「だ、大丈夫かな、アスナ」
「平気だろ」
VRMMOなんてゲームである都合上、プレイヤー同士の接触には細心の注意が払われている。
β時にも通せんぼして嫌がらせなんてことが多々あったからなぁ。
連れていかれる、なんてことが起こったからには、アスナ本人もさして抵抗していなかった、ということであるし、帰ろうと思えばそれを阻むこともできないようになっている。
「心配なら一応メッセージくらい送っといたら?」
「そうしておこっか」
ポチポチとミトが画面を操作する。
それから十分ほど経って、無事である旨と、こっちまで来て欲しい、との返信があった。
■◆■
指定された場所へ向かう。たいして遠くはない、というか普通に同じ街中の飲食できるNPCショップに呼び出されていた。
質素なログハウスの扉を開けると、カランコロンと鈴が鳴る。
店内は見た目通りに狭かったが、思いのほか客がいるようだった。いや、というよりも、アスナを除いた六人のプレイヤーが、拉致犯なのだろう。
先ほど見た、アスナに勝利していた黒に近い紫髪の女性プレイヤー含めて、全員見覚えのない男女混合のパーティーである。
その強豪プレイヤーとよく似たプレイヤーが頭を下げる。
「ごめんなさい。ユウキが迷惑をかけたみたいで」
「いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」
「ユウ」
「ごめんなさい」
どういう状況?
ともあれチーム単位でなにか企んでいたりするわけではなく、このユウキというプレイヤーの独断だったようだ。
「よくわからないんだけど、なにがあったの?」
「あ、そうですよね。順番に説明します。わたしはランって言います。それからこっちが──」
と、それぞれ簡単な自己紹介を行う。
彼女らはスリーピング・ナイツなる少数ギルドのメンバーであり、ランがその代表であるらしい。
「で? それがなんでまた。ギルドのメンバー集めとかか?」
「いえ、そうじゃないんですけど」
「ボク達、最近このゲームを始めたんだ」
「うん? ……まあ確かにそういう感じはあるな」
「それで、せっかくだからこのゲームを精一杯楽しみたくって、案内してくれる人が欲しかったんだ」
「案内ねぇ」
つまりは初心者に優しい上級者を探そうとしていたわけだ。
その方法が片っ端からPVPして、強いプレイヤーを探す、だったのは度胸があるというかなんというか。
他に人探しの手段くらいいくらでもあるだろうに。
「アスナ。わざわざ俺らにも来い、なんてメッセ送ってきたってことは」
「うん。どうかな、案内してあげない?」
相変わらず面倒ごとに首を突っ込みたがるというか、なんというか。
ただ厄介なことに、そう思っている俺は、この場では少数派なんだよな。
「いいね! それじゃあなにからしようか」
と、乗り気なミト。
リアルでも初心者明日奈に根気強く格ゲーを叩き込んだ実績のある女である。
仕方あるまい。
初心者は大切にして、沼に沈めねぇとなぁ。心の中のキースの兄貴もそう言っている。
「それで、君らはどういうことがしたくてこのゲームを買ったんだ? 強いらしいし、戦闘か?」
とりあえず、彼女らの希望を具体化していこうか。なにがしたいのかわからないと沼もないからな。
「うーん。そうじゃないんだけど、なんて言えばいいんだろう」
「ソードアート・オンラインの世界を見てみたかったんです」
言葉選びに困ったユウキから引継ぎ、ランが答えた。
「そりゃあいい。なにか一つのことをしたかったわけじゃなくて、幅広く体験したいって感じかな」
「そうそう、そんな感じ!」
「でもなんでソードアート・オンラインにしたんだ? いろいろできるゲームは他にもあるけど」
例えばアルヴヘイム・オンラインであれば、ここでできることの大半に加えて、飛行や魔法といった要素もある。
もちろんすべてにおいて劣るとは言わないが、戦略の幅はあちらの方が広い。
間違いなくいいゲームではあるが、この二つが同時発売されて、どちらか一方をパケ買いするなら……俺はアルヴヘイム・オンラインを選ぶかな。
戦闘以外に目を向ければ、やはりこれらも、それ専門のシミュレーションゲームの方が、より高い満足度を得られるだろう。
「もちろん、茅場晶彦が作ったゲームだからだよ」
「ああ、なるほど」
てことは、スリーピング・ナイツはあれか。茅場さんのファンクラブみたいなもんってことか。
「そういうことなら、例えば一層から順に目玉要素を見て回るってのはどうだろうか。多分ここまでは駆け足で来てるんだろう?」
「いいですね。みんなはどう思う?」
わいわいがやがやと、俺の提案に対してにぎやかに協議を始めるメンバー達。
この間に、こっちはこっちでチャットツールを起動。経緯を説明して、ある人物にガイドを頼む。
個人的にもまだまだ知らない見所があるなら知りたいし、ちょうどいい。
「うん。それじゃあよろしくお願いします」
というわけで、初心者ギルドへの観光案内をすることになった。
「そうだ。もう一人、増えても大丈夫か」
「いいけど、どんな人なの?」
「ん? そうだな、誰よりもこの世界に詳しい人、かな」
「?」
■◆■
彼女らとのスケジュール調整は、意外なほどスムーズに進んだ。
そして当日。
「えー、こちらガイドのヒースクリフさんです」
「よろしく頼む」
「あ、この間の神聖剣の人。アッシュいつの間に仲良くなったの?」
「十年前かな」
ミトの質問に答える。まあ彼女は適当な冗談だと思ったようだが。
アッシュ(しかしこんなことやらせてていいのかね。まあいいか。本人楽しそうに語ってるし)