100年前の1926年。かつてキュアスターだったものの、変身バンクを失った星奈ひかるには先祖がいた——
そう、星奈りあるである。
しかし、ある日彼女に異変が起こった。
快晴の空。子どもたちが元気に走り回る歓声が校庭いっぱいに響き渡っている。
だが、その喧騒から離れた校庭の隅に、十歳の星奈りあるはぽつんと立ち尽くしていた。
肩を揺らし、荒い息を吐きながら、じっと空高くを見つめている。
その瞳は激しく揺れ、隠しきれない不安と恐怖に満ち満ちていた。
りある「ハァ……ハァ……」
息を荒らげながら、りあるはポツリと呟いた。
りある「……聴こえる……また、ささやいてる……」
囁き声「20110311222303806142512019100610534801389…」
空を見上げたまま、落ち着かない様子で自分の腕をぎゅっと強く抱きしめる。
やがて授業の始まりを告げるチャイムの音が響き渡ったが、りあるは動くことができない。
周りの風景が遠のいていくような感覚の中で、ただひたすらに、空を見上げ続けていた。
静まり返った夜の校舎。
どこまでも深い暗闇に包まれた教室の窓から、冷たい月光が静かに差し込んでいた。
その中でぽつんと揺らでいるのは、石油ランプの小さな黄色の光。
柔らかな灯りに照らされ、一人机に向かう少女——星奈りあるの姿があった。
取り憑かれたような手つきで、ノートに鉛筆を猛烈な勢いで走らせている。
カリカリ、カリカリと、削られた鉛筆の芯が激しく紙をこする音だけが、誰もいない教室に虚しく響き渡る。
開かれたページには、狂気的なまでにびっしりと数字や不揃いな記号が書き連ねられていた。
りある「……33……1N……WIHOSHI……FLOOD……」
うわ言のように言葉を漏らしながら、カツ、カツと強い筆圧でノートに数字を刻み込んでいく。瞳には何の映り込みもなく、ただ手元だけを動かし続けていた。
その時、教室の扉がガラッと静かに開いた。
手に小さな提灯を持った永樹先生が、息を切らせて駆け込んでくる。
永樹先生「りある……! よかった、こんなところにいたとか。心配したけん……」
胸を撫でおろし、安堵の息をつく永樹先生。
だが、りあるは振り向くことすらしない。先生の声など届いていないかのように、一心不乱に数字を書き続けている。
石油ランプの温かい黄色の光が、りあるが狂おしく書き殴る黒い数字の列を静かに照らし出す。
ゆらゆらと揺れる小さな炎へ、吸い込まれるように視界が深く深くズームインしていく——。
ランプの炎の小さな黄色が、一瞬にして世界を包み込む眩い太陽の光へと鮮やかに切り替わる。
視界が一気に広がり、眼前に広がったのは果てしない宇宙空間。
2026年現在の太陽系と、青く輝く地球が、静寂の中でただ静かに、そして何事もないように浮かび上がっている。
そして現在——
15年歳を取って、今や29歳の宇宙飛行士となった星奈ひかるは、16歳ごろ結婚し、17歳ごろに娘の星奈あかり、20歳ごろにあかりの弟の星奈えいきを産んでいた。そんな2人は進級し、あかりも、今や中学2年生、えいきも今や小学3年生である。
2026年4月7日 始業式当日の夜21時ごろ
ひかる「さあ、あかり、えいき、明日は、開校100周年式典があるから、ぐっすり眠って」
あかり「うん…お母さん、おやすみ」
えいき「明日の式典…楽しみ…」
ひかるは、あかりとえいきの部屋のドアを優しく閉めた。
ひかるは見るべきニュース番組があったため、テレビの電源を付けた。そして、お茶を飲みながら時間を少しつぶした。アナウンサーは明るい声でこう言った。
アナウンサー「観星町で最も有名な小中学校である、星奈区第1小中学校の、開校100周年記念式典が、盛大な式典が、いよいよ明日執り行われます。1926年4月8日に『星奈区第1小学校』として開校し、その後も今日までの100年間、生徒に教育を怠らず、2000年に『星奈区第1小中学校』として形を変えながらも、緊張感を持って行ってきました。校長の藤原亜美さんは、『12年間校長を務めてきたからこそ、この日を迎えられました。明日、校長である自分が担っている全生徒がこの式典を思い切り楽しんでくれれば幸いです』と言います。次のニュースです。2026年2月にオープンした『キュアパーク関東』ですが…」
その翌日——
式典は延期することなく開催することができた。
「開校100周年記念式典」と大きく書かれた華やかな横断幕が風に揺れている。
ご来賓として席に並んで座る星奈ひかる、香久矢まどか、そして天宮えれな。その周囲では、令和8年度の児童や生徒の保護者たちが、温かい眼差しで式の様子を見守っていた。
校庭の中央に据えられているのは、開校当時からずっと地に根を下ろすように顔を覗かせていた、重厚なタイムカプセルのハッチだ。
校長「生徒・児童の皆さん、いよいよこの日がやってきました。そう、待ちに待ったこの日は開校100周年の記念すべき日です!今日は100年もの時を超えて、タイムカプセルを開封すること、知ってる人いるかい!?」
生徒や児童たちは「はーい!」と手を挙げた。
校長「そして、嬉しいことに、当時教員だった永樹先生もゲストとしてきてくれました!それでは、いよいよタイムカプセルの開封にまいります!」
周囲から拍手が巻き起こる。永樹先生はハサミで、ロープを切ると同時に、また拍手と喝采が巻き起こった。
司会「——それではこれより、100年の時を超え、タイムカプセルの開封式を行います!」
司会の宣言とともに、大きな拍手が会場いっぱいに湧き起こる。
重々しい音を立ててハッチがゆっくりと開けられ、その中から長い年月を感じさせる古びた箱が取り出された。
あかりの隣に立つ弟のえいきは、興味津々といった様子で身を乗り出している。
えいき「うわぁ……! ついに開くんだ! 100年前のタイムカプセル……中には一体何が入ってるんだろう!?」
目を輝かせる弟の肩を、あかりは少し困ったように突いた。
あかり「えいき、静かに。みんな見てるでしょ」
えいき「だって気になるじゃん! あかり姉ちゃんだって楽しみでしょ?」
タイムカプセルが開封された後、ステージ上では、タイムカプセルから取り出された思い出の品々が、順に児童や生徒たちの手へと渡されていた。
あかりたちのクラスの担任である栄眞先生が、大事そうに一枚の古びた紙を抱え、あかりの元へと歩み寄ってくる。
栄眞先生「星奈あかりさん。これは100年前、このタイムカプセル企画を考案した僕のひいおじいちゃん……永樹先生の記録に残っていたものなんだ。君のご先祖様である、星奈りあるさんが遺したメッセージだよ」
あかり「私の…先祖の……?」
戸惑いながらも、栄眞先生から丁寧に紙を受け取るあかり。
だが、そこに書かれたものに目を落とした瞬間、彼女は不思議そうに首をかしげた。
あかり「……え? これ……何……?」
あかりの隣からひょっこりと覗き込んだえいきが、驚いたように声をあげる。
えいき「えっ、なにこれ!? 絵とか文章じゃないの? …数字ばっかりじゃん!」
差し出された紙に躍っていたのは、思い出の作文でも美しい絵でもなく、びっしりと敷き詰められた不気味な数字の列だけだった。
あかり「……これ、一体……何なの……?」
あかりはそこに刻まれた不可解な数字の羅列を見つめたまま、不安を拭いきれず、客席に座る母・ひかるの方へとそっと視線を向けた。
式典が終わり、賑わいをみせる校庭。
あかりは手渡された紙を見つめたまま、怪訝そうな表情を浮かべていた。
あかり「(星奈りある……ひかるお母さんのご先祖様……。なんでこんな、数字だけのメッセージを残したんだろう……?)」
隣を歩くえいきに、紙を見せながら問いかける。
あかり「ねえ、えいき。これ、どう思う? なんで数字だけなんだと思う?」
えいき「ん〜、わかんないなぁ…。昔の子供のいたずらとか、ただの無意味なやつだったんじゃない?」
えいきは首をかしげながら、深く考えもせずに答える。
あかり「そんなわけないでしょ……タイムカプセルに入れるようなものなのに……」
少し離れた場所では、保護者席から出てきたひかるが、仲間である天宮えれなと笑顔で話していた。
ひかる「えれな先輩! 聞いてくださいよ〜! うちのあかりがタイムカプセルからもらったの、文字も絵もなくて数字だけだったんですよ!」
えれな「ふふっ、数字だけ? それはまた個性的な先祖様だねぇ。何かの暗号だったりして!」
ひかる「まさか〜! 『数字ばっかりだなぁ』ってびっくりしちゃいましたよ!」
無邪気に笑い合う大人たち。
その様子を横目で見ながら、あかりはもう一度、手に持った古い紙に刻まれた無機質な数字の列へと静かに視線を落とした。
式典の余韻に包まれ、楽しげなざわめきが満ちる校庭。その賑わいから少し離れた小さな木陰に、あかりは佇んでいた。手元にある黄ばんだ紙に落とされた視線は、そこにびっしりと並ぶ無機質な数字の列に吸い寄せられたままだ。不可解なメッセージの意味を探ろうと深く思案に暮れていたその時、ふと、肌をかすめるような微かな視線を感じて顔を上げた。
校舎が落とす深い影の向こう、青々と茂る木々の隙間。そこからじっとこちらを覗き込んでいる人影があった。
日陰の暗がりに浮き上がるその姿には、人間のものとは思えない異質な特徴があった。頭頂部にはピンと尖った二つの猫耳が立ち、腰元からはしなやかなしっぽがゆらゆらと揺れている。
あかり「……え?」
自分の目を疑い、あかりは思わず指先で強く瞼をこすった。まばたきを繰り返し、焦点を合わせ直してもう一度その影を確かめようとする。
あかり「誰だろう……? …猫耳と、しっぽ……?」
つぶやいた声が届いたのか、あかりの視線と真っ直ぐにぶつかったその謎の人物は、ハッとしたように体をこわばらせると、風がそよぐよりも素早く木の影へとその姿を隠してしまった。あとに残されたのは、静かに揺れる木漏れ日と、あかりの胸に芽生えた新たな謎の予感だけだった。
ひかる「あかり、どうしたの?」
あかりは何も答えず、ひかるについて行く。
静まり返った夜の自室。
机の電気スタンドが落とす円形の光の中に、タイムカプセルから取り出された100年前の黄ばんだ紙が浮かび上がっていた。
あかりはそこに書かれた不気味な数字の列を指先でそっとなぞりながら、固い決意を秘めた目で部屋の扉を見つめる。
パタパタと廊下を歩く足音が聞こえてきた。
あかりはすっと立ち上がるとドアを開け、部屋の前を通りかかったひかるを呼び止めた。
あかり「お母さん、ちょっといい?」
ひかる「ん? どうしたのあかり、こんな夜遅くに……」
あかり「ごまかさないで答えてほしいの」
あかりは手に持っていた古い紙をひかるの目の前にまっすぐに突き出し、その瞳を射抜くように見つめた。
あかり「今日、学校からの帰りの時……私、見たんだよ。昔、お母さんがおとぎ話みたいに話してくれた『レインボー星人のユニ』みたいに、猫耳と尻尾が生えた人が、陰からずっと私を見つめてたの」
ひかる「え……? ユニ……?」
ひかるの表情が瞬時に固まる。
あかり「ただの思い過ごしじゃない。絶対にあれは本物だった。それに、この数字……! お母さんは昼間『数字ばっかり』って笑ってたけど、本当に何も知らないの? この数字の意味……なんだか分かるの!?」
詰め寄るあかりの真剣なまなざしに、ひかるは息を呑み、固まったように言葉を失ってしまった。
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