まつりの部屋 11月11日 23:00
深夜、重苦しい静寂が部屋を包み込む中、まつりをはじめとするプリマジスタたち、そして彼女たちのパートナーであるマナマナたちは、吸い寄せられるようにまったく同じ「記憶の再現夢」へと落ちていった。
狂い始めた世界を再現するかのように、夢の中の時間軸は正確に「2024年3月14日の起床」から「16日の就寝まで」の3日間を、寸分違わぬ順番でなぞり始めていく。
まつりの夢の中・2024年3月14日 06:30
まつり「ん……ふあぁ……。おはよう、みゃむ……」
夢の中で目覚まし時計が鳴り響き、まつりはいつものようにベッドの上で体を伸ばした。カーテンの隙間から差し込む朝日は眩しく、すべてが平和だった「あの日」の朝そのものだった。
みゃむ「おはようまつり! 今日も朝から最高のプリマジをしに行くにゃ!」
傍らで元気に跳ね起きるみゃむ。その姿も、まだシステム異常の影など一切感じさせない、いつも通りの無邪気な相棒の姿だった。
しかし、夢を見ているまつりの潜在意識は、これが単なる爽やかな朝の再放送ではないことを察知していた。この14日の朝から始まり、16日の夜へと向かっていく時間が、自分たちの運命を決定的に変えてしまった「歪みの始まり」へと繋がっていることを。
みゃむ「どうしたんだにゃ、まつり? ボーッとしてたら朝ごはん遅れちゃうぞ!」
まつり「あ、うん……! 今起きるよ、みゃむ!」
同じ刻、みるきも、れもんも、あやめも、ひなも、そして彼女たちのパートナーたちも全員、それぞれの夢の中で2024年3月14日午前06:30の鐘の音を聞いていた。
避けることのできない「異常の発生」に向かって、夢の中の時計は無情にも正確な時を刻み始めている。
まつりの部屋(夢の中) 2024年3月14日 06:35
[本物のまつりのモノローグ]
(……嘘、これってあの日の朝……? 駄目、起きちゃ駄目、この後に何が起きるか私は知ってるのに……体も、頭の中の考えも、全然自分の思うように動かない……っ!)
本物のまつりの意識が必死に拒絶の悲鳴を上げているにもかかわらず、夢の中の彼女の肉体と精神は、あの日と寸分違わぬ思考をなぞり始めていた。
まつり「今日のステージのコーディネート、どれにしようかな……。みゃむと一緒に、みんなをもっとワッチャワッチャさせられるようなライブにしたいな!」
[本物のまつりのモノローグ]
(やめて……! そんな能天気なこと考えないで! 今日プリマジエリアに入ったら、二度と元の髪に戻れなくなっちゃうんだよ……! みゃむ、私を止めて……お願いだから……!)
しかし、現実の記憶を持つ意識の叫びは夢の中の自分には届かない。夢の中のまつりは、一切の疑いもなく眩しい笑顔を鏡に向け、朝の支度を進めていく。
みゃむ「今日のまつりも気合十分だにゃ! 最高のステージにして、会場中を大盛り上がりにしてやるにゃん!」
まつり「うん! 行こう、みゃむ!」
[本物のまつりのモノローグ]
(体が勝手に動く……。記憶通りに、あの絶望の日に向かって時間が進んでいく……。助けて……誰か、この夢を止めて……っ!)
本物の意思が恐怖で失神しそうになりながらも、夢のシナリオは無情にも進行していく。2024年3月14日の爽やかな朝の光は、間もなく訪れるシステムの崩壊と「髪が戻らなくなる呪い」へ向かって、少女たちの意識を正確に運んでいく。
ひなの部屋(夢の中) 2024年3月14日 06:40
[本物のひなのモノローグ]
(なにこれ……!? 体が全然言うことを聞かない……っ! 駄目よ、ひな、立ち止まりなさい! このままじゃあの日の悪夢がまた繰り返されちゃう……!)
本物のひなの意識が必死に抵抗の声を上げるものの、夢の中の彼女の身体は、あの日とまったく同じ思考と動作を完璧になぞり続けていた。
ひな「ふふ、今日のトレーニングも完璧! この調子なら、今日のプリマジステージでも過去最高のパフォーマンスが出せるわね!」
[本物のひなのモノローグ]
(やめて……! そんな能天気なこと言ってる場合じゃないのよ! 今日のステージが終わったら、二度と元の髪に戻れなくなるのよ……!? チムム、私を叩き起こして……お願いだから止めて……!)
しかし、現実の惨状を知る魂の叫びは夢の中の自分には一切届かない。鏡の前で爽やかな笑顔を浮かべる夢の中のひなは、一切の不穏さを察することなく、手際よく髪を整えて身支度を進めていく。
チムム「ひな先輩、今日もキレキレだチム! 今日のライブもチムムたちが一番目立っちゃうチムよ〜!」
ひな「ええ、全力で行くわよ! みんなに最高のプリマジを見せてあげなくっちゃ!」
[本物のひなのモノローグ]
(嘘でしょう……!? 自分の声なのに、自分の考えじゃない……! 完全に『あの日』の記憶に閉じ込められてる……っ! 誰か……誰かこの恐ろしい夢を終わらせて……!!)
どんなに抗おうとしても、システムによって再構成された狂気のフィルムは容赦なく再生され続ける。まつりやひなだけでなく、すべてのプリマジスタとそのパートナーたちが、逃げ場のない過去の再現劇の中で、迫りくる絶望の瞬間へと引きずり込まれていく。
プリズムストーン店(夢の中) 2024年3月14日 16:00
華やかな光とファンタジックな装飾に包まれたプリズムストーンの店内に、まつりたちの賑やかな足音が響いていた。16時を回り、店内はこれから始まるステージの熱気と高揚感で満たされていた。
まつりは楽屋へと向かう途中、廊下の隅や待機スペースに佇む数人のプリマジスタたちの姿を目にする。彼女たちは私服姿であるにもかかわらず、頭部だけがステージ用の鮮やかすぎる色彩と極端なボリュームを保ったままという、異質な光景を晒していた。服と髪の調和が完全に崩れたそのちぐはぐな姿は、明らかに不気味で異常なものだった。
しかし、夢の中のまつりはその異様さに一瞬目を留めたものの、あっけらかんとした表情で微笑んだ。
まつり「わあ、あの人たちすごいなぁ! 本番の前からあんなに気合の入ったヘアスタイルやウィッグを用意してくるなんて、まるで本格的なコスプレみたい! 私も負けていられないな!」
[本物のまつりのモノローグ]
(嫌……嫌ぁぁぁっ!! それはコスプレなんかじゃないの!! お願い、気づいて……! あの人たちも、もう二度と元の髪に戻れなくなっちゃった被害者なんだよ……!! ステージに行かないで……!! お願い、逃げてぇぇぇっ!!)
本物のまつりの意識は、魂を引き裂くような叫びを上げ、胸の内で必死に涙を流しながら叫び続けていた。しかし、夢の中の肉体はその悲痛な抗いを一切受け付けない。
みゃむ「まつり、何をボーッとしてるんだにゃ! 早く楽屋に入って準備するぞ! 今日のステージはみゃむたちの天下なんだからな!」
まつり「うん! 今行くよ、みゃむ! 最高のプリマジにしようね!」
[本物のまつりのモノローグ]
(行っちゃダメ……! ゲートをくぐったら最後、私の大好きな茶色い髪も、元の私自身も、全部壊されちゃうの……! 誰か私の足を止めて……お願いだから、お願いだから誰か助けてえぇぇぇっ!!)
本物のまつりの叫びは虚しく闇に消え去り、夢の中の彼女は眩しい笑顔を浮かべたまま、控え室のドアへと手を掛けた。過去の凄惨な記憶を寸分違わず再生する恐ろしいフィルムは、少女たちの絶望のカウントダウンを容赦なく進めていく。
プリズムストーン楽屋前(夢の中) 2024年3月14日 16:15
まつりだけでなく、みるきやれもんの魂もまた、囚われた過去の肉体の中で絶望の叫びを上げていた。
[本物のみるきのモノローグ]
(嫌だお……嫌だお嫌だお!! 行っちゃ駄目だお!! なんで足が勝手に動くんだお!? あの変な髪のアイドルたちを見て『変なファッションだお』なんて笑ってる場合じゃないお……! 私たちの髪も、もうすぐあんな風に壊されちゃうんだお……! 誰かこの足を止めてお……お願いだから、あのアドベンチャーゾーンに入らせないでぇぇぇっ!!)
どれほど心の中で必死に泣き叫ぼうとも、夢の中のみるきは意地悪そうに鼻で笑いながら、手鏡で自分の完璧なメイクをチェックするだけだった。
みるき「ふん、あんなちぐはぐな格好でステージに立とうなんて甘いお。うちは完璧なかわいさで全員叩き潰してやるお〜!」
[本物のれもんのモノローグ]
(ひ、ひぃぃぃぃっ……!! 駄目です、駄目です拙者!! プリズムストーンのゲートをくぐったら、二度と元の闇属性の静かな髪に戻れなくなっちゃいます……!! 拙者の黒髪を返して……! 誰か、誰かこの悪夢の再生ボタンを止めてくださいぃぃぃっ……!!)
だが、夢の中のれもんはオドオドとしながらも、いつも通りの仕草でマナマナのきゃろんの後を追って楽屋へと歩を進めてしまう。
きゃろん「れもん、何を立ち止まっているのですか? 準備を怠れば、最高のマジを届けることはできませんよ!」
れもん「は、はいぃっ! すみません拙者、緊張しちゃって……!」
[本物のれもんのモノローグ]
(緊張じゃないんです……!! 絶望なんです……!! これから自分の身体が取り返しのつかない形に書き換えられるって知ってるから……!! 嫌だ……嫌だぁぁぁっ!!)
3人の叫びは決して交わることなく、それぞれの肉体の中に封じ込められたままだった。
本物の意識たちがどれだけ血の涙を流して拒絶しようとも、過去の行動を記憶した「シナリオ」は冷酷に進行していく。逃げ場のない意識の牢獄の中で、少女たちは自らの足が破滅のステージへと一歩ずつ歩みを進めていく感覚を、ただ無力に味わい続けるしかなかった。
プリマジエリア・アドベンチャーゾーン 2024年3月14日 16:30
そして無情にも、光り輝くステージの扉が開放される。
太陽フレアによってシステムの中枢が不可逆の破壊を起こしているとも知らず、夢の中のまつりたちは眩しいスポットライトの下へと躍り出た。
本物のまつり、みるき、れもんの魂が「手遅れ」という言葉の真の重みに押し潰される中、取り返しのつかない惨劇のライブが、寸分違わず再現され始めようとしている…。
プリマジエリア監視ルーム(夢の中) 2024年3月14日 16:35
まつりたちの意識が再現夢の牢獄に囚われ、手遅れの絶望に苛まれているその同じ刻。
現在も地球に居候している超能力者であり、ユニのような黒い猫耳と黒い尻尾を生やしたレインボー星人の女性・ミラは、プリマジスタたちへこの悪夢を送り込みながら、無数に浮かぶ監視カメラのモニター映像を静かに見つめていた。
モニターに映し出されているのは、かつての姿のまま能天気な笑顔でステージに上がろうとする夢の中の少女たちと、その肉体の内側で抗い泣き叫ぶ本物の魂の姿だった。
そして、太陽フレアによって不可逆的に破綻し、狂いはじめたシステムの無機質なデータエラーの群れ。
ミラ「太陽フレアで……世界が乱れている……。」
黒い尻尾をわずかに揺らし、ユニを思わせる耳を伏せながら、ミラは静かに呟いた。
彼女の放つ超能力の波長は、過去の記憶を歪みなく再現し、逃げ場のない絶望の追体験としてプリマジスタたちの脳内へと送り込み続けている。
モニターの向こうでは、あの日と同じように眩しい光が照射され、少女たちの髪色を二度と元には戻らない異質でちぐはぐな色彩へと書き換えようとしていた。
ミラ「運命のシステムは修正されない……。過去も、現在も、そして明日のサーキットも……すべては決められた破滅へと向かって崩壊していく……」
冷酷な監視カメラの映像に照らされながら、ミラの呟きは暗い部屋の中に低く響き渡り、少女たちの悪夢をさらに深い暗黒へと引きずり込んでいく。
このままでは、彼女たちは、過去と同じような緊急事態に直面させられてしまう…。しかし、彼女たちにこの悪夢を変えることはできなかった。
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