コボルドの王とその衛兵対プレイヤー四十五人の戦いは、俺の予想を上回る順調さで推移した。
ボスのHPゲージはすでに三本目に到達している。
壁役のメンバーのHPも黄色くなった程度で、赤まで落ちたことは一度もない。
その攻略速度を支えているのは間違いなく、アッシュの振るう謎のスキルだろう。
片手剣を左右の手に一本ずつ装備すること自体は、誰でも可能だ。
だが、その状態でまともに戦闘できるかはまた別の話。
ソードスキルの判定は、利き手に設定した腕で持っている武器で行われる。そのため反対の腕にも武器を装備していると、判定が正常に行われず、ソードスキルを発動することができない。
そのはずだったのだが。
β時代にも見たことのない──おそらくはレアスキルによってアッシュは二本の片手剣を装備したまま戦闘している。
「──おらぁっ!」
ガガガッとまたたく間に三連撃のソードスキルを叩き込む。
俺のスキル熟練度は、この中でも最高峰だと思っている。
だがそれでも片手剣のソードスキルは、二連撃のものが解放されたばかりだ。攻撃回数が一度多いだけでも、単純計算でも一・五倍。
実際に与えているダメージを見るに、それ以上だろう。
「よし! こっち終わったから、ボス殴るの手伝いに行くぞ」
「あ、ああ」
重武装のセンチネルを圧倒的な火力で片付け、総員でボス攻略に当たる。
入れ替わり立ち替わりで、隙を埋めるようにボスへソードスキルを叩き込んでいくのだが、明らかにアッシュの与えているダメージが大きい。
あっという間に三本目のHPゲージもゼロになり、最後のゲージになる。
それに合わせて、最後のセンチネル三匹が飛び出してきた。
俺達は一度ボスから離れ、取り巻きの排除に当たる。
それらもほんの僅かな時間で倒し切り、コボルド王の最後のHPゲージが、残り僅かとなった。
事前の情報通りに、βテスト通りに、ボスは持っていた斧と盾を投げ捨てる。
「下がれ! オレが出る!」
そう言ってディアベルは飛び出して行った。
ここはパーティー全員で包囲するのがセオリーのはず。
なぜ。
疑問を抱くとほとんど同時に、指示を無視してアッシュも突っ込んでいく。
そしてコボルドロードは、腰に備えていた曲刀を──違う。あれは。
「だ……だめだ、下がれ!」
コボルド王が、どうっと床を揺るがせ、垂直に飛んだ。
壁や天井を蹴り、武器にスピードを乗せる。落下すると同時に、深紅の輝きが垂直に叩きつけられた。
「ぐわぁぁあっ!」
前を走っていたディアベルは、もろにその一撃を食らい、吹き飛ばされる。
そしてそのまま追撃を放とうとしていたところへ、追いついたアッシュが四連撃のソードスキルを叩き込み、残りのHPゲージを吹き飛ばした。
ボス部屋の天井付近に大きく『Congratulations!!』と表示される。
歓喜に沸くプレイヤー達。
クリア表示が出ても十秒ほど、そのまま武器を構えていたアッシュも、両の剣をクルクルと回しながら腰の鞘に戻す。
「お疲れ様。いきなり飛び出すからビックリしたぜ、まったく」
「助かった。ありがとう」
アッシュがディアベルに手を差し伸べる。
「ポーションはあるか? 無いなら渡すぞ」
「大丈夫だ。ありがとう。ところで──戦闘中、ずっと聞きたかったことがあるんだが、いいか?」
「あ、なに?」
「その。それは一体?」
「それ?」
「両手に片手剣を装備して戦っていただろう」
俺も気になっていたことについて、ディアベルが聞いた。
ボス戦の間、アッシュの戦いを見ていたのであろうプレイヤー達が黙り、状況を把握していなかった者達もそれに続いて静かになる。
「え、なに、この空気。いやほら『二刀流』カテゴリだよ。最後のソードスキルは、あれ技名なんだっけ。ちょっと待って、確認するから」
なんでもないかのようにアッシュが答えた。
「どうやって獲得したんだ、そのスキル?」
「どう……って言われても。レベル六になって、スキルスロットが増えた時に追加されただろ。NEWって書いてるスキルがないか?」
「いや。確かそんなものはなかったはず」
「ウソウソ、そんなわけないって。ちゃんと見てみな、ほら」
促されてディアベルがメニュー画面を開く。
俺もメニューを開き、習得可能スキルの一覧を上から下まで、武器カテゴリ以外のスキルに至るまでしっかりと目を通してみるが、もちろんそんなスキルはない。
「いや。やっぱりないよ」
「え? ……あ、キリトどうだ? お前も俺と同じで盾無し片手剣だろ」
「こっちもないな」
「マジ?」
「大マジ」
「そっか。うーん、悪い。マジで心当たりがない。後でここまでにクリアしたサブクエをまとめておくよ。どっかにあったのかも」
本当に、隠し事など全く無いかのように真っ直ぐだ。
そしておそらくだが、実際なにも隠し事なんてしてないんだろう。
それからしばらくして、俺達は次の層を開放するために移動を始めた。
ボスを倒すと部屋の奥に、上の層へと繋がる階段が現れる。
やることは簡単。階段を登って、すぐ近くにある転移門を起動するだけだ。
起動後、ディアベルは俺達に話しかけてきた。「少し話せないか」と。
どうやら用があるのは俺とアッシュに対してであり、アスナは対象外だったようなのだが、少し考えてディアベルが許可を出し、四人でボス攻略レイドから離れる。
「で、話ってなんだ?」
俺からディアベルに聞く。とはいえ、おおむね話の内容は予想がついている。
「アッシュはもう気づいていると思うが、オレもβテスターなんだ」
「あ、そうなんだ。ビックリ」
予想通りの話題ではある。一人予想外の反応をしたが。
「あれ、気づいてなかったのか?」
「まあ」
「じゃあなんでオレが一人でボスに突っ込んだ時についてきたんだ? 君もラストアタックボーナスを狙ってたんじゃなかったのか?」
「いや、事前の作戦だと包囲することになってたから、判断ミスかなって思って包囲しに行ったんだ」
そういえばボスに向かって真っ直ぐ向かわずに、斜めに移動していたな。
「そ、そうか。すまない、オレの勘違いだった」
「いいってことよ」
「ところで。キリトはβ時代もキリトだったが、アッシュはβ時代はなんて名前だったんだ?」
「いや俺βやってない」
「本当に?」
「ほんとほんと」
「本当の本当に?」
「くどいなぁ」
「本当よ。βは当選しなかった、って言ってたから」
そんな風に、アスナが口を挟む。
「言ってたって……まさか」
「その。どこかで明かそうと思ってたんだけど、なかなか勇気が出なくて」
「そうか。そうだろうな」
二人は、少なくともボス攻略会議の時は初対面であるかのように見えた。つまり、アスナの話はゲーム内のことではなく。
「さすがにリア友の名前をアバター名にするのはきしょいって。百合には理解を示してあげたいけど、それはやりすぎ」
「私、深澄じゃないから」
この辺に、フードが取れなかったからまだアスナを死んでると思い込んでるミト