いちご坂へと続く国道155号。立ち並ぶコーンと誘導灯の前で、道路は工事のために完全に遮断されていた。
重苦しく垂れ込めた雲の下、キラパティで働く6人——宇佐美いちか、有栖川ひまり、立神あおい、琴爪ゆかり、剣城あきら、キラ星シエル——そして、一刻も早くあかりとえいきの元へ向かいたい星奈ひかるが、レインコートを着用して焦りの色を隠せないまま作業員に詰め寄っていた。
ひかる「お願いです、ここを通してください! 双子の子どもたちが学校にいるんです!」
工事作業員「いやあ、お気持ちは分かりますけど、ここから先は安全上の都合で全面通行止めなんですよ。迂回路を使ってください」
ひかる「時間がないんです! あの、実は……今日、ここに飛行機が墜落するって聞いたんです! だから一刻も早く通らないと!」
命がけの面持ちで訴えるひかるの言葉に、作業員は拍子抜けしたように目を見開き、やがて苦笑いを浮かべた。
工事作業員「……はい? 飛行機が墜落……? 急いでいるのは分かりますけど、それ、ただの冗談ですよね? フフッ、流石にそんなマンガみたいな話……」
作業員がそこまで言いかけた、その瞬間だった。
空を切り裂くような、聞いたこともない不気味な重低音が頭上から覆いかぶさってきた。見上げると、猛烈な大雨と突風が吹き荒れる視界の悪さの中、一機の大型旅客機が激しく機体を傾けながら低い空を滑空してくるのが見えた。
黒煙を吹き出し、バランスを大きく崩した巨大な鉄の塊。電線を今にも突き破らんばかりの恐ろしい高度で落ちてくる。
いちか「嘘……嘘でしょ……!? 本当に……!?」
ひまり「ひ、飛行機が……落ちてきます……っ!?」
機体が沿道の構造物や木々に激しく接触し、耳を刺すような凄まじい摩擦音が響き渡る。火花が飛び散った次の瞬間、一気に激しい炎が上がった。
ズザーッという絶望的な破壊音とともに地面を削り取りながら滑走した機体は、国道から少し離れた空き地へと突っ込み——激しい閃光とともに、耳をツンとつんざく大爆発を起こした。
ドォォォォンッ!!!!!
天を突くほどの炎の柱が立ち上がり、周囲の空気が一瞬にして爆ぜる。
幸運にも、工事現場の手前にいたひかるやキラパティの6人に直接の衝撃波や破片が当たることはなく、全員怪我一つなく無事だった。
しかし、爆破の衝撃によって生まれた猛烈な熱風と突風が、立ち尽くす彼女たちの身体を容赦なく吹き抜けていく。
あおい「くっ……! なんて風だ……っ!」
ゆかり「みなさん、姿勢を低くして!」
あきら「ひかるさん、大丈夫かい!?」
シエル「あんな……あんなのって……!」
あおりを受けた道路上の車内からは、混乱とパニックに陥ったドライバーたちの悲鳴や怒号が次々と飛び交った。
男性ドライバー「おい、信じられねえ! 誰か嘘だと言ってくれ!!」
トラック運転手「マジかよ、後ろに車をバックしてたら危ねえとこだった!」
近所の住民「さすがにあれは驚くわ……! なんなんだよ一体!」
女性ドライバー「嘘……私、何を見たの……!?」
目の前で起きたあまりにも非現実的で惨烈な光景に、周りの人々は恐怖と驚愕を隠せない。
ひかるは激しい突風の中で目を開けようと必死に耐えながら、爆炎が上がる方向を蒼白な顔で見つめていた。100年前の予言、そしてあの数字列——それらがすべて本当であったことを証明するかのような悪夢が、今まさに現実となって眼前に広がっていた。
ひかるは、意を決したように、遠くで爆発した飛行機へ駆け付ける。しかし、無情にも飛行機は爆発を繰り返している。
ひかるはある程度の距離走ると、炎に包まれて——
生徒A「嫌だぁぁぁぁ!!!誰か!!助けて!!燃え尽きて死ぬなんて嫌だよ!!」
と悲鳴を上げているサンクルミエール学園の生徒とすれ違った。ひかるはすかさず
ひかる「そこの君、待って!!お願い!!」
と叫んだが、今更パニックに陥っている生徒には届かなかった。おそらく、サンクルミエール学園の生徒たちは修学旅行からの帰り、もしくは行きだったのだろう。
周囲には焦げた金属の臭いと熱気が立ち込め、まるで炎の海と化した地獄絵図のような惨状が広がっていた。
そして、そこには猛火の渦中や爆発に巻き込まれたためか、すでに物言わぬ死体となってしまった生徒たちもいた…。
さらに飛行機に近づくと、残骸の周囲には無数のスーツケースが散乱しているのが見えてくる。
その直後、また爆発が起こり、この火の海と爆炎の地獄から脱出せんと14人もの命を吹き飛ばし無情にも奪って行く。そして、6人が爆発に巻き込まれ炎に包まれていってしまう…。
1人でも多くの命を助けんと奔走するひかるは、もう1人助けを求める生徒に出会す。
生徒B「お願い!!助けて!!私を見捨てないで!!」
ひかる「大丈夫、大丈夫!誰かが必ず助けてくれるかr——」
と言いかけた途端、また爆発が起きた!
その生徒は、また爆発が起きると、理性を失ったように悲鳴を上げながら逃げていった。
近くにあった飛行機の残骸には、心肺停止で倒れている生徒も見られた。
ひかるはその生徒を引きずり出し、心肺を蘇生せんと心臓マッサージを始める。
ひかる「いち、に、さん、し!…いち、に、さん、し…!」
——と、ひかるが心配している途中、消防団が駆けつけて、ひかるを…
消防士「そこのあなた、離れてください!」
と、引き離して、代わりに心配蘇生を行った。
ひかるはそれを、ただ呆然と見つめるしかなかった…。
事故発生から四時間後。
雨が上がり始めた渋谷のスクランブル交差点では、大型ビジョンに映し出された緊急報道特報に、街を行き交う人々が足を止めて見入っていた。
画面下部には、太く赤色のテロップが流れている。
『【ネットで噂が】いちご坂で事故 いまだ救助活動続く』
画面の中のニュースキャスターが切迫した面持ちで原稿を読み上げる中、スタジオの専門解説者が神妙な面持ちで口を開いた。
解説者「……現場では依然として懸命な救助活動が続けられています。しかし今、SNS上ではある不可解な情報が急速に拡散しているのです。この事故が、100年前に発見された謎の紙に書かれた数列と深い関わりがあると、ネットで奇妙な噂が立ち始めています。さらには、その紙の中に事故現場の緯度や経度まで詳細に記載されていたという驚きの事実も発覚しているようです」
街頭ビジョンを見上げる若者たちの間に、ざわめきと動揺が広がっていく。
同じ頃、テレビ局の報道フロアの裏手では、急遽差し替えられた特別番組の対応に追われるスタッフたちが、引きつった顔でヒソヒソと声を交わしていた。
放送関係者A「マジかよ……あの事故が、4月8日の開校100周年記念式典のやつと関係してたなんて……」
放送関係者B「ネット上のデマだと言いたいところだが、座標のデータが完璧に一致しちまってるんだ。今さら否定するわけにもいかないぞ……」
サブ調整室の重苦しい空気の中、モニターの向こうでは事故現場の煙が今もなお静かに立ち上っていた。
するとニュース画面が切り替わり、現場からの中継映像が映し出された。
黒く煤けた無残な機体の破片、その千切れかけた主翼の表面には、鮮明に「Starjet」の文字が残されていた。
画面のテロップが素早く切り替わる。スタージェット株式会社は警察や国土交通省の公式発表に先駆け、速報で『悪天候による555便墜落・爆発事故』と事故名称を公表していた。
現場近くの避難エリアで、ひとりの女性がマイクを向けられていた。
星ノ川はるか(26)。
彼女は遠くで今も立ち上る黒煙を見つめながら、15年前の記憶を鮮明に思い出していた。
2011年当時、星奈区第1小中学校の小学6年生だった菱田みえから聞かされた、あの一言。
『今から85年前、私の学校は当時「星奈村第1小学校」となっていたの。1926年当時、私の学校の生徒で、今は癌で亡くなっている星奈りあるは、これから先に起きる災害の月日とその犠牲者を全て予言した、という奇妙な噂が流れているの』
あの時は都市伝説の類だと思っていた。だが、今日この日に起きた凄惨な現実が、その言葉の真実性を恐怖とともに突きつけていた。
テレビ局のレポーターが、震える声ではるかにマイクを差し出す。
キャスター「爆発の音はどんな感じでしたか?」
画面下に『Q:爆発の音はどんな感じだった?』というテロップが表示される中、はるかは蒼白な顔でゆっくりと口を開いた。
はるか「……最初は、雷が落ちたような……地響きみたいな重い音がして……。その直後に、ドーンっていう、胸の奥まで響くような凄まじい衝撃音が聞こえました。周りの空間が一瞬で吹き飛んだかと思うくらいの、今まで聞いたこともない恐ろしい音でした……」
はるかの言葉が、テレビのスピーカーを通じて全国へと静かに流れていく。
100年の時を超えて現実となった不吉な予言の爪痕を、誰もがただ息を飲んで見つめることしかできなかった。
70 b3 c0n71nu3d…