壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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さくさく気味に進めました。

次は魔王軍の侵攻に入れればと思いますが、少し更新に間があくかもです。




獣王の試し

「だ、誰だお前は!」

「俺はこの魔の森の主。獣王クロコダイン」

 

分厚い鱗の皮膚の上に重厚な鋼鉄の鎧を身に纏い、巨大な斧を持つリザードマンがそこにいた。

 

「獣王、クロコダイン……?」

 

ダイは一目見ただけで彼の実力を理解し、勝てる相手ではないことを悟ってしまった。

ダイの中に眠る竜の騎士の経験がダイにどうしようもなく勝てないことを伝えてくる。

そしてそれは事実。未熟な竜の騎士の力を使っても力及ばないだろう。

 

疲弊しきり気絶したレオナとミーナを抱えて勝てる相手じゃなかった。

 

「どうした。さっきまでの威勢はもうないのか?」

 

ダイは知らないが、この時点でクロコダインはすでにハドラーからスカウトを受けていた。

魔王軍決起の暁には百獣魔団の軍団長を任されることになり、魔の森の配下を集めて回っているその最中に、ダイたちの戦いを目撃し、興味を抱いたのだった。

 

「ごめんミーナ……レオナをつれて気球船までいける?」

「え、うん……」

 

少し離れたところにある原っぱ。そこに気球船はある。

周囲に獣の気配はなく、レオナを引きずりながらでもなんとかたどり着けそうだ。

 

「そこの荷物にキメラの翼があるからふたりで逃げて。おれは後からいくから」

「ほう……?」

 

ダイの言葉を聞いて、クロコダインは面白げに笑みを浮かべる。

絶対に勝てないと確信しても、弱い者を逃がす為に立ちふさがろうとする。

その姿が武人としての琴線に触れた。

 

「中々の男ぶりだが――いいのか小僧。恥など捨ててその女たちを差し出せば自分だけは助かるかも知れんぞ」

 

そして試すように言葉を続ける。

今までクロコダインが出会ってきた人間は皆そうしてきた。

自分の命が助かる為なら、弱い者を犠牲にして、誇りも矜持も捨てて、ひっしになって命乞いをした。

 

人間とはそんなつまらない生き物のはず。

 

だが、ここにいる少年と少女は違ったのだ。

弱き者を守る為に限界を超えて戦いそして、勝って見せた。

それは武人として、尊敬できる姿だった。

 

だから、彼は今一度試している。

 

「ふざけるな! そんなこと死んでもするもんか!」

 

ダイはいきり立ち、パプニカのナイフを構えてクロコダインに斬りかかる。

 

「ぐふふっ……ふぁーはっはっはっは!」

「ぐぐ……っ!」

 

大笑いしながらクロコダインは素手でその刃を掴み受け止めた。

ダイが全体重をかけて刃を押し込むがビクともしない。

 

「いいな。実にいい男ぶりだぞ! 将来が楽しみな小僧だ」

 

その瞳に、誇りと矜持を穢された男の怒りを感じ取って、クロコダインは感心する。

 

「だが……力不足ではな」

「おれはっ、ふたりを! まもるんだぁぁーーっ!!」

 

鋼鉄以上の堅さを誇るクロコダインの皮膚には刃が通らない。

だがそれでも渾身の力をこめて、ダイはわずかに体に残った力を振り絞った。

 

「お、ぉおっ? 俺の鋼鉄の皮膚に傷をつけるとは!」

 

一筋の血が流れる。

僅かに。だが確かに傷をつけて見せた。

それが今のダイにできる最大の抵抗。

 

「くそっ……もう、ちからが」

 

ダイの体から力が抜け、その場に倒れ込む。

もはや限界だった。

 

「うぅ……」

 

なんとか立ち上がろうとするも、それすら出来ないほどに消耗しきってしまっている。

ダイは死を覚悟した。

 

「ぜったいに、あのふたりには手を出させるもんか……!」

 

それでも、這いずって上半身をクロコダインのほうに向け、力の入らない右手を左手で押さえつけ、両手でナイフを握った。

そして、目線を上げてクロコダインを睨みつける。

 

 

「ぐっ、ふふふふっ……!」

 

クロコダインは激しいダイの闘志に思わず一瞬後ずさると、顔を手で覆った。

 

「負けた負けた! ……俺の負けだ!」

「えっ……?」

 

クロコダインが発した予想外の言葉に目を丸くするダイ。

 

「お前の勝ちだと言っているのだ小僧!」

 

クロコダインは傷つけられた指を見る。

圧倒的にレベル差がある上に、魔法力も体力も尽きて疲弊した状況。

それでも逃げず諦めず媚びずに手向かい、傷さえ負わせてみせた。

 

さらに、立ち上がる力も無くしたというのに凄まじい闘志と気迫をむき出しにして、この獣王を一歩とはいえ退かせて見せたのだ。

 

「い、いいの?」

「かまわん。お前はいい武人になる。ここで死ぬには惜しい奴だ。ぶわはぁっはっは!」

 

あまりにも天晴れというしかなかった。

戦気を消して、心の底からクロコダインは笑う。

 

「小僧! お前とあの娘の名はなんと言う!?」

「え? おれはダイ、そっちがレオナ……」

「そうかそうか。覚えたぞ。お前たちはいい漢たちだ!」

「えぇ? レオナは女だけど……」

「ふははっ、男の中の男と、男勝りの女傑よな!」

 

クロコダインはダイを担ぎ上げると、レオナを引きずって逃げようとしていたミーナに歩み寄り、彼女達も担ぎ上げる。

 

「俺に勝ってみせた褒美だ、この森を抜けるまではお前たちに決して手出しをさせないことを誓おう」

「ありがとうクロコダイン!」

 

ダイは心からの感謝を抱いて笑みを浮かべる。

純粋で純心なあたたかいその笑みはまるで太陽のようだった。

 

「ふっ。人間が俺のようなモンスターに感謝するとは、豪気だなダイよ」

「モンスターはおれの友達だよ! 島にいっぱいいるんだ!」

「そうかそうか! ならばこの女傑もそうなのであろうな! ますます気に入ったぞ! ぶわぁはーはっは!」

 

クロコダインはのっしのっしと気球船に向けて歩いていった。

その後、気球船に着いてレオナの快方が終わるまでクロコダインは、周囲の魔物を遠くへ追いやってくれた――。

 

 

小一時間後。

意識を取り戻したレオナは事情を説明されて、気球船を浮かべるべく操作していた。

 

「それではなダイ。お前にはこれをやろう」

 

クロコダインは、首飾りのようなものをダイに渡す。

 

「俺の爪の先を鎖に通したものだ。それを持っていればこの森で魔物に襲われることはない。そこの子にくれても構わん。お前の好きにしろ」

「うん、ありがとうクロコダイン」

 

あくまで素直に感謝するダイにクロコダインは破顔する。

 

「うむ。さあ女傑どのも受けとってくれ」

「だから、私のことはレオナって呼びなさいよ!」

「おおすまんすまん。レオナどのだな」

 

クロコダインは、首飾りをレオナにも渡す。

 

「ありがと。クロコダインって、話してみると意外と普通のヒト? なのね」

「ふっ。お前たちが弱くて卑怯なつまらない人間なら相応の態度で接しただろうが――例外のようなのでな」

「あらそう? ならもっとすごいのがいっぱいいるわよ。心も体も技も強いのがね!」

「フハハッ、そのような猛者がいるのか! 世界は広いな! 出会うのが楽しみだ」

 

そうしているうちに、レオナが気球船の操作を終えた。

ダイは小さな手を差し出して誇り高き獣王と握手を交わす。

 

「じゃあねクロコダイン!」

「それではな。強くなれよふたりとも。そしていつか正々堂々戦おう」

「うん!」

「また会いましょう! 出来れば敵ではない形でね」

「……それは難しいだろうが、まぁいい。全力で戦う時を楽しみにしているぞ」

 

「えっと……ばいばい、クロコダインさん!」

「ふはははっ、その幼子の将来もなかなか楽しみなようだ」

 

最初は怯えていたミーナも、ダイとふつうに会話するクロコダインの様子から徐々に慣れていた。

原作では村人の中でゴメちゃんを怖がらず警戒もしなかっただけあって、度胸があるようだ。

 

ともあれ。ダイとレオナは激戦を生き残ってミーナを守り、クロコダインに認められることができたのだった――

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

「ダイおにいちゃんもレオナおねえちゃんもすっごく強いんだね! マァムおねえちゃんみたい!」

「はは、どうにか勝てただけだって。クロコダインには勝てそうになかったし」

「ほんとにねぇ。私もまだまだだわ」

 

小さくレオナは嘆息する。

いかに呪文をいくつも覚えて、いくつかダンジョンにも潜ったことがあるとはいえ、実戦経験も修行もレオナにはまだまだ足りていなかった。

 

王族として、行事や勉強があって中々時間が取れない上に危険なことも止められるので仕方がないことではあるのだが。

 

ミリアならばクロコダインにすら勝てたかもしれないのに。

そう思うともっともっと鍛えねばとレオナは焦りを覚える。

 

「それでミーナはなんでこんな危ない森にいたの?」

「あのね、パデキア草を探しにきたの」

「ああ、どんな難病奇病も治すって噂の? でもあれってたしかデマだったはずよ。栄養たっぷりで生命力が強くて身体にはいいらしいけど、それだけ」

「そんなぁ……」

 

そうこうするうちに、気球船はネイル村の上空へと到着して、村の広場にゆっくりと降下していく。

 

「どこの誰だこんな時に……!」

「ほっとけよ! ミーナを探すのが先だ!」

「まてよ、パプニカの紋章があるぞ!」

 

降りてくる気球船のそばに一部の村人達が集まり、殺気立っていた。

 

「おとうさーんっ、おかあさーんっ!」

「ミーナか!? よかった、本当に良かった……!」

「おおっ、旅の人が助けてくれたのか?」

 

気球船が着地するなり、両親が走り寄ってきて、ミーナはふたりの胸に飛び込んだ。

 

「よかった無事で……ミーナを助けてくれてありがとう、本当にありがとう!」

 

ピンクの髪の少女が、ダイとレオナに涙目で頭を下げる。

マァムは魔の森へ捜索に行こうとしていたところだったが、生存は絶望視していた。

 

自分がミーナから目を離さなければ、と後悔しっぱなしだったのだ。

 

「私は最後に手伝っただけ。直接助けたのはこの子よ」

「何言ってるんだよ。ライオンヘッドを倒したのはレオナじゃないか!」

「ダイくんがその前に弱らせておいてくれたからよ。万全の状態なら勝てなかったわ」

「でもレオナのほうが」

 

「ふふ。落ち着いてふたりとも。私はマァムよ。よろしくね」

「おれはダイ!よろしく!」

「私はレオナよ。よろしくね」

 

マァムが差し出した手をダイとレオナが握って笑いあう。

とそこにやってきた村の長老がダイたちに頭を下げた。

 

「ようこそ旅のお方。ワシはこの村の村長ですじゃ。ミーナを助けていただき感謝いたしますぞ。今日はもう日が暮れます。是非とも我が村に滞在してくだされ」

「それならば是非とも我が家に。娘の恩人に御礼がしたい」

 

「それじゃ一晩お世話になりましょうか?」

「へへ、正直もうくたくただから助かったよ」

 

それからミーナとその家族に心から歓迎され、素朴だけど美味しい手料理の数々でもてなされたふたりは心から寛ぎ、笑いあって楽しい時を過ごすのだった――。

 

 

翌日の早朝。

レオナとダイはさっそく気球船で旅立とうとしていた。

 

「もう行っちゃうの? もう少し村にいればいいのに」

「そうしたいんだけど、早いとこ島に戻らないといけないのよね」

「はは、これ以上遅くなったらじいちゃんにどれだけ怒られるか……恐ろしいよ。うぅっ」

「そう、せっかくお友達になれたのに残念だわ。今度来たときには私の家にも泊まってね」

「それにしても、まさかこの村にミリアも来てたなんてね。その話もいろいろ聞きたかったんだけど……」

「またきてね~~、ダイおにいちゃーんレオナおねえちゃーん!」

 

積もる話は尽きないが、デルムリン島でカンカンになっているあろうWじいちゃんのことを思うと、ふたりは手早く旅立つしかなかった。

 

「結局ロモス王宮にいけなくて残念だったわねダイくん」

「しょうがないよ。一泊しちゃったんだし」

「これ以上遅くなるのはさすがにね。早く帰らないと心配してると思うし」

 

逃げるように島を出て、帰りが遅いとまずいだろう。

特にレオナはパプニカの姫。何かあれば一大事なのだから。

 

それなのに無断外泊に危険な戦闘までしてしまったのだ。

お説教はとんでもないことになるだろう。

 

それを思うとレオナとダイはため息が止まらないのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

「はぁー死ぬかと思ったわ」

「おれも……」

 

その後――デルムリン島に戻ったレオナとダイは、丸一日続くWじいちゃんからの大説教を受けた上、しばらくは自由時間と小遣いを失い、反省の勉強漬けの日々を送るハメになってしまった。

 

ブラスにしこたま作られたコブを撫でるダイ。

バダックに大声で叱られ嘆かれ続けて、耳を押さえているレオナ。

 

お説教から解放されたふたりが、原っぱで倒れこんでダウンしていた。

 

日は傾き、夕日がふたりを照らしていた。

そこへミリアたちがやってくる。

 

「ようおふたりさん、そろっていい格好してるじゃないか」

「聞いたよ! 大活躍だったんだってね。さっすがレオナ! ダイもすごいね~!」

「「あははは……」」

 

「ったくよ。呆れりゃいいのか、感心すりゃいいのか……」

「さすがよねえ。この歳で英雄譚作っちゃうなんて」

「未来の勇者と賢者というのは確かなようじゃのぉ」

「俺らが居ない間にとんでもないことをやらかしやがって」

「まったく。すごいやつらだ」

 

ベンガーナから戻ってきた影夫やでろりん達も、ダイたちのしでかした事を聞いてあんぐりと口を開いて驚くしかなかった。

 

ミーナを救うために初めての実戦をライオンヘッド相手にこなして勝った上に獣王クロコダインに認められて戻ってきたなど。

 

特に影夫は背筋が凍る思いをしていた。

主人公であるダイや、大きい役割を持つレオナが敗死していたら話はそこで終わりである。

無事に紋章は発動したようだし、ダイの成長も確認できたが、原作にない展開は肝が冷えた。

 

その反面、ダイの持つ強い主人公補正という物も感じていた。

チートガン積みの竜の騎士の血と勇者としての適正は疑いようもない。

 

クロコダインが現れたのも考えようによっては僥倖で、彼に認められさえすれば安全だ。

 

この時期ならばクロコダインはまだ魔王軍の一員として動くわけにもいかないだろうはずで、そうなると彼は武人の価値観のみで判断するだろう。

 

その基準ならばダイは認められて当然。

生き残るべくして生き残ったともいえる。

 

「活躍がロモス王の耳に入ったら、きっと覇者のかんむりがもらえるぞ~。よかったなダイ」

「え? そうなのかな……へへへ」

 

事実、後にロモス王からレオナと共に王宮へと招待を受けて、ダイへと覇者のかんむりが送られることになる。

 

ちなみにレオナはパプニカの姫なので、報償の授与などは行われなかったが、ロモス王室から謝意とともにレオナ姫への贈り物がパプニカ王室へと贈られることになった。

 

「もちろん、レオナもな」

「私はむしろ戻ってからのお説教が怖いわ……」

 

国同士の話になると、バロンやバダックレベルで止められる話ではなくなってしまう。

一体、父になんと言われるのか。

なにかと過保護気味の3賢者からも猛烈なお説教を受けてしまいそうだ。

 

「私が怒られるのはね、当然のことだから別にいいのよ」

 

レオナは暗澹たる気持ちだったが後悔はしていない。

ダイと共にミーナを救えたことは誇りだった。

 

「でも、責任問題だけにはしたくないの。みんな、手を貸してください……お願いします」

 

ただ自らの行動が多大な問題があったことやバロンやバダックの責任問題にならないように何が何でも手を回す必要がある。

 

最終的にミリア達の手助けもあって。最速でロモス王へ手を回したことで、大々的にレオナの関与がパプニカに知らせられることは防げたのだが、ロモス王国内で少しずつ広がっている噂は止められなかった。

 

また、王室間のプライベートなルートとはいえ最大級の謝意と贈り物がロモスから贈られたことでパプニカ王であるレオナの父とその側近たちには確実に知られた。

 

レオナの名はいい意味でも悪い意味でも有名になりそうだった。

 

 

 




心に余裕のあるクロコダインは武人モード。

武人としての矜持と誇りを保ったままならこのままですね。



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