2026年5月21日、下谷の森駅周辺・線路下。
脱線し暴走を続けた車両は、凄まじい金属音とともにホームの壁を突き破り、そのまま高架下へと落下した。
直後、車内の機械システムあるいは燃料系統への引火によるものか、耳を裂くような大爆発が巻き起こる。
真っ赤な炎と黒煙が空を覆い尽くし、高架下にいた6名の方々がその衝撃に巻き込まれて命を落とした。そして、逃げ遅れて車内に取り残されていた乗客たちもまた、誰一人として生還することはできなかった……。
惨劇の直後。
激しい炎上と黒煙が上がる現場で、ひかるは崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
ひかる「そんな……また……防げなかった……」
100年前の紙に刻まれていた「新幹線衝突事故」、そして惨劇を示す数字。
事前に現場へ駆けつけ、声を限りに危険を訴えかけたにもかかわらず、冷酷な運命の歯車は寸分違わず最悪の結末を叩きつけた。
ソラ「ひかるさん……これが……これが『予言』だというのですか……!?」
足元まで届く髪を握りしめ、ソラは煙の上がる惨状を見つめたまま、言葉を失って震えていた。完璧に整備され、安全であるはずだった新幹線が引き起こした凄惨な現実。
助けられたはずの命、そして失われてしまった大勢の人々。
あんなが残した「今から備えておくこと」という言葉の真意と、避けられない運命のあまりの重さが、生き残った彼女たちの心に深く、暗い影を落としていくのだった。
2026年5月21日・夜、星奈家・リビング。
下谷の森駅での凄惨な事故から12時間。
混乱と交通規制で麻痺した高速道路をようやく抜け、疲弊しきった母・ひかるが星奈家へと帰ってきた。
玄関のドアが重く開き、力なく入ってきたひかるの姿を見て、待ち続けていたあかりやえいき、そして仲間たちが一斉に立ち上がる。ひかるの服には焦げ臭い煙の匂いが染み付き、その顔は激しいショックと悲しみで青ざめていた。
あかり「お母さん……!」
ひかる「ただいま……あかり、えいき……」
ひかるは崩れ落ちるようにリビングのソファへ深く腰掛けた。その手は未だに恐怖と悔しさで小さく震えている。
ひかる「叫んだんだよ……『逃げて』って、『674人も死んじゃうから早く避難して』って……。でも、誰も信じてくれなかった……。みんな『そんなバカな』って笑って……その直後に、あんなことが……」
手で顔を覆い、すすり泣くひかる。
事前に行く場所を特定し、現場に駆けつけて直接危険を訴えた。それでもなお、膨大なシステムと日常の安心感に守られた人々の心を動かすことはできず、予言通りの悲劇が繰り返されてしまった。
まどか「ひかるさん……あなたが責められることではありません。あなたは最後まで諦めずに一人でも多くを救おうと戦いました」
まどかが静かに寄り添い、温かいお茶を差し出す。
あかりは自分のポケットの中で、明智あんなから渡された小さな小石を強く握りしめた。脳裏に蘇るのは、あんなが語った冷酷な真実——『どんなに私たちが足掻いても、結局運命は変えることができなかった』という言葉。
あかり「あんなさんが言っていた通りだった……。運命をそのまま変えることは、本当に難しいんだ……」
えいき「お母さん……僕たち、次はどうなっちゃうの……?」
えいきの怯えた声が静かな部屋に響く。
5月21日の新幹線衝突事故という惨劇は、予言の通りに起きてしまった。
そして次に待ち受けているのは、8月末にこの観星町を直接襲うとされる巨大な台風——。
悲しみと無力感に苛まれながらも、残された時間の中で自分たちに何ができるのか、彼女たちは暗闇の中で模索し続けるのだった。
〇 星奈家・リビング(2026年5月21日・深夜)
ひかるが震える手でリモコンを取り、テレビの電源を入れる。画面には『緊急報道特報』の文字と、惨状と化した下谷の森駅の現場映像が映し出された。
『本日午前9時過ぎに発生した北陸新幹線・下谷の森駅での脱線衝突事故について、警察は車両の制御システムを不正操作し暴走させたとして、テロリストの男らを現地で緊急逮捕しました』
キャスターが深刻な面持ちで原稿を読み上げていく。
『この事故による最終的な犠牲者の数は、車内および巻き込まれたホーム・高架下の歩行者を合わせ、正確に【674名】と確認されました。100年前の文書に記されていた数字と、1人の狂いもなく一致しています……』
ひかる「……やっぱり……1人も……間違っていないんだ……」
画面に表示された「674」という容赦のない数字を見つめながら、ひかるは力無く呟いた。
現場で叫び、必死に手を伸ばしても届かなかった命。テロリストが逮捕されたという事実すら、確定した運命の冷酷さを引き立てるだけで、奪われた命が戻ってくるわけではない。ひかるは膝の上に置いた両拳を固く握りしめ、静かに唇を噛みしめた。
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〇 旅館「さわ泉」・ちゆの部屋
同じ時刻、沢泉ちゆの部屋でも、のどかとちゆが息を呑んで画面を見つめていた。
画面に躍る「死者 674名」の文字。
ちゆ「事故の原因がテロリストの介入であろうと……結果として刻まれた犠牲者の数は、予言の数字と完全に一致してしまったわ……」
ちゆは腕を組み、冷や汗を流しながら厳格な表情で呟く。どれほど技術が発達し、人間が警戒しようとも、予言は思いもよらない形で「結果」を一致させてくる。その構造の恐ろしさに、背筋が凍りつくような感覚を覚えていた。
のどか「ひかるちゃん……すごく辛いはずだよ……現場にいて、あんなに一生懸命叫んでいたのに……」
のどかは胸元を強く握り締め、画面の向こうにいるであろうひかるの苦しみを想い、悲痛な面持ちで目を伏せた。
のどか「でも……諦めたら、本当に全部予言の通りになっちゃう。私たちは、次の災厄に備えなきゃ……!」
4月29日、5月5日、そして5月21日。
寸分違わず現実となっていく災厄の連鎖。
次に迫る8月末の巨大台風に向け、残された時間は着々と削り取られていくのだった。
〇 星奈家・リビング(2026年5月21日・深夜)
ひかるが震える手でリモコンを取り、テレビの電源を入れる。画面には『緊急報道特報』の文字と、惨状と化した下谷の森駅の現場映像が映し出された。
『本日午前9時過ぎに発生した北陸新幹線・下谷の森駅での脱線衝突事故について、警察は車両の制御システムを不正操作し暴走させたとして、テロリストの男らを現地で緊急逮捕しました』
キャスターが深刻な面持ちで原稿を読み上げていく。
『この事故による最終的な犠牲者の数は、車内および巻き込まれたホーム・高架下の歩行者を合わせ、正確に【674名】と確認されました。100年前の文書に記されていた数字と、1人の狂いもなく一致しています……』
ひかる「……やっぱり……1人も……間違っていないんだ……」
画面に表示された「674」という容赦のない数字を見つめながら、ひかるは力無く呟いた。
現場で叫び、必死に手を伸ばしても届かなかった命。テロリストが逮捕されたという事実すら、確定した運命の冷酷さを引き立てるだけで、奪われた命が戻ってくるわけではない。ひかるは膝の上に置いた両拳を固く握りしめ、静かに唇を噛みしめた。
〇 旅館「沢泉」・ちゆの部屋
同じ時刻、沢泉ちゆの部屋でも、のどかとちゆが息を呑んで画面を見つめていた。
画面に躍る「死者 674名」の文字。
ちゆ「事故の原因がテロリストの介入であろうと……結果として刻まれた犠牲者の数は、予言の数字と完全に一致してしまったわ……」
ちゆは腕を組み、冷や汗を流しながら厳格な表情で呟く。どれほど技術が発達し、人間が警戒しようとも、予言は思いもよらない形で「結果」を一致させてくる。その構造の恐ろしさに、背筋が凍りつくような感覚を覚えていた。
のどか「ひかるちゃん……すごく辛いはずだよ……現場にいて、あんなに一生懸命叫んでいたのに……」
のどかは胸元を強く握り締め、画面の向こうにいるであろうひかるの苦しみを想い、悲痛な面持ちで目を伏せた。
のどか「でも……諦めたら、本当に全部予言の通りになっちゃう。私たちは、次の災厄に備えなきゃ……!」
4月29日、5月5日、そして5月21日。
寸分違わず現実となっていく災厄の連鎖。
次に迫る8月末の巨大台風に向け、残された時間は着々と削り取られていくのだった。
2026年5月21日・午後11時、星奈家・ひかるの部屋。
下谷の森駅での凄惨な事故の報道が落ち着き、深夜の静寂が家全体を包み込んでいた。
ひかるは温かいお茶の入った湯飲みを両手で包み込み、ゆっくりと一口含んだ。喉を通る温もりが、一日中張り詰めていた心身の疲労をほんの少しだけ解きほぐしていく。
テレビ画面には、以前録画しておいた歴史資料映像『1960年、公害がもたらした二十日市カドミウム中毒病』が映し出されていた。
画面の奥から、資料映像特有の落ち着いた、どこか淡々とした男性の音声ガイドが静かに響く。
音声ガイド『——1960年代、高度経済成長の影で進行していた環境汚染は、住民たちの健康を深刻に蝕んでいきました。二十日市地域において報告されたカドミウム中毒病は、不十分な排水管理と長年にわたる有害物質の蓄積がもたらした、人災とも言える悲劇でした。記録によれば、初期症状を訴えた患者たちは原因不明の痛みに苦しみ……』
画面に映し出される当時の白黒写真と、客観的な音声ガイドの解説。ひかるは湯飲みの湯気を絶え間なく見つめながら、人間が引き起こす災厄と、避けることのできなかった歴史の重みに思いを馳せていた。
その時だった。
音声ガイドの声の隙間を縫うように、耳元で直接空気が揺れた。
あの日、星奈りあるが耳にしたとされる、あの不気味で無機質な囁き声——。
『202709302246289142202610061748285721……』
ひかる「……っ!?」
お茶を飲む手がピタリと止まり、湯飲みの中で波紋が大きく揺れた。
背筋に氷を突きつけられたような凄まじい寒気が全身を駆け巡る。テレビの音声ガイドは変わらず1960年の公害について語り続けているが、ひかるの頭の中には、絶え間なく詠唱される数字の列だけが鋭く響き渡っていた。
それは、100年前の紙に刻まれた冷酷な運命の暗号。
次の災厄、そしてそのさらに先に待つ未来の悲劇を告げる、終わりなき予言の秒針の音だった。
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