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俺の思い付きから始まったメディキュボイドの改良は、政府からも資金提供の出る案件ってこともあり、茅場さんも全力でこっちに駆り出されていた。
本人はソードアート・オンライン一周年を控えるこの時期に、別件にかかりきりになることへ不満そうにしていたが。
まあ俺もやらされてるんだから我慢してもらう。ダンク・ファリック。
そんなこんなで一周年イベント期間中もろくに遊べなかったが、2023年内に、世界にたった一台の最新医療機器、メディキュボイドへのSTL組み込みは終わった。
まあもちろん、まだまだテスト段階ではあるわけだが、どうやらテスターも決まったらしく、稼働を開始したそうだ。
実運用は医者と技術者だけで行われるので、詳細は知らないが、一応テスターの簡単なプロフィールだけ受け取った。
「……なんて読むんだ、これ。もめん……?」
ふりがなくらい振っておいて欲しいものだ。
まあ聞いたらわかるんだろうが、別にそこまでする必要はないか。
俺の端末内に個人情報が入ったままってのも良くないし、メールは削除しておいた。
■◆■
仕事も一区切りついたところで、久々にゆっくりのんびりとゲームができるようになった。
事前にリアルのトークツールで連絡取れる相手には連絡してある。
皆それぞれ事情もあるので全員とはいかなかったが、何人かは付き合ってくれるらしい。あと追加でいくつか頼みごとを受けたが、了承しておいた。
というわけで久々のソードアート・オンラインである。
意気揚々とリンクスタート。
今日の目的地である二十五層の街でぶらぶらする。
あー、また知らない間にみんなインフレしてってんなぁ。
露店を見て回ったり、攻略サイトを覗きながら時間をつぶしていると、離れたところから歩いてくる黒い影を見かけた。
「よ、ブラッキー先生。女連れとは景気がいいな」
「アッシュには言われたくないよ」
一応ちらりと、キリトの隣にいる女性アバターの頭上に視線を向ける。
アイコン的には、サポートAIではなくプレイヤーのようだ。
「初心者を一人連れてくるって言ってたが、その人が?」
「ああ」
「そっか。俺はアッシュ。よろしくな。まあちょいと最前線から置いてかれてるから、戦闘力には期待しないでくれ」
と、黒髪ポニーテールのプレイヤーに挨拶する。
「アッシュ……」
「どうかしたか?」
「あ、ごめんなさい。他のゲームで同じ名前の知り合いがいたから」
「そりゃ奇遇だな」
「改めて。あたしはリーファ。よろしくね、アッシュくん」
「んー?」
「どうかしたの?」
「他のゲームで同じ名前の知り合いがいたもんで」
「奇遇だね」
アッシュは一般的な名前だけど、リーファってそんななかなか被るようなもんじゃないと思うが。
「ん? リーファ、お前他のゲームもやってたのか?」
「うん。実はソードアート・オンラインの前に間違えて他のゲームをやってて。あはは」
照れたように言うリーファ。
あー。
「妖精になって空飛んだりな」
「そうそう……あれ?」
「シルフ領二番目の剣士、決勝でアッシュとかいうプレイヤーに敗れたスピードホリック」
「負けたのは初回大会の話だもん! というかやっぱりおんなじアッシュくん?」
「剣を回す癖があって、口の悪いアッシュくんなら俺だな」
「なんだ。二人とも知り合いだったのか!」
と、キリトが驚いたように言う。
しかし。
てことは、リーファの言ってた距離を感じる身内ってのもキリトのことなんだろう。
どういう関係なのかは、ちょっと気になるが、リアルのことを聞き出すのはあんまよくないよな。
「いやぁ、そうらしい。ビックリだわマジで」
「世界って狭いな」
キリトとひとしきり頷きあう。
彼から一人連れてくる、なんてメッセージ来た時は、まさかこうなるなんて思わなかったな。
「それで、妖精のゲームってどれのことなんだ?」
「アルヴヘイム・オンラインだ」
「あ〜、あれか。じゃあちょいと、他のメンバーが集まるまでそこでのリーファのこと聞かせてくれよ」
「ちょっとキリトくん!?」
「いいぜいいぜ。どっからいく?」
「そうだな。さっき話してた大会って?」
イタズラっぽく笑うキリト。なんとなくだけど、話してる感じたぶん兄妹なんだろうな、と思う。
距離があるなんて言ってたが、いい家族じゃないか。
微笑ましい気持ちになりながら、面白可笑しくリーファのことを話すことにした。
■◆■
それから何人か知り合いが集まって、予定していた時間ちょうどくらいに、アスナがやって来た。
キリト同様、事前に宣言していた通り、連れと共に。
「お待たせ〜アッシュくん。みんな」
「ど、どちら様っすか、そのお隣の方」
リアルと同じように華奢なアスナの隣に並ぶと、より一層際立って仕方のないゴリマッチョが横に立っていた。
「うむ。ワシはミトじゃ」
「アスナさん、なんのお知り合いなんですかこの方」
ちょいちょいとアスナの服を引っ張る。
本人にその気はないんだろうけども、ミトの圧がすごい。
なにこの世紀末覇王。
「ミト? もしかしてβテストの時にいた」
どうやらキリトは彼に心当たりがあるらしく、そんなことを言う。
……ああ、いや。
ミト、ミトか。そういやいたわ。
これとはまた別の見た目だったけど、βの時もゴリマッチョのトッププレイヤーが。
「貴様、まさかキリトか」
「なんでこう知り合いばっかの集まりなんだ」
「でもアッシュくんもミトのことよく知ってるよ」
「は?」
ゴニョゴニョとアスナから耳打ちを受ける。
「あ、マジ?」
「うん。ほんとほんと。嘘なんか吐かないよ」
「えぇ……いやまあ、楽しそうでなによりっす、ミトさん。……ちなみにアスナ、ミトには俺が誰かって伝えてんの?」
「え……あ、言ってなかったかも」
「ほうほう。じゃあこのまま黙っとけよ。リアルでもな」
「なんで?」
「なんでもだ」
今度リアルでミト──深澄に会うのが楽しみだ。
ともあれ全員集合と相成ったので、本日の予定、二十五層のボス周回に向かう。
「フロアボス戦ってこんな人数で勝てるものなの?」
「まあ、なんとかなるんじゃないか? ボスのHPは参加人数で変動するからな。とはいえある程度人数いた方がいいのは確かだが」
「へぇ〜、そうなんだ」
ソードアート・オンラインはガチ初心者なリーファにキリトがあれこれ解説しつつ、俺たちは迷宮区を目指すことになった。