2026年11月5日 日中、Miracle☆Kiratts マンション・リビング。
1972年のスカイビュータワーの悪夢から目覚めた少女たちは、引きずられるような疲労感を抱えながら、プラズマ・アウトレットパークキラ宿近くのマンションへと集まっていた。
窓の外には穏やかな秋空が広がっているが、室内の空気は氷のように冷たく張り詰めている。
テーブルの前に座る南みれぃの目元には濃い隈が浮かび、傍らには真中らぁらが心配そうに寄り添っていた。そこへ、同じ悪夢に苛まれていた陽比野まつりと萌黄えもが、青ざめた表情で足を踏み入れる。
らぁら「みれぃ……大丈夫? 朝からずっと、過去のタワーのデータとソラシド市の計算式を照らし合わせてるけど……」
みれぃは赤青鉛筆を握る手を止めず、B4の用紙に敷き詰められた複雑な数式と日付、そして犠牲者の数字を睨みつけながら重い口を開いた。
みれぃ「……スカイビュータワーの悪夢は、単なる過去のフラッシュバックじゃないぷり。システムが『死の確定ロジック』を私に見せつけてきた証拠ぷり」
らぁらは深呼吸を一つ挟み、真剣な眼差しでみれぃの横顔を見つめた。
らぁら「みれぃ、私、あの夢の中で気づいたの……。1972年のタワーの時も、昨日のバーベキュー場も、システムの目的は『あらかじめ決められた人数の命を奪うこと』そのものなんだよね?」
みれぃ「……そうぷり。システムにとって重要なのは『日付』と『死亡者数』のデータ整合性だけぷり。事故の手段や、その場の建物の被害規模なんて、ただの計算の『過程』に過ぎないぷり」
らぁらは意を決したように、テーブルに両手を突いて身を乗り出した。
らぁら「だったら……11月12日のソラシド市のサーキット事故だって、同じことが言えるんじゃない? ネットで予約キャンセルが弾かれて、観客席が埋まることが決まっちゃったとしても……」
らぁら「死者の『52人』という数字自体はシステムによって絶対に変えられないかもしれない。でも、その事故の規模そのものは……車が突っ込んで終わるだけじゃなくて、サーキット場のスタンドや巨大なグランドスタンドの建物全体が倒壊するような、もっと重大で恐ろしい大惨事に跳ね上がる可能性があるんじゃないの!?」
らぁらの鋭い指摘に、室内の全員が息をのんだ。
みれぃの手がピタリと止まる。
みれぃ「……っ! 確かに……その通りぷり……! 人間側が下手に逃げようとしたり、干渉しようとして『予言された人数』が足りなくなるような不確定要素が生まれると、システムは確実に『52人』を達成するために、より物理的に回避不能な超大規模の破壊……建物の崩壊や連鎖爆発を引き起こして、強引に整合性を取ろうとする傾向があるぷり……!」
えも「そんなの……じゃあ、ソラシド市のサーキット場そのものが跡形もなく吹き飛ぶかもしれないってこと!?」
まつり「52人の命だけじゃなくて、周りの建物まで全部……!? トラウマどころの話じゃないよ……!」
予約キャンセルの失敗、そしてシステムの冷酷な修正能力。
少女たちが手繰り寄せようとするかすかな希望すらも、システムはより強大な破壊という形で踏みにじろうとしていた。
11月12日、ソラシド市で待ち受ける惨劇の深淵は、彼女たちの想像をはるかに超える規模へと膨れ上がろうとしている。
一方で、星奈ひかるは凄ましい事実を知った。
星奈家の古い倉庫(2026年11月5日 午後)
埃の匂いが立ち込める星奈家の倉庫。ひかるは棚の奥深くから、黄ばんだ古い新聞紙の束と、そこに挟まれた1枚の大きな和紙を見つけ出していた。
和紙には、ピンクの鮮やかな線で幾筋もの枝分かれが描かれている。星奈家の詳細な「家系図」だった。
ひかる「なに……これ……?」
家系図の表面には無数の付箋が貼られ、「星奈りある」をはじめとする歴代の先祖たちの名前が几帳面な文字で記されていた。しかし、ひかるの目を奪ったのは、その名前に重ねるように書かれた無数の「×マーク」だった。
脇に置かれた古新聞の切り抜きを照らし合わせると、絶望的な事実が浮かび上がる。
交通事故、落雷、突発的な資材の落下、落石事故——。
×マークがつけられた先祖の数は、実に71人。
その全員が、病死や老衰ではなく、あまりにも不自然で不可解な「突発的な事故」によって命を落としていた。
そして、その星奈家の家系図のすぐ隣には、もう一つ、1999年に途切れた「帆羽(ほわ)家」の家系図が添えられていた。
帆羽くれあ。
1999年の太陽フレア発生時、世界の裏側で稼働する冷酷な「システム」の存在に気づき、その死の計画を狂わせようと足掻いた人物。
しかし、システムに立ち向かおうとした代償はあまりにも残酷だった。
システムを壊そうと試みた瞬間、まるで「それ以上余計な干渉をするな」と静かに拒絶するかのように、不自然な事故が連鎖。高い作業現場から落下してきた巨大なハシゴがくれあの両親を直撃し、二人は即死した。
システムはただ決まった未来を実行するだけでなく、自らのプログラムを壊そうと目論む「反逆者」とその家族の未来までを、修正プログラムという名の冷酷な排除によって常に脅かし、口を封じてきたのだ。
71人の先祖の死と、滅亡した帆羽家の凄惨な記録。
ひかるは震える手でピンクの線の家系図を抱きしめ、自分の血脈にまで絡みついていた世界のシステムの根深い暗闇に、息をのむことしかできない…。
そして、その事実は他の家族でも発覚していく。
マコトミライタウン・2026年11月5日 夕刻、明智あんなの部屋。
星奈家で明かされた血脈の慄然たる事実に導かれるかのように、明智あんなもまた、かつて14歳だった頃に暮らしていたマコトミライタウンのマンションへと足を進めていた。
静まり返った室内。かつてと変わらぬ配置のまま残された自室の重い扉を開けた瞬間、あんなの瞳は息をのむように見開かれた。
あんな「嘘……だよね……?」
壁一面に広げられていたのは、星奈家のものと呼応するかのような、明智家の膨大な家系図だった。
その枝分かれを繋ぎ止めているのは、怪しく鮮烈な「紫色の線」。
あんなが震える指先でその紫の辿りを追うと、そこには原爆以降の凄惨な歴史の中で、不自然な形で途切れた先祖たちの名がズラリと刻まれていた。
大規模な地盤沈下事故、謎の化学プラント爆発、暴風雨による突発的な鉄塔倒壊、そして数々の不可解な都市型災害——。
歴史の裏側で発生したあらゆる災厄の現場には、常にこの紫の線で結ばれた明智家の人間が存在していた。システムが提示する「死のデータ」の整合性を合わせるための歯車として、あるいはシステムに疑問を抱いた反逆の報いとして、あまりにも多くの血が冷酷に流され続けてきたのだ。
あんな「こんなの……最初から仕組まれていたというの……? 私たちの血筋そのものが、あのシステムの計算式の中に組み込まれていたなんて……」
星奈家の71人の×マーク、滅亡した帆羽家、そして明智家を縛り付ける紫の線。
14歳の頃と変わらぬ声で呟くあんなの背後に、マコトミライタウンの夕暮れの赤黒い影が重く垂れ込め、少女たちを逃がさぬよう世界の暗闇がどこまでも深まっていく。
壁に貼られた紫色の線の家系図を見つめていたあんなは、突如として背筋に氷を突き立てられたような恐ろしい冷え込みを覚えた。
視界が歪み、空間が歪曲していく。
あんなの意識は、別の世界線の記憶——1999年9月10日へと引き戻されていく。
回想・始まり。
別の世界の1999年9月10日・キュアット探偵事務所。
その世界で、あんなは「キュアアンサー」として戦っていた。
傍らには、いかなる困難も共に乗り越えてきた頼もしい相棒、「キュアミスティック」の姿があった。
だが、その日の探偵事務所の静寂は、いつもと違っていた。
事務所の奥、不自然に打ち捨てられていた暗号解析端末の画面。そこに表示されていたのは、画面を狂ったように埋め尽くす、ただひとつの繰り返される不気味な英文だった。
『EVERYONE ELSE EVERYONE ELSE EVERYONE ELSE EVERYONE ELSE EVERYONE ELSE EVERYONE ELSE EVERYONE ELSE』
画面から発せられる青白い光が、キュアアンサーの蒼白な顔を照らし出す。
単語の意味を頭の中で反芻した瞬間、キュアアンサーは激しい戦慄とともに息を飲んだ。
キュアアンサー「嘘……全ての人類……!?」
「EVERYONE ELSE(それ以外のみんな=残されたすべての人類)」。
システムが弾き出していた死のターゲット。それは特定の数人やひとつの街の住人にとどまるものではなかった。
システムのエラー修正が行き着く最終的な破滅のプログラム——それは、地球上の生きとし生けるすべての人類を「エラーデータ」として消去することだったのだ。
回想・終わり。
マコトミライタウン・2026年11月5日、明智あんなの部屋。
あんな「はぁっ……はぁっ……!」
意識が2026年の自室へと引き戻され、あんなは壁にしがみつくように膝をついた。
紫の線で繋がれた先祖たちの死、11月3日の21人、11月12日の52人。
もし予言が永遠ではないとすれば、それらはすべて、最終的に「すべての人類」をシステムが処理するための、ほんの序章に過ぎない。
背中に残る氷のような冷たさを抱えたまま、あんなは世界の裏側に隠された、あまりにも絶望的な真実の深淵に身を震わせる。
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