電車を降りて少し歩くと、電飾で飾られた店が見えてきた。待ち合わせ場所によく指定されるゲームセンターだ。
歩みを進めると、ガヤガヤと賑やかな音が聞こえてくる。
自動ドアを潜って、どうせこっちの方だろうと格ゲーの筐体がある方へと向かう。
今日び、格ゲーの筐体で遊ぶ女子高生とかいう絶滅危惧種二体の姿を、そこへ見つけたので声をかける。
「よお、可愛いお嬢さん方。俺と一緒に遊ばない?」
鬱陶しそうな表情で、一瞬こちらに視線を向ける深澄。
「ああ、なんだ彰か。ごめん、ちょっと待ってて」
「いいぜ」
明日奈と深澄の対戦を横で見守ることにする。俺はあんま格闘ゲームには詳しくないが、まあ深澄の方が押してるんじゃねえかな。
兎沢深澄は明日奈の学友だ。
最近の振る舞いに目を瞑れば、真面目一辺倒な明日奈とは正反対に重度のゲーマーである。
「よっし、勝ったぁ!」
「あ〜負けたぁ。むう、今日こそいけるかなって思ったんだけど」
やり込んでる深澄にはどうやら勝てなかったようで、明日奈が嘆く。
「でも、明日奈もすごかったよ。やっぱり上達が早いね」
「そう? なら、嬉しいかな。ごめんね彰くん、待たせちゃって」
「気にしなくていい。見てるのも楽しいしな」
「じゃあ彰もやってく?」
「俺が勝ったら角が立つからやめとく」
「ほーう。じゃあほら、そっち座って」
「仕方ねーな。やってやろう」
好戦的な深澄に乗っかり、明日奈と入れ替わりで席につく。
もちろん明日奈同様に敗北したし、明日奈相手と違って手加減ゼロなので、マジでボコボコにされた。
■◆■
賑やかなゲーセンを離れて、俺たちは本来の目的地へと足音を向けていた。
ゆっくりと流れる春風を受けながら、またしばらく歩いて、駅ビルの自動ドアをくぐる。
打って変わって静かなBGMが流れるデパートだ。
「で、今日はなんの荷物持ちさせられるんですか、お嬢様?」
エスカレーターに運ばれながら、俺は前を歩く二人に向かって声をかけた。
「今年の分の春服を買いにきたんだよ」
「毎年毎年ご苦労なこった」
「彰くんのも選んであげるね」
「へいへい。いつも助かっております」
自慢じゃないが、こうしてなんかのついででもなければ、自分の服なんて新調しないからなぁ。この辺のセンスは間違いなく俺よりも明日奈達の方が優れている。
「というか、来てもらって今さらだけど、彰はよかったの?」
と、深澄が尋ねてくる。
「なにが?」
「私達はいいけど、彰は今、三年生でしょ? 大学受験とかで忙しい時期じゃない」
ああ、なるほど。そういうことか。
「いいんだよ。進学はしないから。卒業したらもうそのまま就職するつもりだ」
「コネ入社ってことね」
「自分で言うのもなんだが、茅場さんの次くらいにはアーガスに貢献してるぞ俺は」
当たり前みたいに仕事振られるからな。
主にその辺頓着しない茅場さんから。
とはいえ、変わったお家事情があるのは俺だけではなく、彼女達もだろう。まあ、お嬢様学校なんてわざわざ通ってるような奴らだし。
「お前らはどうすんだ? まだ先のことだけど」
「う〜ん、私は進学することになるかな。いい大学に行って、就職するとしてもそれからだと思うよ」
明日奈が答える。まあ、明日奈はそうだろうな。
親の意向的にもそうだし、本人の気質としてもちゃんとやりたがるだろう。
「私は……いや、こう、あれだね。なんだか就職には困らなさそう」
そんなことを言いながら深澄が俺と明日奈を交互に見る。
「深澄。友達だからって優遇するよう言ったりしないからね」
「えー。明日奈は真面目だなぁ」
「まったく。深澄は頭いいんだから、普通にやってても採用されるよ」
「ああ。ダメだったらうちにおいで。俺はちゃんと親に口添えしてやるぜ。顔採用するようにって」
「こら」
ペチンと明日奈に頭をはたかれる。
軽口を叩きながらフロアを移動して、彼女らに案内された先が。
「ほら、着いたよ。ここ、最近オープンしたんだ」
二人に連れられたのが、白い内装が特徴的なレディースアパレルショップだった。
色とりどりな衣服が映えるように、優しい色の照明に照らされて並んでいる。
で、まあ、それからキャッキャウフフとしながら何着か服を選んで試着室に入る二人。外に取り残される俺。
こんなレディースコーナーで一人にしないでほしい。
新しく入ってきて、ここまでの経緯を知らない客の視線を受けながら、時折出てくる彼女らの衣装に感想を述べさせられる。
「そろそろ思いつかないんだけど、褒め言葉カデ子に考えてもらっていい?」
「ダメです」
■◆■
それからメンズコーナーで俺の服も時間かけて選ばされた後のこと。並んでいた店の中に、いいものを見つけた。
「お」
「どしたの?」
「いやぁ」
シルバーアクセみたいなものを置いてるタイプの店を通りがかったので、ちょいと寄ってみる。
「なに、こういうの興味あったの?」
「え? やだなぁ、深澄。俺じゃなくてお前がつけるんだぞ。あ、ほら、こういうの似合うんじゃない」
トゲトゲしたドクロのアクセサリーを手に取る。
「いやいや。さすがに似合わないって。私のことなんだと思ってるの」
「世紀末覇王ミト様」
「……ほえ?」
ピシリと固まる深澄こと、ソードアート・オンラインのトッププレイヤー、覇王ミト。
「え、あれ、あ。明日奈!?」
「私?」
「他にいないでしょ!」
「落ち着くがよい、ミトよ。店先で暴れるでない。それにヌシはゲーム内でワシとも会っておるぞ」
ギャーギャーと騒ぎ始めた深澄をたしなめる。
やれやれ。肉体に反して、精神面の鍛え方が足りないな。
まあリアルはマッチョでもなんでもない、清楚なお嬢様ってガワだけど。
「え、ど、どれ……」
「言うてそんな選択肢ないだろ」
「……、アッシュか、あいつか」
「イエスアイアム」
「あぁぁ〜〜〜、ぐぅぅ〜〜〜。あ、アバター変えてやる」
「なんでだよ。いいじゃん、あれ。俺は好きだぜ、楽しそうにロールプレイしてて」
「穴があったら埋めてやりたい」
「殺害予告?」
楽しそうに遊んでてくれてるのは、嬉しいことなんだけどね。
■◆■
帰り道、荷物を持たされたままの道中。
駅へと向かう通りの途中で、明日奈達がある店の前で足を止める。
花屋だ。特別なものはなにもない。
ないが。
「おや。君は」
と。店主のお爺さんに声をかけられる。
「どうも」
「彼女さんかい?」
「さあ、どうでしょう」
「彰くん、ここに来たことあるの?」
「うん……まあ」
不意を突かれたような顔をした明日奈に振り返られ、俺は少し口ごもる。
「そうだよ。この間、花を買いに来てくれてね。短い間に二回も来るような子は珍しいから」
白髪の店主が、穏やかに微笑む。
「へー。……、彰くん?」
「……なんだよ」
「私、もらってないけど」
「欲しかったのか? なんか買ってやろうか」
「むぅ」
「拗ねんなよ。仕事だ。プライベートで送ったわけじゃない」
明日奈は不服そうに頬を膨らませる。