N3x7 D15a5732   作:vic.

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第49話「星奈ひかるは死んでいたはずだった…」

東京都渋谷区・渋谷駅前スクランブル交差点周辺 2026年11月13日 18:20

 

脱線事故から3時間が経過し、日没を迎えた渋谷の街は、警察の規制線と救急車両の赤色灯が交差点のビル群を赤く染め上げていた。惨劇の余波が収まりきらない中、混乱した街の片隅を歩いていた星奈ひかるは、押し寄せる群衆の波の中で息を呑み、思わず足を止めた。

 

通り過ぎようとした一人の女性の姿。その横顔と纏う気配に、ひかるは全身の血が引いていくような強い衝撃を受けた。

 

そこにいたのは、「ここで生きているはずの自分」の安否が不安になり、街をさまよっていた星奈ひかりだった。

 

彼女は、2006年に起きた「生存者がわずか1人」という別の世界の惨烈なジェットコースター脱線事故において、激しい衝撃とともに剥がれ落ちたレールへと落下し、命を落としたはずの存在だった。しかし、世界のシステムによる冷酷な演算と構成要素の再利用によって、この世界へと転生を果たした「システムを知る者」の一人として生を受け直していたのだ。

 

そして、彼女の容姿もまた、システムの「不気味な改変」から逃れることはできていなかった。

 

彼女の髪型は、物理法則を完全に無視した独特の立体感を持つ巨大な球状のパーツと星型のヘアピンで飾られ、毛先がふんわりと大きく丸まった、かつてのキュアスターそのもののツインテールとなっていた。

 

ひかる「嘘……嘘でしょ……? わたし……ううん、あなたは……!?」

 

ひかるの声に立ち止まり、静かに振り返ったひかりの瞳には、感情の波立ちはなく、ただ世界の深淵を見通すような冷徹で哀しい光が宿っていた。

 

ひかり「……やっぱり、無事だったのね。『この世界のわたし』」

 

ひかりの静かな声が、騒然とした街の雑音を通り抜けてひかるの耳に届く。

 

ひかり「わたしは2006年のあの日、壊れたレールの上から真っ逆さまに落ちて死んだ……。でも、世界のシステムはわたしを完全には消去しなかった。他の世界を破滅させ、命を奪い、世界を永続させるための『代償』の計算式の中に、わたしをこの姿で転生させたの」

 

ひかる「転生……? 事故で死んだはずのわたしが、別の世界から……? じゃあ、あなたがSNSで『システムの真実』を書き込んでいたの……!?」

 

ひかりは否定も肯定もせず、ただ自身の胸元に手を当て、頭上の歪んだツインテールを揺らしながら遠くを見つめた。

 

ひかり「システムは狂っていない。2006年のわたしの死も、今日の42人の犠牲も、すべては世界という巨大なシステムが全崩壊を回避するために弾き出した『絶対の解』。それを変えることなんて、誰にもできない……たとえ、どんな力を持った存在であっても」

 

自分自身と同じ顔、同じ声、そしてプリキュアの象徴を歪んだ形で背負わされた「もう一人の自分」。

 

冷たい夜風が吹き抜ける渋谷の街で、二人の「ひかる」の視線が交錯する。世界の存続という圧倒的な理不尽と、逃れられない決定論の呪縛が、悲劇の渦中に置かれた少女たちの心をどこまでも暗く侵食していった。

東京都渋谷区・渋谷駅前スクランブル交差点周辺 2026年11月13日 18:30

 

事故の混乱が続く現場に、停車したバスのドアが開き、ゆっくりと降り立ってきた三人――一ノ瀬みのりの転生体である一ノ瀬みなみ、滝沢あすかの転生体である滝沢綾芽、そしてローラの転生体であるクリスティーナ・アポロドーロス・ヒュギーヌス・ラメール。

 

彼女たちの髪型もまた、かつての戦士たちの象徴を不気味にそのまま宿していた。みなみはキュアパパイヤを思わせるアシンメトリーなショートボブ、綾芽はキュアフラミンゴを思わせる鮮やかなポニーテール入りのロングヘア、そしてクリスティーナはキュアラメールを思わせるシェル風の髪飾りが固定された優美なロングヘア。

 

バスを降りた瞬間に彼女たちの視線に跳び込んできたのは、赤色灯の群れに照らし出された歪んだ高架と脱線した貨物列車、そして「42」という不可避な数字によって奪われた無数の命の惨状だった。

 

歩道に足を踏み入れた3人が目にしたのは、赤色灯の群れに怪しく照らし出された地獄絵図だった。脱線しひしゃげた巨大な貨物列車の無残な鉄くず、街頭に飛び散った凄惨な硝子片、逃げ惑う人々の絶叫、そして路上で血を流しうずくまる負傷者たちの姿――。

 

みなみ「そんな……これが……今の渋谷の姿だというの……!?」

 

みなみは眼鏡の奥の瞳を大きく見開き、絶句したまま言葉を失った。本で読んだどんな惨劇の記述よりも冷酷で、一切の情赦がない現実がそこにあった。

 

綾芽「嘘だろ……なんでこんなことが……! 電車が脱線して、街がこんなになるなんて……!」

 

綾芽は溢れ出す激動の感情を抑えきれず、激しく拳を握りしめた。己の中に眠るかつての戦士としての熱い魂が騒ぐものの、目の前で起きている惨事に対してあまりにも無力である事実に、悔しさと怒りで歯噛みするしかない。

 

クリスティーナ「信じられない……。こんな凄惨な光景、あってはならないはずでしょう……!?」

 

クリスティーナもまた、美しく飾られた自身の髪にそっと手をやりながら、信じがたい目の前の破滅的な光景に身体を震わせた。

 

その視線の先では、柱に刻まれた『2026111342』という冷たい数字の予言が、すでに回収された命の重みとともに不気味な存在感を放っていた。

 

同じく転生を果たした高菜、恐慌状態に陥る弥衣、そして事態の全貌を悟り絶望に沈むソラと、二人の「ひかる」。

 

かつて世界を救ったプリキュアたちの魂を持つ者たちが一堂に会する中で、世界を存続させるための冷酷な「計算プログラム」は、一切の哀憫も見せることなく、ただ無機質に死と犠牲を積み重ねていく。暗闇に包まれゆく渋谷の街で、少女たちはただ圧倒的な事象の前に立ち尽くすことしかできず、運命の糸に引き寄せられるように渋谷の地に集ったかつての戦士たちは、誰一人として覆すことのできない「確定された死の数式」の重圧に押し潰されそうになりながら、ただ黒煙の上がる夜空を仰ぎ見る。

2026年11月18日 14:00 都内・カフェテラス

 

渋谷の悲劇から5日後。街には依然としてあの痛ましい脱線事故の余波が残る中、星奈ひかるは現在も医師として現場で人々の命と向き合い続けている花寺アリスと静かなカフェの席で向き合っていた。

 

ひかるは、先日渋谷で目撃した惨状、転生して現れた仲間たちのこと、そして世界の存続と引き換えに命が奪われているという冷酷なシステムの真実について、絞り出すような声でアリスに打ち明けていた。

 

アリスは深く重い眼差しでひかるの言葉に耳を傾け、医師としての葛藤と困惑を胸に抱えながら静かに頷いていた。

 

しかし、ひかるが切実に訴えかけている最中、アリスの視線がふと二人の間に置かれた木製のテーブルの端へと向けられた。アリスの顔から急速に血の気が引いていく。

 

アリス「ひかるちゃん……これ……」

 

アリスが指差した先、テーブルの木目模様の隙間に、まるで鋭利な何かで刻み込まれたかのように異質な英文と数字が残されていた。

 

『It’s comin’ in 29th 2026112913』

 

ひかる「え……っ!?」

 

ひかるは息を呑んだ。

 

『2026112913』――2026年11月29日、犠牲者13名。

 

あの日、検証サイトや解析のログに存在していた、次に訪れるはずの「ヘリコプター事故」を示す予言のコード。それが、誰の手によってか、今二人が座っているこのテーブルの上に明確な刻印として浮かび上がっていたのだ。

 

ひかる「なんで……どうしてこんなところに……!?」

 

背筋に冷たい戦慄が走る。システムが示しているのか、あるいはシステムを知る何者かが残した警告なのか。ひかるは即座にスマートフォンを取り出すと、震える手でレンズをテーブルの刻印に向け、証拠としてその文字を鮮明に写真へと収めた。

 

11月29日まで、あと11日。

 

回避不能な惨劇のカウントダウンが、日常のすぐ隣で着々と刻まれていることを、静かに残された数字の痕跡が物語っている。

 

アリス「前に、私は別の世界で地球が消える日を迎える前に死んでしまったの…でも、この間、『予言が止められない』代わりに『終わらない予言の謎を追い求めることはできる』ってことを知ったの」

 

アリスはそう言った。

彼女は、前に確かに「システムを止めることはできない」と絶望していた。しかし、彼女は目標を変えたのだ。

それはーー

「システムが作る予言の謎を追い求める」ということだった。

 

…それはさておき、

テーブルの木目に不気味に刻まれた『It’s comin’ in 29th 2026112913』という刻印の存在だけは忘れてはならない。なぜなら、それは未来以外の他よりもずっと関係が深いものなのだから。

テーブルの刻印の写真を撮り終えたひかるの手は、スマートフォンの重みに耐かねるように激しく震えている。

 

画面に保存された冷たい数字の並びを見つめるうち、ひかるの胸の中に、得体の知れない暗い予感が黒い霧のように急速に広がっていく。

 

ひかる「ねえ……アリスちゃん……。ヘリコプター事故の予言は11月29日だけど……この数字が『今、私たちがいるこの場所』のテーブルに刻まれていたってことは……」

 

息を詰まらせるひかるの言葉に、アリスもまた言葉を失い、顔色を蒼白にさせた。

 

ひかる「もしかしたら……29日を待たずに、ここで……このカフェで、何か恐ろしい事故が起きるんじゃないの……!?」

 

渋谷で目撃した予言にない事故、そして黄色い百貨店の柱に貼られていた『2026111342』の張り紙。世界のシステムは、あらかじめ提示された大きな悲劇の裏で、いつ、どこで、どれだけの命を奪うのかという「計算結果」を、日常の至るところに容赦なく侵食させている。

 

もし、このカフェ自体がシステムによって選ばれた「代償の現場」なのだとしたら――。

 

窓の外を行き交う穏やかな人々の姿、店内に流れる安らぐ音楽、カップから立ち上る温かいコーヒーの湯気。それらすべてが、一瞬にして爆風や瓦礫の嵐に呑み込まれる悪夢の映像としてひかるの脳裏にフラッシュバックする。

 

アリス「ひかるちゃん、落ち着いて……! でも……確かにこの数字がここに残されている以上、ただの偶然として片付けるのはあまりにも危険すぎるわ……」

 

アリスは医師としての冷静さを必死に保とうとしながらも、ひかるの怯えを拭い去ることはできなかった。

 

「今、この瞬間に天井が崩れてきたら?」

「外の道路から車が突っ込んできたら?」

「足元から世界が崩壊し始めたら?」

 

いつ、どこで命が刈り取られるかわからないという恐怖。世界の存続という冷徹な計算式の下で、自分たちが今立っている足場すらも確定された死の舞台なのかもしれないという強烈な不安が、ひかるの心をどこまでも深く侵食していく。

果たしてヘリコプター事故は、刻印通りここで起きるのか?それとも…。

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