真面目にゲーム作ってもらえます? 作:誰かフルダイブ開発してくれ
「え、嫌なんだけど」
と、俺は言った。
「まあまあ、そう言うな」
父さんはノートPCの画面をこちらに向けたまま、悪びれもせずそう言った。
画面の向こうには、見覚えのない大人たちの顔がずらりと並んでいる。おそらく開発部門の役員か、その周辺の人間だろう。
あ、茅場さん。茅場さんいるなら、ちょっと気が楽か。変な人だが、悪い人ではないからな。もうちょいガキンチョだった頃に、俺のヒーローの話とか聞いてくれた覚えがある。変な人だが。
「息子さんが、βテストのプレイヤーとして率直な意見をお持ちだと伺いまして」
誰かがそう切り出した。カメラ越しでもわかる、うっすらとした愛想笑い。俺は椅子の上で軽く舌打ちしてから、画面に向き直った。もう逃げられないなら、腹をくくるしかない。
「ああ、はい。どうも。楽しませてもらってます。はい。そうですね、間違いなく時代を変えるような最高のゲームと言えるでしょう。βテストの時点でもう他のVRゲームを圧倒的に凌駕しています」
βテスト、ってのがなんのβテストかと言えば、ソードアート・オンラインっていうMMORPGのβテストだ。
何ヶ月か前に発売されたナーブギアっつーVRゴーグル。
それもただのゴーグルじゃない。装着者の神経やらに干渉して、完全にゲームの中に入るような体験ができるという次世代ゲーム機だ。
そう、次世代ゲーム機。
余りにも次世代ゲーム機すぎるナーブギアは、ソフトがその性能に追いつかず、ろくなゲームがまだ無いのであった。
そこへ満を持して発表されたのが、このソードアート・オンライン。
剣を振り回してモンスターと戦うファンタジーRPGゲームだ。
二ヶ月行われることになっているβテストが始まって一週間。社長権限でついにオンライン会議にまで引っ張り出されていた。
「ありがとう、彰くん」
「どういたしまして、茅場さん。じゃあ今褒めたんで、後は好きに言いますね」
「私の世界に何か不満があったのかな?」
「ええまあ。なにから言いましょうか。そうですね、とりあえずメインっぽいところから。あの、なんで武器が近接武器しかないんですか? モンスターと一人称視点で戦うのって怖いし、もうこれだけでだいぶ人を選ぶ気がしますが。そんなつもりはなくても、だいぶホラーゲームですよこれ。ファンタジーなので、たぶんこの先、ゾンビとかレイスとか、あと虫も出るんじゃないですかね。一人称視点でやるんです? この解像度で?」
「フルダイブの特性を最大限に活かすための仕様だ。プレイヤー達には直接ゲームの中で自由に身体を動かすような体験をしてもらいたい」
「インタビューとかでも言ってたやつですよね。魔法がない理由」
「その通りだ」
「弓くらいはあるべきでは? 投剣スキルはありましたけど、低火力かつ投げナイフは使い捨て。無いも同然でしたよ」
「ふむ」
軽く流したつもりだったが、茅場さんは意外と真剣な顔でメモらしき動きをしていた。
本当にメモを取っているのか、それとも単に俺の話を聞き流すためのポーズなのかは、画面越しだと判断がつかないが。
「まあ今から武器種一個追加は大変でしょうし、今後のアプデですかね。で、次に操作性ですね。操作性が悪いです」
「そんなことはないはずだ。ソードアート・オンラインの世界では思い通りに身体を動かせるはず。脳波が合わない者は仕方ないが、そこはアップデートを重ねていくしかないだろう」
「高いナーブギア買って、一万本限定のソードアート・オンラインを購入して遊ぶ重度のネトゲ廃人に、リアルな運動神経を求めないでください。このゲームのターゲット層は機敏に動き回れません」
序盤の雑魚敵ともまともに戦えずに苦労しているプレイヤーが散見された。
そりゃそうだ。
ネトゲ廃人にいきなり剣を振らせて、うまくいくわけがない。
「格ゲーだってモダン操作が追加されてるんですよ? この敷居の高さで、初期勢が尻込みしたら売り上げに響きます。ソードスキルでシステムアシストができるんですから、通常攻撃にもエイムアシストを実装できませんか? あるいは……スキル名を叫んだらソードスキルを発動できるとか」
「なるほど。検討しよう」
「戦闘面は、いったんこんなところですかね」
相変わらず茅場さん以外は口を挟んでこないな。
まあ、職場の雰囲気なんか知らないけれど、なんとなく推測はできる。
誰も茅場さんに口出しできずに、これのまま実装されてるんだろう。
だからこうしてちょいちょい呼ばれる。
「で、後はマップですね。マップがよくない。ほんとによくない」
「私の世界に何か問題でも?」
「とにかく広いんですよ。街から街ヘの移動に何十分もかかるんですよ? 最初の一回移動する分には……まあかろうじて許容範囲、いやさすがに長……まあ許容範囲として、ファストトラベルがないから、この距離を何度も移動することになるんですよ。これファンタジー系のMMORPGであって、ハイキングゲームではないですからね? 移動の手間は極力省くべきです」
「他のMMORPGに倣ってオートランは実装しているが」
「これVRゲームなんで」
スマホで時間潰せないVRゲームでのオートランなんざ、普通に移動するのと同じだろ。
「なるほど。だがファストトラベルの実装は好ましくないな。ソードアート・オンラインには魔法がない。好きにワープができるシステムは没入感を削ぐことになるだろう」
「では、大きな街にしかない転移門、あれをもっと大量に配置できませんか? 各村や狩場やダンジョン近くみたいな実用性のある場所に。転移門ならすでにあるシステムですし、数を増やすぶんにはなにも問題ないですよね」
「ふむ。確かにそれであれば問題はない」
これで多少はマシになってくれりゃあいいんだけど。
茅場「ありがとう、ためになった。お礼に隠しスキル『体術』の習得クエストを教えよう」
彰「サンクス」