いやぁ、このVR黎明期に正式なアーガス社員じゃなくてよかったぜ。
カーディナルがあってもまあまあ忙しそうにしている会社を見ていると、本当にそう思う。
ソードアート・オンラインのサービス開始から一週間。
世間、というかプレイヤーからは好意的な反応を得ているが、さっさと増産しろという声も大きい。
当たり前だ。これ最大一万人しかプレイできないからな、今のところ。
とはいえ嫌がらせで初期ロット数を一万に絞ったわけではない。
前例のない大規模なVRゲームをやるんだ。
サーバーが負荷に耐えられなかったら困るし、なんならナーヴギア自体も長時間使用することで問題が起こるかもしれない。
てなわけで今後に備えて設備増強をしたり、ナーヴギア自体もアプデを行っている、というわけだ。
当たり前だけど、一万ロットだけで開発費回収できるわけないからな。
近いうちに発売するだろう。
■◆■
「お久しぶりです」
と、言った。久々にキッチリとした服を着たな。
俺は簡単に挨拶だけして、実務的な話は父さんがやる、という事前の打ち合わせだ。
結城家の面々と料亭に入る。
なんの用かと言えば、もちろんソードアート・オンライン、なわけはなく、カーディナルの方だ。
座敷に案内されて、座布団に座る。
こういうのも個室って言い方でいいのかね。周りには会話が漏れないような席だ。
「マナーはわかる?」
「箸も使えねーと思われてる?」
俺や明日奈をよそに、親達は仕事の話を始める。
時々、こっちにも振られるが、まあ基本は親達メインだ。
カーディナルは企業向けAIとしていろんなところへ売り出しているが、基本的には社内用のAI。
ソードアート・オンライン関連を含む社内のあれこれを解消するのが主たる役割で、そこへ影響の出ないように、外へ出す分は機能を制限してある。
って、ところで、より高性能な状態で提供してほしい、というお話だ。
反対にレクト側は、このトンデモAI関連をいい方向に持っていくための政府筋へのツテの提供と、ナーヴギアの増産への協力を申し出た。
まあここで契約書を交わすわけではないが。
で、まあこの辺のやり取りを終え、雑談がてらにソードアート・オンラインの話になった。
「毎日少しずつだけど楽しんでいるよ」
「それはよかったです」
初日こそ勝手に明日奈に使われていたが、それ以降は浩一郎さんもソードアート・オンラインにログインしている。
まあ浩一郎さんがいない時は、明日奈がやってるんだけど。
「まだ酔うんだけどね。君は平気なのかい?」
「慣れですよ慣れ。発売前からテストしてますから。VR酔いはアプデで軽減されていくはずです」
脳に直接信号を送ってフルダイブさせるナーヴギアは、脳波をいくつかのパターンにわけて、だいたいこんな感じ、で信号を合わせている。
だから個人間で合う合わないがあって、合わない人はVR内では目が見えなかったりするわけだ。
そこまでいかなくても、100%完璧に合うわけじゃないから、なんとなく違和感があったりして、その感覚のズレで酔ってしまう。
これらは今後、合わせるためのプリセットを増やしていくことで解消していくはずだ。
まあ、俺は100%完全に適合するんだけど。
脳波のサンプルデータに俺の物が含まれてるから。
チート使ってるわけじゃないけど、反感買いそうなことだから言う気はないが。
発売前、試しに適合率を落としてプレイしたことがある、が、なにげに大きい差が出るんだよなぁ、これ。
だから、例えば茅場さんとかも同様の理由で適合するから、プレイしたら強いだろうな。あの人、自分で遊ばないのかな、ソードアート・オンライン。
そんな風に雑談しながら、メシ食ってたところ。
お猪口を傾けていた結城父が、不意にこちらを見た。
「ときに、彰くん」
「はい?」
「単刀直入に言うが、明日奈と婚約する気はないかね」
と、そんなことを言い出した。思わず摘んでいた食事を取り落とす。
「どうしたんですか、急に?」
「なあに、そんなに急な話でもないだろう。君達は長い付き合いなわけだし」
明日奈を見ると、こっちも目を丸くして固まっていた。どうやら聞いてなかったらしい。
「と、父さん、それ、私も初耳なんだけど」
「言ってなかったかな」
「言われてないよ!?」
荒ぶる明日奈。
「うっうっ。そんな、明日奈は俺と結婚するのは嫌だっていうのか?」
「どういう立場から喋ってるのよ。そりゃあ、その、嫌……じゃ」
「じゃあやめとくか?」
「は? うちの妹になにか文句でもあるのかな?」
「厄介なシスコン発動させるのやめてくれません?」
く。シスコンは知ってたが、こういうタイプだったか。
それで結城父が言う。
「まあまあ、今すぐ決めろという話ではない。将来的な選択肢の一つとして、頭の片隅に置いておいてくれれば」
というところでお開きになった。
はぁ〜、まったく。次からどんな顔して話せばいいんだよ。
須郷「は?」(天丼)