N3x7 D15a5732   作:vic.

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第47話「転生した夏海まなつ」

国立天文台・解析室 2026年11月13日 11:00

 

昨日のサーキット事故のニュースで世界が混乱に包まれる中、三鷹の国立天文台の一角にある解析室は、重苦しい沈黙と機械の駆動音だけに包まれていた。

 

青砥は、少し前に道端を歩いていた際に遭遇した異質な光景を思い返していた。高架下の暗いトンネルのコンクリート壁に刻まれていたのは、単なる街頭のスプレー落書きなどでは断じてなかった。精密な計算のもと、何らかの意図をもって刻みつけられたとしか思えない無機質な数字の羅列「2011031119759」。

ーーそれは、あの日の最大震度7の地震によって19759人が死んだと言う記録だった。

 

青砥はデスクのライトをつけ、プリントアウトした一枚の高解像度写真を同僚の恭子(23)の前に差し出した。

 

青砥「これを見てくれ。写真にある数列の2011031119759…北東地域大地震が起きたあの日の月日と犠牲者の数だ」

 

恭子は差し出された写真を覗き込み、そこに並ぶ文字の規則性に息を呑んだ。

 

『2011031119759』――2011年3月11日、そしてそれに続く19,759という膨大な犠牲者の数字。

 

ただの都市伝説や偶然の合致として片付けるには、あまりにも正確で、あまりにも冷酷な一致だった。写真に写るトンネル壁面の数列は、2011年の大震災だけでなく、1999年のJXA307便、2000年のアムール橋倒壊、2009年のジェットコースター事故、2025年のフードコート爆発、そして昨日のサーキット事故に至るまで、世界のあらゆる大惨事の発生日時と犠牲者数を完璧なコードとして刻み込んでいた。

 

青砥は深く息を吐き出し、モニターに表示された太陽フレアの観測データと地球の軌道計算式を指差しながら、静かな、しかし確信に満ちた声で言葉を続けた。

 

青砥「……これらの数字や『予言のシステム』は『僕たち』を『死』から逃れさせるために意図的に作られたのかもしれない」

 

恭子「死から……逃れさせるため……? でも青砥さん、このシステムが示しているのはどれも悲惨な事故や災害の記録ですよ!? むしろ世界を破滅に導いているようにしか……」

 

青砥「逆なんだ、恭子ちゃん。もし……もしこの世界というシステムそのものが、巨大な破綻や崩壊の危機に直面しているとしたらどうだ? システムは世界全体の均衡を保ち、人類という種そのものが全滅するような致命的な崩壊――つまり『完全な死』を回避するために、あらかじめ計算された局所的な事故や犠牲を『代償』として排出し続けているんじゃないか」

 

恭子は言葉を失い、青砥の顔と写真を交互に見つめた。

 

青砥「太陽フレアによってシステムのプログラムに歪みが生じ、その計算結果がこうして『予言』や『数字』として現世に漏れ出し始めている……。だとしたら、僕たちが直面しているのは単なる不吉な予言なんかじゃない。この世界が生存し続けるために吐き出し続けている、冷徹な生存プログラムのログそのものなんだ」

 

天文台の静けさの中、二人の目の前に置かれた写真の数字――『2011031119759』は、過ぎ去った過去の悲劇としてではなく、今なお稼働し続ける世界の残酷なシステムの証拠として、暗闇の中で冷たく歪み続ける。

SNSのタイムラインは、青砥が国立天文台で提示した冷徹な仮説を裏付けるかのように、さらなる異常な熱量をもって加速していく。

 

それと同じ頃、

サーキット事故の現場写真や、過去の未解決大惨事のデータが次々と解析・照合されていく中、あるオカルト系インフルエンサーの投稿が爆発的な勢いで拡散される。

 

都市伝説ファンの仮説コメント『待てよ…システムは世界そのものじゃないか?もしそうだったらシステムが狂ってるわけないだろ…』

 

その投稿には、これまでの「システム異常説」や「プログラムのバグ説」を根本から覆す、恐ろしい論理が展開されていた。

 

都市伝説ファンの仮説コメント『俺たちが「狂っている」と呼んでいる太陽フレア以降の惨劇や予言の数字は、エラーなんかじゃない。世界という巨大な演算装置が、僕たちという存在を存続させるために弾き出している「正解の計算結果」そのものだ。

もし世界そのものがシステムなら、システムに狂いなんて最初から存在しない。2011年3月11日の19,759人も、2025年10月10日の123人も、昨日の52人も……すべては世界が完全な無に帰すのを防ぐための「必要な代償の数値」だったんだ。

狂っているのはシステムじゃない。その計算結果を「異常」だと受け止めきれない、俺たちの倫理観のほうだ』

 

この言葉は、画面越しにタイムラインを追う少女たちの心に、冷たい刃となって突き刺さった。

 

あまり「システムが狂っていない……? これが……正しい計算結果だというの……!?」

 

自室のベッドでスマートフォンの画面を見つめていた香田澄あまりは、全身の血が凍りつくような感覚に襲われていた。もしこの仮説が正しいのだとすれば、自分たちがどれほど涙を流し、事故を止めようと抗ったところで、それは「正しく動いている世界」に対する無意味で無力な反逆でしかないことになる。

 

早織先輩が失われたあの日も、フードコートで散った123人の命も、昨日のサーキットの惨劇も――すべては世界というシステムが「正しく」機能した結果だというのか。

 

同じ頃、自室の暗闇の中でスマートフォンの明かりに照らされていた青空ひまりも、親指の痛みを抱えながらその投稿を目にしていた。

 

『システムは狂っていない』

 

その一文が、彼女の脳裏で不気味に反響する。元の色に戻らない自分の髪、毎夜うなされる過去の悪夢、そして提示され続ける未来の死の数字。それらすべてが「正しい世界」の姿なのだとしたら、自分たちは一体何のために傷つき、何のために叫び続けてきたのか。

 

都市伝説として消費されていくネットの言葉の裏で、世界の冷酷な真実は、救いを求める少女たちの希望をどこまでも無慈悲に踏みにじっていく。

東京都渋谷区・宇田川町周辺 2026年11月13日 14:30

 

冷たい秋風が吹き抜ける渋谷の街角。色とりどりの街頭サイネージが目まぐるしく映像を映し出す西武百貨店の建物を見上げながら、星奈ひかるは力なく歩を進めていた。

 

昨日のサーキット会場で起きたあまりにも凄惨な事故。みれぃやまつりたちと共に現場へ駆けつけながらも、決定された運命の前に何一つ抗えず、ただ惨劇を見届けることしかできなかった圧倒的な無力感が、彼女の心を足元から押し潰していた。

 

「私たちは……何も変えられなかった……」

 

通行人が行き交う雑踏の中で立ち尽くし、ふと視線を上げたその時だった。

 

西武百貨店の壁面に位置する、渋谷を訪れる誰もが知っているあの「緑色のコーヒー店」。その2階の窓際席に、見覚えのある、しかし決定的に変化した人物の姿をひかるは見つけた。

 

――夏海まなつ。

2026年8月8日、あの忌まわしいテロの爆発によって命を落としたはずの少女。

 

だが、窓の向こうでカップを手にしている女性は、明らかにまなつ本人でありながら、その姿は異彩を放っていた。転生の影響によって伸びた髪はキュアサマーと同じ圧倒的な黄色をメインとし、赤と青のサブカラーが混ざり合い、長く伸びたポニーテールの付け根には綺麗なピンク色のグラデーションが広がっている。1999年1月8日生まれ、現在27歳となったその姿――夏海高菜であった。

 

ひかるは導かれるように店内へ駆け上がり、高菜の座るテーブルの前に飛び込んだ。

 

高菜「あれ……ひかるちゃん……? どうしてここに?」

 

高菜は窓の外から息を切らせてやってきたひかるを見つめ、何が起きたのか分からず、ただ不思議そうに首を傾げた。テロの記憶や転生にまつわる重絶な運命を一切感じさせない、あまりにも無垢で穏やかな表情だった。

 

ひかる「まなつ……ううん、高菜さん……! 生きて……生きてたんだね……っ!」

 

高菜「え……? うん、私はここにいるよ? ひかるちゃん、そんなに青い顔をしてどうしたの? なんだかすごく辛そうな顔をしてる……」

 

ひかるは向かいの席に崩れ落ちるように座り込み、溢れ出す涙を拭いながら、自身のメモ帳に刻まれたあの不吉な数列――『20260808864』を開いた。

 

ひかる「私ね……勘違いしていたの……。『20260808864』……8月8日のテロで864人が亡くなるっていう数字……。でも、そこには『-9』という転生者の存在を示すマイナスがついていることを見落としていたの……! まなつたちが死んで消えたんじゃない、転生して別の形で存在し続けているんだって……!」

 

高菜「転生……? -9……?」

 

高菜はひかるが指差し提示する数列を静かに見つめた。その瞳に一瞬だけ、世界の深層に潜む冷酷な法則の残光が宿る。

 

ひかる「でも、高菜さん……事故やテロはどうして起きちゃうの……? なんでシステムは、こんなにたくさんの命を奪い続けるの……!?」

 

ひかるの痛切な問いかけに、高菜は手元のアイスコーヒーのグラスを見つめ、静かに、そして逃れられない真実を紡ぎ出すように口を開いた。

 

高菜「……システムがね、命を奪い続けている理由……。それは、この世界を永続させるために『死』という不可欠なエネルギーが必要だからなんだよ」

 

ひかる「世界を……永続させるため……?」

 

高菜「そう。この世界という存在の枠組みそのものを崩壊させず、明日へ繋ぎ止めておくためには、絶え間なく命の代償を支払わなきゃいけない。そのためには……他の世界を破滅させたり、あるいはこの世界や別の世界で不可避の事故や災害を引き起こして、命をシステムへと還元しなきゃいけないの」

 

渋谷の街の喧騒が、窓一枚を隔てた二人の間で遠のいていく。

 

高菜「狂っているように見えて、それがこの世界のたった一つの『生存ルール』なの。だから……誰かの意志で事故を止めようとしても、世界そのものが生き残ろうとする力には勝てないんだよ……ひかるちゃん」

 

高菜の穏やかな声で語られた世界の構造。

 

世界を救い、みんなを守ろうと走り続けてきたひかるにとって、それはあまりにも残酷で、救いのない世界の真実だった。西武百貨店のガラス越しに差し込む街の光は、無力感に打ちひしがれるひかるの影を、どこまでも暗く床へと落とす。

 

高菜との対話、そして手元のデータを精査していく中で、ひかるはあまりにも異質で残酷な事実にたどり着いた。

 

2026年8月8日に発生した、あの国内史上最悪と呼ばれたテロ事件。数多くの尊い命が失われたその惨劇の中で、なぜ夏海まなつ――夏海高菜だけが「転生」という不可解な現象を経てこの世界に留まることができたのか。

 

その答えは、高菜が提示してくれた。

 

高菜「何だか知らないけど……私たち9人だけが転生することを許されたのかな?

 

高菜は思わず苦笑してしまう。

 

高菜「フフッ、しかも転生したのはプリキュアだけだって噂も出てるし……。転生して以降、プリキュアの変身能力も使えなくなっちゃったんだよ」

 

あの日犠牲となった膨大な人々の中で、魂のコードを変換され、別の姿として「転生」を許されていたのは、かつて世界を救うために戦った「プリキュア」の力を宿していた者たちだけだったのだ。

 

ひかる「そんな……一般の人たちは命を奪われたままなのに……プリキュアの魂だけが『特殊な構成要素』としてシステムに再利用されたっていうの……!?」

 

『20260808864』から差し引かれていた『-9』という数値。

それは、世界の均衡を維持するための「死」の代償として命を捧げさせられた中で、強大な概念エネルギーを持つ魂だけが消滅を免れ、姿を変えて世界に繋ぎ止められた演算の結果だった。

 

高菜「ひかるちゃん……? 私、何か変なのかな。でもね、胸の奥がときどき温かくなって、誰かを守らなきゃいけないような……そんな気がするんだ」

 

何も知らずに微笑む高菜の姿を見つめながら、ひかるは強い戦慄と底なしの絶望に包まれる。

 

システムは無差別に行使される残酷な悪意ではなく、徹底して効率化された「世界の存続プログラム」に過ぎない。命の価値すらも数値化し、救済すらもシステムの都合によって選別される。

 

渋谷の街を行き交う群衆の誰もが知らないところで、世界の冷酷な法則は、残された者たちの心をどこまでも深く切り刻んでいくのであった……。

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