猛吹雪が気球船を激しく揺らす。
ミリアと影夫は、気球船の中を走り回って大騒ぎしていた。
「ぎゃああーっ、だ、だだだ大丈夫なのか!? 落ちたら死ぬって!!」
「きゃははっ! 揺れる揺れる! お兄ちゃんじぇっとこーすたーってこんな感じ? わぁっ、落ちるぅーーっ♪」
ただでさえ寒い地方であるのに、その上空ともなれば、暴風は吹くし凍えそうになるしで大変である。
吹雪に煽られ激しく揺れる気球船は、ふらふらとした動きでどうにか飛行を続けていた。
「ア、アアア、アキームさん! 何でも手伝うから言ってくれよ! バギマでもフバーハでも何でも使うから! 墜落だけは勘弁だぁああ!」
影夫は、あっちへドタドタこっちへバタバタと駆け回っては、気球に異常がないかを必死で見回りながら叫ぶ。
「はっ! まだ大丈夫ですのでご安心を!」
「まだ!? もうすぐ危ないのか!?」
「きゃーきゃー! おなかひゅんっ!ってなった! もいっかいして!!」
気球の高度は徐々に下がっているし、氷の浮かぶ海に墜落したらと影夫は気が気でない。
「こらミリアぁ! ふざけてる場合じゃないって! ああっ、そんなに身を乗り出すと危ない! 落ちたら死ぬんだぞ!」
「えー大丈夫だよ。私もお兄ちゃんも呪文で飛べるし。アキームさんと荷物くらい持てるよ」
「いやいやいや! この気球船借り物だよ! 弁償できねえよ!」
子供は元気な風の子だからか、ミリアは寒さも怖さもへっちゃらなようだが、影夫は気球に穴が空いてないかとか、ミリアが海に落ちたりしないかとか、猫ぐるみ姿であっちへうろうろこっちへうろうろで大慌てし続けている。
「あっそっか。もったいないよねー。私もなんか手伝おうか。メラで気球をあっためてみるとか?」
「やめなさいっ燃えたらどうする! こうなったらっ、俺らがトベルーラで気球船を押し上げるしかないか!?」
「クロスどの! オーザムの港町が見えております!」
「え!? たっ、たすかったぁああああ!」
白い息を吐きつつ、気球船を操作していたアキームが指を差す。
その先にはうっすらと灯台らしき明かりが見えていた。
★★★
「そりゃっ、やぁっー!」
「おぶっ、やったな! これでどうだぁー!」
一面の銀世界が広がる雪原。
そこでミリアと影夫は雪玉をぶつけ合っていた。
「きゃーっ! ばいがえしだよーー!!」
「あぶぶぶっ、ちょっまっ、おぅぶぉっ!!」
猫ぐるみ姿で身体の小さい影夫が有利と思いきや、ミリアは雪玉をすごい勢いで作って連投してくるので、反撃も回避もままならず、影夫は雪に埋もれていく。
「それそれそれっーー!」
「がぼっ、ぎゃぶふぅぅ……」
「ミリアどの! クロスどの! 設営完了いたしました!」
「あっ、はーい!」
「ぶはぁっ! 助かった……ほら早くいこうぜ」
雪から顔を出した影夫は体についた雪をぶるぶると振り落として、ミリアの肩の上にちょこんと飛び乗る。
「おーすごい! アキームさんは何でもできるなあ」
「ベンガーナ領には雪山もありますので、訓練もしているのです」
「わっ。中はあったかい……」
アキームが作り上げた、氷ブロックと雪を組み合わせたかまくらの中に入ったミリアと影夫が感嘆する。
ミリアが氷系呪文で作りだした固い氷とそこら中にある雪を材料に作られたにしては見事な出来だった。
外から見るよりも中は広く、暖かい。
かまくらの中央には炭コンロが置いてあり、ぐつぐつとシチューが作られている。
「どうぞ。身体を暖めてください」
「あっ、ありがとう」
コンロを囲んで、座りこんだミリアと影夫にアキームがシチューをよそって渡してくれる。
「んぐんぐっ。おいしっ。それでお兄ちゃん。これからどうするの?」
「はふはふっ。ここに来るのが目的だったから、もう終わったぞ。後は遊ぶなり修行なりご自由にだなー」
王宮には既に行っており、王への挨拶も国内旅行の許可も得ている。
特に変わった出来事もなかったため、あとは将来ピラァオブバーンが落とされる雪原に来ればそれで用事はお終いなのだった。
「えっ、そうなんだ。アキームさんも一緒に遊びたい? それとも修行する?」
「自分はミリアどのにお手合わせ願えればと……」
「いいよ。一休みしたらいこっか」
「はい! それでは自分は一足先に準備をしてまいります!」
軍人らしい早飯ぶりであっという間にシチューを平らげていたアキームは、装備品をまとめると外に飛び出ていった。
「いつでもアキームさんは真面目なんだね」
「王への忠誠のためなのかな。武人だなあ」
とまぁこのように。
影夫達一行はオーザム滞在中、首都でオーザム料理を堪能したり、観光に回ったり、野良モンスターを退治したりしながら過ごすのだった。