おっす。死んで目覚めたら500年も経ってた外観年齢16才お爺ちゃんチャシク君だぞ。いや全然?死んだじいちゃんの8倍以上も一気に歳とってショックとか全然無いし⁇だからそんな哀れそうにこっち見ないでマーヴィカ。
抜き取られた燃素が元に戻った燃素石の光が部屋を照らす中、やや経って気を取り直した俺は大会後に画策したもう一つのサプライズ演出についてマーヴィカと話し合っていた。
「一応建前こそあれど、ほぼ俺のワガママみたいなもんだからなぁ…悪いな、大会後に時間とってもらっちゃって」
「構わないさ。それに正直に言えば、私も貴方の戦う姿を間近で見てみたいという個人的な願望もあるしな」
「おう。機会があれば君とも是非やりたいな。全身全霊全力全開で!」
ウキウキ顔で俺がそう言うとマーヴィカは目を丸くし、つられて彼女もくすりと笑う。こんな冗談にも笑顔で返してくれてホントにいいコ…あかん、また炎神に対して不敬な事考えるとこだったわ危ない危ない。
「フフッ…私に正面からそんな事を言えるのは、ナタでは貴方ぐらいだろうな」
「まあね!俺ってば根っからの戦い大好き戦闘狂だからさ!目に映る強そうな奴には片っ端から戦い申し込みたくなっちゃうのよ!」
「…それは、龍の力を試したいが為か?それとも———」
「?」
「———亡くなる以前から
「…………………以前の俺について調べたのか?」
「っ…」
俺の生前の情報はもう残って無かった筈なんだがな。俺の死後すぐか、謎煙の主の祭司に調べてもらうかしたのだろうが…なんでそんな申し訳無さそうな顔してるんだ?
「俺が戦いに執着する理由、か。俺の過去を知ってるなら分かると思うけど、病気で戦士として戦えなかったあの時みたいな後悔はもうしたく無いっていうだけの理由だよ」
握りしめられた自分の拳に視線を落とす。
「『力ある者は、それを持たぬ者を守る為にこそ使うべし。その為の自己研鑽は決して怠るべからず』……祖父が口癖の様に言ってた。俺の燃素の力も、俺が戦士になって人々を救う為に天から与えられた授かりものなんだとさ」
俺は指を開いて小さな火を手のひらに生みだすと——
「昔はその言葉を真っ直ぐに受け止めすぎて、強くなる為に思いつく事は何でもやってたな。もっとやりようはあるんだろうけど、俺は今も
——その火に反対の手をかざし軽く振ると、朱色に煌めく小さな竜に姿を変えた。手品のような不思議な光景にマーヴィカは目を奪われる。
「………ほぉ…これは……」
「そんで今。何の因果か超常の古龍の力を与えられて、また此処に帰ってきた。初めは訳わかんなくて混乱もしたし、不安もあったけど……」
その小さな竜を手から飛び立たせると、ヒラヒラと羽ばたいていき
「マーヴィカ、また君に逢えた」
「!」
彼女の肩にふわりと着地する
「今度こそ、故郷を守る為絶対に悔いの無いよう戦い抜け。祖父が俺を見てたら、絶対そう言う気がするんだよね」
「チャシク……」
「そう!戦って戦って戦って戦い抜いて、手足や胴を失って頭だけになろうとも敵の喉笛に喰らいついて死ねっ‼︎ぐらいはうちのじーちゃんなら言うだろうな!」
「うむ、戦闘狂が血筋なのは分かった。さっきの雰囲気返してほしい」
マーヴィカはこめかみを抑えてため息をついた。おかしいな、これって一般戦士マインドだと思って育ったんだけどズレてる感じ⁇
「…まあ、当然俺の鍛練だけが理由じゃ無い。いきなり現れた
「彼女は探し求める答えと協力を私から得、我々は強力な助っ人と民衆の士気も得られる、その為のエキシビションマッチというわけだな。だが……いくら正義感溢れる英雄といえど、貴方との戦いを受け入れてくれるだろうか?」
「大丈夫だと思うよ。初めて俺と会った時に見せたあの目、多分だけど」
「あいつ、俺と同じぐらい戦闘狂だぞ」
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「てな訳で、この条件で炎神様も蛍と話してくれる事になってさ。俺からも頼む、この通り!」
「いいよ」
「いやね、俺もこんなウマのいい話後出しでするのはさすがにどうかと思っえっいいの⁇」
神と龍の問答の後、個人戦にて順調に勝ちを重ねてゆく友達を応援している合間に俺が持ちかけた提案を、いともあっさり蛍は了承した。曰く「丁度運動したい気分だった」との事。うーん期待通りの返事でお爺ちゃん嬉しいぞ。
「頼んでるこっちが言うのもアレだけど…見せ物みたいに俺と戦うのは別に嫌じゃ無いのか?」
「そんな事無いよ?普通に君とは一度戦ってみたかったし。啖呵切って宣言してたチャシクがナタの人達の前で恥かかないかは心配だけどさ」
「へぇ〜〜〜〜〜⁇言うじゃねぇかよぉ…こりゃ大会後が楽しみだにゃあゲッヘヘヘ」
「仲良いなおまえら…お、いたいた。カチーナ!」
「…あ、旅人さんにパイモンちゃん、それにチャシクも!応援ありがとう!」
試合が一区切りし、休憩室に戻っていたカチーナの元へ会いに行くと、彼女はスコアボードと睨めっこをしていた。こちらに気づくと、彼女も笑顔で手をふり返してくる。
「お疲れ様、カチーナ」
「おまえが強敵を沢山倒すところ、みんなでちゃーんと見てたぞ!すごいじゃないか!」
「わたしも嬉しいよ。こんなにスコアを稼げたの、初めて…」
そうそう、あれからカチーナもムアラニも戦績は絶好調だった。特にカチーナは過去最高の個人成績で連勝を続けている。今まで思う様に結果が出ない時期が長く続いたというカチーナが、遂に自らの殻を破ろうとしているのだ。
「この調子なら、ムアラニと二人揃って夜巡者の戦争に行く夢がマジで実現するかもしれないな!」
「……うん、その事なんだけど…」
「調子はどう、カチーナちゃん?」
俺の言葉にカチーナが何か言いにくそうにしている所に、同じく休憩中だったムアラニが合流した。
「お、ムアラニもお疲れ様!流石常連、危なげなく勝ち進んでるみたいだな」
「へへ、まーね!さっきあたしもスコア表見てたんだけど、最後のラウンドで勝てば、カチーナちゃんも『夜巡者の戦争』に参加できるかも知れないよ!…それと、最後のラウンドの対戦相手は……あたし」
「なんだって⁉︎」
「………勝った方だけが夜巡者の戦争に行けるってわけか」
肩を落として俯くカチーナがさっき言おうとしてたのはこの事か。これが試合である以上、こういう事もあるというのはみんな頭では分かっていた事だが、運命ってのは望み通りにはいかないものだ。
「…ついてないね」
「ムアラニちゃん…二人で一緒に行きたかったのに…」
「あたしだってそうだよ。でも仕方ないね、スコアが近い人同士は当たりやすいから」
「……」
まったく、これから最後の試合だってのに。
景気の悪い顔だ。
「………おい」
「え?なにチャシ(ムギュ)ふぁ⁉︎にゃ、にゃにふるのぉ⁉︎」
俺はカチーナに声をかけて顔を上げさせると、彼女の鼻を軽くつまんでやった。いきなりの不意打ちにカチーナは素っ頓狂な声をあげる。
「ハハハハッ!ゴメンゴメン。でもなぁ…カチーナお前、自分は勝ちたいけど、ムアラニが負けて夜巡者の戦争に行けなくなったら申し訳ない…みたいな事考えてないだろうな?」
「!そ、それは」
言い淀むカチーナに、俺は姿勢を低くし彼女に視線を合わせる。
「ムアラニはお前の今までの努力を誰よりも長く、近くで応援し続けてくれた友達なんだろ?だったら遠慮なんて考えるな。自分の努力の成果、思いの丈全部乗せて全力でぶつかる事が、
カチーナは揺れていた瞳を大きく見開き、俺が見上げた視線を彼女も追う。そこには、カチーナに向けて拳を突き出しているムアラニが立っていた。
「あたし達には憐れみなんか要らない。あたしも全力でぶつかるし、カチーナちゃんにもそうしてほしいな」
「ムアラニちゃん……」
カチーナがムアラニに向き直り真っ直ぐに瞳を見つめると
「さ、準備はいい?」
「……うん。ぜ、全力で行くよ!」
彼女も手を伸ばし、二人で拳を突き合わせた。
競技場が観客の大歓声に包まれる中、遂に始まった個人戦最終試合。司会者の実況にも自然と熱が入る。
『大会もいよいよ最終段階だ!誰が出陣のチャンスを手にするのか、この勝負で決まる!』
「いよいよだね」
「……だな」
二人の入場を観客席から応援団三人が今か今かと待ち構える。この試合で、どちらが夜巡者の戦争の栄誉を授るかが決まる。
どちらかが
そう
どちらかだけが———
「「………」」
「……ん、何だ?何か顔についてる?」
やけに隣の二人から視線を感じるな。俺の顔に昼メシの跡でも付いてたか?…待って、もしかして俺そのままでマーヴィカやカチーナに会っちゃってた⁉︎慌てて俺は自分の口周りを手で探る。その様を蛍はニヤニヤしながら見るばかりだ。くっそ何だよその顔!鏡、手鏡は何処かに無いか⁉︎
「ふふっ…違うよ。今の君、
「そーだぞ!これから二人を応援しなきゃなのに、そんな顔あいつらが見たら不安になっちゃうだろ?」
「!」
悪戯っぽく微笑む蛍と腰に手を当てて窘めるパイモンの言葉を聞いて、俺は自分の頬を撫でた。ハハッ、カッコつけた事カチーナに言っておきながら、俺も二人のどちらかが負けるのを見たくないってか。
笑えるな
ドギャッッ!!!
「うわビックリしたぁ⁉︎急に自分殴ったりしてどうしたチャシク⁉︎」
「うしっ‼︎リセット完了‼︎」
「方法野蛮過ぎじゃ無い?まあらしいっちゃらしいけど」
そうこうしてるうちに、遂に二人の戦士が入場してくる。
『盛大な拍手で迎えてくれ!個人最高成績を収めた、こだまの子代表——』
いよいよ始まる。
『カチーナ選手‼︎』
運命の最終試合が。
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「ふぅー……よしっ」
相棒の槍を握りしめると、カチーナは意を決して競技場に入場した。最後の試合とだけあって観客のボルテージは最高潮。割れんばかりの歓声に気圧されていると、
カチーナの目にある観客の姿が目に留まる。
「……カチーナァ‼︎笑え!不安な顔はお前には似合わねぇ!見ろ!こうだこう!俺みたいに笑えぇ‼︎」
「ちょ、チャシク⁉︎血!口から血出てるって!オイ旅人、ティッシュ持ってないか⁉︎」
「ほっといて良いよパイモン」
そこには口から血を流しながら龍の咆哮を思わせる大声で声援を送るチャシクと、その隣を慌ただしく飛び回るパイモン、それを視界から外しながらこちらに手を振る蛍の姿があった。
それを見ていたカチーナは、手にした槍を誇らしげに掲げると
……ンニッ!
言葉では無く、チャシクにも負けない眩しい笑顔で返した。その顔は、不安や躊躇いの晴れた実に清々しいものだった。
「…アハハッ!まだ緊張してるかもしれないと思ってたけど、大丈夫そうだね!」
続いて入場してきたムアラニも、カチーナにつられて満足そうに笑う。しかしその力強い眼差しは真剣そのもの。こちらも全力でぶつかる準備はできているようだ。
「うん。心配かけてごめんねムアラニちゃん——」
両者、武器を構え、
「——今度こそ勝つよっ‼︎」
遂に、戦いの幕が切って落とされた。
開戦一番先手を取ったのはカチーナ。裂帛の気合と共に、正面から一気に距離を詰め槍を薙ぎ払う。
その一撃を冷静に回避すると、ムアラニは素早くサーフボードに乗り水元素を駆使して競技場内を高速で動き回りカチーナを翻弄する。
自らが乗るサーフボードでの攻撃に水風船「プクプクフロート」の投擲も加わり怒涛の攻めに転じるムアラニに対し、「ぐるぐるコマちゃん」に乗り込んだカチーナも落下による範囲攻撃で反撃する。
「(おっと、そう簡単には当てられないよ?)」
ムアラニは攻撃範囲外へ脱出すると更に速度を上げカチーナを撹乱する。追いかけようとするカチーナだが、尚も加速するムアラニの速度にはどうしてもついていく事が出来ない。
カチーナのコマによる範囲攻撃を警戒したムアラニは、自身による直接攻撃を止め遠距離からのプクプクフロートの投擲攻撃のみに絞る戦略に切り替えた。ギリギリで移動しながら攻撃を躱し続けるカチーナをムアラニが追いかけ回す一方的な展開になる。
「(くぅっ…このままじゃ…!)」
「(…反撃される前に、ここで決めるっ‼︎)」
まるで生きた本物のサメの様な高いジャンプで勢いをつけ最高速度に到達したムアラニは、そのままカチーナへ向け全力の突撃を敢行する。
「…君に———」
「っ‼︎」
「———幸あれぇぇ!!!!」
ドッゴオォォォンッ!!!!
元素爆発「爆瀑ロケット」
カチーナの乗るコマに直撃し水元素を伴う大爆発が起こる中、ムアラニが離れた場所へ鮮やかに着地を決める。
手ごたえあり
自信に溢れたムアラニの表情は
「……はあぁぁぁ!!!!」
「っ‼︎」
爆風の中から躍り出た、岩元素により巨大化したコマを手にしたカチーナの姿を見て驚愕に塗り替えられた。
「(あたしの元素爆発の勢いに乗って飛び上がった⁉︎)」
「これはっ、お返しだよ‼︎」
未だ技としての名も無い、しかし彼女の岩元素を限界まで込めた渾身の一撃は———
ズッドオオォォォンッッ!!!!
———ムアラニの放った技に匹敵する威力で競技場全体を揺らすほどの大爆発を巻き起こした。直撃はどうにか免れたムアラニも無傷とはいかず、衝撃で吹き飛ばされてしまう。転がりながら冷静に体勢を立て直し——
「…っ、やるねカチーナちゃ」
——故に技を放った張本人を見失う。
「ごめんっ…‼︎」
「なっ⁉︎」
ガキイィィン!!!
視線が外れた一瞬の隙を突きムアラニの背後に回り込んだカチーナが放った槍の一撃により
勝負は決した。
…ウオオォォォォッッ!!!
一瞬の静寂の後、観客の大歓声が一気に湧き起こった。
「…っ‼︎」
その音に槍を持ったまま立っていたカチーナが我に帰る。仰向けに倒れたムアラニの姿が目に入るや否や、槍を投げ捨て大急ぎで駆け寄り慎重に抱き起こす。
「……んぅ…カチーナちゃん?」
「!……ぅ……ひぐ……ごめん…ごめんねムアラニちゃん…」
ムアラニが目を覚ましたのを見たカチーナは、堰を切った様に涙が溢れ出した。戦いの最中、ずっと勝利への渇望と親友を傷つける恐怖の間で揺れ動き続けていた想いが、心から溢れてしまったのだ。
涙を流し嗚咽混じりに「ごめん」と謝り続けるカチーナに微笑みかけ肩に手を添えると、ムアラニは
止まらない涙を拭いながらカチーナが顔を上げると、その先には花火と紙吹雪が舞う中、万雷の拍手でカチーナを讃える観客達、炎神様、そして友人達がいた。
「勝者は———」
「———こだまの子、カチーナ選手‼︎」
「ようカチーナ!ムアラニ!二人ともお疲れ様。すっごい勝負だったな‼︎」
個人戦後の任命式と挨拶も終わり、観客席にやってきた二人をパイモンが迎えた。例年の帰火聖夜の巡礼ならこれで終わりなのだが、今回はまだ特別なイベントが残っているとの事だった。
「うん!応援ありがとうねパイモンちゃん!」
「いやー悔しいなぁ…カチーナちゃん本当に強くなったね!あたしもびっくりしちゃった…あれ、旅人とチャシクは何処行ったの?」
「ムフフ…今に分かると思うぜ?」
ムアラニの疑問に訳知り顔でパイモンが笑みを浮かべていると、丁度炎神による説明が入った。
「我々が用意した、二つ目のサプライズイベントだ。これより、特別なゲスト
マーヴィカの声に呼応し入場門が開き、金に輝く髪を靡かせ一人の少女が入場してくる。
「積み上げられた偉業と名声は数知れず!今やテイワットにその名を知らぬ者無し!彼女こそ、世界をまたにかける異邦の旅人こと『蛍』その人である‼︎」
会場中の観客が興奮に沸く中、「悪くない」とまんざらでも無い表情で手を振り歓声に応える蛍。こういう場の雰囲気にもこれまでの旅ですっかり慣れたものだ。
「対するは、我が眷属にしてナタの守護龍!楽園の赤翼こと、古龍『チャシク・ララミディア』である‼︎」
続くマーヴィカの紹介と共に、開会式の時と同じく上空よりチャシクが派手に着地し大量の土煙を巻き上げる。その中から巨大な古龍———
「ふぅ、キマッたぜ」
「…あれ?あの姿は…チャシク・ララミディア様なのか?」
「人の姿に変身した?……もしかして」
「本で読んだのと同じだ!あの御姿で試合をなさる気なんだ!」
——ではなく少年の姿で民衆の前に現れた。顔の前で煙を手で払いながら、蛍は不思議そうに尋ねる。
「ケホッ…その姿で私と戦うの?」
「おう。こっちの方が古龍の姿よりもお前と公平に戦えると思ってな」
「気遣いは嬉しいんだけど…てっきり私はドラゴンの君と戦うものだと思ってたから、ちょっと残念かな」
若干テンションの下がった蛍の正直な言葉を聞いたチャシクは、目を瞬かせると快活に笑いながら理由を説明した。
「気遣い?ハハハッ!違う違う。俺が古龍の姿で全力で戦って……うっかりお前を
「…………へぇ」
蛍の中で消えかかっていた火に、燃料が投下された。
「それに、俺がこの姿になって古龍の時より弱くなってると思ってんなら…痛い目見るぜ?」
そう言うとチャシクは虚空から炎燻る
「…戦士諸君‼︎今大会における皆の熱き闘争、実に素晴らしいものであった。我は今回参加こそ叶わなかったが…この試合、帰火聖夜の巡礼の定石に従い我も皆と同じこの姿で挑むことに決めた」
チャシクは朗々と声を響かせながら観客席を指し示し、周囲をぐるりと巡らせ——
「今大会、まだまだ伸びる余地を残した者達が数多く見受けられたのもまた事実。諸君にはこの我の闘いをしかと目に焼き付け、良き刺激と士気としてもらいたい。次は我が、皆に熱き闘争を見せてやる番だ!そこな異邦の旅人に、我らナタの戦士の流儀を教えてやろうぞ‼︎」
ウオオォォォッ!!!!
——最後に目の前の対戦相手を指し示し、一斉に観客が沸き立った。
「……ふうん、やる気出てきたかも」
「な、なんか…二人の間ですごい火花散ってるのが見える気がするんだけど…」
胸を逸らし指を差すチャシクと、それを受け眼光鋭く彼を見据える蛍。両者の周囲に漂うただならぬ雰囲気に、顔を青くしたカチーナが冷や汗を流しながらパイモンに尋ねるが、
「おうやっちまえ旅人!おまえの実力を見せつけてやれぇ!」
「二人ともバッチバチみたいだねぇ。これはすごい戦いになるかも!どっちも頑張れーっ‼︎」
パイモンもムアラニもボルテージMAXで応援していたため、カチーナは苦笑いすると応援に専念するべく思考を切り替えることにした。
「今回の試合は帰火聖夜の巡礼の個人戦公式ルールに準拠する。公平を期す為、チャシク選手には古龍への完全変化は禁止とさせてもらう」
説明を一度区切るとマーヴィカは玉座から視線を送る。それを受けたチャシクは事前の打ち合わせ通り競技場の壁に手を付き、一気に燃素を送り込む。すると朱色を帯びた半透明の壁が競技場と観客席を仕切る様に展開された。
観客がその様子を不思議そうに見ていた時、突如チャシクが両手剣を壁に向けて勢いよく振るった。衝撃が轟音と共に会場に響き渡るが、防壁は傷一つ付かず客席から感嘆の声が上がる。
「強度は見ての通りだ。安全の為試合中はこの防壁を展開した状態で戦ってもらう。二人には周囲を気にすることなく、存分にその力を振るって欲しい。……さて、説明は以上だ。質問や異議が無ければ、始めても構わないかな?」
全ての説明を終えたマーヴィカは、尚もお互いを好戦的な目で睨み合う両者を愉快そうに眺めながら声をかけた。
「ああ。蛍、お互い良い試合にしような!さっきはああ言ったが…もし必要になれば、俺も古龍の力をお前に
「……自信満々なのは結構だけど———」
「———強い古龍っていうのは、時に自分の大きすぎる力に焼かれて負ける事もあるんだよ?」
片手剣を取り出した蛍の言葉と真っ直ぐに射抜くような眼差しに
「…………………」
チャシクの笑顔が、消える
「では………両者、構え!」
蛍が剣を前方に向け低く構え
チャシクは先の姿勢から直立不動で動かぬまま
「—————始めっ!!!!」
マーヴィカによる開戦の合図が、競技場に鳴り響いた。
帰火聖夜の巡礼個人戦公式ルール
・時間制限無し
・戦闘不能になったら負け
以上っ!