マコトミライタウン・高層マンションの一室 2026年11月12日 15:24
ソラシド市のサーキットで起きた惨劇のニュースが世間を激震させる中、マコトミライタウンの静まり返ったマンションの一室で、明智あんな(29)はベッドの上でうなされながら浅い眠りの中にいた。
脳裏に広がるのは、過去と未来が交錯する不吉な夢の記憶――。
一つ目は、遠い過去の記憶。
『もう一つの1999年8月20日』。太陽フレアの影響を受けたJXA307便が墜落を起こしたあの事故。あんなたち「名探偵プリキュア!」は、あんなが偶然目にした予知夢のおかげで寸前のところで助かったものの、機体に搭乗していた乗客315人は凄まじい爆発とともに全員命を落としたという、残酷な歴史の記録。
そして、その過去の夢に続いて映し出されたのは、これから訪れる未来の予知夢だった。
『2027年1月24日』。
そこには、29歳になったあんなの姿があった。しかしその容姿は変貌を遂げており、髪だけがかつての「キュアアンサー」そのものの姿――毛先が逆ハート型にカールしたツインテールで、毛先に向かって紫からピンクへと鮮やかにグラデーションする異質な質感へと書き換えられていた。
その29歳のあんなが目の前に見据えるのは、14歳の誕生日を迎えたばかりの幼き日の「自分」。
29歳のあんな『危ないから、机の上にある懐中時計みたいなものは取らないで!』
30歳の誕生日を目前に控えた未来のあんなは、悲痛な声で必死に叫び、14歳のあんなへ強く警告を発していた。唐突で解解不能な助言に、14歳のあんなは大きく動揺し、差し伸ばした手を止めて固まっている。
あんな「ハッ……! ぐっ……ふぅ……っ……!」
15時24分、あんなは激しい動悸とともに跳ね起き、額から冷や汗を拭った。
太陽フレアが狂わせた過去の惨劇と、これから訪れる2027年の不気味な未来。そして自分自身の髪に訪れるであろう「変貌」の予兆。サーキット事故が引き起こした破滅の連鎖は、プリマスタだけでなく、探偵として都市を見つめてきたあんなの運命をも深く蝕み始めている。
そして何より、サーキット事故の悲惨な事実にも目が離せなくなってしまう。
星奈家 2026年11月12日 16:00
リビングの大型テレビからは、刻一刻と更新されるソラシド市サーキット事故の報道が流れ続けていた。アナウンサーが無機質な声で読み上げる「死亡者52名」という数字。その言葉が聞こえるたびに、星奈ひかるの胸には目に見えない巨大な楔が深々と打ち込まれていくようだった。
ひかるは床に両膝をついたまま、微動だにできずにいた。自身の震える両手を見つめる彼女の瞳からは、涙すら枯れ果て、代わりに漆黒の絶望と果てしない罪悪感が渦巻いていた。
ひかる「私のせいだ……。私が……あの数字を知っていたのに……」
あの太陽フレアの後に示された不気味な予言。世界が崩壊するのを防ぐために支払わなければならない「代償」として提示された決定論の数値。ひかるはその数字の存在を知り、危険を察知し、みれぃとともに惨劇を食い止めようと必死に車を走らせたはずだった。
しかし、結果はどうだったか。
道路を埋め尽くした無情な渋滞、一歩も前に進めない車内、そして虚しく過ぎ去っていった時間。ひかるたちがどれほど焦り、祈り、運命を変えようと抗っても、世界の崩壊を防ぐ冷酷なシステムは彼女たちの存在など最初から歯車の一部にすら数えていなかった。
ひかる「52人も死んじゃった……。133人も傷ついて……。予言の数字通りに……完璧に……みんな奪われてしまった……!」
ひかるの頭の中に、かつて目にした事故現場の幻影と、助けを求める人々の声が津波のように押し寄せる。もし自分がもっと早く行動していれば。もしもっと違う手段で警告を届けていれば。それとも、自分が手を出したこと自体が、システムに惨劇を確定させるための「口実」を与えてしまったのではないか。
いくら問いを重ねても、返ってくるのは冷たいテレビのニュース音声と、不吉な数字の正確さだけだった。
みれぃ「ひかる……自分を責めちゃダメぷり……。私たちは……私たちはやれるだけのことをしたぷり……」
みれぃが掠れた声でひかるの肩に手を置こうとしたが、その手もまた、自分たちの無力さに激しく震えていた。惨劇を止められなかったという事実は、抗おうとした者たちの心をも等しく粉々に打ち砕いていた。
ひかる「違うよ、みれぃちゃん……。やれるだけのことをしても、何も救えなかったんだよ……。数字を知っていたのに、誰も……ただの1人だって救えなかった……!」
ひかるは床に額を押し付け、爪が剥がれんばかりの力で絨毯を掻きむしった。
太陽フレアがもたらした身体の変貌、1999年の墜落事故から続く過去の悲劇、そして2026年11月12日に刻まれた52の命の終焉。
世界を存続させるための「不気味なシステム」が要求したあまりにも重すぎる代償と、救えなかった命の質量は、星奈ひかるという一人の少女の魂を、二度と立ち上がれないほどの暗闇の底へと引きずり込迎んだ。
みゃむ「ダメだった……」
まつりの部屋のドアの陰から、みゃむが力なく姿を現した。いつもなら元気に跳ね回るはずの耳と尻尾は力なく垂れ下がり、その大きな瞳には溜まりきった涙が溢れそうになっていた。
みゃむ「まつりを助けたくて……S4のみんなを救いたくて……みゃむも必死で走ったのに……何も……何ひとつ変えられなかったにゃ……」
みゃむは床にぽたりと涙をこぼしながら、その場に崩れ落ちた。魔法の力も、自分たちの強い絆も、システムが冷酷に弾き出した「52人の死亡」という決定された数値を前にしては、あまりにも無力で、あまりにも儚いものだった。
まつりは言葉を失ったまま、みゃむの小さな体を震える手で抱きしめた。手繰り寄せた温もりすらも、絶望の冷たさに侵食されていく。
サーキットから遠く離れた星奈家でも、そしてマコトミライタウンのマンションでも、太陽フレアの爪痕と予言のシステムに翻弄される者たちが、それぞれの場所で打ちのめされていた。
2024年3月16日の太陽フレアによる身体の変貌。
1999年の墜落事故から張り巡らされていた運命の伏線。
そして、2026年11月12日に刻まれた圧倒的な惨劇。
ひかるが絶望の淵で床を掻きむしり、みれぃがらぁらの腕の中で哭き、あんなが過去と未来の不吉な予知夢に苛まれる中、世界は少女たちの悲鳴や悔恨など一切顧みることなく、冷徹なプログラムの次なるページへと残酷に針を進めていく…。
マコトミライタウン・高層マンションの一室 2026年11月12日 16:30
冷や汗で湿ったシーツの上で、あんなはまだ激しい動悸に胸を上下させていた。スマートフォンの画面が淡い光を放ち、メッセージアプリの通知を知らせる。画面を開くと、美桜からの短いメッセージが届いていた。
『大丈夫だと思う?』
サーキットで起きた惨劇のニュース、そして2024年の太陽フレア以降、急速に狂いはじめた世界の歪み。探偵として、そしてかつて世界を救ったプリキュアとして、自分たちがこの破滅の連鎖にどう立ち向かうべきなのか――その問いかけには、深すぎる懸念と不安が滲んでいた。
あんなは震える指先で画面をタップし、力なく返信を打ち込んだ。
あんな「今は……ただ……悪夢を見ないように寝たい……」
送信ボタンを押し、スマートフォンをベッド脇のテーブルに伏せて置くと、あんなは深くため息をつき、逃げるように掛け布団を頭までかぶった。
脳裏に焼き付いて離れない、あの恐ろしい二つの夢。
1999年のJXA307便墜落事故で失われた315人の命と、2027年1月24日に訪れるという、毛先が逆ハート型のツインテールへと変貌した自分自身の姿。そして14歳の自分に向けた「懐中時計を取らないで」という切迫した警告。
どんなに推理を重ねても、どんなに真実を暴こうとしても、この「不気味なシステム」が押し付けてくる未来と過去の絶望の前では、何一つ明確な解決策を見出すことができない。
2026年11月12日のサーキット事故によって刻まれた52名の犠牲と、予言通りの惨劇。
逃れられない運命の重圧に押し潰されそうなあんなは、せめて束の間の無意識へと逃避するように、ただ冷たい暗闇の中で静かに目を閉じることしかできない。
星奈家 2026年11月12日 18:00
静まり返ったリビングで、ひかるは虚ろな目のまま手元に置かれた不気味な暗号シートを見つめていた。サーキットの事故が予言通りの惨劇となって実行された直後、システムの端末から新たに吐き出された数列。
そこには、逃れることの許されない次なる運命の刻印が打ち込まれていた。
「2026112913」
ひかる「2026年……11月29日……13……」
乾いた声でその数字を読み上げるひかるの唇が、激しく震えた。
2026年11月29日。サーキットの惨劇からわずか17日後。そして末尾に刻まれた「13」という数字は、またしても奪われるべき人命の数を残酷に示していた。
みれぃ「次なる予言は……ヘリコプター……ぷり……?」
みれぃは言葉を失い、冷たい汗が頬を伝い落ちた。
13人の命が、空の上で不慮の墜落事故によって奪われる。太陽フレアが狂わせた地球の磁場と、世界を繋ぎ止めるための冷酷なシステムは、サーキットの52人だけでは飽き足らず、さらなる代償を要求していた。
ひかる「また……また人が死んじゃうの……!? 13人も……!!」
ひかるは頭を抱え、絶望の叫びを上げた。どれほど抗おうとしても、システムは人間の意志や救出の試みなど一切顧みず、正確無比に破滅のプログラムを遂行していく。
2026年11月29日――ヘリコプター墜落事故。
避けられない「数字」の呪縛が、再び少女たちの心に逃げ場のない暗黒の影を落とす。
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