N3x7 D15a5732   作:vic.

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第41話「夢の中で過去の出来事がその順番通りに…(#2)」

プリマジエリア出口(夢の中) 2024年3月14日 17:30

 

煌びやかなステージを終え、アドベンチャーゾーンの出口へと戻ってきたまつりたち。

 

しかし、出口のすぐ目の前に広がる光景を目にした瞬間、夢の中の少女たちの足がピタリと止まった。

 

そこには、自分たちより先にライブを終えて出てきた大勢のプリマジスタたちが立ちすくんでいた。彼女たちの着用している衣服はいつも通りの普段着へと戻っているにもかかわらず、その頭部だけはステージ上の派手で極端なヘアスタイルのまま固定され、服と髪がまったく噛み合わない異彩でちぐはぐな姿に変貌を遂げていた。

 

まつり「え……? みんな、どうしたの……? なんで服は私服なのに、髪型だけステージのままなの……?」

 

みるき「な、何なんだおこれ……!? 冗談はやめるお! 全然かわいくないお……!」

 

れもん「ひ、ひぃぃ……っ! み、みなさん、髪が……髪が元に戻っていません……っ!」

 

夢の中のまつりたちも、目の前の異変にようやく薄気味悪さを覚え始め、ざわめきと動揺がその場を包み込んでいく。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(やめて……! 見ないで……! 自分の髪を確認しちゃダメ……っ!! もうすぐ、自分がどんな姿になっちゃったか思い知らされる……! 嫌だ、嫌だぁぁぁっ!!)

 

[本物のみるきのモノローグ]

(鏡を見るなお……! 見たら全部終わりだお……っ! 頼むから夢よ覚めてお……お願いだから……!!)

 

[本物のれもんのモノローグ]

(逃げたい……! この場所から逃げ出したいのに……体が、手鏡を取り出す動きを止められない……っ!!)

 

過去の記憶を完璧になぞる手遅れの肉体の中で、本物の魂たちは悲鳴を上げ続ける。

 

そして、他のプリマジスタたちの異様さに怯える夢の中のまつりたちは、吸い寄せられるように自身の姿を確認するため、震える手でコンパクトや手鏡へ手を伸ばした。

 

ざわめく人集りの中で、まつり、みるき、れもんの3人は、引きつった指先でそれぞれのコンパクトや手鏡を開いた。

 

その瞬間、滑らかな鏡面に、冷酷な「現実」が鮮明に映し出される。

 

まつり「きゃあああああああっ……!? な、なにこれ……っ!? 私の髪が……赤と水色から……戻らない……っ!?」

 

みるき「嫌ああああっ!! う、うちのピンクのショートボブが……! なんで白とピンクのちぐはぐな色になってるんだお……!? 嘘だお! こんなの絶対おかしいおーっ!!」

 

れもん「ひ、ひぃぃぃぃぃやあああああっ……!! 拙者の……拙者の地味で落ち着いていた黄色い髪が……! ステージの派手な髪型のまま固まって……動かないです……っ! 戻してください……元に戻してくださいぃぃぃっ!!」

 

出口の空間に、3人の引き裂かれるような悲鳴が重なって響き渡った。

 

鏡の中に映っているのは、慣れ親しんだ普段着に身を包みながら、頭部だけがステージ上の過剰な光と色彩を纏ったままの、恐ろしく歪な自分たちの姿だった。手で触れても、髪を解こうとしても、ステージ用の「ライブヘア」は硬固なデータエラーのように頭皮に固着し、指を滑らせることすら拒絶する。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(あああぁぁぁっ……!! 見ちゃった……見ちゃったよ……!! あの日の絶望が……私の髪が死んだ瞬間の感覚が、頭の奥から溢れ出してくる……っ!! 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……!! 私の髪を返して……っ!!)

 

[本物のみるきのモノローグ]

(嫌だお……! このあやふやで不気味な色彩の髪を見るたびに、自分が自分でなくなっていく感覚がしたあの日だお……! 止めてお……この記憶の再生を今すぐ止めておぉぉぉっ!!)

 

[本物のれもんのモノローグ]

(拙者の姿じゃない……! こんな派手でちぐはぐな頭じゃ、外の光なんて歩けません……っ! 太陽フレアが……システムが拙者たちの体を壊したんだ……っ! 助けて……助けてくださいぃぃぃっ!!)

 

肉体の中で囚われた本物の魂たちは、再現された悲鳴と、記憶の奥に刻まれた本物の恐怖が重なり合い、精神が引き裂かれるほどの激痛に苛まれていた。

 

かつて自分たちを輝かせてくれたはずのプリマジのシステム。それが太陽フレアの破壊によって冷酷な呪いへと変貌し、少女たちの「姿」そのものを永遠に歪めてしまった瞬間。

 

悲鳴と泣き声が渦巻くプリマジエリアの出口で、運命のシステムは少女たちの精神をどこまでも深く、暗い絶望の底へと叩き落としていく…。

プリマジエリア出口(夢の中) 2024年3月14日 17:40

 

まつり「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ! 私の髪を……元に戻してぇぇぇっ!!」

 

溢れ出す涙で視界が激しく歪み、精神の限界を迎えたまつりは、その場に崩れ落ちるように地面へ倒れ込み、そのまま意識を失ってしまった。

 

その時、当時から近くに居合わせていた神矢青砥が事態の異常性を察知し、迷わずポケットからスマートフォンを取り出して119番通報を発信していた。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(え……? 嘘……あの日、倒れた私を救急車に呼んで病院へ運んでくれたのは……青砥さんだったの……!? 昨日の夜、初めて会ったと思っていたのに……あの日から、もう出会っていたなんて……っ!!)

 

あの日、まつりが通っていたのは、2009年に開校し、2024年にタイムカプセルが開封された偏差値64の難関校・真直高等芸能専門学校だった。

 

髪型が不可逆の異常をきたしたことで、まつりをはじめとするプリマジスタたちは全員、見た目の大きな変化に伴い、3月15日付けで写真やデータを更新した「新しい学生証」の再発行を余儀なくされることになるのだった。

 

病室(夢の中) 2024年3月15日 08:00

 

白い天井と、規則的に響く心電図の電子音。

まつりは硬い病床の上で、重い瞼をゆっくりと開けた。

 

まつり「う……ん……。ここ……病院……?」

 

身体を起こそうとした瞬間、視界の端に揺れたのは、やはり元の落ち着いた茶色ではなく、昨日の悪夢のまま固着した鮮やかな赤と水色の髪だった。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(目が覚めた……。2024年3月15日……あの地獄のような朝に、また戻ってきちゃった……。夢だって分かっているのに、頭の痛さも、心の中の絶望も、全部本物と同じだ……っ)

 

隣のベッドでは、同じく運ばれてきたみるきやれもんたちが、真っ白な顔で新しい学生証の申請書類と、元に戻らない己の姿を見つめたまま失意に沈んでいた。

 

太陽フレアがもたらした崩壊は、少女たちの輝かしい日常と身元すらも強制的に塗り替え、終わらない惨劇の軌道へと完璧に組み込んでいる。

病室のベッド脇に置かれたサイドテーブルの上に、刷り上がったばかりの朝刊が置かれていた。まつりは震える指先でその紙面を広げ、躍る黒文字の見出しに目を見開いた。

 

『太陽フレアでプリズムストーンのシステムが破損、被害者全世界で30万人以上。3月14日に入店していないプリマジスタなどの方はプリズムストーンにはこれ以降入店しないで!』

 

新聞記事には、世界各地の施設で発生した大規模なシステムエラーと、原因となった太陽フレアによるデータ破損の惨状が詳細に記されていた。一度でも破損したシステムを経由してライブを行ったアイドルたちは、不可逆的な「ライブヘア」の固着という奇妙な身体的異常に見舞われ、その被害は世界中で拡大の一途をたどっていた。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(30万人以上……。私だけじゃなかった。あの場所にいた全員が、世界中のプリマジスタやアイドルたちが、あの太陽フレア一つで運命を狂わされたんだ……)

 

新聞の文字を目で追うごとに、脳裏にはあの日の光景と、手鏡に映った自分のちぐはぐな姿が何度でも鮮明に蘇る。2024年3月14日という日付は、彼女たちの平和な日常が永遠に終わりを告げた決定的な境界線となってしまった。

 

時が流れ、真直高等芸能専門学校を2026年3月に卒業したまつりは、現在もプリマジスタとしての活動を続けている。しかし、あの惨劇の日から現在に至るまで、頭髪の異変という拭い去れない爪痕と共に、重く冷たい記憶の残滓をその胸に抱え続けていた。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(あの日からずっと……私はこの変貌した姿と、消えない恐怖を抱えて生きてきた。そして今、夢の中でまたあの始まりの日を完璧になぞらされている……。逃げられない……システムの構築した過去からも、明日に迫ったサーキット事故の運命からも……っ)

 

夢の中の病床で流す涙は、かつての記憶の痛みと現在の絶望が重なり合い、冷たく頬を伝い落ちた。

 

病室(夢の中) 2024年3月15日 21:00

 

消灯時間を過ぎた病室は、息が詰まるほどの深い闇に包まれていた。窓の外からは冷たい夜風が打ち付ける音がかすかに聞こえ、規則的な心電図の電子音が静まり返った室内に虚しく響いている。

 

ベッドに横たわるまつりは、枕の上に散らばる自分の鮮やかな赤と水色の髪をそっと撫でた。手触りは昼間と変わらず、元の柔らかな質感には到底戻りそうにない。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(体が……重い。あの日も、心が擦り切れて、これ以上何も考えたくなくて、逃げるように目を閉じたんだ……。夢の中の私も、同じように意識を手放そうとしてる……)

 

隣のベッドでは、激しい泣き疲れた末に静かになったみるきや、布団をかぶって小さな震えを殺しているれもんの気配が漂っていた。太陽フレアという抗えない天体現象によってもたらされた日常の破綻。その巨大すぎる絶望の前に、少女たちの精神は限界を迎えようとしていた。

 

まつり「みゃむ……私……これからどうなっちゃうんだろう……」

 

枕元で心配そうに丸くなっているみゃむに、夢の中のまつりは消え入るような声で呟いた。だが、その問いに答えられる者などどこにもいなかった。

 

[本物のまつりのモノローグ]

(駄目……落ちていく……! この夜が明ければ、次は3月16日がやってくる。悪夢のループはまだ終わらない……! 止めて、誰か私の意識を引き戻して……っ!)

 

本物の魂の叫びも虚しく、夢の中の肉体は重力に引きずり込まれるように、底知れぬ深い眠りの深淵へと沈んでいく。

 

その闇の底で、レインボー星人のミラは黒い耳をわずかにピクリと動かし、監視モニターに映る少女たちの眠り冷めやらぬ表情を冷徹に追っていた。14日の発症、15日の絶望、そして明日訪れる16日へ――。システムに刻み込まれた完璧な記憶の再現は、一歩ずつ、だが確実に、2026年現在のサーキット事故へと繋がる宿命の鎖を強固にしていく。

 

まつりの意識は完全に途切れ、夢の中の15日の夜は、深い漆黒の闇へと没していき…。

 

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