地獄(アリウス)に落ちた、普通の男子高校生は諦めない 作:お茶漬け2
処女作なので拙い部分がありますが、暖かい目で見てください
世界で一番銃が似合わない君へ
俺の名前は、葉ノ宮カオル。何の変哲のない普通の高校生だ。陽キャでも陰キャでもなく、成績も普通、運動神経も良くも悪くもなく交流関係も朝から起こしてくれるような幼馴染もいない、部活も真面目に時にはサボったり、大会も基本的には2、3回戦突破くらいの実力、放課後もたまに友達と遊びに行ったりするだけ。昔からそんな生活がずっと続くと思っていた……だけど俺の人生はここで幕を閉じるらしい……
信号無視をしたトラックが俺に向かって突っ込んでいき、俺の体を吹き飛ばす。その最中、突然溢れてくる今までの記憶、瞬間的にこれが走馬灯だと理解する。意外にも頭の中は冷静で、目に映る光景はスローに感じた、しかし、時間は止まってくれない。無慈悲にも俺の体は地面に衝突する…肉が爆ぜる音と、血の嫌な匂い、その場に居合わせた人達の悲鳴…そんな中俺は来世ではもっと刺激的な生活を歩みたいな…っと呑気なことを考えながら瞳を閉じた……
「……起きっ……ろ……早くっ……起きろ」
声が聞こえる。
頭が割れるように痛い。というか、俺はどうなったんだっけ?
確か、信号無視のトラックが突っ込んできて――。
「早く起きろ!!!」
ドカッ、と凄まじい衝撃が腹に走った。
「グハッ……!?」
急激な痛みに、俺は這いつくばる。
そうか、俺はあの時トラックに轢かれて、その後……。
「あっ……ご、ごめんやりすぎた。だ、大丈夫?」
すぐ近くから、焦ったような心配する声が聞こえた。
痛む腹をさすりながら声の主を見上げると、そこには一人の少女がいた。
白い髪。紫と水色の綺麗なグラデーションがかかった瞳。そして何より目を引くのは、彼女の背中から生えている白い羽だった。
「まだ腹の奥がジンジン痛むけど……大丈夫だ」
「そうか……なら良かった」
ホッとした表情を浮かべる彼女を横目に、俺はそっと周囲を見渡す。
窓は何箇所も割れ、壁や天井の塗装はボロボロに剥がれ落ちている。まるで打ち捨てられた廃墟のようだ。天国にしては、やたらと雰囲気が悪い。
ふと割れた窓硝子を見ると、そこに自分の姿が映っていた。
そこで俺は、あり得ない光景を目にする。
自分の頭の上に、変な光の輪のようなものが浮いているのだ。
(おいおいマジかよ……マジで俺、天国に連れて行かれたのか?ってか何か若くね?中学生なりたてくらいか?いや、何故に?)
慌てて自分の体を隅々まで確認する。触って、確かめて、息を呑んだ。
「怪我を……していない?」
おかしい。トラックに撥ねられて、肉体が爆ぜる音まで聞いたはずなのに、どこにも傷一つない。
「確かに強く殴ってしまったが、そんな大きな怪我をするレベルではないと思う」
少女が不思議そうにこちらを見つめている。
「いや、違うんだ。君がやったところの話じゃなくて……」
色々と気になることはあるが、まずは情報を集めよう。
俺は目の前の少女に、なるべく平静を装って話しかけた。
「ここは、君の家なのかな?」
「いや、違う。今、私はある人たちに追いかけられていて、ここに隠れているだけだ。その道中に君が倒れていたから、ここまで連れてきた」
「そうか……助けてくれてありがとう」
命の恩人にお礼を言い、俺は一番の疑問を口にする。
「早速なんだけど、ここはどこなんだ?」
「ここはアリウス自治区の離れた場所だ」
「アリウス……?」
聞いたこともない地名だ。日本国内ではないのだろうか。
「そういえば、誰かに追われているって言っていたけど……一体、誰に追われているんだ?」
「それは……」
彼女が口を開きかけた、その時だった。
「――見つけたぞ」
「っ!?」
割れた扉の奥から、不気味なガスマスクを被った少女たちが突如として姿を現した。
しかも、その手には、明らかに本物と分かる鉄塊が握られている。
「銃……!?」
(おいおいマジかよ……! 普通に法律破ってんじゃねーよ、銃刀法違反はどうなってんだよ!?)
ガスマスクの銃口が一斉にこちらを向く。
火花が散るよりも早く、俺は少女に力強く腕を引っ張られた。
「危ない……っ!」
激しい銃声が廃墟に響き渡り、さっきまで俺がいた床が容赦なく弾丸で削り取られる。
間一髪、彼女のおかげで肉塊にならずに済んだ。
「逃げるぞ……!」
少女はそう叫ぶと、躊躇なく窓ガラスを突き破って外へと飛び出した。俺も必死にその後を追う。
◇
どれくらい無我夢中で走っただろうか。
追っ手を撒くために複雑に入り組んだ路地を抜け、俺たちは別の薄暗い廃墟へと滑り込んだ。
「ハァ……ハァ……っ」
息を切らしながら、自分の運の悪さを呪うように周囲を見渡す。どうやら、追っ手はまだ来ていないようだ。
「ごめん……私のせいで、巻き込んでしまって……」
少女が肩を落とし、消え入りそうな声で謝ってきた。
「いや、大丈夫だよ。さっきはありがとう。君が助けてくれなければ、俺は今頃蜂の巣になっていたところだ」
呼吸を整えながら、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「……さっきの人たちは、一体何なんだ?」
少女は少し俯き、覚悟を決めたようにぽつりぽつりと話し始めた。
「一から、説明する。さっきの人たちは……簡単に言うと、私の『仲間』だ」
「仲間? 仲間なのに、あんなに撃ってきたのか?」
「それは……私が、あそこから逃げ出したから。連れ戻しにやってきている」
少女の瞳に、深い怯えの色が混ざる。
「あそこは、地獄そのものだ……。毎日毎日、暴力は当たり前。ご飯も食べられない時もある。少しでも逆らえば、本当に死ぬかもしれない。……そんな、恐怖と暴力だけに支配されている場所から、私は逃げ出したかった。……それだけだ」
「そうか……」
『普通』の生活をして来た俺には、想像もつかない壮絶な環境。
虐待なんて生易しいものではない。よく見れば、彼女の白い肌の所々には痛々しいアザがあり、衣服もボロボロに擦り切れていた。
こんな理不尽な目に遭っている女の子を前にして、俺にできることは、もう一つしかなかった。
「分かった」
俺は彼女のまっすぐな目を見つめ返し、言う
「君のその逃亡……俺も手伝うよ」
「……っ! いいのか? 死ぬかもしれないんだぞ?」
アズサは驚いたように目を見開いた。
「どうせ俺、ここの土地勘も全く無いしさ。一人でうろついてさっきのガスマスクの子たちに見つかったら、それこそ即殺されるだろ。なら、君と一緒に逃げた方が、まだ俺の生存率も上がる。……それに、君のことをほっとけないしさ」
「ありがとう……ええと……」
「あぁ、そうか。まだ名乗ってなかったな。俺の名前は葉ノ宮カオル。カオルって呼んでくれ」
「私の名前は白洲アズサ。私もアズサって呼んでくれて構わない」
「よろしくな、アズサ」
「うん! よろしく、カオル」
アズサの口元に、さっきまでは無かった微かな笑みが浮かぶ。
「よし、まずはここを切り抜けるために作戦会議だ。アズサは何を持っているんだ?」
「そうだな……まず、このアサルトライフル。それと、グレネードが二つ、スモーク弾と閃光弾が一つずつだ。……正直、ここに来るまでに結構消費してしまった」
「待て待て待て待て! なんでそんなにガチの銃火器を持ってるんだよ!?」
「何でって……キヴォトスでは当たり前のことだろ?」
不思議そうに首を傾げるアズサ。
(キヴォトス……聞いたこともない場所だ。まさか、マンガでよく言う異世界転生ってやつか……?)
覚悟を決めて、カオルは正直に打ち明けることにした。
「……信じてもらえないかもしれないけど、俺、多分この世界の住人じゃないんだ」
「やっぱりか……」
「あれ? 知ってたのか?」
「さっき襲撃された時、カオルは襲撃そのものじゃなくて、銃そのものに驚いていたから不自然だったんだ。それに今も、私が武器を持っていることに驚いていたから、自然とそうじゃないかと思った」
アズサは淡々とした口調で続ける。
「この世界で、銃を持っているだけで驚く人なんて、私は見たことがない」
「えぇ……」
俺は思わず頭を抱えた。マジか、どんな修羅の世界だよ。
「俺はこの世界について何も知らないんだ。だから、ここを無事に脱出できたら、この世界のことを色々と教えてほしい」
「うん、分かった。……だけど、その代わりに」
アズサは少しだけ不安そうに俯き、俺の服の裾を小さく指先で摘んだ。そして、上目遣いでこちらの様子を窺ってくる。
「私にも教えてほしい。カオルのことや、カオルがいた世界のことを。……ダメ、か?」
心臓に悪い。そんな可愛い顔で頼まれたら、断れる男なんて世界中どこを探してもいないだろう。
「ダメな訳ないだろ。俺みたいな普通の人間、普通の生活の話でいいなら、いくらでも話すよ」
「……! ありがとう」
ぱっと表情を輝かせるアズサ。
「さて、約束のためにも……まずはここを絶対に逃げ切らないとな」