また翌日、時間は決めているが、俺の方が先にログインしておく。
いつもの文言を唱えて、妖精の世界へと入り込んだ俺は、前回ログアウトした央都アルンの中でポップした。
様々な種族の妖精達が入り混じり、社会を形成している。あまりじっくりと見て回ったわけではないが、シルフの首都スイルベーンよりもここの方が人口密度が高いように思う。
もちろん全種族が集まる都市なので、ある程度は当たり前なのだろうが。
アルヴヘイム・オンラインに存在する九つの種族は、それぞれ全く異なる特性を持つ。
ちゃんと調べたところ、戦闘能力が低い代わりに、生産スキルがブーストされる種族だってあるらしいし、アスナの選んだウンディーネは回復魔法を得意としている。
ゲームの根幹がこれであるのに、あろうことかPKに加えて追加で種族間の対立を煽るような要素がまだある。
まあ、俺がそこに関わるようなことはないだろうから、いいと言えばいいんだけどさ。
「もしも~し、そこのウンディーネの人」
ちょいと早めにログインした理由のため、手近なとこにいたプレイヤーに声をかける。
彼からウンディーネ領の方角を聞いて、そちらに向かって飛び立つ。
アルンでぼーっと長時間待ってられるか。
■◆■
アスナがログインした後、微妙にずれた位置にいたので追跡機能を使いながら合流を果たす。
「やーっと会えたぜまったく」
「待たせてごめんね」
「いいよいいよ。アスナが悪いわけじゃない。んじゃ、さっそく、とりあえずアルンまで向かおうか。マニュアル操作を覚えながらな」
アルヴヘイム・オンライン内での彼女の姿は、リアルをモチーフに水色髪になっていた。
コントローラーを握って、ゆったり飛んでいたアスナにニヤリと笑いかける。
軽くアスナに飛び方をレクチャーしたところ、あっという間に習得し、自在に飛び始めた。
「相変わらずこういう才能だけは無駄にあるな。会社員よりもアスリートの方が向いてたんじゃないか?」
「ほんと? 転職しようかしら」
「就職してから言え」
「どういうのが向いてるかな。スカイダイビング?」
「それアスリートか?」
職業ではあるか。
「他にもっと向いてるのはあるだろ」
「例えば?」
「レオタード着るタイプのがいいな」
PK推奨ゲームなので遠慮なく切りかかられた。
■◆■
「まったくデリカシーがないんだから」
「はっはっは」
アスナの文句を笑って流しながら、ポーションを開ける。
ちょっと減ってしまったHPを回復させながら、アルンに向かって並んで飛び始めた。
種族とPSの差で、さすがに俺の方が速いため、少し加減をしながらだ。
「にしても、よく切りかかってきたな? ソードアート・オンラインではできないのに」
そう。あちらでは他プレイヤーへは通常、ダメージを与えられない仕様になっている。
当初はできたのだが、一パーティ六人、フロアボス戦なら四十八人という大人数で、全員近接装備を身に着けて敵を袋叩きにするゲームだ。
他プレイヤーにいちいち攻撃が当たってたら、気を使いすぎてまともに戦えないまである。
だからβを経験していないアスナにとっては、これが初めての他者を攻撃できる状態のはずなんだが。
「前回、ピーケーさん? とかいう人と戦ったのよ」
「へえ? 勝ったのか?」
「もちろん」
相変わらずの女傑ぶり。
ヒーラー種族で、コントローラー飛行しながら返り討ちとは。
まだまだサービス初期で、キャラ性能にそこまでの差はないとはいえ、さすがだ。
「一回地上に降りて隠れて、近接戦闘に持ち込んだから」
「……逃げたと思ったんだろうなぁ」
いかにも初心者って女性プレイヤーが、接敵するや否や、急に降下したら、そりゃあ追っかけるだろう。
ぱっと見弱そうなんだから。
「このゲームって他の人と戦うゲームなのね」
「お宅のゲームですよ」
「私は開発に関わってないもの」
まあそれはそうだ。というかこれに関しては、親のえこひいきで関わっている俺の方が変だろう。
「でも、ということは」
「?」
「アッシュくんとも戦えるってことでいいのよね」
アルンに着くまでの間に、アスナへPKとPVPの違い。
そして決闘という素敵で安全なシステムについて説明してあげた。
■◆■
そんなこんなでアルンへとようやく到着。長い旅だった。
「お疲れ」
「そっちもね。でも、疲れたけど飛ぶのは楽しかったね」
「そうだな。これに関してはケチのつけようがない」
飛行可能制限こそあるものの、距離や高度を無制限にするわけにもいかないし、飛行時間に関してもスタミナみたいなものだと思えば納得だ。
「あ、いや、一個だけあるか」
「なに?」
「この虫みたいな羽根を高速でブンブンしてるの見た目がきしょい」
背中にある羽根。妖精らしい、昆虫みたいな透明感のある羽根。
「これを飛行するためにブーンと震わせてると、マジで虫みたいでちょっと嫌なんだよな」
「ふっ、ふふ」
「笑うなよ。見た目は死活問題だろ。もっと優雅に飛びたいわ」
課金アイテムで、こう、燐光を撒きながら静かに羽ばたけるようになるんだったら買うよ俺。
「じゃまあ、軽く道案内してから、なんかしよっか」
「決闘?」
「そんなやりたいなら別にいいけど……」
京子さん、娘さんどんどん凶暴になっていってる気がするんですが、いいんですかこれ。
ダメだ、あの人のゲーム嫌いが加速するからチクれねぇ。策士だな。
「とりま、商店街はあっち方面。NPCのもプレイヤーのも、武具やアイテム買うならあっちの方飛んでったら露店が見える。反対方向は……」
と、アスナを道案内して回り、その途中で、まず最初に説明すべきだったもののことを思い出す。
「そうそう忘れてた。真ん中のあれ、あのでっかい木が世界樹だ」
「世界樹?」
「なんだ知らないのか優等生?」
「知ってるわよ。知ってるから気になってるんだけど、アルヴヘイム・オンラインなのにユグドラシルじゃなくて世界樹なのね」
「あー」
メニューからヘルプを呼び出す。
うん、世界樹だな。ルビも振られてない。
ここまでゲームタイトルも種族名もカタカナだったのに、なぜここだけユグドラシルではないんだ。
用語監修は寝ていたのか。統一しとけよ。