マコトミライタウン・湾岸エリア、2026年8月18日。
潮風が立ち込めるマコトミライタウンの近代的な街並みに、あんなは静かに降り立っていた。
かつて眩しく輝いていたはずのウォーターフロントの景色も、今のあんなの目には、いつ途切れてもおかしくない儚い幻影のように映っていた。
あんなの脳裏には、あまりにも凄惨で、あまりにも圧倒的な「一度滅びた地球」の記憶が鮮明に焼き付いている。
1999年へタイムスリップした「わんだふるぷりきゅあ!」と「キミとアイドルプリキュア♪」のメンバーたち。そして、共に戦ったキュアミスティック、キュアエクレール、キュアアルカナ・シャドウ。
あの日、空を覆い尽くし、プリキュアたち、マコトジュエル、怪盗団ファントム、街、村、山…地球上の全てを破壊した
キュアワンダフル『いろはぁぁぁーーー!!!!』
キュアアイドル『嫌!! もりん!! お母さんお父さん!!!』
キュアフレンディ『お願い!! 死にたくないよ!!!』
キュアミスティック『あんな!!!!』
キュアニャミー『まゆ…天国でも愛してるわよ』
キュアリリアン『ユキーーー!!!』
キュアウインク『Win-Win-ウインクもここまでなの…?』
キュアキュンキュン『やっぱり…戦うアイドルなんておかしかったよ…』
キュアズキューン『1999年でアイドルプリキュア…解散…なんて…!』
キュアキッス『お姉様…一緒に天国で暮らしましょう…』
キュアアルカナ・シャドウ『マコトジュエルは…消えてしまうの…?』
キュアエクレール『こんな
炎の中で散っていった彼女たちの凄絶な最期と、絶望の叫び。
そう、地球は一度、確かに滅亡したのだ。
あんなは震える拳を強く握りしめ、冷たい潮風が吹き抜ける港を見つめながら、静かに呟いた。
あんな「やっぱり……予言が終わってしまうと、世界は終わってしまう……」
100年前の予言という線路が存在するからこそ、惨劇という重い代償(RPや犠牲)を支払うことで、世界はかろうじて次の瞬間へと繋ぎ止められている。予言というシナリオの終着点は、すなわち世界の完全なる終焉を意味していた。
8月24日の脱線事故、そして8月31日に迫る観星町の壊滅。
運命の針が刻一刻と8つ目の予言へと近づく中、あんなは世界の残酷な構造と、そこに刻まれた絶望の深さを改めて噛み締めるのだった。
あんなは臨海公園へと足を運んだ。
潮風が重く湿り気を帯び、茜色から紫紺へと移り変わる夕暮れの街。
世界の破滅と予言の冷酷なシステムに想いを馳せ、静かに佇んでいたあんなの前に、ゆっくりと近づいてくる一人の女性の影があった。
その姿を目にした瞬間、あんなの息が止まる。
紫色をベースに、真ん中へ一筋の鮮烈な青いラインが差し込まれた、極めて異質な髪色のツインテール。どこか見覚えのあるシルエット——それは、かつて共に戦い、太陽フレアの激しい焔の中に消えた「キュアキュンキュン」と、その本来の姿である「紫雨こころ」が奇妙に融合したかのような、不可思議な存在感を放っていた。
身にまとっているのは、どこか飾らない紫色のシンプルなジャージ。
しかし、その瞳に宿る静謐で深い光は、ただの通行人のそれとは明らかに異なっていた。
あんな「あなたは……こころ……?」
掠れた声で問いかけるあんなに対し、その女性は静かに首を横に振り、どこか懐かしむような、それでいて切ない微笑みを浮かべた。
アン「いいえ……今の私の名前は紫雨アン。11月23日生まれの26歳……今のこの世界での、私の新しい名前です」
あんな「アン……? 26歳って……じゃあ、あなたは……!」
アン「はい。あの1999年……太陽フレアがすべてを焼き尽くし、地球が一度滅んだあの瞬間、絶望の中で散っていった『キュアキュンキュン』……紫雨こころが、2000年に転生した姿です」
衝撃に目を見張るあんなに向かって、アンは自分の髪にそっと手を触れながら、穏やかな、けれど力強い声で言葉を続けた。
アン「……私が『こころさん』だったときの記憶は、今も私の中にそのまま残っているんです。あの時の熱さも、恐怖も、そして最後に感じた『戦うアイドルなんておかしかった』という悲しい後悔も……すべて、鮮明に覚えています」
あんな「記憶が……残っている……? 転生してもなお、あの破滅の記憶を抱えたまま、この2026年の世界に生きているというの……!?」
一度完全に滅亡し、予言の代償という歪んだシステムによって繋ぎ止められているこの世界。
その歪みの渦中で、消滅したはずの過去の記憶を宿したまま現れた紫雨アンという存在。
ふたりの視線が交差するマコトミライタウンの港辺に、運命の複雑な歯車が再び軋みを上げて動き出すような、静かな緊張感が満ちていくのだった。
アンの言葉に息をのむあんなの目の前で、アンはそっとポケットから古びた記憶の断片を繰り出すように、静かに語り始めた。
アン「1999年に地球が滅亡したとき……あの壊滅的な運命の中には、ひとつ大きな見落とし……いいえ、システムが示していた『抜け道』があったんです」
あんな「見落とし……? 100年前の予言に記されていた、あの暗号のこと……?」
アン「はい。予言に刻まれていた文字列『19990909EE-12』。私たちは当時、それをただの絶望的な破滅の識別コードだと恐れていました。……けれど、本当の意味は違っていたんです」
アンの紫と青が混ざり合う瞳が、夕闇に輝く海を見つめる。
アン「『EE』の後に続く『-12』の数字……。それは、地球が太陽フレアに包まれ一度滅亡を迎えたとしても、システム上の例外として『12人だけは転生、もしくは奇跡的に生還することができる』という救済のコードを示していたんです」
あんな「12人が……転生、あるいは生還できるコード……!? だから、あなたが2000年に『紫雨アン』として記憶を持ったまま転生できたというの……!?」
アン「はい。私を含めた12の魂だけは、あの破滅の渦中から世界の裏側のプログラムによって掬い上げられた……。一度滅んだ世界がこうして2026年まで繋ぎ止められているのも、その12人の存在と、刻々と消化されていく予言のシステムが関係しているんです」
あんなは呆然と佇んだ。
100年前から仕組まれていた冷酷極まる世界の代償と、暗号に秘められていた12人の転生者・生還者という歪んだ希望。
8月24日の特急ときあ脱線事故、そして8月31日の観星町壊滅という8つ目の予言を前に、かつての破滅を知る転生者・紫雨アンの出現が、世界の運命に更なる大きな波紋を広げようとしていた。
2026年8月17日・夜、観星町・星奈家。
あんなとの衝撃的な再会を果たした後、紫雨アンは静かな足取りで観星町にある星奈家へと向かっていた。
8月24日に迫る「特急ときあ脱線事故」、そして8月31日に観星町を襲う「750hPaのスーパー台風」。スパコンの予測すら覆せず、交通機関への必死のダイヤ改正要請すら突っぱねられ、逃れられない破滅のシステムを前に絶望が立ち込める星奈家。
重く沈んだ空気のなか、星奈家の玄関のインターホンが静かに鳴り響いた。
ひかる「はーい……」
心身ともに疲弊しきった様子で、星奈ひかるが玄関のドアを開ける。しかし、そこに立っていた人物の姿を目にした瞬間、ひかるは息をのみ、言葉を失ってその場に凍りついた。
ひかる「え……っ!? あな……た……は……!?」
そこにいたのは、紫色をベースに鮮烈な青のラインが走る異様な髪色のツインテール、そして独特な紫色のジャージを身にまとった女性だった。
その立ち姿、醸し出す雰囲気は、かつて共に戦い、そして1999年の絶望的な太陽フレアの中で消えていったはずの「キュアキュンキュン」こと紫雨こころの面影を強く残していた。しかし、成長したその容姿と漂う雰囲気は、かつての記憶にある「こころ」とはどこか異なっている。
ひかる「こころ……ちゃん……? うそ……だって、こころちゃんはあの時……っ! それに、その髪色と……服は……!?」
あまりの出来事に頭が追いつかず、ひかるの瞳が激しく揺れ動く。
アン「……お久しぶりです、ひかるさん。驚かせてしまってすみません」
アンはどこか懐かしそうに、けれど切なく微笑みながら、静かに、しかし一言一言を噛み締めるように語り始めた。
アン「今の私の名前は紫雨アン。1999年のあの太陽フレアで一度命を落とし……2000年に転生して、今26歳になりました」
ひかる「転生……!? 26歳……!?」
アン「はい。予言にあった『19990909EE-12』……あの暗号に示された『-12』の例外として、私は『こころさん』だった頃の記憶を残したまま、この世界に生まれ変わったんです」
信じがたい言葉の数々に、ひかるは叫び出すこともできず、ただ目を見開いてアンを見つめ続ける。
JT関東に拒絶され、予言と冷酷なシステムの前に八方塞がりとなり、仲間たちとともに深い絶望の底に沈んでいた星奈家。そこへ現れた「一度滅びた世界の記憶を持つ転生者」紫雨アンの存在が、刻一刻と迫る最後の惨劇のタイムラインに、大きな波紋と新たな運命の予感をもたらそうとしていた。
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