GBNがあるからって誰もが英雄になれるわけじゃない 作:320番紙ヤスリ
「バズりたい! 有名になりたい!」
なったその先のことは考えてないけど。
でも、私──ユウキ・ヒカリはとにかくバズりたかった。
だって、おんなじゼミの友達は読モやってたり、ガンスタグラムでやたらバズってインフルエンサーになってるのに、私はなんにもできていないから。
「いや……ヒカリちゃんには無理でしょ、おっぱいが大っきいのと、ガンダムに詳しいことぐらいしか取り柄がないし……」
「むかーっ! どうしてそんな風に人の心を傷つけられるんですか、ナナちゃん!」
「留年寸前で過去問とか持ってきてあげたのは誰だったっけ?」
「ごめんなさい今すぐ死にますので……」
こんな具合に。
ダメダメで、いまお話している読モの女の子……ナナちゃんぐらいしかお友達もいない。
それでも、なんとかバズって有名になれば……私にもお友達の一人ぐらいできたりしないかな、という公算があったりなかったり。
「ヒカリちゃんも結構可愛い顔してるんだから、アイドルのオーディション受けてみるとか?」
「面接で落ちました!」
「……いっそ思い切ってグラビアは?」
「ナナちゃんはお友達に人前で裸みたいな格好しろって言うんですか!?」
「別にそういうんじゃなくて……おっぱいって武器を使うのも嫌で、残りも全部ダメダメなら、選択肢なくない?」
「う、うぅぅ……」
「そのうちなるようになると思うよ、それじゃあね」
ナナちゃんは撮影があるからか、ひらひらと手を振って踵を返した。
……優しく言ってもらったけど、私になんの取り柄もないことは、わかりきってるし。
はー、お家に帰ってガンプラでも組もうかな。
†
一年戦争っていいよね。
なんか最近外伝が作られまくったせいでスケジュールがギッチギチになってるみたいだけど。
それはともかく、私は一年戦争とΖに至る前までの空気感が好きだ。
「そんなわけでー、今夜のお供はジーライン・ライトアーマーで優勝していくよっ!」
宣言して、箱を開ける。配信してるわけでもないのに。
ガンプラの楽しいところって箱を開けた瞬間だよね、ぶっちゃけ。
組むときはなんで手足が二本あるんだろうとかそんなことばっかり考えちゃうから。
「……胸、かぁ」
机の上に乗せてるおっぱいをサンドイッチするようにランナーを乗せてみたりするけど、特に感慨とかはなかった。
水着や下着になっておっぱいの上でガンプラ組んだらバズれる?
いや、でもなぁ。
「ふんふふーん♪」
もやもやを頭を振って払い除けながら、私はジーライン・ライトアーマーを組み上げていく。
その途中でキメるストロング虚無がとっても美味しいんだ、これが。
酒と承認欲求で生きているモンスター、それが私ことユウキ・ヒカリだった。
「こことここはジャンクパーツに置き換えてぇ……はい、完成!」
明日にはちゃんと塗装もできることだろう。
問題はこれを完成させたところで、なにをどうするんだって話だけど。
明日には多分なにか閃いているはずだろう。多分。
†
「あっあの、おねーさん! なにか、好きな音楽とかあったりするんですか?」
夜の街で、その人に声をかけたのは、全くもって偶然というか気の迷いというかなんだけど、とにかく私の目の前にはとんでもなく綺麗な女の子がいた。
「……別に、なにか好きで聞いてるわけじゃない」
「そんなに大きなヘッドフォンなのに?」
「ファッション」
「そうなんですね……」
ファッション。
私が苦手な言葉の一つだ。
自分で可愛い〜って思って買ったはずの服は、いつもナナちゃんに「子供っぽい」とか、「地味」って笑われるから。
「お姉さんはここでなにをしてるんですか?」
「……なにもしてない」
「えっ?」
「なにもしてないよ。ただぼーっとしてるだけ。あなたは客なの?」
「お客さん……? なんの……?」
この人がなにかを売っているようには見えない。
もしかしたら薬物とかとんでもないものを売ってる人だったりするんだろうか。
あわわ、だとしたら、とんでもない人に関わってしまった。
「……あなたはそのままでいた方が……いや、どうなんだろう」
私の顔を覗き込んで、ヘッドフォンのおねーさんは気怠げに溜息をつく。
「いくつ?」
「二十歳ですっ!」
「……初体験は?」
「な、なんてこと聞くんですか! 私はまだ処女ですよぅ!」
「……あーね」
ヘッドフォンのおねーさんは頭を抱える。
なんだか納得がいったみたいだけど、私は全然納得いってない。
う、運命の出会いに恵まれなかっただけで、決して大学デビューに失敗したとかじゃないんだから!
「こんなところをフラついてるなら家に帰った方がいいよ」
「おねーさんは帰らないんですか?」
「さあ? どうしようかな」
溜息と共に、ヘッドフォンのおねーさんは手すりに寄りかかっていた姿勢を正す。
「そうだ。あなたの家にでも泊まることにしようかな」
「ええええーっ!?」
そして、臆面もなく言い放たれたことに対して、私はただ困惑することしかできなかった。
†
「部屋が汚い」
私の部屋に泊まりにきたお姉さんの第一声は、顔面に突き刺さる正論パンチだった。
だ、だって仕方ないじゃない!
人を泊めることなんて全くもって想定してなかったし!
「人を泊めるとか泊めない以前に部屋が汚い、ゴミぐらい捨てたら? あと、無駄に散らかってるガンプラの箱」
「だ、ダメですよぅ! この子たちの中にはいつバラして保管したか忘れたパーツがたくさん……」
「ダメ人間……」
「へぇあ゛っ」
あまりの正論の鋭さに、思わず可愛くない声が漏れてしまう。
とりあえずゴミ袋をキッチンに移動させて、おねーさんが寝られるだけのスペースを作って。
ふぅ、我ながら完璧かもしれない。やればできる子なんだ、私は。
「まあいいや、泊めてって言ったの私だし……で、ガンプラ作ってるんだ」
「えへへ、自己満足ですけどね」
塗装待ちとして分解して、持ち手にパーツを挟んでいるジーラインを一瞥し、おねーさんは呟いた。
私にもっと才能があれば、有名ビルダーとしてケイワンさんだとかシャフリヤールさんみたいに、雑誌に取り上げられてバズったりもしたんだろうけど。
現実は、そんなに単純じゃない。
「……自己満足?」
「はい、どうせ私程度の腕前じゃ、ビルダーを名乗るのもおこがましいですから」
「ふーん。いいんじゃない、最初から競うつもりがないなら」
……おねーさんは、どうして、私の心の脆い部分を的確に突き刺してくるんだろう。
「……う、嘘です。本当は、バズって有名になりたいです」
「言えたじゃん」
「……えへへ、おねーさんのおかげです」
「……チサト」
「はぇ?」
「アカザキ・チサト。私の名前。おねーさんって呼ばれるほどの歳でもない。あなたと同年代」
どうやらおねーさんはチサトさんというらしい。
そして、どうやら私と同い年ぐらいらしかった。
それなら安心しておビール様を開けられる……と思ったけど、今、冷蔵庫は空だったの忘れてた。
「わ、私はユウキ・ヒカリっていいます!」
「ヒカリ。いい名前だね」
「はいっ! お母さんから輝くような子供になってほしいって願いを込めてつけられた名前ですから!」
「私のは単に響きが可愛いらしいから。それだけ」
「はぇ?」
「自分の名前が好きなの、羨ましいと思っただけ……本当にそれだけ」
じゃあ、おやすみ。
それだけ言い残して、チサトさんは毛布を被ってソファに寝転んでしまった。
うーん、皆多かれ少なかれ自分の名前、好きだと思うんだけど、私が変なのかな。
「いつか有名になりたいなあ……」
一人で黙々とヤスリがけをしながら、私は今日も叶わない願望を口に出して、溜息に変えた。
誰もがリクくんにはなれねえんだ