2026年7月28日・午後5時42分、星奈家・リビング。
夕闇が静かに街を包み込み始めていたその時、不穏な静けさを切り裂くように、家中のスマートフォンが一斉に凄まじい警戒音を鳴らし始めた。
『ウーッ! ウーッ! 地震です! ウーッ! ウーッ! 地震です!』
ひかる「来た……っ!!」
画面に浮かび上がるのは、真っ赤な背景を滲ませた気象庁からの緊急地震速報。
> ⚠️ 緊急地震速報
> 北陸地方にて大規模な地震発生。強い揺れに警戒してください(気象庁)
直後、星奈家の床が大きく波打ち、激しい横揺れが襲いかかる。
北陸地方・某市。
はるかがSNSで命がけの警告を発してから7日目。
「どうせデマだ」「起きるわけがない」と人々が嘲笑し、日常を貪っていた北陸の地を、突如として地底からの咆哮が引き裂いた。
「ズズズズズズズズズ……ガガガガガガガッ!!!』
マグニチュード8クラスの激震が地表を突き上げる。
家々がなぎ倒され、アスファルトが蛇のようにうねり、電柱が次々とへし折れていく。
「キャーッ!!」
「うわああああっ!!」
さっきまで「フェイクニュースだ」と笑っていた人々の悲鳴が、激しい粉砕音と悲惨な地鳴りの中に呑み込まれていく。
はるかの警告を信じず、何の備えもしていなかった者たちは、突然牙をむいた圧倒的な破壊力の前にパニックへと陥った。一方で、はるかの投稿を見て「念のため」と水を購入し、避難経路を確認していたわずかな人々は、揺れと同時に即座に机の下へ潜り込み、家族の命を守る行動をとることができた。
100年前の紙に刻まれた「北陸大震災」。
信じる者と拒絶した者。冷酷な運命のシステムは、容赦なく北陸の街へと襲いかかり、新たな悲劇の惨劇の幕を開けたのだった。
2026年7月28日・午後5時44分、星奈家・リビング。
激しい初期微動と本震の衝撃が収まりかけたその時、テレビ画面が赤と黄色のアラート画面へと瞬時に切り替わった。
『ピロロン、ピロロン! 緊急警報放送です。ただちに沿岸部から離れてください!』
ニュースキャスター『北陸沖を震源とする非常に激しい地震が発生しました! 気象庁はただちに、架空の沿岸地域である「東鶴賀海岸および西能代沿岸」に津波警報、**「南富永湾および奥北陸沿岸」に津波注意報**を発令しました!』
画面上には、架空のマップとともに予想される津波の高さが表示される。
> 【津波警報】(予想される高さ:3m)
> ・東鶴賀海岸
> ・西能代沿岸
> *標高の高い安全な場所、または頑丈なビルの上層階へただちに避難してください!
> 【津波注意報】(予想される高さ:1m)
> ・南富永湾
> ・奥北陸沿岸
> *海の中にいる人はただちに海から上がり、海岸や川の近くから離れてください!
沿岸部・南東鶴観港。
激しい揺れの直後、街の防犯スピーカーから警報音が響き渡る。
「ウー! ウー! 津波警報が発表されました。予想される津波の高さは3メートルです。沿岸部や川の近くにいる方は、今すぐ高台へ逃げてください!」
先ほどの大揺れでパニックになっていた人々は、画面の警告と鳴り響くサイレンに青ざめた。
「津波が来るぞー! 高台に走れ!!」
「3メートルだって!? 家に残ってたら流される、早く逃げろ!!」
かつて「デマだ」とタカをくくっていた住民たちも、目の前で鳴り響く本物の津波警報に顔色を変え、必死に近くの避難施設や高台を目指して駆け出し始めた。
はるかがSNSに投稿した命がけの警告、そして気象庁から打ち出された「津波警報」と「津波注意報」。
壊滅的な揺れに見舞われた北陸の地に、今度は迫り来る水の脅威が容赦なく襲いかかろうとしていた。
2026年7月31日、北陸地方・被災地。
悪夢のような大震災の発生から、丸3日が経過した。
その間、北陸の地を襲う揺れは一度たりとも完全に収まることはなかった。震度4から5強クラスの激しい余震が昼夜を問わず連続して発生し、一命を取り留めた避難者たちの体力を容赦なく削り取り、半壊状態で耐えていた建物やインフラを容赦なく次々と押しつぶしていった。
そして、不気味な地鳴りと絶え間ない振動がようやく落ち着きを見せ始めた頃、政府の緊急災害対策本部から惨絶な被害状況の全容が発表された。
星奈家・リビング。
テレビ画面には、一面の瓦礫の山と黒く焦げ付いた街並み、そして変わり果てた故郷の姿が絶望的な映像として映し出されていた。画面の下部には、重々しい黒枠の速報テロップが差し込まれる。
キャスター『……北陸地方を襲った激震、ならびに津波と火災による最終的な被害状況をお伝えします。警察庁の発表によりますと、確認された**最終的な死者数は、17,244人**に達しました……』
「17,244人……」
ホワイトボードの前で、ララは声にならぬ悲鳴を呑み込み、呆然と画面を見つめた。
あらかじめ提示されていた予言の数値と、一桁の狂いもなく完全に一致した最悪の現実。
はるかがSNSを通じて命がけで警告を発し、わずかな人々が「備え」行動をとったことで救われた命があったのも事実だった。しかし、運命の圧倒的な濁流と、冷酷なまでに確定した惨劇の記録を完全に打ち消すことはできなかったのだ。
ひかる「17,244人……。あんなに叫んで、はるかちゃんも命がけで警告してくれたのに……やっぱり、予言通りの数字になってしまったの……?」
ひかるは握りしめた拳を震わせ、胸を突き刺す無力感に激しく唇を噛みしめた。
しかし、その瞳の奥には悲嘆だけではない、静かな決意の火が灯っていた。
ひかる「ううん、違う……。もしはるかちゃんが警告を出していなかったら……もし誰も『備え』をしなかったら、被害はこんな数字じゃ済まなかったかもしれない。私たちは無力じゃない……!」
首都直下型地震に続く、北陸大震災の惨劇。
17,244人という尊い命の犠牲を胸に刻み、少女たちは未だ終わらぬ災厄の連鎖を生き抜くため、さらなる「備え」と次なる試練へと立ち向かう覚悟を新たにするのだった。
2026年8月6日、渋谷・宮下公園付近。
相次ぐ惨劇の波は、壊滅的な被害を受けた首都圏の街々にも重く暗い影を落とし続けていた。
首都直下型地震による16,445人の犠牲、そして北陸大震災が残した17,244人というあまりにも凄惨な死者数。倒壊したビルの撤去作業が進む渋谷の街にたたずむソラ・ハレワタールは、スマートフォンの画面に映し出された犠牲者の数値と、一面の瓦礫と化した街並みを前にして立ち尽くしていた。
ソラ「そんな……。首都直下だけじゃなく、北陸までも……。100年前の紙に書かれていた通りに……こんなことが、本当に……」
青空のように澄んでいたソラの瞳が、果てしない絶望と恐ろしい現実へのショックに大きく揺れる。
これまでどんな強敵が相手であっても、ヒーローとして決して諦めず、その手で仲間と世界を守り抜いてきた。しかし、目の前で繰り広げられているのは、モンスターや悪の組織との戦いではない。タイムラインと数字によってあらかじめ「確定」され、どんなに抗おうとしても冷酷に刻まれていく無慈悲な運命そのものだった。
ソラ「止めようとしても、叫んでも……届かない……? 絶望の予言が、ずっと終わらないなんて……っ!」
自分の無力さと、絶え間なく押し寄せる絶望の連鎖に、ソラはその場に膝をつきそうになりながら強く拳を握りしめた。
激しい戦慄が全身を駆け抜ける中、ソラは冷たいビル風が吹き抜ける渋谷の空を見上げ、ヒーローとしての存在意義と、果てしない予言の運命にどう立ち向かうべきなのかを必死に問い続けるのだった。
〇 渋谷・避難所周辺の仮設歩道(2026年8月6日・夕刻)
瓦礫の撤去作業が進む渋谷の街に、夕闇が重く垂れこめていた。
震災のショックから未だ立ち直れずにいたソラ・ハレワタールは、支援物資の搬送を手伝う途中で偶然、夏海まなつの姿を見つける。その無事な姿に一瞬胸を撫で下ろしたソラだったが、脳裏に浮かんできた「次の予言」の文字を思い出し、全身の血が凍りつくような衝動に駆られた。
ソラは駆け寄り、まなつの両肩を思わず強く掴んだ。
ソラ「まなつさん! 2026年8月8日……あさって、同窓会があるんですよね!?」
まなつ「え? あ、うん……! 久しぶりにみんなと会う約束をしてるんだけど……ソラちゃん、どうしたの? そんなに青い顔をして……」
突然の剣幕に驚くまなつに対し、ソラは切迫した叫びを吐き出した。
ソラ「まなつさん、お願いです……今際の際(いまわのきわ)なんですよっ!! お願いします、私の言うことを信じてください! その同窓会で、テロが起こるんです!! これは決してデマでも、怪しい噂なんかでもありません!!」
必死に訴えかけるソラの瞳には、涙とうろたえの色が滲んでいた。首都直下型地震、そして北陸大震災——ことごとく予言通りの惨劇が現実となってしまった恐怖を身をもって知っているからこそ、大切な仲間を危険に晒すわけにはいかなかった。
しかし、突然「テロ」という現実味の薄い言葉を突きつけられたまなつは、困惑したように目を丸くし、苦笑いを浮かべながら首を振った。
まなつ「テロ……? ええっ、急にそんなこと言われても……。だって、街は大変な時期だけど、みんなで励まし合おうって決めた大事な集まりなんだよ? デマや噂に惑わされちゃダメだよ、ソラちゃん!」
ソラ「デマじゃないんです! 私は本気で言っています!! 行かないでください、お願いですから……っ!」
まなつ「ソラちゃん、最近ずっと大きな地震が続いて疲れてるんだよ。だから変な情報に過敏になっちゃってるんだと思う。大丈夫、私、トロピカってるから! みんなで無事を確かめ合ってくるね!」
ソラの必死の警告は、現実離れした恐怖ゆえに「震災によるトラウマや混乱が見せた妄想」として処理されてしまい、まなつの心には届かない。
去っていくまなつの背中を見つめながら、ソラはその場に立ち尽くした。
正面から止めようとしても届かないもどかしさ、そして2日後の「8月8日」というタイムリミット。絶望的な予言の連鎖を前に、ソラは震える拳を握りしめ、かつてない深い孤立感と恐怖に苛まれる。
2001年の1・10 NY同時多発テロ事件を思わせるような予言。果たして、ひかるたちはこれを未然に防げるのか防げないのか?
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