「島が見えてきたわよ!」
「あの島が、デルムリン島じゃな」
「んでどうするんだリーダー?」
「へへ、決まってんだろうが。世界に一匹しかいない幻の珍獣……ゴールデンメタルスライムを売り飛ばしゃあ大金持ちだぜ!」
大きな船のその甲板で腕を組んだでろりんはそう言うと、ニヤリと生来の悪役顔を邪悪に歪ませて笑ってみせた。
「はいはい、偽勇者偽勇者。よ~くお似合いで」
「んだよ! 必要なんだからしょうがねえだろ!」
「まぁまぁ。よさんかふたりとも」
「ま、なるようにやるしかないと思うぞ」
ずるぼんがわざとらしい拍手と共に呆れ顔でしら~っとした目を向けるとでろりんがぶすくれ、まぞっほたちが宥めにかかる。
そんな、でろりん達の様子を少し離れたところから、影夫とミリアがじっと見つめていた。
「ううーん……本気なら止めたほうがいいよなぁ」
「そうなの? でも、先のお話が変わっちゃうんじゃ……?」
「そりゃそうだけど、やっぱなぁ。まぁ、でろりんもまさか本気じゃないと思うけど……」
「ふふっ、本当の悪い事なんて、ししょーたちには向いてないもんね~」
と――その時。
「クギャアアッ!」
激しい水しぶきを上げて、マーマンが水上から飛び上がり、船の甲板に躍り上がってきた。
「勇者さまーっ!」
そのマーマンの背に乗っていた少年は、でろりん達の前へと飛び出して、4人をキラキラした目で見つめだす。
おそらくは、マーマン相手にちっともビビらなかったことに感嘆しているのだろう。
原作では、でろりん達は単に声も出ないほど驚いていただけだったのだが、今のでろりん達は少しも取り乱していない。
(おおー)
原作との変化を見た影夫は謎の感動を覚えていたが、そんな彼の内心をよそにダイ少年はでろりん達に駆け寄って、握手を求めていた。
「おれダイですっ! よろしく勇者さま」
「ああ、よろしくな……へっへっへ」
「ひっひっひ」
「くっくっく」
「ふふふ……」
なんだかんだでノリのいいずるぼん達も、でろりんに調子をあわせて偽勇者っぽい振る舞いを見せだした。
ここに、未来の勇者ダイと、元偽勇者でろりん達が出会った。
この出会いは、どうなっていくのだろうか。
原作と異なるでろりんとの邂逅は一体何を―――
「ねえ君。なんで、私を無視するの?」
影夫のそんな想いと余韻をぶち壊すように。
ミリアは自分を見事にスルーして、背を向けてでろりんに挨拶をしているダイ少年の背中をつつんと小突いた。
「ねぇねぇねぇ」
「あだだっ。えっ? ええ!?」
スルーされたことでムッとしたのか一度だけでなく、ツンツン。と地味に力を込めて何度も指で背中を突いてみせる。
「この子……誰? 勇者さまの知り合い?」
ダイは、猫のぬいぐるみを抱いたドレス姿でデカイ剣の鞘を背負った女の子が勇者とは夢にも思っていないのか不思議そうな顔だ。
事実ダイは、ミリアのことを勇者さまに憧れて着いて回っているファンの子くらいに思っていた。
「わ、私はミリアだよ。よろしくね?」
そんなダイの内心がそれとなく伝わったのか、ヒクヒクと表情を歪めながら、ミリアはにっこりと挨拶を終わらせた。
こうして、3人の勇者たちが顔を合わせたのだった――。
★★★
デルムリン島の砂浜に降り立った一行は、改めて自己紹介をすることになった、のだが。
「えーーーっ!? ミリアが勇者ぁ? うっそだぁー!」
「むぅっーウソじゃないよ! 勇者ミリアといったらちょっとしたもんなのに!!」
ミリアが勇者と呼ばれていることを明かすもダイが信じず、一悶着起こってしまう。
「ミリアはおれよりちっちゃい女の子じゃないか! うっそだぁー!」
「ちっちゃくないよっ、私のほうが背が高いのっ、ほらほらぁっ!」
ミリアはダイの横に並んで、手で背比べをしてみせて、胸を張った。
ほらほらっと得意げに自分の頭の上に置いた手をダイの頭の上に置いて、ニタニタ笑うミリアに、ダイはむっとして手を叩き払う。
「おれはこれから伸びるんだよ!」
「ふふーん。背だけじゃないんだよ。私はね、君より2つも歳が上なの。私をミリアお姉さんって呼んでね、ダイくん」
「ええーーーっ!! 信じられないねっ!」
「だからぁっ、ウソじゃないって! そっちこそそんなにチビっこくて勇者になんかなれるのー? こんな子供なのに!」
「子供じゃないやいっ、おれは勇者になるんだ! そっちこそ、勇者を騙るニセモノだろ!? 女の子の勇者がいるなんてじいちゃん言ってなかったぞ!」
「……決闘!」
「やだよ! おんなのこ相手に本気だせるわけないだろ!!」
「へー、女の子相手に本気出して負けるのが怖いんだー?」
挑発するように笑みかけながらミリアが、むにーっとダイの頬を掴んで引っ張る。
「泣いても知らないからなっ!」
ダイは反撃をためらっていたものの、ミリアに挑発されると彼女の頬を握ってぐいぐいと引っ張り始めた。
「こにょーーー」
「なによぉーーー」
これが殴り合いの喧嘩ならさすがにダイも応戦しなかったろうが、頬のひっぱりあいの喧嘩なら女の子相手でも躊躇しないようだ。
そのうちにケンカはエスカレートして地面に転がり、頬を引っ張り合い始めたミリアとダイ。
「はぁ……これが現勇者ミリアと未来の勇者の姿とは」
「いいじゃないの、子供同士じゃれあっているんでしょ。でも、そろそろとめたほうがいいんじゃない?」
「いやぁ、怪我しない程度にやらせたほうが逆にすっきりするだろ」
と、そこに。
「こりゃあダイ!」
「いだぁっ!?」
かっぽーん。と気持ちのいい音が周囲に鳴り響く。
きめんどうしが走り寄ってきて、ダイの頭に木杖を叩きつけたのだ。
「なにをしとるんじゃ!! 女の子を虐めるなど、どういうつもりじゃ!」
「そりゃないよじいちゃん……もともとミリアが悪いんだい!」
たんこぶをこさえて、頭を抱えて痛がるダイ。
「やーい、おーこられたおこられたー♪ ねぇどんな気持ち? 怒られちゃったけど、今どんな気持ち?」
「ぐぐぐっ……!!」
「あはははっ」
すかさずミリアはその周囲をくるくると走り回りながら、すばやい動きであっかんべーやお尻ぺんぺんの連続攻撃を繰り出しながら、挑発していく。
「こらミリア。煽るんじゃない!」
「ふーんだっ……私が勇者だって信じないのが悪いんだもん」
「じょーだんじゃないっ、わるいのはそっちだ!」
影夫が宥めるが、ミリアはぷくーっと頬を膨らませて、プイっとダイから目をそらした。
ダイもプンスカ怒りながらあぐらをかいて腕を組んで怒っている。
「どうもすみません、言い合いからケンカになってしまって……この子はどうにも直情気味で……困っています」
「いえ、こちらこそ……女の子に手を出すなど、恥ずかしいかぎりですじゃ……」
影夫はブラスに頭を下げ、ブラスも影夫に頭を下げる。
そんな保護者同士のやり取りが終わったところで……不思議そうにブラスが口を開いた。
「ところで……あなた方はどちら様ですかな?」