N3x7 d15a5732   作:vic.

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第25話「特急大爆破」

観星町・星奈家(2026年8月22日)

 

8月24日の特急ときあ脱線事故まで、あとわずか2日。

 

カレンダーの日付が刻一刻と迫る中、星奈ひかるの娘である星奈あかりと、羽衣ララの娘である羽衣ミクは、リビングのテレビに映し出されるニュース画面の前で、身を寄せるようにして震えていた。

 

画面に映っているのは、運行取りやめを訴える人々の悲痛な声と、それを無機質に突っぱね続ける交通機関のニュース。そして、刻限に向けて一歩ずつ確実に進んでいく絶望のカウントダウンだった。

 

あかり「……ねぇ、ミクちゃん。本当にもうあと2日だよ……? あかりお姉ちゃんたち……本当にあの電車に乗っちゃうのかな……っ!?」

 

あかりの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。100年前の予言がこれまですべて現実になってきた恐怖が、幼い胸を押し潰そうとしていた。

 

ミク「オヨ… 嫌だルン、絶対に嫌だルン……! 街の人も『ときあ15号』の事故も、スパコンの台風の予測も……全部本当になっちゃうなんて……っ!!」

 

ミクもまた、母譲りの口癖を震わせながら、あかりの手を握りしめた。

 

どんなに叫んでも変えられない冷酷なシステムの歯車と、すぐそこまで迫った8月24日という運命の日。

 

絶望と恐怖に打ちひしがれる二人の幼い叫びが、重く沈み込む星奈家に虚しく響き渡るのだった。

 

2026年8月24日、ときあ15号・停車駅。

 

ついに、運命の日が訪れた。

 

発車ベルの無機質な音が、重くホームに響き渡っていた。

 

大空あかり、新条ひなき、氷川スミレの3人は、ホームの改札口で駅員に向かって必死に訴えかけていた。

 

あかり「お願いします、キャンセルしたいんです! この電車に乗っちゃダメなんです……っ!」

 

駅員「お客様、困ります。指定席の購入手続きは完了しておりますし、発車時刻です。他のお客様のご迷惑になりますので、速やかにご乗車ください」

 

システムの不可逆な強制力に抗うすべもなく、3人は押されるようにして「特急ときあ15号」の車内へと足を踏み入れさせられてしまう。重いドアがプシューと音を立てて閉まり、列車は静かに滑り出した。

 

ときあ15号・次回停車駅のホーム。

 

惨劇を食い止めるため、次の停車駅のホームには、息を切らせた白樺リサ、そして『Trio Reborn』の咲良リサ、蒼風アミ、紫雨アン、さらに星奈ひかる、羽衣ララが駆けつけていた。

 

ホームに滑り込んでくる「ときあ15号」の蒼い車体。

その姿を目にした瞬間、ひかるはホームの端へ駆け出し、喉が張り裂けんばかりの声で叫んだ。

 

ひかる「皆さん!! 今すぐ逃げてください!! さもないと、みんな死んじゃいます!!!」

 

ララ「逃げるんだルン!! この電車から今すぐ降りてルンーっ!!」

 

白樺リサ「乗っている人たち、お願いだから逃げて!!」

 

ホームに居合わせた乗客や駅員たちが、突然の悲鳴と叫び声に驚き、不審な目を向ける。しかし、ひかるたちの瞳にあるのは冷や汗と、なりふり構っていられない本気の切迫感だった。

 

アン「100年前の予言は本当です……! この先の線路で事故が起きる……! 命を守るために、降りてください……っ!」

 

アミ「お願いです……! 過去の惨劇を繰り返さないで……!」

 

咲良リサ「聞こえて!! 私たちの声!! 今すぐ逃げてーーーっ!!!」

 

咲良リサの叫びは、まるで『D Ξ S I Γ Ξ』の旋律のようにホーム全体へ響き渡る。

 

迫り来る8月24日の悲劇の刻限。

ホームに届く列車と、システムが描いた死のレールを打ち破ろうとする彼女たちの必死の叫びが、真夏のホームで激しく交錯するのだった。

ジリリリリ……!!

 

甲高い発車ベルが鳴りやむと同時だった。

 

「——え?」

 

ホームにいた乗客の一人が、足元から伝わる不穏な重低音に首をかしげた。

直後、ガガガガガッ!!と激しい金属擦過音がホーム全体を揺るがす。

 

「ひ……避難して!! 階段へ!!!」

 

アンの鋭い叫びが飛び交う。

路線切り替えポイントの突如たる機械不具合——。

急ブレーキをかけた『特急ときあ15号』の巨体が、蛇行するように大きく体勢を崩した。

 

キーーーーーッ!!!

 

耳を裂くような金属性の悲鳴とともに、猛烈な火花と黒煙を散らしながら、数千トンの鉄の塊が脱線。逃げ場のないホームへとそのまま猛烈な勢いで突っ込んできた。

 

「嘘だろ……っ!?」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

さっきまで失笑していた乗客たちの顔から一瞬で血の気が引き、静寂は一転して凄惨な叫びと悲鳴の渦へと変貌した。

 

「みんな、上へ!! 急いで!!!」

 

アン、リサ、アミ、そしてひかるとララは、迫り来る鉄の暴力から逃れるため、一瞬の判断で階段に向かって全力で駆け上がった。

 

しかし、惨劇は容赦なく牙をむく。

 

逃げ遅れた乗客たちが、倒れ込んできた車両の質量に飲み込まれ、吹き荒れる衝撃波と破壊されたホームの破片によって吹き飛ばされていく。先ほどまで「映画の見過ぎだ」と笑っていた人々の日常は、惨烈な破壊音とともに一瞬で破砕された。

 

「オヨ〜〜〜〜っっっ!!!」

 

階段の踊り場まで駆け上がり、間一髪で激突の直撃を免れたララが、眼下で繰り広げられる惨状に頭を抱えて悲痛な叫びを上げる。

 

火花と白煙が立ち込める薄暗いホーム。

ひかるは階段の手すりを握りしめたまま、震える足で立ち尽くし、目の前で起きてしまった現実の残酷さに息を飲んでいた。

 

100年前の予言通りに引き起こされた、惨惨たる脱線事故。

車内に残されたあかりたちの安否、そして容赦なく刻まれていく「世界のシステム」の恐怖が、生き残った彼女たちの心に深く重い影を落とすのだった。

 

2026年8月24日・夕方、桜町・春野家のリビング。

 

脱線事故の悲劇から数時間後。

 

奇跡的に大空あかり、新条ひなき、氷川スミレの3人は軽傷で済み、病院へと搬送された。しかし、大惨事となった事故の全貌は、刻刻とテレビのニュース番組で明かされていく。

 

画面の右上に踊る「特急ときあ15号 脱線事故」の痛々しい文字。

アナウンサーの重々しい声が、静まり返った部屋の中に響き渡る。

 

『……本日午前に発生した特急ときあ15号の脱線事故におきまして、警察および消防の発表によりますと、確認された死者の数は254人に達しました……』

 

予言に刻まれていた数字と、寸分違わぬ「254人」という死者数。

システムの冷酷なまでの正確さが、悲惨な映像とともに全国へ向けて報道されていた。

 

引っ越してきたばかりの桜町の自宅で、そのニュース画面をじっと見つめていた春野はるかは、膝の上で握りしめた拳を震わせた。

 

はるか「そんな……あかりちゃんたちが助かったのはよかったけど……254人だなんて……っ」

 

100年前の予言通りに引き起こされていく惨劇。あおぞら中学の爆発、北陸の大震災、そして今日の列車事故。どんなに叫んでも、どんなに必死に抗おうとしても、世界は刻まれた予言の通りに傷ついていく。

 

そして、今月末の8月31日に迫る、観星町の壊滅。

 

はるかは溢れ出そうになる涙をぐっとこらえ、窓の外の夕焼け空を見上げながら、ポツリと呟いた。

 

はるか「予言を変えるなんてこと……本当に、できないのかな……?」

 

その問いかけは、あまりにも巨大で冷酷な世界のシステムに対し、絶望の淵から投げかけられた悲痛な心の叫びだった。

 

2026年8月29日、観星町・星奈家。

 

特急ときあ15号の惨劇から5日後。

 

残されたタイムラインの終着点である8月31日が目前に迫る中、ついに全国のテレビやスマートフォンが一斉に緊急事態を告げる特別報道番組へと切り替わった。

 

画面には「超大型台風、観星町へ接近」「過去例のない気圧低下」という不吉な文字が並び、気象庁の会見映像が無機質に流れる。

 

『……台風は異例の発達を遂げながら北上を続けており、中心気圧は750hPaに達する見込みです。気象庁は観星町および周辺地域に対し、命を守るための最大級の警戒を呼びかけています……』

 

スパコンの予測通り、そして100年前の予言通りに牙をむく圧倒的な自然の猛威。

画面に映し出されるリアルタイムの雲の画像は、逃れられない破滅のシナリオが「現実」としてこの世界を侵食し始めていることを残酷に物語っていた。

 

星奈家のリビングで、ひかるは静まり返る画面を見つめたまま、言葉を失って立ち尽くす。

 

ひかる「本当に……本当に来ちゃうんだ……。観星町が壊滅する日が……っ」

 

隣に立つアン、そして駆けつけていたララやミクもまた、刻一刻と迫る8月31日の刻限と、世界の冷酷なシステムがもたらす圧倒的な圧迫感に息をのむ。

 

1999年の破滅を経験した『Trio Reborn』の想い、傷つきながらも生き残ったあかりたちの願い、そしてソラやはるかたちの悲痛な叫び——。

すべての想いを飲み込もうとするかのように、観星町の空はどす黒い暗雲に覆われ始め、運命の8月31日に向かって静かにカウントダウンを進めていくのだった。

しかし、無情にもそのカウントダウンはあっという間に過ぎ…

2026年8月30日・夜、観星町・星奈家。

 

外はすでに激しい暴風雨が吹き荒れ、強風が窓ガラスを激しく叩きつけていた。

 

テレビの画面には「観星町全域に特別警報」「ただちに安全な場所へ避難を」という赤く点滅するテロップが映し出され続けている。気圧計の針は見たこともない速度で下降を続け、大気が重く歪んでいくかのような圧迫感が町全体を包み込んでいた。

 

ひかる「明日……明日になっちゃう……っ」

 

時計の針が深夜12時へ向かって刻一刻と進むのを、ひかるは息を殺して見つめていた。

 

あおぞら中学の爆発、北陸の大震災、8月24日の脱線事故……。100年前の予言は、これまで何ひとつ外れることなく現実に惨劇を引き起こしてきた。そして今、最後の予言である「8月31日・観星町壊滅」の瞬間が、目前まで迫っている。

 

隣でスマートフォンを握りしめるアンが、静かに、けれど強く口を開いた。

 

アン「1999年に一度世界が滅んだときも、空はこんな風に重く沈んでいました。……だけど、私たちはここにいます。12人の魂が生き残ったように、どんなに冷酷なシステムが絶望を押し付けてきても、人の心まで消し去ることはできないはずです」

 

ララ「アンちゃん……っ」

 

ミク「オヨ……! 怖いルン……やっぱりすごく怖いルン……! でも、逃げないルン……っ!」

 

ミクは泣きじゃくりながらも、母・ララの服の裾を強く握りしめた。

 

虹ヶ丘邸でましろに縋りながら祈るソラ。

桜町の自宅で祈るように空を見上げる春野はるか。

柏の根キャンパスでひかるの無事を祈る、星ノ川はるか。

病院のベッドで互いの無事を確かめ合うあかり、ひなき、スミレ。

そして、この暗闇の中で自身の歌と言葉を紡ぎ続ける咲良リサと蒼風アミ。

 

運命の8月31日を迎える直前、絶望の嵐が吹き荒れる観星町で、それぞれの想いがひとつに交錯しようとしている。

果たして、彼らは生き延びることはできるのだろうか?

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