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その後は比較的穏当に、もとい茅場晶彦に全てのヘイトが向くことで、攻略組はある程度の纏まりを得た。
しばらく迷宮区攻略に向けての話し合いが行われる。
「よし。それじゃあこの辺りで解散にしようと思うけど、まだなにかある人はいるかな?」
「あ、はいはいはい」
そう言って、遅れてきていた少年が手を挙げる。
「ああ、さっきの。なにかな?」
「ちょこちょこ会った人には頼んでたんだけど、みんなにも手伝ってほしいことがあってね」
「手伝い? というと」
「今はじまりの街で生産職の育成してるんだけど、素材余ってたりしたら一緒にやってほしい」
「え?」
■◆■
その後、俺やレイピア使いを含めて集まっていた全員で、はじまりの街に移動することになった。
ここに引きこもっていた大勢のプレイヤー達の視線が集まり、若干居心地の悪さを覚える。
先頭を、言い出しっぺの彼が歩いて道案内をしていた。
「ああ、いたいた。おーい」
「いらっしゃい、アッシュさん。……あの、ほんとに大所帯すね」
「人数いるってメッセしただろ」
どうやら彼はアッシュという名前だったらしい。
「会議でも軽く説明したけど、とりあえずこいつが鍛冶スキル担当。裁縫と錬金術は今呼んでるからちょっと待ってて」
「なるほど……ここの住人を雇用してるのか」
「はん。ほんまにこいつらなんか信用できんかいな?」
「おいおいキバオウさん、なんてことを言うんだ。鍛冶だけでも彼は三人目だぜ」
「あ、ははは。俺は持ち逃げしたりしませんって」
気楽そうに言うアッシュ。つまるところ、何度か失敗しているというわけだ。
それも仕方ないといえばそうなのだろう。こんな状況だ。
「まだその辺のNPCよりかはちょっと良い、くらいのもんだけど、これから先は生産職が必須になるだろう。強くなるのと両立は難しいし、どっかに委託すべきだ」
「確かにその通りだ。余剰分の生産素材は、彼のところに持ってくればいいんだね」
「いや、可能な限り分散させるべきだな。鍛冶だけでも最低五人は欲しい」
「スキルの育成を考えるなら、少人数にリソースを絞ったほうが効率的じゃないか?」
「命懸けで戦ってる戦闘職の方が貴重品なんだ。ここでは生産職に強権を与えるべきじゃない。最終的には、リアルの仕事みたいに固定給で働かせるようにしたいな」
リアルでなにしてた人なんだろうか。
ともあれディアベルとアッシュの話し合いをよそに、攻略組達は各々装備の強化を生産職に依頼していく。
しばらくして、アッシュが呼んでいた鍛冶以外の生産職も合流する。
俺も防具の強化を行うことにして、無事に成功した。
■◆■
後日、第一層のボス部屋が発見された。
そしてそれからすぐに、情報屋鼠のアルゴ印の攻略本が無料で配布される。
そこには発見されたばかりのボスの情報と、それらはβテストの情報である、という注意書きが記されていた。
「みんな、今は、この情報に感謝しよう!」
ディアベルが声を張り上げた。
βテスト時の情報が配布されたことで、危険な偵察は省くことができるようになり、そして。
「みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティーを組んでみてくれ!」
……なんだと。
体育の授業を彷彿とさせる指示から一分足らず、あっという間にパーティーが組まれていく。
「よ」
ぽつねん、と取り残された俺のところへアッシュがやって来た。
「どうも」
「パーティー組まないか」
「いいけど、さっき誘われてなかったか?」
「まあな。でもほら、少人数パーティーだと危ないだろ」
救世主だ。きっとリアルでもこういう人間だったに違いない。感謝しながら、ありがたく言葉に甘えさせてもらおう。
アッシュは俺に向けてパーティー申請を送ると、すぐにそのままもう一人、隅っこでアブれていたレイピア使いのところへ同じ提案をしにいく。
「パーティーに入らないか?」
「どうして?」
「ソロは危険だぜ。俺が言うのもなんだが」
なんだか難航していそうだ。とはいえフロアボスに同時に挑めるのは最大八パーティーまで。
現状俺達以外で六人パーティーが七つ作られているので、レイピア使いがパーティーに入らなかった場合、単純に参加上限に引っかかってしまう。
そのことを伝えに行くと、納得したのだろう。レイピア使いがアッシュに申請を送る。
「ありがと。読み方は、キリトと……アスナでいいか?」
「ああ。間違いない」
「え?」
「どうかしたか?」
とレイピア使いに問いかける。
「なんで名前がわかったの?」
「……ああ、なるほど。頭をそのまま固定して、視線だけ左上に向けてみて。パーティーメンバーの名前とHPバーが表示される。俺やキリトのHPバーが黄色や赤になってたら気にかけといてくれ。キリトの方はわからないことはないか?」
「いや、こっちは大丈夫だ」
「そうか? アスナも他にわからないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。……一応聞いておくけど、ここにいるが君レベルはいくつなんだ?」
レイピア使い──アスナを初心者と判断するやいなや、アッシュの声色が柔らかくなる。
「大丈夫だ。アスナの実力は俺が保証する」
「そうか? ならいいさ。お互い頑張ろう」
■◆■
騎士様は俺達を含む八つのパーティーにそれぞれ役割を振り、ボス戦の報酬についても決める。
そして翌日、ついにボスに挑むこととなる。
ボス部屋は奥に向かって伸びる長方形の空間だ。
左右に二十メートル、奥行きが百メートルほどもある巨大な空間。
俺達のパーティーが与えられた役割は、ボスの取り巻きであるルインコボルド・センチネルを倒すこと。
松明が灯り、奥の玉座には巨体のボス、イルファング・ザ・コボルドロードが座っている。
左右の壁に開いた穴から、三匹の重武装モンスター、センチネル達が現れた。
俺とアッシュ達は顔を見合わせると、一番近くのセンチネルに向かってダッシュする。
事前の打ち合わせ通りにアッシュが先頭を走り、右手で抜き放った片手剣にソードスキルの光を纏わせて斬りかかる。
その動きに違和感を覚えた。
この段階の片手剣のソードスキルに、あんな動きをする技があったか?
一瞬の疑問に、答え合わせをするようにアッシュは、左手で二本目の片手剣を抜き、ソードスキルを放った。
茅場「ヒーローになりたかったんだろう」(一話冒頭)(決め打ち)
彰「殺す」