東方海神録   作:ゆっくり杠葉

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叶恵さんには双子の兄がおりまする


第二話《博麗神社》

叶恵「すぅ……すぅ……」

畳の上に敷かれた布団。

静かな寝息だけが部屋に響いている。

霊夢「はぁ〜……今日も疲れた……」

襖の前で大きく伸びをする。

霊夢「肩抉られてたし……

普通の人間なら死んでてもおかしくなかったわ」

ちらりと寝ている叶恵を見る。

彼女をこちらに持ってきてから丸一日経った

1日経ったにしても不自然な点がいくつもある。

霊夢「……なのにもう血が止まってて、

噛まれたところの熱も下がってる」

少しだけ眉をひそめる。

霊夢「なんなのよ、この子……」

外では虫が鳴いている。

神社特有の静かでどこか空虚な空気が風情を感じさせる

霊夢「ま、いいか」

霊夢は湯呑みにお茶を注ぐ。

霊夢「目が覚めたら聞けばいいし」

湯呑みから湯気がゆらりと立ち上る。

その時。

叶恵「……ん……」

霊夢「あ」

叶恵の指先が、わずかに動く。

叶恵「……知らない天井だ……」

ゆっくりと目を開ける。

視界に入ったのは、見知らぬ天井。

叶恵「……どこ……?」

霊夢「神社よ」

叶恵「ひゃっ!?」

いきなり声がして、飛び起きようとして…

叶恵「いっ……!」

肩の痛みに顔を歪める。

霊夢「あら、随分とうるさいお目覚めね。おはよう。」

叶恵「え…あ…お、おはようございます…?」

霊夢「痛みを和らげたいんなら無理に動かない方がいいわ。治ったとはいえ、肩の肉抉れてたんだから」

叶恵「肩…っ……?」

記憶が一気に戻る。

暗闇に覆われる視界、

鋭い牙。自分から流れる血。

ルーミアと名乗った少女

叶恵「……っ」

体が小さく震える。

霊夢「はい、お茶」

湯呑みを差し出す。

叶恵「……あ……ありがとうございます……」

両手で受け取ると

少しだけ温かい湯呑みを直で感じる

それだけで、張り詰めていたものが少し緩む。

霊夢「で?」

叶恵「……え?」

霊夢「あなた、どこから来たの?」

叶恵「……街から……」

霊夢「外ね」

叶恵「……外……?」

霊夢「ここ、外の世界じゃないから」

叶恵「……え?」

一瞬、理解が追いつかない。

霊夢「幻想郷。聞いたことないでしょ」

叶恵「……ない……」

あまりにも笑えてしまう状況に逆に冷静になる。

霊夢「でしょ」

ずずっとお茶を飲む。

霊夢「まあ簡単に言うと、人里以外は人間が普通に暮らせる場所じゃないわね」

叶恵「……」

さっきの出来事が脳裏をよぎる。

叶恵「……あれ……」

霊夢「ん?」

叶恵「人間……食べるって……」

霊夢「ん、食べるわよ」

なんの躊躇いもなく即答する

叶恵「……っ」

霊夢「さっきのはまだマシな方よ。

人間だけ食べるわけじゃ無いもの。」

さらっと言う。

叶恵「……マシ……?」

霊夢「だから言ったでしょ。ここはそういう場所」

叶恵は湯呑みを握りしめる。

叶恵「……帰れるの……?」

霊夢「さあね」

霊夢はあっさりと答える。

霊夢「帰れる人もいるし、帰れない人もいる。

まあ、今は帰す奴がどこにいるか知らないから無理だけど」

叶恵「……」

叶炊の顔が浮かぶ。

叶恵「……兄さん……」

小さく呟く。

霊夢「ん?」

叶恵「……双子の兄が……いるの……」

霊夢「ふーん……」

興味なさそうに聞き流しつつ

霊夢の目が、ほんの少しだけ鋭くなる。

霊夢「……で」

叶恵「?」

霊夢「あなた、自分が普通だと思ってるの?」

叶恵「……え?」

まあ、身分上だと普通…ではないが…

霊夢「傷の治り、異常に早いし」

叶恵「……」

頭の中がいっぱいいっぱいで言葉が出ない。

霊夢「それに…」

少し間を置く。

霊夢「あなたから変な“気配”するのよね」

叶恵「……気配……?」

霊夢「博麗の巫女よ?分かるのよ、そのくらい」

霊夢は立ち上がる。

霊夢「ちょっと触るわね」

叶恵「え……」

霊夢「いいからちょっとじっとしてて」

叶恵「……?」

霊夢が手をかざす。

その瞬間――

ピリッ、と空気が震える。

叶恵「……っ!?」

体の奥が、反応する。

何かが“引っ張られる”。

霊夢「……やっぱりね」

叶恵の体の周りに、微かに光が滲む。

身体中に広がる暖かく、どこか懐かしい感覚。

叶恵「……これ…は?」

霊夢「あなた、」

一拍置いて

霊夢「現人神よ」

叶恵「……え?」

理解できない。アラヒトガミ…?

霊夢「神の力持った人間。珍しいわね」

叶恵「私があの……?」

霊夢「そ。なぁんだ、知ってたのね。

外の人間にしてはよく知ってるじゃない」

随分とあっさり重大なことを暴露してくれた。

霊夢「で、行くあては?」

叶恵「……ない……です」

霊夢「じゃあ決まりね」

叶恵「……え?」

霊夢「うちに居なさいよ」

叶恵「……えぇ!?」

突然の同居宣言に素っ頓狂な声を上げてしまう

霊夢「現人神でしょ?ちょうどいいわ」

叶恵「ちょうどいいって……」

霊夢「うちの神社信仰足りてないのよね。

そのせいでお賽銭箱には何も入ってないし。」

あっけらかんと言う。

霊夢「あなたがいれば多少マシになるでしょ」

叶恵「そ、そんな理由で……!?」

霊夢「いいじゃない。住む場所もあるし」

少しだけ間を置いて…

霊夢「……どうせ、一人じゃ死ぬわよ」

叶恵「……」

さっきの体験を思い出してしまったら言い返せない。

叶恵は少し俯く。

そして

叶恵「……お世話に……なります……」

霊夢「ん。」

満足そうに頷く。

霊夢「じゃあまずは、」

くるっと背を向ける。

霊夢「境内の掃除からね」

叶恵「えっ!?」

霊夢「働かざる者食うべからず!」

叶恵「さっきまで死にかけてたんですけど?!」

霊夢「治ったでしょ?」

叶恵「うぅ……!」

霊夢「ほら、いつまでも布団かぶってないで

さっさと外に来なさい!」

叶恵「ま、待ってください〜!」

霊夢「あ、今から敬語禁止ね。」

叶恵「へ?!」

少女の声が部屋の中に響く

その日、

博麗神社に、新しい住人が増えた。

――それが、どんな運命を呼ぶかも知らずに。




どこから始めてどこで終わらせるか…ちょっと難しい
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