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観星町・高台(2026年8月31日)
叩きつけるような凄まじい豪雨と、耳を聾する雷鳴が観星町を包み込んでいた。
中心気圧750hPaという規格外のスーパー台風がもたらした暴風雨は、瞬く間に街の川を氾濫させ、激しい濁流となって住宅街を飲み込んでいく。高台へと避難したひかるたちの眼前で、かつて穏やかだった観星町の街並みが、水と落雷の暴威によって無情にも崩壊していった。
ひかる「そんな……観星町が……! みんな……!!」
手すりを強く握りしめるひかるの目から、溢れ出る涙が雨とともに頬を伝い落ちる。
ララ「オヨ〜〜〜っ……! 嫌だルン……こんなのってないルン……っ!!」
ミクを必死にかばいながら、ララもまた激しく肩を震わせて叫んだ。どんなに祈っても、どんなに抗おうとしても、予言のシステムが示した「観星町壊滅」の惨劇は、あまりにも残酷な現実となって目の前に広がっていた。
その傍らで、雨に濡れながら街を見つめる紫雨アン。
紫と青のツインテールが嵐に激しく揺れる中、彼女は溢れそうになる感情を抑え込むように、ぎゅっと胸元を握りしめた。
アン「100年前のあの日と同じ……冷酷な予言のシステムが、またしてもすべてを奪おうとしている……」
激しい雷光が暗雲を切り裂き、壊滅していく街を恐ろしいほど鮮明に照らし出す。
虹ヶ丘邸の高台からその光景を呆然と見つめるソラとましろ。
桜町で祈り続けていた春野はるか。
そして、この絶望の渦中で世界の傷痕を見つめる『Trio Reborn』の咲良リサと蒼風アミ。
100年の時を超えて張り巡らされた予言の果て。
暴風雨が吹き荒れる高台で、ひかるたちは容赦なく訪れた世界の壊滅という現実に、ただ打ちひしがれて立ち尽くす。
嵐の暴風雨が激しさを増す中、高台の周囲には雷鳴が響き渡り、逃げ惑う人々が危険な状況に晒されていた。
アン「みんな、身を低くして! 金属製品からは離れて!!」
屋外の避難場所も危険な状態となり、もはや安全な建物も残されていない絶望的な状況のなか、ひかるたちは押し寄せる恐怖に耐えながら、互いに手を取り合って必死に身を守ろうと小さくなる。
ミク「オヨ〜〜〜っ! 怖いルン……ララお母さん……っ!」
ララ「大丈夫ルン、ミク! 私が絶対に守るから……っ!」
暴風と激しい雷光が暗雲を切り裂き、壊滅していく街の姿を虚しく照らし出す。予言のシステムがもたらす容赦ない現実を前にしながらも、生き残った人々はただ奇跡を祈り、お互いの温もりを確かめ合うようにこの悪夢のような嵐が過ぎ去るのを耐え抜く。
ピカッ……ーーーーー!!!!!
轟音とともに、すぐ近くの地面へ目もくらむような落雷が突き刺さる。
「ひやぁぁぁぁぁっ!?」
あまりの衝撃と熱風に、ミクが悲鳴を上げてララにしがみついた。
金属から離れて身を低くしたところで、剥き出しの自然の威力を前には気休めでしかない。一歩間違えれば、その一撃で命が奪われる——死の危険が目と鼻の先で口を開けている。
アン「くっ……! このままじゃ全員巻き込まれる……!!」
アンは濡れたツインテールを振り乱しながら、必死に周囲を見回した。
高台の広場には避難できる建物などもう残っていない。だが、ただ雷の餌食になるのを待つわけにはいかなかった。
ひかる「みんな、諦めちゃダメ!! 低い姿勢のまま、少しでも崖や木から離れて、お互い離れすぎないように固まって!!」
ひかるは恐怖で震える声を振り絞り、必死に乗客や避難民たちに指示を出した。
「オヨ~っ……! 嫌だルン、誰も死んじゃダメだルン!!」
「お願い、耐えて……! 嵐が過ぎ去るまで、なんとか生き延びて……っ!!」
ララとミク、そしてアンは、激しい落雷と暴風雨が吹き荒れる極限状態の中、お互いの体を寄せ合い、奇跡を祈るように嵐の渦中で必死に耐え続けるのだった。
ゴォォォォォッ!!!!
突如、台風の暴風を遥かに超える、竜巻のような凶悪な突風が高台を襲った。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ミクーーーっ!!!」
足場を奪われたミク、そして高台に避難していた人々が、抵抗する間もなく次々と宙へ吹き飛ばされていく。その先にあるのは、濁濁と渦を巻く泥流の深淵。
「待って! 手を……手をつないでーーーっ!!」
ひかる、アン、ララは必死に手を伸ばした。しかし、猛烈な風圧と容赦ない距離が、その指先を無情にもすり抜けていく。届かない。あと数十センチ、あまりにも遠いその距離の向こうで、ミクたちの身体が濁流へと落ちていく。
アン「そんな……! 届かない……っ!?」
かつて1999年の破滅を経験したアンの顔が、恐怖と動揺で劇的に蒼白になる。目の前で再び、大切な命が奪われようとしている。世界の冷酷なシステムが、またしても目の前で絶望を再現しようとしていた。
その時——ひかるの瞳から、怯えの色が完全に消え去った。
ひかる「……アンちゃん。ララ……」
ひかるは静かに、けれど固い決意を込めて足を一歩、濁流の激流が待つ崖の端へと踏み出した。
アン「ひかるさん……!? まさか、何をするつもりですか……!? 駄目です、そんなの……っ!!」
アンの声が震える。目の前にあるのは、飲み込まれれば一瞬で命を落とす「地獄の濁流」だ。命綱も何もない状態で飛び込むなど、狂気の沙汰——まさに命を賭した、あまりにも無謀で危険すぎる最終手段だった。
ひかる「1人で行くよ。全員、私が絶対に引っ張り上げて連れ戻す!!」
ララ「ひかる……っ!? 危険すぎるルン! 死んじゃうルン!!」
ひかる「死なせない……誰も死なせたくない!! 100年前の予言なんかに、これ以上大切な人たちを奪わせてたまるかぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
叫びとともに、ひかるは泥流の渦巻く暗黒の谷底に向かって、躊躇することなくその身を躍らせた。
アン「ひかるさぁぁぁぁぁんっ!!!!」
雨と雷鳴が轟く絶望の暴風の中、アンの叫びが虚しく響き渡る。
たった一人で濁流へと飛び込んだひかるの姿が、怒涛の波間へと飲み込まれていった。
激しい濁流の渦巻く暗黒の谷底へ飛び込んだひかるは、猛烈な水圧に抗いながら、必死に手を伸ばした。
ひかる「ミクちゃん!! 手を!! 手を掴んでーーーっ!!」
濁流の激流の合間から、必死に差しのべられたミクの小さな手。指先がわずかに触れ合い、ひかるは全身の力を振り絞ってその腕を引き寄せようとする。
しかし、その瞬間——。
嵐の狂風を切り裂くように、あの冷酷な予言のシステムが刻み込んだ暗号の文字列が、ひかるの脳裏を支配した。
**『EE IN MIHOSHI TOWN』**
観星町に刻まれた、逃れられない最終的な壊滅のシステム。
100年前から定められていた絶対的なプログラムは、人間のかすかな抵抗や命懸けの願いなど、微塵も容赦はしなかった。
突如として発生した絶大な渦潮が、ひかるの手を強烈な力で引き剥がす。
「ひかるお姉ちゃん……っ!」
離れていく手。ミクの体が、容赦なく黒い濁流の深淵へと引きずり込まれていく。
流されていく渦の中で、ミクは高台で見守る母・ララの方をまっすぐに見つめ、最後の力を振り絞って優しく、切ない笑顔を浮かべた。
ミク「ララお母さん……今まで……ありがとうルン……」
それが、ミクの残した最後の言葉だった。
次の瞬間、猛烈な濁流の波がミクの小さな姿を完全に飲み込み、漆黒の水底へと消し去っていった。
高台の端でその光景を目撃したララは、膝から崩れ落ち、喉が引き裂かれんばかりの絶叫を夜空へと響かせた。
ララ「ミクーーーーーーーーっっっ!!!!!! 嫌だルン!! 嫌だルンぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
雨と雷鳴が吹き荒れる高台に、我が子を奪われたララの凄絶な泣き声が痛々しく響き渡る。
間一髪で岸にしがみつき、泥まみれになりながら這い上がったひかるは、自分の届かなかった拳を地面に叩きつけ、雨に打たれながら激しく慟哭した。
ひかる「なんで……どうして……! 助けられなかった……! 私が飛び込んだのに……ミクちゃんを……っ!!」
アンもまた、あまりにも残酷なシステムの前に言葉を失い、雨の中で固く唇を噛み締めながら、ただ涙を流すことしかできなかった。
『EE IN MIHOSHI TOWN』——。
観星町を襲った悲劇のシステムは、容赦のない牙をむき出しにしたまま、壊滅の夜を暗く冷たく支配し続けていた。
2026年8月31日・深夜、避難所の片隅。
嵐の音だけが不気味に響く避難所の体育館。身を寄せ合う人々のすすり泣きや不安な囁き声が渦巻く中、ひかるは膝を抱え、ただじっと床の一点を見つめていた。
濡れた服は冷たく肌に貼り付き、指先は凍えるように冷たい。だが、それ以上に彼女の胸を苛んでいたのは、激しい自責の念だった。
(私が……もっと早く飛び込んでいれば。私がもっと強く手を握っていれば……ミクちゃんを助けられたのかもしれない)
頭の中で、あの濁流の光景が何度も、何度も恐ろしいほどの鮮明さで再生される。
命懸けで飛び込んだはずだった。けれど、結果としてミクの小さな手はすり抜けてしまった。「今までありがとうルン」という最後の言葉が、耳から離れない。
「ひかる……」
隣で肩を震わせるララの悲痛な姿を見るたび、ひかるの胸に強い痛みが走る。
自分が助け出せなかったという事実が、重い責任となって彼女の心にのしかかっていた。
アン「ひかるさん……自分を責めないでください。あなたは命を懸けて手を伸ばしたんです」
静かに寄り添うアンの言葉さえも、今のひかるには届かない。
予言のシステムという冷酷な現実の前で、届かなかった自分の手。
絶望の夜が深まる中、ひかるは言葉を失ったまま、終わりのない暗闇の中へと心を引きずり込まれていくのだった。
2026年9月13日、柏の実キャンパス・星ノ川家。
観星町を襲った惨劇から14日が経過した。
あの日、町を呑み込んだ地獄のような濁流と暴風雨。そしてその後に続いた混迷と二次災害は、あまりにも甚大な被害をもたらしていた。
報道が伝える最新の被害状況——死亡者数、274,415人。
あまりにも常軌を逸した巨大な数字は、ただの記録ではなく、失われた27万以上の人生と、奪われた未来の重みそのものだった。その中には、ひかるの目の前で濁流へと消えていったミクの命も含まれている。
重い足取りで柏の実キャンパスにある星ノ川はるかの自宅を訪れたひかるは、どこか虚ろな瞳で静かにドアを叩いた。
出迎えた星ノ川はるかは、やつれきったひかるの姿を目にし、言葉を失う。
はるか「ひかるちゃん……よく、無事で……」
ひかる「……はるかちゃん」
絞り出すような声でそう呟いたひかるの肩が、激しく震え始める。部屋の中に通されると、彼女は抑えきれなくなった感情を吐き出すように、その場に膝をついた。
ひかる「27万人だよ……? 27万4千人以上の人が、たった14日の間に死んじゃったんだよ……っ! ミクちゃんも……私の目の前で……私が飛び込んだのに、助けられなかった……!」
床に溢れ落ちる大粒の涙。
100年前の予言、そして『EE IN MIHOSHI TOWN』という絶望的なシステムの介入によって刻まれた傷痕は、生き残った者たちの心に深すぎる影を落としていた。
はるかは静かにひかるの傍らに屈み込み、震えるその肩を力強く抱きしめた。
はるか「ひかるちゃんのせいじゃない……! ひかるちゃんは自分の命を懸けて、必死で手を伸ばしたじゃない……っ!」
「でも……!届かなかった……!」
ひかるの叫びが、静かな部屋の中に切なく響き渡る。
予言のシステムがもたらした圧倒的な破壊と、失われたあまりにも多くの命。
2026年9月13日。止まらない悲しみの渦中で、彼女たちは途方もない喪失感と向き合いながら、重く冷たい現実の中に佇んでいた。
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