任務を終えてから、数日後の朝。
俺とアズサは、いつもの訓練場ではなく、薄暗い作戦室に教官ロボットによって呼び出されていた。
『――お前たちは今日限りで、別の隊へ移動することになった』
「え、移動? 別にそれは構わないけど、なんで急に、俺たち二人だけが移動することになったんだ?」
『マダムからの直接の命令だ』
「はぁ……。あいつからの命令か。今度は一体、何を企んでるんだ?」
『カオル! マダムには敬意を持って言葉を紡使え!』
「はいはい、分かりましたよ」
隣に立つアズサが、静かに眉をひそめて教官を見据えた。
「……それで、私達はどこへ移動になるんだ?」
アズサが硬い声で尋ねた、その瞬間だった。
コンクリートの床を硬く踏み鳴らす足音と共に、部屋の空気が一瞬にして刺すような冷気へと変貌した。
「――それは、私から説明しよう」
低く、鋭く、研ぎ澄まされた刃のような少女の声。
驚いて振り返った俺たちの視線の先にいたのは、長い黒髪をなびかせ、その腰に禍々しいアサルトライフルを下げた、一人の生徒だった。
「今日からお前たちの教官、そして隊長となる――錠前サオリだ」
(錠前サオリ……。風の噂で聞いたことがある。アリウススクワッドを率いるリーダー。数々の過酷な任務を完璧にこなしてきたと言われている、このアリウス内でも別格、トップクラスの戦闘力を持っているって)
彼女の冷徹な瞳には、数々の死線を潜り抜けてきた本物の『戦士』の光が宿っていた。教官ロボットすら、彼女の登場に恭しく道を譲っている。サオリは俺とアズサを値踏みするように一瞥すると、冷たく言い放った。
「挨拶はここまでだ。準備ができたら出発するぞ」
そう言って、サオリはミリタリーコートを翻して踵を返した。
俺たちはサオリの背中を追って歩き出した。
「後でお前達に紹介したい人達がいる」
移動中、前を歩くサオリがぽつりと呟いた。
「お前以外の、スクワッドのメンバーのことか?」
「そうだが……。私がスクワッドのメンバーだと、知っていたのか?」
「あぁ。あんたのことは名前と、アリウススクワッドっていう最精鋭グループを率いてるってことは、風の噂で知っていたからな」
「そうだったのか……。実は私も、お前のことはマダムや仲間から聞いたことがある。キヴォトスでも珍しい『人型の男子生徒』で、特殊な神秘を持っていると……」
「意外と、俺のこと知ってるやつ多いんだな……」
そんな事を考えていると、サオリが足を止めた
「着いたぞ」
そう言われ、俺たちはサオリたちの隊の拠点へと足を踏み入れた。
「ただいま……」
「おかえりなさい……サオリ姉さん……」
「ヒヨリ、人前ではリーダーと呼べと言ったはずだ」
「あっ、そうでしたね…てすみませんリーダー...…」
「おかえり、リーダー。……その子たちが、新しく入るっていう子?」
「あぁ、そうだ」
「…………」
部屋の奥には、水色髪のオドオドした少女、首に包帯を巻いたマスク姿のダウナーな少女、そして、大きなフードを被りガスマスクをつけた少女がいた。
(これが……サオリ以外の、アリウススクワッドのメンバーか……)
「さっきも言ったが、今日から我が隊に入る新しいメンバーだ。お前たち、自己紹介を頼む」
「俺の名前は、葉ノ宮カオル。よろしく頼む」
「白洲アズサ。よろしく」
「えへへ……カオル君に、アズサちゃんですか。私は鎚永ヒヨリと申します……。私みたいな道端のゴミ以下の存在によろしくされても、不快なだけだと思いますけど……うぅ……」
「……戒野ミサキ。よろしく……」
「…………」スッスッ
最後に、ガスマスクの少女が俺達の前に一歩進み出て、手を器用に動かし始めた。
「手話……? ――っ、手話!?」
(このアリウスの中で、手話を使う奴を、俺はたった一人だけ知っている……!)
「もしかして、アツコか?」
俺が尋ねると、少女はガスマスクの奥で嬉しそうに目を細め、うんうんと首を縦に振った。
「……知り合い、なのか?」
隣から、アズサが不思議そうに視線を送ってきた。
「あぁ、マダムの所に行っていた時に、たまたま知り合った友人だよ。アリウス内にいるとは聞いていたけど、まさかスクワッドのメンバーだったとはな……」
「…………」スッスッ
アツコが再び、楽しそうに手を動かす。
「……ごめんアツコ。俺たち手話分からないから、何言ってるかさっぱり分からん」
「私が説明しよう」と、サオリが割って入った。
「お前は知っていると思うが、この子は『秤アツコ。よろしく』と伝えている。後でお前たちには、アツコと最低限の会話ができるように手話を教えるつもりだ」
「あぁ、分かった。よろしくな、アツコ」
「これで自己紹介も終わりだな。……直ちに任務の準備をし、移動を開始しろ」
サオリの短い号令と共に、部屋の空気が一気に戦闘モードへと切り替わり、全員が迅速に武装を整え始めた。
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任務場所に着いた
「お前達は後ろで私達の動きを観察してくれ」
「ん?何もしなくていいのか?」
「あぁ、まだ会ってから日が浅い。急に私達に会わせろって言っても無理があるからな。だけどお前達も私の隊の人間だ後々お前達も一緒に戦うことになる。だから、今日は私達の動きを見てくれ」
「おーけー」
(まぁ、サボれるしいいか)
そんな呑気なことを考えていたが、直後、戦闘が始まった瞬間にその甘い考えは消し飛んだ。
俺とアズサは指示通り一歩引いた位置から見ていたが、俺は目の前で繰り広げられた光景に、言葉を失って硬直することになった。
(――は? なんだよこれ……、次元が違いすぎるだろ……っ!)
敵の激しい銃撃の雨が降り注ぐ中、先頭を走るサオリが一切の無駄がない動きで遮蔽物を渡り歩き、最前線のヘイトを完全にコントロールする。
「ヒヨリ、10時方向の重機関銃を潰せ」
「は、はいぃっ」
ヒヨリはスナイパーライフルを構えた瞬間、オドオドした気配が完全に消え、凄まじい爆音と共に放たれた正確無比な一撃が、敵の重火器ポジションを文字通り跡形もなく吹き飛ばす。
「ミサキ、右翼から回り込んでくる増援を足止めしろ」
「……了解」
ミサキが気怠げにロケットランチャーの引き金を引く。計算され尽くした放物線を描いて着弾したロケットが、通路を炎の海で包み込み、敵の増援の退路を完璧に遮断した。
さらに恐ろしいのは、アツコの立ち回りだった。
「……ふふ」
アツコはフードを揺らしながら、まるで戦場を散歩でもしているかのような軽やかなステップで敵陣へと突撃していく。死角から放たれた銃弾をアツコが紙一重で躱した瞬間、サオリの銃弾がその敵の脳天を正確に撃ち抜いていた。
鳥肌が止まらなかった。
誰かが動けば、言葉を交わさずとも他の3人がその死角を完璧に補い、敵を確実にハサミ撃ちにしていく。
お互いの視線、呼吸、足音の全てを把握し合っているかのような、芸術的で、血の通わない精密機械のような完璧なコンビネーション。
(別に、コイツらを舐めていた訳じゃない。アリウス内でもその名を聞く最精鋭集団だったから、強いのは知っていた。……だけど、これは予想の遥か上だ……)
(エースのサオリを中心に、アツコが敵のヘイトをかって、ヒヨリが戦車などの大型機械をつぶし、ミサキが広範囲の攻撃で、敵の殲滅と足止めそれを最低限のコミュニケーションで連携)
改めて実感する……もしあの時、アリウス生から逃げられたとしても、アリウスに入ってからこの二年間、もし脱走できてたとしても、コイツらに狙われたら一瞬で捕まってただろう
そんな現実に悲観していると…
「カオル、大丈夫…?」
アズサが尋ねてくる
「ん?あぁ、大丈夫だ。それにしても凄い連携だな……俺達も頑張んないとな…」
「うん、そうだな……!」
そうこうしている内に任務が終わったらしい、こうして俺達はアリウスへと戻った……