N3x7 d15a5732   作:vic.

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第11話「Despaired」

2026年5月21日・午後11時5分、星奈家・リビング。

 

耳元で鳴り響く不気味な数字の羅列。

ひかるは無意識のうちにテーブルのペンを掴み、目の前のノートへがむしゃらにその数字を書き殴っていた。

 

「202709302246289142202610061748285721……」

 

カリカリと紙を滑るペンの音が部屋に虚しく響く。

最後の数字「1」を書き終えた瞬間、ピタリと囁き声が途絶えた。部屋には再び、テレビから流れる公害ドキュメンタリーの静かな音声ガイドだけが残される。

 

ひかる「はぁ……はぁ……っ」

 

冷や汗を拭いながら、ひかるは自分が書き写した数字の列を見つめた。これらはすべて、これから起きる惨劇の日時と犠牲者の数なのだろうか。

 

手元のスマートフォンを開くと、SNSのタイムラインは「下谷の森駅」の事故の話題で埋め尽くされていた。

 

『マジかよ…誰も止められないなんてあんまりだ』

『事前に行く場所まで分かってたのに防げないなんて…』

『死者674人って…過去史上最悪・最狂の事故だろこれ…』

『予言通りに人が死んでいく…次はどこなんだよ…』

 

タイムラインに溢れ返るのは、圧倒的な絶望と恐怖の声。

警察や政府、そして自分たちがどれほど足掻こうとも、完璧な精度で刻まれていく死の記録。

 

ひかるはノートに記された新たな数字の列を強く握りしめ、終わりの見えない恐怖の深淵を見つめていた。

 

2026年5月22日・朝。

 

深夜の度重なる緊張と疲労に耐えかね、ひかるはそのままベッドの上で倒れ込むように眠りに落ちていた。

 

静まり返った部屋。

ガチャリ、とドアが開く音とともに、バタバタと威勢のいい足音が室内へ踏み込んでくる。

 

ブルー「あぁ、ひかる! 久しぶり!」

 

眠りから引き戻されたひかるが目をこすりながら起き上がると、そこにはソラの姉であり、ひかるの職場の同僚でもある天文学者・ブルー・ハレワタールの姿があった。

 

ブルーはひかるの反応を待つこともなく、ひかるの学習机の上にひょいと腰をかけた。足をぶらつかせながら、勢いよく言葉を続ける。

 

ブルー「この前、100前に書いてあった紙が過去約2000年規模の災害や事故を示していたことを証明したって聞いて、来ちゃった。ごめん」

 

ひかる「ぶ、ブルーさん……!? 急にどうしたの……?」

 

目をこすりながら体を起こしたひかるは、突如現れたブルーのラフすぎる態度と突拍子もない言葉に呆然としながらも、彼女が口にした「過去約2000年規模」という言葉に、再び肌が粟立つような予感を覚えるのだった。

 

ひかるは重い体をゆっくりと起こし、机の上に座るブルーの真剣な眼差しを見つめ返した。

 

ひかる「……うん。そうなんだよ、ブルーさん……」

 

ブルー「地震、火災、交通事故、墜落事故、台風、土砂崩れ、テロ……そう言った死亡事故が全部書き残されてるんでしょ?」

 

ブルーの言葉に、ひかるは静かに首を縦に振る。その顔には、昨日目撃した惨劇の傷痕と、逃れられない運命に対する深い疲労感が滲み出ていた。

 

ひかる「4月の墜落事故も、5月5日の火山噴火も、そして……昨日の新幹線の事故も。全部、日時も犠牲者の数も、紙に書いてあった通りになっちゃった……。警察も政府も、私たちがどれだけ叫んでも……止められなかったの」

 

ブルー「やっぱりね……。天文学の観点から見ても、そんな高精度な『未来の数値記述』なんてあり得ない。でも、過去2000年分の記録と完全に一致してるなら、それはもう偶然の確率を超えた『確定したシステム』として機能してるってことだよ」

 

机から軽やかに飛び降りたブルーは、ひかるが昨夜書き殴ったノートの数字の列をじっと見つめた。

 

ブルー「ひかる、落ち込んでる暇はないよ。過去が全部当たってるってことは、これから起きる災厄のデータも本物ってことだ。相手が『決定された運命』なら、こっちはそれを上回る科学と備えで対抗するしかないんじゃない?」

 

ソラの姉らしい力強い言葉に、ひかるはハッと息を呑む。

 

暗闇の中に落ちかけていたひかるの瞳に、再び小さな決意の光が灯り始めていた。

 

ひかるはノートに書き殴った長い数字の列を指でなぞりながら、ふとある一節に目を留めた。

 

ひかる「『2025061611』……これって、2025年6月16日……?」

 

その数字の意味に気づいた瞬間、ひかるの背中に冷たい汗が伝った。

 

ブルー「あ……その日付って、まさか……」

 

ひかる「スカイランドが突然の天候変異に襲われて、壊滅しかけた日……! あの時、11人もの犠牲者が出ちゃったんだ……」

 

ソラが自らの変身能力を代償にしてまで世界を守ろうとした、あの凄惨な大災害。地球で起きる事故や災害だけでなく、異世界であるスカイランドで起きた悲劇までもが、100年前の紙には寸分違わず数列として刻まれていたのだ。

 

ブルー「異世界での出来事まで網羅されてるなんてね……。この紙に書かれているのは、単に地球の未来だけじゃない。世界全体の『確定した歴史の記録』そのものってわけだ」

 

ブルーは険しい表情で腕を組み、ノートに並ぶ数字を見つめた。

 

過去の惨劇、異世界の危機、そしてこれから訪れるであろう未来の災厄。すべてが寸分の狂いもなく数字として固定されているという事実が、二人の前に重く横たわっていた。

 

2026年5月22日・朝、下谷の森駅近くの避難所前。

 

昨日の衝撃と凄惨な事故の記憶が未だ冷めやらぬ中、星ノ川はるかはひかるからの緊急の電話を受け、いてもたってもいられず駆けつけていた。

 

電話越しにひかるが語った衝撃の事実。100年前の予言の紙に刻まれていた数列の中に、地球の惨劇だけでなく、スカイランドが襲われたあの日——『2025年6月16日』の惨劇と『11人』という犠牲者の数まで完璧に記録されていたということ。

 

はるかは、避難所の脇で一人佇むソラ・ハレワタールの姿を見つけた。

 

足元まで届く鮮やかなピンクグラデーションのツインテールが、朝の冷たい風に寂しげに揺れている。スカイランドを守るために変身能力を失い、髪色すら変えてしまった彼女の後ろ姿には、昨日守れなかった多くの命への重い傷痕が残っていた。

 

はるか「ソラさん……!」

 

ソラ「はるかさん……。どうしてここに……?」

 

振り返ったソラの瞳には、深い疲弊と哀しみが宿っていた。はるかはソラの手にそっと自分の手を重ね、ひかるから聞いた真実を噛みしめるように語りかけた。

 

はるか「ひかるちゃんから聞きましたよ。あの日……スカイランドが壊滅しかけて11人の尊い命が失われてしまったことも、全部……あの100年前の紙に記録されていたんだって…」

 

ソラ「……っ! スカイランドの出来事まで……ですか……?」

 

ソラは息を呑み、胸元にあるペンとしての機能を残すのみとなったスカイミラージュをギュッと握りしめた。

 

ソラ「私は……命がけでスカイランドを守ったつもりでした。変身できなくなっても、みんなの笑顔を守れたならそれでいいって……。でも、それすらも100年前に決められていた運命の筋書きに過ぎなかったというのですか……!?」

 

悔しさと無力感で声を震わせるソラ。自分が払った大きな代償も、奪われた命も、すべてはただの数字の羅列として最初から決まっていたのだとしたら——その冷酷な現実に、ソラの足元がぐらりと揺らぐ。

 

はるか「ううん、違うよソラちゃん! たとえそれが決められた運命だったとしても、ソラちゃんがみんなを守ろうとして戦った気持ちまで偽物なんかじゃない!」

 

はるかはソラの肩を強く抱きしめ、まっすぐにその目を見つめた。

 

はるか「過去を変えることはできなくても、私たちが諦めなかったら……未来は絶対に変えられるはず。スカイランドも、地球も、これ以上誰も悲しませたくないんです!」

 

温かい手触りと、力強い言葉。

圧倒的な運命の絶望に押し潰されそうになっていたソラの胸に、はるかの真っ直ぐな想いがじわりと染み込んでいく。

 

運命という巨大な嵐の中で、彼女たちは互いの手を取り合い、迫り来るさらなる試練へと立ち向かう絆を再び強めるのだった。

 

2026年5月22日・夜、星奈家・リビング。

 

窓の外には、暗く静まり返った夜の街が広がっていた。

 

下谷の森駅での凄惨な出来事、そしてノートに刻まれたあまりにも残酷な未来の数字たち。迫り来る運命の重圧が静かに部屋を包み込む中、ひかるはあかりとえいきの前に静かに座り直した。

 

ひかるの顔からは先ほどまでの怯えや迷いは消え去り、その瞳には硬く鋭い光が宿っている。

 

ひかるは二人の手を取ると、力強く、そして慈しむようにしっかりと握りしめた。

 

ひかる「私は、2人を絶対に死なせない。分かった? 絶対に。」

 

静かだが、決してブレることのない一言。

 

あかり「お母さん……」

 

えいき「うん……!」

 

あかりとえいきは、ひかるの手に込められたぬくもりと圧倒的な覚悟を感じ取り、強く頷いた。

 

100年前の紙に何が記されていようと、どれほど冷酷な運命が待ち受けていようと、かけがえのない家族だけは絶対に守り抜く。

 

度重なる絶望の先で、星奈ひかるの胸の中に消えることのない強い誓いが立てられた。

果たしてひかるは、3度目の正直ならぬ、4度目の正直を果たせるのだろうか…?

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