2026年5月7日・早朝、花寺家・のどかの部屋。
朝の静かな光が部屋を満たす中、花寺のどかは荒い息を吐きながら一瞬で身を起こした。全身を嫌な冷や汗が包み、激しい鼓動が胸を打ち続けている。
彼女が見ていた夢もまた、ひかるが見たものと全く同じ「太陽フレアによって地球が焼き尽くされる最後の1時間」の光景だった。
夢の中で、空は不気味な紅蓮の色に染まり、街には逃げ場のない人々の悲鳴が響き渡っていた。
そんな絶望的な極限状態の中で、のdかはちゆ、ひなた、アスミと共にいた。
彼女たちが選んだのは、パニックに陥るでもなく、ただ諦めて伏せることでもなかった。のどかたちは最後の一秒まで、避難所で恐怖に震える小さな子どもたちや寄り添う家族のもとを走り回り、その手を温かく握りしめ続けていたのだった。
「大丈夫だよ、怖くないよ」と優しく声をかけ、人々の不安を少しでも和らげようと笑顔を向け続ける。地球が消滅するその瞬間まで、彼女たちは「誰かの心を救いたい」というプリキュアとしての、そして人間としての意志を貫き通していたのだ。
だが、夢の結末で目の前が圧倒的な熱と光に包まれ、すべてが灰燼と化していく感覚は、あまりにもリアルで、残酷だった。
のどか「そんな……予言に終わりがあると、全ての人類が……!」
のどかは震える手で胸元を強く握りしめ、あまりの恐怖に言葉を失った。
沢泉家・ちゆの部屋。
同じ時刻、沢泉ちゆもまた、着物の上着を羽織る余裕すらなくベッドから飛び起きていた。
夢の中のちゆは、実家の旅館でパニックを起こす客や従業員たちを静かに押しとどめ、最期まで冷静さを保てるよう温かいお茶を振る舞い、一人ひとりの言葉に耳を傾けていた。崩壊する世界の中でも、女将としての、そして人としての気高さを失わないために。
ちゆ「予言の『終わり』とは……人類の全滅を意味していたというの……!?」
整えられた呼吸は乱れ、冷たい汗が頬を伝い落ちる。
平光家・ひなたの部屋。
平光ひなたは、夢の中で動物病院に集まった小さな命たちと飼い主たちを抱きしめ、「みんなでいれば大丈夫だからね!」と涙を流しながらも必死に励まし続けていた。最後まで命の温もりを守り抜こうと、怯える犬や猫を優しく撫でながら世界の終わりを迎えたのだ。
ひなた「嘘でしょ……そんなの、絶対に嫌だよ……っ!」
抱き枕を強く抱きしめながら、ひなたはベッドの上で小さく丸まり、震えが止まらなかった。
ヒーリングガーデン。
地球の風を感じて生きてきた風鈴アスミもまた、夢の中で吹き荒れる灼熱の風と、消えていく生き物たちの悲痛な叫びを胸に受け止めながら、空を見上げて最後まで祈りを捧げていた。
アスミ「世界が……地球のすべての命が、あのような形で潰えてしまうなど……」
静けさを取り戻した朝の部屋で、アスミは深く息を吐き出し、窓の外の青空をどこか怯えた眼差しで見つめていた。
ひかるだけでなく、のどかたちまでもが同時に見た「地球最後の日」の惨夢。
もしも予言に終わりが存在するのなら、その先に待っているのは完全なる「絶滅」——。
あんなが語った「予言が無限に続くからこそ、二の舞は起きない」という言葉の裏にある、あまりにも重く圧倒的な真実の重みに、彼女たちはただ戦慄するしかなかった。
2026年5月7日・朝、星奈家・リビング。
夢の余韻から冷めやらぬまま、重い足取りでリビングへ下りてきたひかるの元へ、双子の弟であるえいき(小3)が不安げな表情で歩み寄ってきた。
小さな体を小さく縮こまらせ、ひかるの服の裾をぎゅっと掴むえいき。その瞳には、大人たちの動揺や街の異様な空気を感じ取った怯えの色が浮かんでいた。
えいき「お母さん……僕たち、もしかしたら最後の予言で死んじゃうの……?」
その無垢な問いかけに、ひかるの胸がぎゅっと締め付けられる。なんて答えればいいのか言葉に詰まるひかるに対し、えいきはふと思い出したように言葉を続けた。
えいき「あのね……あかりちゃんに凄く大事なことを教えてくれた人がいたんだって。あんなさんっていう人……タイムスリップする前と後で見た目が全然変わっちゃったんだって」
ひかる「あんなちゃんが……? えいき、それどういうこと……?」
えいき「あかりちゃんが教えてくれたんだけどね、今のあんなさんは、毛先がハート型にカールしてて、ピンク色のグラデーションが入った、すごくボリューミーな紫色のツインテールをしてるんだって。タイムスリップの代償で、そんな姿になっちゃったらしいの……」
ひかるは目を見開いた。
昨夜、あかりのもとに現れたという明智あんな。
過酷な運命を背負い、姿を変えながらも未来へ命を繋いだ彼女が、あかりに託した「備え」という言葉の意味。
「最後の予言」という絶望の影に怯える幼い弟の頭を優しく撫でながら、ひかるは己の迷いを振り払うように深く息を吸い込んだ。
ひかる「大丈夫だよ、えいき。……絶対に、みんなで生きて未来へ行くから」
1000年先まで続く無限の予言。それは凄惨な記録であると同時に、世界が未来へ続いていく証でもある。
過去から繋がれた想いとバトンを受け取り、迫り来る5月21日の新幹線事故、そして観星町を襲う台風に向けて、ひかるの心に再び抗うための決意が芽生え始めていた。
その時——
——ブーッ、ブーッ、ブーッ……。
ひかる「……ッ!?」
静まり返った部屋に、不吉な予感を告げるスマホのバイブ音が重く響き渡った。画面を覗き込んだひかるの手が、ピクリと強張る。
画面に表示されたのは、気象・防災アプリからの特報通知と、ノートの解析データ。
『【緊急アラート】5月21日 発生予測ポイント特定』
『対象エリア:北陸新幹線 下谷の森(しもやのもり)駅 周辺』
えれな「下谷の森駅……!? 5月21日の『新幹線衝突事故』の場所が……そこなの……!?」
まどかが素早くタブレットを操作し、現場周辺の地図と地形データを画面に映し出す。
まどか「山間部に位置する駅です。もしここで衝突事故が発生し、脱線や火災が起きれば、救助活動は難航を極めます……」
5月5日のはぐくみ市での噴火から、休む間もなく突きつけられた次なる惨劇の舞台。あと二週間足らずで、あの猛スピードで走る新幹線が惨事に巻き込まれるというのだ。
ひかるはスマートフォンの画面を強く握りしめた。脳裏に浮かぶのは、あんなが語った「今から備えておくこと」という言葉、そしてあの地獄のような夢の光景。
ひかる「知ったからには……絶対にただ見てるだけなんて嫌だ…でも、どうすればいいの…!?」
北陸新幹線・下谷の森駅。
運命の5月21日、彼女たちはどう動くのだろうか?
ひかるは「新幹線を運営している『JT北陸』に連絡する」ことを決めた。しかし…
2026年5月7日・昼。JT北陸・本社ビル。
一刻の猶予もない焦燥感に突き動かされた星奈ひかるは、受話器を強く握りしめ、北陸新幹線を管轄する「JT北陸」の運行管理部門へ直接電話をかけていた。
ひかる「お願いです、信じてください! 5月21日、下谷の森駅周辺で新幹線の重大な衝突事故が起きます! 100年前の予言はすでに4月29日の墜落事故も、5月5日のはぐくみ市の噴火も正確に当てているんです! お願いですから、当日の運行を中止するか、徹底的な点検を行ってください!」
電話口の向こうで一瞬の沈黙が流れた後、呆れたような男の失笑が聞こえてきた。
JT北陸担当者「ハハハッ……お嬢さん、本気で言ってるのかい? 100年前の怪文書だか都市伝説だか知らないがね、こっちは毎日何万人もの命を乗せて分単位でダイヤを組んでるプロなんだよ」
ひかる「都市伝説じゃありません! 政府だって正式にはぐくみ市に避難指示を出したじゃないですか! これ以上、犠牲者を出したくないんです!」
JT北陸担当者「国が過剰反応したからって、私たちが科学的根拠もない噂話で新幹線を止められるわけないでしょう。それに『下谷の森駅』周辺は最新の自動列車制御装置(ATC)が完備されている最安全区間だ。衝突事故なんて物理的に起こり得ないんだよ」
ひかる「でも……!」
JT北陸担当者「いたずら電話ならもうやめてくれ。これ以上業務を妨害するなら警察に通報するよ」
ガチャリ、と冷酷な断話音が耳元で響く。
同時刻、星奈家・リビング。
受話器を置いたひかるは、拳を握りしめたまま悔しさに唇をかみしめた。
えれな「ダメ……だった?」
ひかる「うん……『科学的根拠がない』『最新のシステムがあるから絶対に事故なんて起きない』って……全然相手にしてくれなかった……」
まどか「企業としての立場や経済的損失を考えれば、予言だけを理由に新幹線を止める決断を下せないのは予測できましたが……あまりにも冷淡ですね……」
まどかは悔しげに手元の資料を見つめる。
警察や政府がいくら警戒を強めようとも、現場の運用と社会のインフラを動かす人間たちが「あり得ない」と高をくくっている限り、安全対策は後手に回ってしまう。
あかりは自分のポケットの中にある小さな小石を握りしめ、静かに呟いた。
あかり「はぐくみ市の人たちと同じだ……『まさか自分たちが』『そんなはずはない』って笑っている間に、運命の日は来ちゃうんだ……」
JT北陸の冷たい対応によって、公式な運行停止という防波堤は崩れ去った。
残された時間はあと二週間。事故を防ぎ、乗客の命を守るために自分たちに何ができるのか、彼女たちは未だ答えの出ない暗闇の中で焦燥感を募らせていた…。
果たして、犠牲者は減らすことはできるのか?減らせないのか?
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