N3x7 d15a5732   作:vic.

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第26話「4f732ma7h」

2026年9月13日・夕方、柏の実キャンパス・星ノ川家。

 

絶望と喪失感の冷たい闇が漂う部屋の中で、最愛の娘・ミクを失い、心も体もボロボロに傷ついていたララは、膝を抱えたまま静かに肩を震わせていた。

 

ララ「オヨ……オヨ……ミク……なんで私、お母さんなのに……守ってあげられなかったんだルン……」

 

自分を激しく責め苛み、暗闇の底へと沈み込んでいくララ。

その時、星ノ川はるかが静かに歩み寄り、ララの前に膝をついた。そして、優しく包み込むようにララの手を温かい両手で握りしめた。

 

はるか「ララちゃん……自分を責めないで。ミクちゃんが最期に残した『今までありがとう』っていう言葉……あれはね、恨みなんかじゃないよ。ララちゃんのおかげで、ミクちゃんが今までどれだけ幸せだったか、どれだけお母さんのことが大好きだったか……そのあふれる感謝の気持ちだったんだよ」

 

ララ「はるか……っ」

 

はるか「ミクちゃんは、ララちゃんが自分を責めて泣き続けるのを絶対望んでない。ララちゃんがミクちゃんにあげたたくさんの愛は、あの濁流なんかじゃ絶対に消せない大切な宝物なんだよ」

 

はるかの温かい眼差しと、偽りのない真心から溢れ出た言葉。

それが、冷え切っていたララの心に小さな灯火のようにじんわりと染み渡っていく。

 

ミクが最期に見せたあの愛おしい笑顔。そして「ありがとう」という言葉の意味。

それは遺言などではなく、母へ贈られた最高の大切な感謝の想いだったのだと、ララは初めて気づかされた。

 

ララ「ミク……ミクは、私に『ありがとう』って……言ってくれたんだルンね……っ」

 

はるか「そうだよ。だからね、泣いてもいい……でも、どうか自分を責めないで」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!」

 

ララは溢れ出す涙を止めようともせず、はるかの胸に飛び込んで声を上げて泣いた。

それは絶望の叫びではなく、我が子への愛と感謝を受け止め、前を向こうとする涙だった。

 

ひかるもまた、はるかに抱きしめられるララの姿を見つめながら、静かに涙をぬぐう。

 

100年前の予言という巨大な絶望と27万人の犠牲者という悲劇は変えられなかったかもしれない。

けれど、残された人々が互いに寄り添い、傷つきながらも心を救い合っていく温かい絆まで、冷酷な世界のシステムが奪い去ることは決してできないのだった。

 

2026年10月、渋谷・宮下公園周辺。

 

観星町を襲った惨劇と、全国を揺るがした一連の悲劇からひと月余り。

猛烈な台風と嵐の爪痕が各地に残る中、都心・渋谷の街には、少しずつだが確実に日常を取り戻そうとする人々の足音が戻りつつあった。

 

工事現場の機械音と建設用足場の金属音が響き渡るスクランブル交差点。巨大な街頭ビジョンには、震災や台風被害からの復興を支援する企業のメッセージや、ボランティア活動のニュースが映し出されている。

 

壊れた街並みを整備し、傷ついたインフラを建て直す人々の姿——それは、冷酷な予言のシステムや未曾有の災厄によってどれほど打ちのめされようとも、立ち上がり続ける人類のしぶとい生命力そのものだった。

 

渋谷駅前広場。

 

復興の活気が戻りつつある広場の片隅に、ひとつの特設ステージが組まれていた。

通りかかる人々が足を止め、スマートフォンを掲げ、あるいは固唾をのんでそのステージを見つめている。

 

マイクの前に立っていたのは、青と紫の髪を風になびかせる**蒼風アミ**、そして研ぎ澄まされた存在感を放つ**咲良リサ**。

 

アミ「……予言は、あまりにも多くのものを奪っていきました。失われた命、破滅した街、そして残された私たちの胸に刻まれた、消えることのない深い傷痕……」

 

アミの静かな声が、アンプを通して渋谷の空へと広がっていく。

 

アミ「けれど、どれほど冷たいシステムが絶望を押し付けてこようと、私たちが誰かを想い、互いの手を握りしめた記憶まで消し去ることはできません。残された私たちは、生きていかなければならない。失われた魂の分まで……この温かい心を持って」

 

アミが静かに一礼し、一歩後ろへ下がる。

代わってマイクの真前に立った咲良リサが、重低音のトラックとともに、魂を揺さぶるような第一声を解き放った。

 

> 壊れた街の静寂を切り裂いて

> 消えない傷痕を 抱きしめたまま歩き出す

> 奪われた未来のその先へ——

 

新曲『D Ξ S I Γ Ξ』の旋律が、復興が進む渋谷の街頭に力強く響き渡る。

かつて絶望の焔の中で散り、2000年に新たな命を得て蘇った『Trio Reborn』の歌声。それは、悲劇を乗り越えた者たちへの鎮魂歌であり、同時に、未来へ生き進む人々への圧倒的なエールだった。

 

渋谷・ビル群を見渡すデッキ

 

ステージから少し離れた高台のデッキには、星ノ川はるかに付き添われ、少しずつ前を向き始めたララと、ひかるの姿があった。

 

ビル風の中に響くリサの歌声を聴きながら、ララは胸元にそっと手を当てる。

 

ララ「ミク……聴こえるルン? 渋谷の街は、みんな一生懸命生きているルン。私も……はるかやひかるたちと一緒に、明日へ歩いていくルン……」

 

隣に立つひかるもまた、自分の手のひらを見つめ、固く握りしめた。

 

ひかる「届かなかった手……救えなかった命の重さは、一生忘れない。でも、もう逃げない。この足で立って、残されたみんなの未来を守っていく……!」

 

はるかが二人の背中に優しく手を添え、微笑みかける。

 

はるか「うん。どんなに予言が残酷でも……私たちは、絶対に絶望だけに負けたりしないよ」

 

街頭ビジョンからは、全国各地で始まった復興のニュースが流れ続けている。

100年前の予言によって深く傷つけられた世界。だが、壊滅した観星町を越えて、傷ついた人々が支え合い、紡ぎ出す絆の光は、秋の澄んだ空の下、渋谷の街から全国へと静かに、力強く広がっていくのだった。

 

新宿クロスビジョン前、2026年秋・復興が進む街並み。

 

大惨事から時間が経ち、悲しみと傷痕を抱えながらも、巨大な都市・新宿は少しずつ再生への道を歩み始めていた。街の随所には工事用の足場やブルーシートが残っているものの、人々の行き交う活気と、未来へ向かおうとする威勢が徐々に戻りつつある。

 

その喧騒から一段高くなった宮下公園のデッキに、一人の少女が佇んでいた。

 

アーティスト『1!54 54KU24』こと、咲良リサ。

 

彼女の姿は、かつて世界を照らした「キュアアイドル」の神聖なる面影と、内に眠る「咲良うた」としての素朴で温かい魂が、奇跡的なバランスで融合したかのような神秘的なオーラを纏っていた。

 

秋の穏やかな風に揺れるのは、煌めく金髪をベースとした美しいロングヘア。頭頂部の後ろでは、まるで可憐なリボンのように自分の髪が優雅に結ばれている。そして、腰まで伸びたその長い毛先に向かって、鮮やかで優しいピンク色へと美しいグラデーションを描いていた。

 

その髪色は、絶望の暗闇を切り裂く希望の光であり、同時に傷ついた人々の心に寄り添う春の桜のようでもあった。

 

「……街が、動いてる」

 

リサは、復興に向かって歩みを進める渋谷の街並みを静かに見下ろした。

 

彼女の耳には、今もなお『D Ξ S I Γ Ξ』の旋律と、あの日途絶えてしまった多くの命の記憶が残っている。27万人を超える犠牲者という途方もない悲劇、そして大切な家族を失ったララたちの涙。冷酷な予言のシステムは、世界に消えない悲しみを刻みつけた。

 

けれど——。

 

「どんなに強い絶望が世界を覆っても、人が誰かを想う気持ちや、明日へ向かおうとする歌声まで消すことはできない」

 

リサは胸元にそっと手を当て、固く誓うように瞳を輝かせた。

 

彼女の中に息づく「キュアアイドル」の輝きと、「咲良うた」の溢れんばかりの愛。その2つの想いがひとつになった今の彼女なら、ただ悲劇を悼むだけでなく、残された人々の心を照らし、未来へと導く歌を届けられるはずだった。

 

同じ頃、柏の実キャンパスの星ノ川家で心を救われたララ、そして彼女を支えるひかるやはるかたちもまた、それぞれの一歩を踏み出し始めていた。

 

『Trio Reborn』の歌姫として、そして再生の象徴として。

咲良リサの美しく優美な髪が秋風にはためき、新たな希望の物語を紡ぐかのように、渋谷の空へ向かってどこまでも澄み渡る歌声を静かに響かせ始めるのだった。

 

都内・病院の一室〜退院後の控室

 

特急ときあ15号の凄惨な脱線事故から数週間。

奇跡的に命を取り留め、集中治療とリハビリを重ねていた「ルミナス」の大空あかり、新条ひなき、氷川スミレの3人は、ついに無事退院の日を迎えていた。

 

手荷物をまとめ、長かった入院生活に別れを告げる室内。窓から差し込む秋の柔らかな光が、少し痩せたものの元気を取り戻した彼女たちの表情を優しく照らしている。

 

あかり「みんな、本当に無事でよかった……。一時はどうなるかと思ったけれど、またこうして3人で歩き出せるんだね」

 

ひなき「うんっ! ひかるさんやリサたち、みんなが必死で叫んでくれたからこそ繋がった命だもん。無駄にはできないよ!」

 

スミレ「ええ。観星町の悲劇や、失われたたくさんの命の悲しみは消えないけれど……私たちは私たちができることで、誰かを笑顔にしていかなきゃね」

 

安堵の笑みを浮かべ、それぞれのバッグを抱えて病室のドアを開ける3人。

未来への希望を胸に、彼女たちは静かにその部屋を後にしていった。

 

——誰もいなくなった、静まり返る部屋。

 

3人が先ほどまで荷物を置いていた木製のテーブルの上に、一枚の白い紙がひっそりと残されていた。

 

あかりたちルミナスはその存在に一切気づくことなく立ち去ってしまったが、秋風にパタパタと揺れるその紙面には、不気味で無機質な文字列が不吉な暗号のように刻み込まれていた。

 

『N3x7 D1545732 D035n’7 3nd』

Next Disaster Doesn't End —— 次なる惨劇は、終わらない

 

100年前の予言がもたらした27万人以上の犠牲、観星町の壊滅、そして1999年から続く転生者たちの残酷な運命。すべてが幕を閉じたかのように思われたその裏で、世界の歪んだシステムはまだ牙を収めてはいなかった。

 

解読されることを待つ暗号は、さらなる絶望の始まりを告げるように、誰もいない室内で静かに冷たい存在感を放ち続けている。

 

『N3x7 D15a5732』 シーズン1 —— 完

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