指二本をそろえて縦に振り、開いたメニュー画面から、習得しているスキルのページをタップする。
オリジナルソードスキル作成のボタンはそこにあった。
開始を選択すると、通常のワールドからは隔離されたインスタントスペースに切り替わる。
動き回って、剣の型を披露するには十分な広さがある。肩慣らしに何度か剣を振った後、記録開始のボタンを押した。
カウントが始まり、三つ数えて、技の記録が始まる。
「──ふっ!」
片手剣を左上から右下へ、逆袈裟に振り下ろし、その勢いのままに身体を回転させつつ、今度は袈裟斬りする。
素早く引き戻した片手剣を今度は足狙いで突き出し、再び引き戻す時の勢いを生かして、一回転しながら首を刎ねるように横に振りきった。
やり切って動きが止まると、自動で記録が終了する。
一連の動作がシステムによって評価され、少しして失敗の表示が現れた。
「ダメか。なかなか厳しい」
ゆっくりと今の動きを何度か繰り返し、再度挑戦を開始した。
■◆■
ソードアートオンライン。現在の最新層、三十五層。
迷いの森。
ストレアと共にフィールドを散策しつつ、レベリングに勤しんでいた。
この層の強豪モンスターといえば、ドランクエイプである。
徳利を持った大猿のモンスターであり、猿らしく他モンスターに比べて頭がいい。
最大の特徴としては、手にした徳利の中身を飲むことでHPを回復する行動をとることだ。
「スイッチ!」
ストレアが大剣をふるって、ドランクエイプの体勢を崩す。
すかさず俺も飛び込む。回復する敵を相手にするなら、一番簡単な対策は、さっさと集中攻撃で落とすこと。
今扱える中で最も火力の出るソードスキルを打ち込む。さすがに最新層。まだこれくらいではくたばらないが。
大技の後隙を晒す俺と入れ替わるように前に出たストレアが残りのHPバーを削り切った。
「ふぅ、お疲れさん」
「お疲れ様~。って、ああ!!」
戦闘終了後、急にストレアが叫ぶ。
「どうした?」
「うぅ、せっかく貰ったのに……」
なんの事だろうと一瞬悩んだが、彼女の視線の先が自身の腕であることに気づく。
ああ。前にあげた奴か。
「よかったじゃないか」
「よくない~」
「なんでだよ。ミサンガは切れてなんぼだろ」
「それはそうだけど……うー」
「はいはい。じゃ今度は消耗品じゃないもん作ってやるよ。装備更新も必要だしな」
「やった!」
途端に機嫌を直したストレア。
そろそろドロップ品も溜まってきたことだし、一度街まで戻ることにした。
■◆■
「ねぇ、すごく強いプレイヤーがいるって噂を聞いた?」
「その前にいいか」
と、話を遮る。また前にも聞いたことがある話題をもう一回振られた気がするが、そんなことより。
「なんでやめちゃったんだよ、ミト」
俺の目の前にいるのは、見慣れた筋骨隆々の覇者、などではない。
むしろ正反対に華奢な容姿に、紫のポニーテールの少女だった。紫はソードアート・オンラインの初期カラーにはないので、わざわざ染めているのだろう。
リアルそっくりに作られているアスナとは異なり、ばっちりとリアルの兎沢深澄とはずらした顔だちをしている。
さすがのネットリテラシーであった。
「あんなに楽しそうにしてたじゃないか!?」
「うるさい」
「自分の性癖をぎっちり詰め込んだ北斗の拳みたいなアバター、作るのも大変だっただろうに!」
「べ、べつに性癖でああいう見た目にしたわけじゃないから……!」
ああ、そんな。見ていて愉快なロールプレイヤーが一人減ってしまうなんて。
ミトのアバターは、フレンド登録がなされたままであることからして、新しく作り直したアカウント、というわけではないようだ。
なんかそういうのあったっけ、と記憶を探ると、すぐに思い出す。
以前、ソードアート・オンライン内でのアバターを、リアルへの悪影響を軽減するため、ある程度リアルに沿った範囲内でしかアバターを作成できないようにする、というアップデートがあった。
その際に、アプデ前からアカウントを持っていたすべてのプレイヤーに向けてアバターの作り直しを強制する。
なんてそんなわけはなく、使いきりのアバター再作成チケットを配布していたのである。
もちろん、そんなものは使っていなかったのであろうミトは、その権利を行使して美少女アバターにTSしたのだろう。
「俺は悲しいよ」
「絶対に男には戻らないからね」
後で他の対人戦VRゲームにミトってトッププレイヤーがいないか、調べてやろうっと。
そんなことを心に誓いながら、最初の話に戻る。
「で、なに。強いプレイヤー? 今度はどんなトンチキが現れたんだ? PSないのにカンストしてるプレイヤーとか?」
「そんなのいるわけないでしょ。またすごいOSSの使い手があらわれたんだって」
また運営側からプレイヤーの振りして参加してる奴でも現れたんだろうか。
実のところOSSとして引っ張り出せそうな没案は、神聖剣以外にも複数ある。
それらの中にはソードスキルのような形にはできないものも含まれているが、もちろん流用できるものも多い。
「で、どういう奴なんだ。また通常プレイから外れた動きしてるとか?」
「前回噂になってたプレイヤーみたいな感じではないらしいよ。ただ……うーん、まあ私も実際に見たわけではないから、見に行ってみない?」
盾でぶん殴ったり、武器二つ持ったりするような感じじゃないってことか。
そうなると、普通に興味があるな。
いったいどんなプレイヤーなのだろうか。ただ。
「見に行くったって、迷宮区で探すのか?」
「いや、なんか広場でPVPしてるらしいよ」
「俺の知らない間に、OSS作ったらPVPで見せる文化とか生まれた?」
なにはともあれ、面白そうなので見物に行くことに。
そして広場に着いた時、俺達が見たのはPVPに負けて連れ去られるアスナだった。
はぁ~、なにやってるんだか。