GBNがあるからって誰もが英雄になれるわけじゃない 作:320番紙ヤスリ
「ん……」
「あっ、おはようございますチサトさん」
昨日、有無を言わさず私の家に泊まり込んで、ソファをベッドの代わりにして寝ていたチサトさんが、のそのそと身を起こした。
時刻は既に朝の九時過ぎ。一限は既に終わっている。
でも、チサトさんを一人にしておくわけにはいかないし──なんて、嘘ですはい、私も遅刻が確定したのでサボることにしただけです。
特になにかを聞かれている訳ではないのに、私の瞳を覗き込んでくるチサトさんの赤い瞳を見つめていると、なんだか嘘も建前も剥ぎ取られてしまうようだった。
どれだけ強固に隠していても、鏡を覗いたときのようにくっきりと真実が浮かび上がってくる気がして、私は思わず目を逸らしてしまう。
少し気まずい空気になったかと思ったけど、チサトさんは特に気にすることもなく小さく欠伸をして、服を脱ぎ始めた。
──服を、脱ぐ?
「わー、わーわーわー! チサトさん、ダメですっ! そういうことは相手と自分の気持ちを考えてですねっ!!!!」
「……? いや、シャワー借りたいだけなんだけど」
「……あっはい、ごめんなさい。シャワーはあっちです。お風呂洗いますか?」
「夜でいいかな」
「はい、わかりました……って、夜?」
チサトさんはそもそも「泊まる」と言って転がり込んできただけで、今日帰る予定なのでは?
うん? なんだか話が噛み合ってない気がする。
首を傾げて目を白黒させている私に、もうブラとパンツを残して、全部脱ぎ終わったチサトさんがこれまた不思議そうにきょとんとした顔で問いかけてきた。
「……私、しばらくここに住む予定なんだけど」
「え゛っ」
「ヒカリが嫌なら出ていくけど、嫌?」
「わーわーわー、今その状態で出ていったら警察に捕まっちゃいますよぅ!!!!」
そもそも住所不定無職(推定)のチサトさんを匿っている時点で、私もなんらかの罪とは言わなくても職質ぐらいは受けそうなものだけどそれはそれとして。
シックな黒の下着で隠されている長くて大きなおっぱいと、胸に比べて控えめだけど確かに丸みを帯びて存在感を主張しているセクシーなお尻を出して歩いていたら大惨事だ。
ぐるぐると高速回転する思考回路は、オーバーヒート寸前だった。
「いや、流石に服は着るけど……ふふっ」
「よかったぁ……って、なんで笑ってるんですか?」
「ヒカリって、面白い子だなって。私が今まで会ってきた子の中でも、ヒカリみたいな子はいなかった」
私とそんなに変わらない低い背丈なはずなのに、チサトさんの細い人差し指と親指で、顎をくいっと持ち上げられると、さしもの私も顔を真っ赤にせずにはいられなかった。
あ、顎クイ。漫画の中にしか存在しないシチュエーションなのでは?
それとも、私は夢を見ている? こんな顔面国宝SSR級な女の人から「おもしれー女」認定されるなんて、なんの取り柄もない私からすれば、奇跡みたいなものだ。
「あっあの、光栄です!? ありがとうございます!?」
「落ち着いてって。とりあえず、シャワー借りるね」
「はい、心ゆくまで!」
意識しすぎて不自然すぎる言葉遣いになっちゃったけど、あんなことされて意識するなっていう方が無理筋だろう。
耳まで真っ赤になった私は、シャワーが落ちる水音を聞きながら、悶々とチサトさんの真意について考えることしかできなかった。
……あっ、替えの服とか下着とか、どうしよう。
†
「ありがとう、ヒカリ。おかげでさっぱりした」
「ど、どうも……私のお粗末な服と下着でよければ……」
全裸にバスタオルを羽織っただけという扇情的な格好のチサトさんから目を逸らしつつ、私は提供できる中で一番大人っぽいと思う服と下着を着替えとして差し出した。
胸のサイズはそんなに変わらないと思うけど、形が違うからギチギチだし、私の方が多分お尻大きいから、パンツも多分あんまりサイズが合ってないと思うけど、我慢してもらうしかない。
そして、大人っぽい服装ってなんだろう、と悩みに悩んで差し出したのが、バルドフェルドさんが着てたようなアロハシャツに、お尻周りがキツくて入らなくなったジーンズだった。
「ん……下着はちょっとズレるけど、ジーンズの上からベルトすれば大丈夫か。ありがとう」
「いえ、その……なんかごめんなさい」
「? 謝る理由がないと思うけど……」
「チサトさんみたいな顔面国宝SSR級美女にこんなダサい服を着せてしまった罪で……」
よくよく考えたら、アロハシャツのどこが大人っぽいというのだ。
あれは着られる人が大人っぽい顔立ちだったり背丈だったりをしてるから大人っぽく見えるだけで、私みたいなちんちくりんが着ても、観光地ではしゃいでる子供にしか見えないのだ!
チサトさんも、雰囲気に反して背は低いから、その辺が浮き彫りになってしまっている。
うぅ、でも私の服コレクションって大体ピンク色の可愛い系だし。
チサトさんにはちょっと似合わないというか、服の印象が霞んでしまいかねない。
などと、頭を抱えていたら。
「……ヒカリは、心配性なんだね」
「はぇ?」
「……私の服なんて、着られてればほぼなんでもいいというか、直感に任せて買ったものなのに、似合うものを探そうとしてくれてる。優しいんだね」
「だって、チサトさんみたいに綺麗な人が変な服着てて、変な人だって思われたら、嫌じゃないですか」
「そう?」
「そうです。少なくとも私にとっては」
私は、チサトさんが変な人だって思われるのは嫌だ。
……いや、初対面でいきなり経験やら泊まることを強引に決定してきたりとか、変なところだらけではあるけど。
でも、それ以上に綺麗だった。変な例えだけど、中古屋のジャンクコーナーの海に沈んでいたレアキットを手に入れたときみたいに、私はチサトさんと出会って、胸が高鳴ったから。
「ふふっ……ありがとう、ヒカリ。それで、一つ提案なんだけど」
「な、なんでしょうかっ!」
「これからもここに住んでいい? ほら、私住所不定無職だから」
それまでどうやって生きてきたのか聞きたいような聞きたくないような経歴をしれっと語って、チサトさんは問いかけてくる。
「大丈夫ですっ! チサトさんが嫌になるまで、ずっと住んでてくれて構わないですよ!」
「……そんな二つ返事で了承して大丈夫? 私、今は家賃とか払えないよ?」
「わ、私が養います! チサトさんは!」
「……ふふっ、ありがとう。せめてアルバイトぐらい見つけないとね」
苦笑するチサトさんは、なんだか初めて年相応の笑顔を見せてくれた気がして。
私はさっきと違ったときめきに、胸の奥がきゅん、と締め付けられるような感じがして。
もう、どうにかなってしまいそうだった。底なし沼に引きずり込まれるように、私はアカザキ・チサトという女の人に夢中になっていたのだから。
ヒカリもチサトも低身長巨乳です(鋼の意志)