2026年7月18日、北陸地方・某所。
首都圏で過酷な余震と復旧作業が続く中、ついにその波及は北陸地域へと波及し始めていた。
連日の猛暑と乾燥に加え、相次ぐ誘発地震によって沿岸部および山間部の地盤が極度に弛緩。一部の山林では落雷や地震のショックによる大規模な山火事のリスクが急上昇していた。
街中に設置された防災行政無線から、サイレンの音とともに緊迫したアナウンスが響き渡る。
『ウー、ウー。こちらは防災北陸です。山間部における地震および山火事発生の危険性が非常に高まっています。該当地域の皆様はただちに指示に従い、指定の避難所へ避難を開始してください』
テレビやスマートフォンの画面にも、北陸各県に向けた広域な「避難指示」の赤いテロップが一斉に表示された。
星奈家・リビング。
テレビ画面に映し出される北陸地方の地図を見つめながら、ひかるは静かに息を呑んだ。
ホワイトボードに記された「北陸大震災」の予言、そして犠牲者数「17,244人」というあまりにも凄惨な数字。
ひかる「始まったんだ……。北陸でも、少しずつ運命の歯車が動き出してる……」
ララ「オヨ……避難指示が出たことで、一人でも多くの人が早めに動いてくれればいいルン……」
タユ「直前になってパニックになる前に、こうして避難指示に従って『備える』動きができるのは、救いかもしれないルン」
ミク「うん……! 予言の数字を正面から変えることはできなくても、こうして早めに避難できれば、きっと……ルン!」
あんなから提示された「事前に備えること」の重み。
大火災と巨大地震という二重の脅威が北陸の地へと迫る中、人々を悲劇から遠ざけるためにはどうすれば良いのだろうか?
2026年7月21日、都内・星ノ川はるかの部屋。
画面に向かう星ノ川はるかの手は、かすかに震えていた。
ひかるから伝えられた「17,244人」というあまりにも重い数字。そして、あんなから提示された「予言を正面から無理に変えようとすることのリスク」と「日頃からの備え」という残酷なルール。
直接惨劇を止めることはできなくても、一人でも多くの人に危機を知らせ、自発的な「備え」と「避難」へ向かわせることはできないのか——。
葛藤の末、はるかは自身のSNSアカウント(@Haruka_star)の投稿画面を開いた。
『北陸地方の皆さん、震度7が予測される可能性があります!今すぐ避難して安全を確保してください!』
意を決して押された送信ボタン。投稿はまたたく間にタイムラインへと放たれ、拡散を開始した。
投稿は即座に大勢のユーザーの目に留まったが、タイムラインに並んだのは困惑と懐疑の声だった。
ユーザーA『震度7の予測ってマジ? 公的機関の発表じゃないよね? デマじゃないの?』
ユーザーB『またこういうフェイクニュースで不安を煽るアカウントが出てきたか……。通報しようぜ』
ユーザーC『予知なんてできるわけないじゃん。アクセス稼ぎの釣りでしょ』
人々は過剰な煽りや誤情報だとして投稿を失笑し、冷ややかな視線を向けた。
しかし、SNSのプラットフォーム運営側は異なった反応を示していた。
度重なる大規模災害と、これまで観測されてきた不気味なほどの「予言の一致」。運営のシステムと監視チームは、この投稿が単なる悪質なデマではなく、極めて重大な根拠に基づいている可能性を察知していた。
運営担当者「この記事……通常なら誤情報として即座に削除かアカウント凍結対象だが……削除はしない。この警告は、残しておくべきだ」
運営側は対処を行わず、はるかの投稿はタイムラインの上に静かに留まり続けた。
星奈家・リビング
スマートフォンの画面で拡散される自身の投稿と、それに対する冷酷な世間の反応を見つめながら、はるかは深く息を吐いた。
ひかる「はるかちゃん……」
はるか「信じてくれない人がほとんどかもしれない……。でも、この記事を目にして、一人でも『念のため水を買っておこう』『避難場所を確認しておこう』って動いてくれたら……」
あんなが教えてくれた「備え」の基礎。
信じる者と疑う者、そして刻一刻と近づく北陸大震災の瞬間。運命のカウントダウンの中で、届かぬかもしれない警告の文字が、ネットの海で静かに異彩を放っていた。
北陸地方・某市街地、2026年7月27日。
星ノ川はるかの切実な警告投稿から、6日が経過した。
北陸各地では避難指示が出され、防災行政無線が連日のように注意を呼びかけているにもかかわらず、街の緊張感はどこか不自然に希薄なままだった。
ショッピングモールの広場や街頭では、スマートフォンの画面を眺めながら人々が呑気に言葉を交わしている。
市民A「ねえ、例の『震度7が来る』ってSNSの投稿、覚えてる? もう10日も経ったけど何も起きないじゃん」
市民B「やっぱりデマだったんだよ。行政も避難指示なんて大袈裟に出しちゃってさ。いつまでこんな生活続けなきゃいけないんだか」
市民C「オオカミ少年と同じだよね。本当に危ないなら気象庁がもっとハッキリ言うはずだし、そろそろ避難所から家に戻ろうかな」
「何も起きない10日間」という時間が、皮肉にも人々の警戒心を急速に摩耗させてしまっていたのだ。警告を「ただのフェイクニュース」と決めつけ、避難指示を解除されていないにもかかわらず、自宅へ戻り始める人々すら出始めていた。
星奈家・リビング。
テレビ画面に映し出される北陸地方の「帰宅し始める人々」のニュースを見つめながら、ひかるは痛烈な歯がゆさに唇を噛みしめていた。
ひかる「そんな……っ! せっかく避難してくれていたのに、時間が経ったからって戻っちゃったら……!」
ララ「オヨ……『何も起きないこと』が、逆に警戒を解く理由になっちゃってるルン……!」
100年前の紙に刻まれた「北陸大震災」のカウントダウンは、着実に、そして静かに進んでいる。
あんなが残した「日頃からの備え」という言葉の真意——それは、いつ来るか分からない恐怖に対して、たとえ周りから冷ややかな目で見られようとも、最後まで諦めずに「備え続ける」という心の強さそのものだった。
ひかる「信じてくれない人が多くても……私たちは最後まで呼びかけを諦めちゃダメだよね。一人でも、あと一人だけでも思いとどまってくれたら……!」
冷笑と諦めが街を包み込む中、運命の刻限は目前へと迫っていた。
都内・星ノ川はるかの部屋、2026年7月27日・夕方。
オレンジ色の夕日が生ぬるく部屋を照らす中、はるかはデスクの上の画面を静かに見つめていた。
タイムラインには、未だに「デマだ」「起きるわけがない」と嘲笑する書き込みが溢れている。しかし、はるかの脳裏を支配していたのは、人々の冷ややかな反応ではなく、白日のもとに示された恐ろしい「現実」だった。
もし——もし本当に、100年前の紙に刻まれた予言通りに北陸で震度7の巨大地震が発生してしまったら。
ララが解読した「17,244人」というあまりにも凄惨な死者数。
首都直下型地震をも上回るその破滅的なエネルギーが北陸の街々を襲えば、倒壊する家屋、引き裂かれる道路、そして大火災によって、どれほど果てしない絶望が広がることになるのか。
はるか「こんなにも大勢の命が……一瞬で消えてしまうかもしれないなんて……」
「何も起きないだろう」と高を括る世間の楽観論と、確実に刻まれつつある絶望的な未来の数値。そのあまりにも巨大なギャップが、凄まじい重圧となってはるかの肩にのしかかる。
信じてもらえないもどかしさと、避けることの許されない巨大災害の恐怖。
差し込む夕闇の中で、はるかは突きつけられたあまりにも残酷な現実に身を震わせながら、ただじっと耐え忍ぶことしかできなかった。
そして、無情にも夜は訪れてしまった…。
2026年7月28日・午前0時30分
時計の針が午前0時30分を過ぎても、はるかの枕元には重く息苦しい静寂が横たわっていた。
ベッドに入ってから幾度となく身をよじらせても、全身を嫌な冷や汗が絶え間なく伝い落ちていく。暗闇の中で目を閉じるたび、脳裏に浮かび上がるのは100年前の紙に刻まれた冷酷な数字——「17,244人」というあまりにも膨大な命の重みだった。
『2026年8月4日……北陸大震災……』
SNS上の無数の「デマだ」「起きるわけがない」という冷笑コメント。
そして、それとは裏腹に着々と近づいてくる「その時」。
直接立ち向かうことも、無理に運命を捻じ曲げることもできない残酷なルールの中で、自分自身が投じた一石は本当に誰かを救えているのだろうか。それとも、ただいたずらに不安を撒き散らしただけなのだろうか——。
はるか「う……くっ……」
熱を帯びた額を冷たい手で覆いながら、はるかは静かに浅い呼吸を繰り返す。
冷や汗で肌に貼りつくシーツの感触と、心臓の早鐘のような鼓動。
北陸を襲う未曾有の災厄まで、あとわずか。恐怖と責任感の狭間で押し潰されそうになりながら、はるかは明けない夜の闇を一人じっと見つめ続けていた。
果たして被害は減らせるのか?それとも…
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