2026年6月3日・未明、虹ヶ丘邸・ソラの部屋。
激しい動悸と全身を突き抜けるような冷や汗とともに、ソラ・ハレワタールは跳ね起きるように目を覚ました。
脳裏に焼き付いて離れないのは、先ほどまで見ていたあまりにも生々しく凄惨な悪夢の光景——。
それは、「2026年9月9日」という日付から始まる地球終末の光景だった。
太陽の異常活動によって発生した史上最大規模の超巨大太陽フレアが襲来し、その圧倒的な熱量と放射線が地球の全生命を焼き尽くしていく。
夢の中の虹ヶ丘邸では、テレビから耳を刺すような緊急警報音が鳴り響いていた。
画面に映るニュースキャスターの声は激しく震え、緊迫感が部屋を押し潰す。
キャスター『これは訓練ではありません! 繰り返します、これは緊急放送です!!』
続いて表示された気象庁および国際宇宙天気予報機関による緊急声明。
『超巨大太陽フレアの到達により、地球上の全生物は死滅の危機に直面しています。我々の星に未曽有の壊滅的な被害が予測されます。屋外へ出分けることはきわめて危険です! ただちに堅牢な地下施設へ避難してください!!』
真っ赤に染まる空、崩れ去る都市、そして迫り来る終わりの瞬間——。
現実世界においては、100年前の紙に刻まれた『確定した運命のシステム』によって歴史は続いていくため、この太陽フレアによる地球滅亡という事態がそのまま現実化することはないと理論上は推測されている。しかし、スカイランドの危機を経験し、変身能力を失いながらも戦ってきたソラにとって、その夢の映像は魂を直接削り取るような圧倒的な恐怖として迫ってきたのだった。
またあの悪夢を見てしまったらどうしようという猛烈な不安と絶望感が、ソラの胸を締め付ける。
ソラ「嫌だ……! 嫌あああああああっ!!」
静まり返った深夜の虹ヶ丘邸に、ソラの悲痛な悲鳴が響き渡った。
ドアが勢いよく開かれ、足音が廊下を駆け抜けてくる。
ましろ「ソラちゃん!? 大丈夫!?」
飛び込んできた虹ヶ丘ましろは、ベッドの上で激しく肩を上下させ、呼吸を乱しているソラの元へ真っ直ぐに駆け寄った。震えるソラの肩を優しく、しかし力強く揺さぶる。
ツバサ「ソラさん! 一体何があったんですか!?」
あげは「ソラちゃん、落ち着いて! 私たちここにいるよ!」
エル「ソラ……!」
異変を察知したツバサ、あげは、そして成長したエルも次々と部屋へ飛び込み、ソラを取り囲むように膝をついた。
ソラ「まし……ろさん……あげはさん……みんな……っ」
髪を汗で張り付かせ、瞳に涙を溜めたソラは、差し出されたましろの手をしがみつくように強く握りしめた。
4日後に迫る首都直下型地震、政治を揺るがすさらなる惨劇の予兆、そして自らの精神を蝕む終末の夢。変身する力を失った元ヒーローの少女は、仲間たちの温もりにすがるようにして、静かに体を震わせ続けるのだった。
2026年6月3日・朝、駅前広場
昨夜の凄惨な悪夢と激しい動悸の余韻を振り払うかのように、ソラは衝動的に一人、早朝の駅前広場へと足を進めていた。朝の冷たい空気を吸い込んでも、胸の底にある絶望感と恐怖は容易には消えてくれない。
人通りもまばらな広場の中央。
ソラの視界に、どこか見覚えのあるシルエットが飛び込んできた。
以前の出来事でも目撃された、頭部に猫のような耳をつけた謎の女性——。
その姿を目に焼き付けた瞬間、ソラの耳元で直接空気が歪んだ。かつて星奈りあるやひかるが耳にしたとされる、あの不気味で無機質な数値の詠唱が、ソラの脳内へ直接なだれ込んでくる。
『2026080410020221107EEINSUPERKOMACHI……』
ソラ「っ……! これは……また、数字が……!?」
頭を抱え、思わずその場に立ち尽くすソラ。
すると、猫耳の女性は静かに振り返り、まっすぐにソラの方へと歩み寄ってきた。その瞳には、すべてを見透かしているかのような深い光が宿っている。
ミラ「あなたが、元ヒーローのソラさん?……私の名前はミラ、レインボー星人。この地球の災厄を数字で現在に予言し、死者を減らそうと企ててる」
ソラ「レインボー星人……ミラさん……? あなたが、あの予言の数字を……!?」
衝撃の告白に、ソラは呼吸を忘れて息を呑んだ。
100年前の紙に刻まれた冷酷な運命の暗号、そしてひかるたちの耳元で鳴り響いてきた終わりなき数字の羅列。その全ての渦中にいる存在が、今、目の前で自らの名と目的を口にしたのだ。
変身する力を失い、確定した運命の重圧に押し潰されかけていたソラと、予言を投じる謎の宇宙人・ミラ。
早朝の静かな広場で、二人の視線が強く交錯する。
〇 駅前広場(2026年6月3日・朝)
ミラの猫耳が朝風に僅かに揺れ、その瞳には深く切ない後悔の色が滲んでいた。
ミラ「今の災害がなぜ起こっているのか知りたい? 災害の原因はただの運命、私じゃない。観星町は、宇宙を守ってくれたヒーローと、宇宙飛行士の出身地。でも、残念なことに観星町が予言にあることに気づいてしまったの……」
ソラ「ミラさん……」
ミラの言葉の端々から伝わってくるのは、冷酷な邪心ではなく、押し潰されそうなほどの無力感と痛切な悔恨だった。
ミラ「私は……少しでも死者を減らしたかった。悲劇を知ることで、誰かが助かる未来があるんじゃないかって……。でも、私が何度試しても無理だった。数字を投げかけても、運命のシステムは一度として捻じ曲がってくれなかった……」
予言の数字を伝えたところで、惨劇を止めることはできない。それどころか、ただ恐怖と確定した絶望を突きつけるだけになってしまう——その残酷な現実を何度も突きつけられてきたミラの苦悩が、ソラの胸に重く突き刺さる。
ソラ「ミラさん……あなたも、戦っていたのですね。運命という大きな力と……」
ソラは静かにステップを踏み出し、ミラの目を見つめた。
変身する力を失い、数々の犠牲を止められずに打ちひしがれていた自分と同じように、ミラもまた「命を救いたい」という一心で足掻き、傷ついていたのだと知ったからだ。
ソラ「でも、諦めたら本当に終わりです。たった一人では変えられなくても、みんなで『備える』ことならできるかもしれない……!」
あんなから伝えられた「日頃からの備え」という教え、そして仲間たちの存在。
早朝の広場で重なった二人の想いは、確定した運命の暗雲の中に、希望の光として灯ったのか、灯っていないのか?
2026年6月5日、星奈家・リビング。
ついに、首都直下型地震の発生前日を迎えた。
テレビの画面には「緊急警戒」の赤い文字が躍り、ニュースキャスターが切迫した声で呼びかけている。
キャスター『明日、巨大な地震が首都圏を襲う可能性があります。首都圏エリアにいる皆さんは油断せず、今すぐ避難経路の確認や備蓄のチェックなど、適切な行動をとってください!』
画面を見つめるひかるの手には、スマートフォンが固く握られていた。画面には、首都圏に住む知り合いや家族全員のアドレスが並んでいる。
ひかる「一斉にメールを送ったほうがいいのかな……? でも、あんなさんの言う『正面から予言を変えようとすることの危険』もあるし……どうすればいいんだろう……」
ひかるの心は激しく揺れ動いていた。大勢の人を救いたいという衝動と、下谷の森駅での失敗、そしてあんなから告げられた運命のルールの狭間で、葛藤は深まるばかりだった。
同時刻、都内・街頭。
一方、街頭の大型ビジョンや人々のスマートフォンにも警報が届いていたが、街を行く人々の反応は冷ややかなものだった。
街の人A「また大袈裟なニュースやってるよ。首都直下型地震なんて、昔から言われてて結局来ないじゃん」
街の人B「どうせアクセス稼ぎのフェイクニュースだろ。明日も普通に仕事だし、気にしてもしょうがないって」
失笑を浮かべ、スマートフォンの画面を閉じで歩き去っていく人々。長年の平和と膨大な情報過多の中で麻痺してしまった人々の防衛本能は、迫り来る本物の惨劇の足音を感じ取ることができていなかった。
星奈家・リビング。
テレビのニュースと、SNS上の楽観的な書き込みを見つめながら、ひかるは静かに息を呑んだ。
あんなが語っていた「ルール1:常にいつ災厄が起きるか分からない状況であっても備えをすること」。
パニックを起こして一斉メールを送るべきか、それとも自分たちができる最善の「備え」に集中するべきなのか?
ひかるが下せる選択肢は2つだけだった。
果たして、ひかるはどちらを選択するのか——?
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