人として接して欲しいと言われていたし、問題はなかろう。
「それでねそれでねっ、今気球で世界一周旅行中なんだよ!」
「へぇ~、楽しそうでいいわね。パプニカではどこへ行く予定なの?」
「えっとね、ベルナの森でしょ。地底魔城跡に、あとパプニカ大礼拝堂も見るの! 後は王都でも見物しようかなって」
ベルナの森というのはは、ピラァ・オブ・バーンの落下地点の1つであり、劇場版の舞台になった場所である。
なお、バルジ島が候補にあがらなかったのは、マトリフの住処から大渦をはさんで見えているくらいの距離なので、わざわざ向かわなくても大丈夫だからである。
「またずいぶん変な観光の仕方ねぇ。パプニカにはもっと栄えた町や風光明媚で知られた観光地もいっぱいあるわよ?」
確かにレオナからすると違和感があるだろう。
とはいえ原作のことは話すわけにはいかないし、変に固執して疑われるのもまずい。
「うーん、じゃあ途中の街くらいには寄っていくかぁ」
「それなら私も着いて行くわ。パプニカ国内なら各地を見てるから詳しいわよ。案内してあげる!」
「いやいや。姫さんなのに、フットワーク軽すぎるだろう!」
「国内なんだし別に平気よ。バダックは煩いだろうけど……絶対に逃げ切ってみせるわ!」
「大脱走だね! 面白そう!!」
「……大丈夫かなぁ」
数十分後。
影夫の心配したとおり、王宮は大騒ぎになっていた。
「ひめ~~っ、今日は習い事がありますぞ! お待ちくだされ~~! ええいっ、みなの者、であえっ! 姫様が逃げたぞ、追うのじゃぁああっっ!!」
「あはは、ゴメンねー。帰ったらやるから」
「バイバーイ♪」
空を往く気球船を、バダックが地面に転がりながらも追いかけつつ、姫が逃げたと人を呼んで、ぎゃあぎゃあと大騒ぎを続ける。
あれじゃあ、レオナが帰ってくるまで王宮は上へ下へとてんやわんやの大騒動だろう。
本当にいいのかなぁ。
楽しげなレオナの横で、慌てふためくバダックに暢気に手を振って笑ってるミリアが羨ましい。
「おいおい本当に大丈夫なの? 姫の誘拐にならないのかなぁ」
「本人から付いてきてるんだから大丈夫なんじゃない?」
「ちゃんと後で彼らに説明してくれよ。迷惑も掛けたんだからフォローもしておくんだぞ」
「はいはい、ちゃんと分かってるわよ。ちゃんと後で謝るしお勉強もします。これでいい、クロスお兄さん?」
「平気だってお兄ちゃん。レオナの脱走はいつものことみたいだし……おてんば姫なのはみんなわかってるよ」
「ちょっとミリア、それどういう意味?」
「えー。そのまんまだよ。本気で騒いでたのはバダックさんだけだったもん。お城の人達はまたかって感じだったし、みんな慣れっこなんだよ」
「なによそれー?」
「むぅー、合ってるでしょ?」
ミリアの物言いにカチンときたのか、レオナがずいっとミリアに近寄って頬を摘む。
負けじとミリアも頬をつまみ返して、むくれ顔を近寄せていき――
「「ぷはははっ」」
何がおかしいのか、少女ふたりは笑い合ってじゃれていた。
「うーん、ようわからん」
女の子同士のやりとりに入っていけず、影夫はねこぐるみボディで気球船の籠の縁から身を乗り出して、眼下に広がる雄大なパプニカの自然を楽しむ。
「見てる分には自然は多いほうがいいなぁ……」
「んー。しっかし、気球船ってのはやっぱいいわねぇ~。パプニカでも早く導入しなくっちゃ」
いつの間にか、影夫の横に来ていたレオナが影夫のボディを抱き寄せて、顎の下を撫で撫でしつつ、そんなことを言ってくる。
「って、遊び目的かよ」
「あら。真面目な用途よ。人を選ばず国内を早く移動できるもの。国内視察に、通信情報から軍事まで。用途は幅広いわ。作るのと維持にお金が掛かるけど保有すべきよ」
「もう一歩進んで飛行船でもつくりゃあいいんじゃないか。
ようは今の気球船をもっとでっかくして、動力をつけて、多くの物と人を運べるようにしたもんだが」
「へぇー面白い発想ね。でも良さそう。空から多くの人や物が運べたら革命的なことだわ」
そう言いながら、チラリと気球船につんである野営道具や食料などの荷物の山を横目で盗み見るレオナ。
「うーん、やっぱりクロスお兄さんと一緒にいると刺激になるわね。ミリアと一緒なら楽しいし……(隠れて乗り込んだら、見つからないわよね)」
「んん!? 今小声で何か言ったか?」
「えっ? なんのことかしらぁ~?」
「どこを見てる! こっそりもぐりこんで国外までついてくる気じゃないだろうな?」
「ふーんふん♪ あら~見て見て、あれがパプニカでも有名なー」
「おい! 露骨に白々しい態度はやめろよ! 本気でついてくる気か!?」
「あはは、退屈しなくて良さそうだね」
「笑いごとじゃねーよ!! 国外脱出したら本気でまずいだろ!」
「でも楽しくていいと思うけどなー」
「うんうん、ミリアもそう思うわよねぇ」
「……(どうかそれだけは、勘弁してください)」
視界の隅で、下手をすればパプニカ姫の誘拐になるかもしれないというとんでもない状況に、アキームが盛大に冷や汗を掻いているのは見なかったことにするのだった――
粗めのストックはあるんですが、どこまで細かく書くのかで悩んでます。
さらっと流せばいいのかしら。
なお、ネイル村滞在時期に、影夫がレイラさんに回復呪文の手ほどき受けていたり、ロモスの山奥のふもとの村で怪物退治をしていたりますが、それらはそのうち余裕が出来たら、外伝とかで入れればいいなと思っています。