地獄(アリウス)に落ちた、普通の男子高校生   作:お茶漬け2

8 / 19
異質なお姫様

「呼ばれるまで、ここで大人しく待っていろ」

 

看守に突き放されるように言われ、俺は肩をすくめた。

 

「はいはい。分かりましたよ……」

 

案内された部屋は、アリウスのボロボロな廃墟群には似合わない、やけに設備の整った綺麗な病室だった。薬品の匂いがかすかに漂う中、俺は近くのベッドに腰を下ろす。

 

(へぇ、ここにもこんなしっかりした医療設備があるんだな。中もかなり清潔だし……)

 

待ち時間の退屈しのぎに周りを見渡すと、棚にいくつかの本や古い新聞が乱雑に置かれているのが見えた。

 

(結構、色んな種類の本があるんだな。ファッション雑誌に、少女漫画、それから童話。……なんだこれ、『分かりやすくて楽しい手話教室』?)

 

なんでこんな不気味な暗殺学校の病室に手話の本があるんだよ、と内心でツッコミを入れながら、俺は直近の日付が書かれた新聞を手に取った。アリウスの外の世界のことはまだよく分からないから、少しでも情報を集めておきたい。

 

パラパラと新聞のページをめくり、とある国際ニュースの記事に目を留める。

 

「えーと……『レッドウィンター連邦学園にて、プリンの配給を巡り大規模なクーデターが勃発』……。いや、馬鹿なのかこいつら。反乱を起こす理由がプリンってどういうことだよ……」

 

あまりにも平和(?)すぎる外の世界の常識に頭を抱えていると――ふいに、すぐ近くから鈴を転がすような優しい少女の声が聞こえた。

 

「新聞、読むの好きなの?」

 

「いや、そんなことはないけど。この世界のことをまだ何も知らないから、勉強がてらさ……」

 

「へえ。偉いんだね」

 

「そうそう、何も知らないままだとさ……って、あれっ!?!?」

 

自然に会話を続けてしまい、俺は息が止まるほど驚いて飛び起きた。

 

「やっと気づいた……ふふ」

 

声のした方向を向くと、仕切りの白いカーテンが静かに引かれ、その奥にベッドに腰掛けた一人の少女が佇んでいた。

 

そこには、白いフード付きのロングコートを纏い、淡い薄紫色の髪をした、どこかミステリアスな少女が佇んでいた

 

 

「おはよう。結構、熱心に読んでいたね」

 

「おはよう……って、今はもうそんな時間帯じゃないけどな」

 

「挨拶は大事だよ」

 

悪びれもせず、ベッドの上で小さく小首を傾げる彼女。

 

(いつからここにいたんだ?まったく気づかなかった…)

 

「最初からずっと、ここにいたよ?」

 

「マジかよ……いや、ナチュラルに心を読むのやめてくれない?」

 

「ふふ、そんな雰囲気が顔に出ていたから。心を読んだわけじゃないよ」

 

「俺そんな分かりやすいのかよ……」

 

「あなたは……葉ノ宮カオル、でしょ?」

 

「なんで、俺の名前を知っているんだ?」

 

俺の問いかけに、少女はクスクスと楽しそうに笑った

 

「フフッ……。それは、乙女の秘密だよ」

 

「なんだそれ……」

 

「ふふ、冗談。本当のことを言うとね、あなた、このアリウスの上の人たちの間では結構有名だよ。キヴォトスでも前例がないほど珍しい『男子生徒』だからね……」

 

「なるほどね……」

 

アツコは澄んだ瞳で俺を見つめ、静かに問いかけてくる。

 

「あなたは……なんで、こんな場所に連れてこられたの?」

 

「被検体としてさ」

 

「被検体……?」

 

「そう。君がさっき言った通り、俺は男だ。この世界には人型の男は俺しかいないらしいし、俺の持つ『神秘』もみんなとちょっと違うらしい。だから、あのババアに実験材料にされてるんだよ」

 

「そうなんだね……」

 

アツコは悲しそうに、頭を少しだけ伏せた。

 

「――そういう君は、なんでここに居るんだ?」

 

「私も……被検体というわけではないけれど、あなたと同じ。少し特殊な血筋らしくて。だから、定期的にマダムに呼ばれて、ここにいるの……」

 

「そうなんだな……。お互い、ロクでもない大人に捕まって大変だけどさ。諦めずに頑張ろうぜ」

 

「うん。そうだね、カオル」

 

お互いの境遇を分かち合い、ほんの少しだけ部屋の空気が柔らかくなった気がした。

 

「そういえば、名前、なんて言うんだ?」

 

「ふふ、まだ名乗っていなかったね。私は秤アツコ。よろしくね、カオル」

 

「アツコか。うん、こちらこそよろしく」

 

「良ければ、アッちゃんって呼んでもいいんだよ?」

 

彼女が確実にいたずらっぽく微笑んだのが分かった。

 

「まぁ~……、気が向いたらね」

 

ガチャリ!!

 

突然、病室の重々しい扉が乱暴に開け放たれた。

 

「葉ノ宮カオル! マダムがお呼びだ、さっさと前へ出ろ!」

 

ガスマスクの看守が、容赦のない声を張り上げる。

 

「おっと……。時間らしいな」

 

「……もう、行っちゃうの?」

 

アツコの美しい瞳が、名残惜しそうに俺の動きを追う。俺はベットから立ち上がり、彼女に笑ってみせた。

 

「どうせまた明日もここに連れてこられることになるからさ。その時に、またたくさん話そうよ」

 

「……うん。そうだね」

 

「おい、何をボサっとしている! 早く行くぞ!」

 

「へいへい、分かってますよ」

 

看守に強引に背中を押され、俺は歩き出す。最後に、アツコへ向けて手を振った。

 

「じゃーな、アツコ。また明日」

 

「うん。また明日、カオル」

 

 

 

そうしてアツコに手を振って別れを告げ、俺は冷たい廊下を通ってマダムの部屋へと向かった。

 

いつものようにいくつか怪しい薬品を投与され、肉体の拒絶反応と再生の激痛を耐え抜いた後、ベアトリーチェは無数の目を細めて静かに言った。

 

「今日の実験は、ここまでといたしましょう」

 

「おお〜、今日はずいぶんと引き上げが早いな?」

 

「私も、この後に処理しなければならない案件がありますのでね。今日はこの辺りで区切りをつけます」

 

「ふーん……」

 

俺は破れた袖を整えながら、部屋の棚に並ぶ、怪しい色をした化学薬品の瓶を盗み見た。そこでふと思いつき、なるべく世間話のような軽いトーンで切り出してみる。

 

「なぁ、マダム。そこに並んでる中でさ、もう使わない余り物の薬品とかって無いの?」

 

「物によりますが……一体、何の話ですか?」

 

「ほら、前に俺の実験の時に使ってた、ちょっとした衝撃を与えるだけで派手に爆発するっていう、あの液体爆弾とか、ああいう、実戦の戦闘に使えそうなやつさ」

 

「あぁ、あの試薬ですか。何個か、倉庫の隅に眠っていますけれど……」

 

「それ、俺にいくつか貰えないか?」

 

「……そうですね」

 

ベアトリーチェは、哀れな子供の浅知恵を嘲笑うようにクスクスと肩を揺らした。

 

「この実験期間が終わって余ったもので良ければ、追々あげましょう」

 

「言ったな? 後になって、やっぱり無しとか言うなよ?」

 

「ええ。その程度の薬品なら、私にかかればいつでも造れますから。あなたのような無力な子供に数本与えたところで、痛くも痒くもありません。……どうせ、あなたのその死ねない肉体を活かした、無様な自爆特攻にでも使うつもりでしょう?」

 

「サンキュー。これで俺の戦闘の幅が広がるよ」

 

部屋を後にして、アズサの元へ帰った

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。