頭を抱える。
いやぁ、マジかこいつ。大丈夫か?
曲がりなりにも世界有数の電子機器メーカー「レクト」の社長令嬢だぞ。
このまま社会人になったら、バンバン詐欺メールに引っかかったり、情報漏洩しそう。
「アッシュな。名前は教えただろ。ネット上ではユーザーネームで呼ぶのがマナーだ」
「そうなんだ、じゃあこれからはそうするね。ええと、アッシュくん」
「ぜひともそうしてくれ」
「それにしても、なんだかちょっと思ってた反応と違うな。もっと驚いてくれると思ってたんだけど」
「あー?」
「ほら、いきなり私が現れたのに」
「まあ、後にしろ、つったのに来たのはビックリだが」
「なんのこと?」
なんかこう、噛み合ってないな。
「私がゲームしてることに驚くかなって」
「フレンド申請してきただろうが」
「したけど、あれ? なんで知ってるの?」
「こっちにも通知来るんだよ。申請が許可されたって通知がそっちにも行っただろ? 俺以外誰が許可したと思ってんだ」
運営がフレンド申請の許可出してるとでも思ってんだろうか。
そんなわけないだろ。
「通知?」
「オーケー。動くな」
メニューを開いて、フレンド欄からAsunaを選択する。
リアルネーム使いやがってよぉ。
でも俺が口に出さなきゃ、リアルネームかどうかは誰にもわかんないから、黙っといてやるが、後で浩一郎さんに告げ口してやる。
『ばーか』
──使用できないワードが含まれています。
『ポンコツ』
よし、送信っと。
メッセージを送ると、視界の端に通知が見えたのだろう。
自分の尻尾を追いかける犬みたいに、顔ごと動かして通知を追うアスナ。
「動くな、つったろ」
アスナの頬を手で挟んで固定する。まったく。
「SF映画は観ないのか? こういうのは視線だけで操作するもんだ」
「へぇ、そうなのね。あ、メッセージが二つ。こっちに来る前にも送ってくれてたんだ。……」
ひゅっとメッセージを読んだアスナから飛んできたビンタを避ける。
それから待たせていたキリト達の方を振り向く。
「悪いな、さっき言ってたリアフレが……なんだよ」
「仲のよろしいことで」
と、親の仇でも見るみたいな顔のクライン。
「……ゲーム内の性別なんぞを元に妬まれても困るぞ」
「いいや、俺にはわかるね! 所作からして美少女に違いない!」
「きっしょ」
「なんだとぉ!」
まあ、所作がお嬢様と言われりゃ、否定はできないんだけれど。
それからお互いに軽く自己紹介をした。
「で、どうする? 来ちまったからには、俺はこっちのニュービーにも操作教えなきゃなんだが」
「ぜひとも一緒に! と言いてぇところだけど……そろそろ一度落ちて、メシ食わねぇとなんだよな。ピザの宅配、五時半に指定してっからよ」
「準備万端だなぁ」
と、キリトが呆れたように言う。
それからクラインは、彼の友人とも待ち合わせがあるといい、そこに誘われる。
キリトが口ごもって、なにか察したようにクラインが気遣う。
「そっちはどうだ?」
そう振られたので、アスナの方をチラッと見て。
「いいぜ。また後でな」
「おう! ……ほんじゃ、おりゃここで一度落ちるわ。マジ、サンキューな」
一歩離れたクラインがメニューを開いて、そのままログアウトする。
「よぅし。やるかぁ、第二回初心者講習」
「よろしくね、彰先生」
「本名で呼ぶな」
「あ」
「はは。それで、アスナ……さんは、どの程度ゲームの知識があるんだ?」
「そうね……なんだったかな、少しだけ対戦ゲームをやったことがあるけど、そのくらいかな」
「スマ◯ラ」
「じゃあMMORPGは初めてってことか」
「だな。じゃあとりあえず楽しいとこだけ味わってもらうか」
アスナは今日が最初で最後のログインになるかもしれないしな。
この後めちゃくちゃ狩りした。し、ス◯ブラと違って、こっちはめちゃくちゃセンスあった。
■◆■
ログアウトして、ナーヴギアを頭から外す。
あ〜、首こりそう。いつになるかわかんないけど、新型はもっと軽くなるといいな。
んー、っと身体を伸ばして、スマホに手を伸ばす。
電話は困るかもしれないし、チャットにしておくか。
浩一郎さん宛に今日のことを報告する。
『明日奈の危機意識マジで大丈夫? もうちょいいろんな経験させとかないと危なくないすか』と。
浩一郎さん、だいぶシスコンだからな。
ゲームやること許してくれるよう、京子さんに働きかけてくれたらいいけど。
……あ、ゲーム機自体が浩一郎さんの一台しかないか。
さっさと増産しないといけないな。
■◆■
おまけ
「時に」
「なんです」
「もし仮に、ソードアート・オンラインがデスゲームになったとしたらどうするかね」
「はい?」
「ただの思考実験だよ。ゲーム内で死亡すれば、ナーヴギアによって脳を破壊されて現実世界でも死亡する。不正ツールの使用は無しだ。それらはカーディナルがすぐに修整するからね」
「僕もプレイヤーですか?」
「……。いや、それだと普通に攻略するしかないからね。君は現実世界にいる」
「なるほど。じゃあまあ、警察とか、社員とかと協力して」
「意外に普通だな」
「脳を破壊できないよう改良したナーヴギアと、追加生産したソフトで追加の人員をゲーム内に送り込みますかね。で、ゲーム内で死んでもいいプレイヤーに攻略させます」
「な、なるほど……」
須郷「あれ?」