N3x7 d15a5732   作:vic.

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第12話「今もなお続く災厄」

2026年5月23日・夕方、香久夜家・書斎。

 

歴史の分厚い資料集と最新の中高生新聞が机の上にうずたかく積まれていた。

 

香久夜まどかの娘である13歳の少女、香久夜麻沙美(かぐや あさみ)は、日課である予習の手を止め、目の前に並べられた数枚のメモ用紙を凝視していた。それは母・まどかを通じて共有されていた、ひかるが書き写した100年前の「数字の羅列」の写しであった。

 

麻沙美は持ち前の鋭い洞察力と知識を動員し、歴史上の出来事の日時と被害者数をその数列と突き合わせる作業を続けていた。そして、ある確信に達した瞬間、彼女の背筋に冷たいものが走った。

 

麻沙美「そんな……これ、現代の事故や災害だけじゃないんだ……」

 

彼女が指でなぞっていたのは、歴史の教科書や問題集で誰もが目にする古代から近代の歴史的事件のデータだった。

 

1582年の「本能寺の変」、鎌倉時代に国を揺るがした「元寇」における凄惨な戦渦の記録。そして何より、麻沙美が中高生新聞の特集記事で予習したばかりの治安史における最大の未解決惨劇——「2014年・哀夜麻区無差別大量射殺事件」。

 

2014年4月1日から12月31日という長期間にわたり、地域を恐怖の底に突き落としたあの事件。殉職した警察官154名を含め、実に合計1,885名もの尊い命が奪われた悪夢のような出来事。

 

その発端の日付、期間、そして「1885」という極めて具体的な最終犠牲者数の数字までもが、100年前の紙に寸分の狂いもなく暗号として刻み込まれていたのだ。

 

麻沙美「織田信長が倒れた日も、異国からの侵攻による犠牲も、そして12年前に起きたあの大量射殺事件の犠牲者の数まで……全部、最初からこの紙の中に書いてあったんだ……」

 

麻沙美は震える手でメモを握りしめ、リビングにいる母・まどかのもとへと急いだ。

 

星奈家・リビング

 

麻沙美からの緊急の連絡を受け、ひかるの家には再び緊張が走っていた。

 

麻沙美「ひかるさん、お母さん……見てください。あの紙に残されていたのは、近年の自然災害や事故だけじゃありません。過去数百年、千年以上前に起きた歴史上の戦乱や人災まで、すべて『確定した数値』として記録されています」

 

麻沙美が机の上に広げた対比表には、歴史的事件の数々と、ひかるが書き写した数列が見事に一致している様が示されていた。

 

まどか「過去の事件まで……。つまりこれは、予言というよりも、この世界の始まりから終わりまでに起きる『全歴史の記録書』のようなもの……」

 

ひかる「1885人が亡くなったあの悲しい事件も、何百年も前の戦いも……全部、全部決まっていたことだったの……?」

 

ひかるは麻沙美が示した資料を見つめながら、言葉を失った。

 

歴史という膨大な時間の流れの中で起きたすべての悲劇が、ただ一つの例外もなくあらかじめ決められた計算式のように配置されている。そのあまりにも壮大で絶望的な「仕組み」の全貌が、13歳の麻沙美の発見によって、より鮮明かつ残酷に浮かび上がってきたのだった。

 

2026年6月2日、観星町・星奈家の庭。

 

空から一筋の光が舞い降り、星奈家の庭に静かに着陸した。

 

ララ「着いたルン! ひかる、久しぶりルン!」

 

宇宙船のハッチが開くと、変わらない笑顔を見せるララの姿があった。そのすぐ後ろからは、少し緊張した面持ちの二人の子どもたちが続いて降りてくる。

 

タユ「オヨ……ここが母さんの言っていた地球かルン? 建物がいっぱいで不思議な場所だルン……」

 

ミク「オヨヨ……空気がスカイランドやサマーンと全然違うルン! ひかるさんに会うの、ちょっと緊張するルン……」

 

15歳になった長男の羽衣(はごろも)タユと、14歳の娘の羽衣(はごろも)ミク。二人ともララ譲りの「〜ルン」という語尾や、動揺した時の「オヨ」という口癖をしっかり受け継いでいる。

 

変身能力こそ失われていたものの、スターペンダントが持つ「宇宙人と地球人が言葉を通わせ合える力」は今も健在であり、その特別な力はタユとミクの二人にもしっかりと遺伝していた。また、かつて共に戦ったひかる、まどか、えれなたちのペンダントにもその力は宿り続けている。

 

ひかる「ララ! タユくん、ミクちゃん! ようこそ地球へ!」

 

ひかるは笑顔で二人を迎え入れ、その手を温かく握りしめた。ペンダントの力のおかげで、タユとミクの声は最初からひかるの心へダイレクトに届いていた。

 

タユ「ひかるさん、初めましてルン! 母さんからずっと話を聞いていたルン!」

 

ミク「私、ひかるさんに会えるのをずっと楽しみにしてたルン!」

 

重苦しい予言と絶望的な運命の影が落とし込まれる地球において、はるばる宇宙からやってきたララと新しい世代の訪れは、ひかるたちの心に明るい希望の光をもたらすのだった。

しかし、その希望の光も、残念ながら長くは続かなかった…。

10分後、星奈家・リビング。

 

サマーンから再び地球へと降り立ったララは、15歳の長男・羽衣タユと、14歳の娘・羽衣ミクを伴っていた。

 

ミク「オヨ……ひかるおばさん、顔色がすごく悪いルン……」

 

タユ「母さんから聞いてはいたけど、地球でそんな大変なことが起きてたなんて……ルン」

 

しかし、ひかるがどれほど必死に警鐘を鳴らし、命がけで止めようとしても、刻み込まれた3つの惨劇はことごとく予言通りの結末を迎えてしまった。積み重なる敗北と無力感に、部屋の空気は重く沈み込んでいる。

 

ミク「大きな力に手繰り寄せられてるってことルン……? そんなの、どうすれば止められるルン……?」

 

ミクが不安そうに語尾を揺らし、助けを求めるようにひかるたちを見つめた。

 

その時だった。

 

えれなの頭の中に、あんなの鋭い声とともに鮮明な「過去の記憶」が直接流れ込んできた。

 

——2015年3月29日。

当時18歳だったえれなが遭遇した、31人もの尊い命が奪われたあの痛ましい交通事故の光景。

 

あんな『この時、あなたは予言を知らなかった。そこで、予言による死を逃れる方法、その1。予言を知る前は、常にいつ災厄が起きるか分からない状況であっても備えをすること。これは基礎中の基礎』

 

脳裏に直接響くあんなの厳格な教えに、えれなはハッと目を見開いた。

 

えれな「予言を知る前の、日常での備え……それが基礎……!」

 

ただ予言の数字に怯え、後手後手に回るのではない。いつどんな災厄が降りかかろうとも生き抜くための「日常からの備え」こそが、運命の濁流に対抗する最初の一歩なのだと、あんなの言葉が教えていた。

 

あんなは静かに手をかざすと、ひかるの視界に過去の回想映像を映し出した。

 

画面に浮かび上がるのは、4月29日、5月5日、そして5月21日の下谷の森駅——ひかるが声を限りに叫び、汗を流し、必死になって惨劇を止めようと駆け回っていた姿だった。

 

しかし、いくらひかるが立ち塞がろうとも、冷酷な運命のシステムは一切の容赦なく動き、悲劇を再現してみせた。

 

あんな「ルール2、勝手に予言は変えられない。変えようとすることには、死ぬリスクもあるんだよ。だから止めようと奔走するのに、心苦しいことを言ってしまうけど、メリットはない」

 

静寂の中、あんなの冷徹な声がひかるの胸に重く突き刺さる。

 

ひかる「メリットが……ない……? でも……っ! 見過ごすことなんてできないよ! 目の前で誰かが死んじゃうかもしれないのに、何もしないなんて……!」

 

あんな「気持ちは分かるわ。けれど、無理に運命を捻じ曲げようとすれば、その歪みはあなた自身や、大切な家族の命を奪う形となって跳ね返ってくる。予言という巨大な流れに正面からぶつかるのは、ただ命を散らすだけの無謀な行為なの」

 

自らの身を危険に晒しながらも無力感に打ちひしがれてきたひかるは、あんなの語る「ルール2」の残酷な真実に息を呑んだ。

 

人を救いたいという純粋な願いと、逃れられないシステムの壁。

 

容赦なく訪れる、残り5つの予言を前に、ひかるたちは「どう戦えば大切な人を真に守れるのか」という、あまりにも重い課題を突きつけられるのだった。

〇 精神世界(2026年6月2日)

 

あんなは悲しげに、しかし力強い眼差しでひかるを見つめ、静かに告げた。

 

あんな「これだけは覚えておいて。4日後、首都直下型地震は政治に牙をむくから……」

 

その言葉を最後に、周りの景色がガラスのように儚く砕け散り、あんなの姿は精神世界の暗闇の中へと消え去っていった。

 

2026年6月2日・午後11時58分、星奈家・リビング。

 

「ハッ……!」

 

ひかるは跳ね起きるように意識を取り戻した。

 

リビングの壁掛け時計が、カチ、カチ、と無情な音を刻んでいる。文字盤が指し示す時刻は、午後11時58分。

 

日付が変わるまで、あとわずか2分。

 

あんなが残した「4日後」という言葉。日付が変われば、首都直下型地震の発生まで残り「3日」を切ることになる。

 

ひかる「4日後……首都直下型地震が、政治に牙をむく……?」

 

あんなの最期の警告が、ひかるの頭の中で重くリフレインする。

 

4月29日の航空機事故、5月5日の火山噴火、そして5月21日の下谷の森駅での惨劇。どれだけ叫んでも、どれだけ駆け回っても変えることのできなかった予言の歯車。

 

しかし、あんなが告げた「ルール1:日頃からの備え」と「ルール2:正面から無理に変えようとする危険性」。その教えを胸に刻んだ今、ただ絶望して立ち尽くすわけにはいかなかった。

 

ひかるは震える手でスマートフォンを握りしめ、カレンダーの「6月6日」のページを見つめた。

 

日本の主枢を揺るがす巨大な地震、そして「政治」を巻き込むさらなる波乱。

 

カウントダウンは、もう止められない。

残されたわずかな時間の中で、家族を、そして大切な仲間たちを守り抜くための本当の「備え」とは何なのか。ひかるは暗闇の中で、強く唇を噛みしめながら静かに決意を固めていた。

時計は、ついに0時を指した。

果たして、政治には一体、どのぐらいの被害が出てしまうのか…?そして、東京にいる人々はどうなってしまうのか…?

70 b3 c0n71nu3d…

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