人龍漫遊記 〜古龍にうまれかわったら〜   作:newnew

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 今作品の旅人、戦い方がゲームに比べてだいぶ無法です。



十一話:エキシビションマッチ(前編)

 

 

 

——み、見たかレフア⁉︎今この子、一人で燃素ランプを点けて見せたんだぞ!立つより先に燃素の扱いを覚えてしまうとはな!

 

 

——まあ、可愛らしいクク竜じゃない!でもダメよ、勝手に連れ帰ってきちゃ。何処から……えっ、あなたが燃素で作ったですって⁉︎

 

 

——よく聞けチャシク。お前のその燃素の力があれば、将来儂など軽く超える戦士になる事も夢では無いだろう。だが覚えとけ。力とは大切なものを守る為に必要なものだが、その扱いを誤り呑(・)ま(・)れ(・)れ(・)ば持ち主を焼く炎ともなる。たとえそれが勇敢な戦士や——

 

 

 

 

 

 ——偉大な古龍であってもな。

 

 

 

————————————————————————

 

 

「………焼かれる?俺(龍)が?」

 

 

 一瞬。ほんの一瞬熱の消え失せた表情はしかし、先程まで浮かべていたいつもの笑顔へと戻り、頭をぽりぽりと掻きながら視線を落とす。

 

 …気に障ったかな

 

 いや、今考える事じゃ無い。戦いに不要な思考を一旦隅に追いやると、私は構えを維持したままチャシクの初撃を待つ。手(・)筈(・)通(・)り(・)に(・)。

 

「そりゃ恐ろしい———」

 

 チャシクは肩をすくめながら地面に刺さった槍の刃を足の指でつ(・)ま(・)み(・)引き抜くと、

 

「———なっ‼︎」

 

 ドゴッッッ!!!!

 

 槍の石突を蹴り飛ばし、こちらに目掛けて轟音と共に発射した。まさかの使い方に面食らったが、弩砲と化した槍を身を捻って回避すると、目線を前方に戻し

 

 

 眼前まで迫った両手剣と、凄惨な笑みを浮かべる持ち主の顔が目に入った。

 

 受け止めるのは…無理か。

 

「"雷纏(らいてん)"」

 

 半ば紫電と一体化し移動速度が底上げされた私の体は、瞬きの間にチャシクの背後に回り込む。両手剣が空振り隙を見せた所に斬撃を浴びせようとするが、

 

 あれ、視線切った筈なのに私と目が合ったままだ。

 

「逃がさねぇぞぉ!」

 

 空を切り地面に刺さる直前、両手剣の軌道を強引に捻じ曲げ逆袈裟に振り抜いてくる。攻撃を諦め咄嗟に身を屈めると、頭上ぎりぎりを暴風が掠めた。

 

 このままあの両手剣の追撃が来る前に私は距離を詰め一気に斬り込むが、チャシクは逆手に握りしめていた片手剣で防御。相手が反撃できないよう一歩踏み込み、連撃へと繋げてさらに攻め立てる。

 

 右に両手剣左に片手剣の異形の構え。恐ろしいのは、一連の剣の動きを全て片手のみで行なっている事。さっきの私の動きを苦も無く追える動体視力といい、身体能力はとても敵わない。

 

 でも両手に剣を持つチャシクの戦い方では、振り方や動きに必ず無理が生じる。距離を詰めさえすれば、片手が空いている分私の方が動きに余裕がある。私の方に有利があるはず。私の、方が………

 

「きつそうだな?」

「…っ!」

 

 ……崩せない!剣技以前に防御が物理的に硬すぎる。まるで相手の重心が地の底にあるような……こういう状況になれば、普通防御している側は敵の攻撃を崩して反撃を試みるけど、チャシクにはその様子は無い。私の踏み込みに合わせて後退し、剣撃を尽く片手剣の腹でただ受け止めるだけ。十数合打ち込んだのにも関わらずチャシクは両手剣を肩に乗せ直して使いすらせず息も上がっていない。

 

「雷光は比類無き速度を齎(もたら)し、刹那を永遠に引き延ばす……だったか」

「——?」

 

 不意にチャシクが言葉を零したと思えば、突然背負っていた両手剣が空中に放り上げられた。

 

 両手剣の攻撃を警戒していた私は、一瞬僅かに視線を引かれる。

 

「…だが、まだ足りない」

 

 次の瞬間、右手に手放した筈の槍を握りしめたチャシクが腰を落とし踏み込んでくる姿を目の当たりにした。

 

 放った槍を回収するべく移動さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)のを悟ると同時に、体重を乗せた渾身の一文字突きが放たれた。辛うじて剣で防いだが威力を受け流せず、せっかく詰めた距離が一気に離される。

 

「——っぐぅ!」

 

 せめて一撃

 

 私は後ろに押し出されつつも片手剣に雷元素を流し込み、槍を遥かに上回るリーチを上乗せて横薙ぎに振るった。大丈夫、これなら十分届く。

 

「届かないよ。…ふんっ‼︎」

 

 ガキイィィンッ!!!

 

 チャシクは空中に飛び上がると槍を地面に投げつけ、私の伸ばした刃を大地に縫い付け中程からへし折ってしまった。

 

 ……苦し紛れとはいえ、これでも不意を突けなかった。空中で掴んだ両手剣を再び肩に乗せ突き刺さった槍の石突に器用に着地しこちらを見下ろすチャシクを、私は睨み上げる事しかできない。

 

「こんなもんじゃ無いだろ?次(・)だ(・)」

「…………」

 

「見せてくれよ。蛍の本当の実力を」

 

 ………漸く合(・)図(・)が出た。行儀の良いふりはここで終わり、やっと私本来のやり方で戦える。

 

 

 

 元素併用を、解禁する。

 

 

 

 

 

「…チャシク、凄い……」

「オイラ、あそこまで旅人が苦戦してるの久しぶりに見たぞ…ていうか何だよアイツの戦い方⁉︎武器三つ使えるとは言ってたけど、まさか全部同時に使うなんて滅茶苦茶だろ!」

「だね。チャシクが使い方を教えられないって言ってた意味が分かったよ。あの戦い方は流石に真似出来ないかな…」

 

 客席で応援していた三人全員チャシクが相応の実力者だという事は理解していた。そのつもりではあったが、同時に真の強さはあくまで人では無く龍化してこそだと、心のどこかで思っていた。

 

 しかし蓋を開ければその強さは旅人を全く寄せ付けぬ驚異的なものだった。これまでの旅人の戦いを間近で見てきたパイモンが察するに、チャシクの素の身体能力だけなら執行官にすら匹敵すると思わせる程だ。

 

「……いや、大丈夫だ。まだ旅人は雷元素しか使ってない。あいつが本気を出せば絶対———」

「そう上手くはいかないかもしれないぞ」

「——え?……あ、キィニチじゃないか!」

 

 不意に後ろから掛けられた声に振り向くと、飲み物を片手に持つアハウに続いてキィニチがやって来た。だが彼等の眼は油断なく競技場で戦う二人を見つめたままだ。

 

「あいつの強さの本質は燃素による圧倒的な手数だ。旅人がもし別の元素も使って優位に立とうとすれば、必ず燃素で対応されてしまう。……勝ち筋があるとすれば、元素力と違って燃素はナタの土地由来の有限な物でここでは回復手段が無い。ここまでチャシクが燃素武器を使って無い所を見るに、いくらあいつでも無駄使いは出来ないんだと思う」

「そうか!旅人がチャシクに力を使わせるよう立ち回って燃素切れにできれば……!」

 

「けっ、んな訳ねぇだろ?」

 

 旅人の勝機を見出していたパイモンに冷や水をかけるような嘲笑が、横から飛んでくる。その声の主は視線をこちらに向ける事なく朱色の盃でジュースを煽っていた。

 

「な、なにおぅ⁉︎旅人はそう簡単に負けたりしないぞ!」

「アハウ、どういう事だ?」

「ったく、この防壁を維持しながら戦えてる時点で奴が燃素切れを起こす筈ねーだろーが。お前らあのバカげた燃(・)素(・)量(・)が見えてねぇのか?」

 

 アハウは愚問とばかりに防壁をコンコンと叩きながらパイモン達を一瞥すると、すぐに戦いの場に視線を戻し、

 

 

「(……一体何食って生きてやがったらここまで燃素を蓄えれるんだ?)」

 

 

 天(・)に(・)も(・)届(・)き(・)う(・)る(・)程(・)に(・)立(・)ち(・)昇(・)る(・)燃(・)素(・)の(・)柱(・)を前に、ファンシーなサングラスの奥に畏敬と関心の光を揺らめかせながら、

 

 

「あんなチビでも、力だけは本物の古龍ってわけか」

 

 

 アハウは独りごちながら盃を傾けた。

 

 

 

 

 燃素を体内にどれほど保有しているか。それを対象に触れず一目で計る事が出来る者はこのナタにおいても一握りしかいない。

 

 太古より続く由緒正しき古龍の系譜、現世の七執政の一柱たる炎神、悠久の時を生きる大シャーマン——

 

「(………参ったな、これじゃ減ってるかどうかすら分からないや)」

 

 ——そして、このテイワット全土を見回しても稀有な能力である"元素視覚"を持つ者。微量な燃素を見極められる程の能力は持たない蛍ですら、これだけ膨大な量の燃素を間近にすれば嫌でも思い知るというものだ。

 

「いいよ。お望みに応えてあげる」

「おうっ!」

 

 この時点で蛍は、相手の燃素切れを待つ戦法は無理だと既に割り切っていた。だがしかし、彼女もまた幾多の困難を乗り越えてきた傑物。いくらこの試合がある程度台(・)本(・)に(・)沿(・)っ(・)た(・)物とはいえ———

 

「防(・)げ(・)な(・)い(・)攻(・)撃(・)に切り替えるね」

「おうっ!………へ?」

 

 ——蛍にも意地があった。

 

 

————————————————————————

 

 試合開始前ー

 

「…ターン制バトル⁇七星召喚みたいな感じ?」

「ごめん俺そのゲームはちょっと分からないなぁ」

 

 エキシビションマッチの流れは、大まかではあるが事前に当事者達の間で打ち合わせが行われていた。まず開幕から能力を用いない武器のみ戦う。頃合いを見てチャシクが合図をし、蛍は元素、チャシクは燃素を解禁し見栄えの良い派手な技を交互に撃ち合うといった流れであった。

 

「これは殺し合いでも帰火聖夜の巡礼を賭けた試合でも無い。あくまでナタの戦士たちの良い手本となり、皆の士気を上げる事が目的のエキシビションマッチだ。なるべく盛り上げたいから技は派手なほどいい」

「OK。…ところで最終的な勝敗はどうする?やっぱりチャシクが最後には勝つ感じにするの?」

「ん?特に決めてなかったんだけど…なんだ勝たせて欲しいのかなぁ?大口叩いてた英雄様が弱気じゃないですかケッケッケあっ待って帰ろうとしないでゴメンって」

 

 入場門とは反対側にスタスタ歩き始めた蛍を腕を掴んで引き留めると、眉間に皺を寄せた表情で振り返る。

 

「心配しなくていいよ。最後は互いの顔が立つ様に俺が〆てやるから気にせず暴れてくれ。そんでもし蛍が『勝てるかも』と思ったら遠慮なくぶっ潰してくれても文句は言わない。それで負けるようなら、俺もそこまでの男だったってことだ」

 

————————————————————————

 

 

 蛍には、チャシクに予定通り〆させる気は最初から無かった。たとえエキシビションとはいえ試合は試合。顔を立てる為に手加減されるなど、彼女にとっては到底受け入れ難いものだった。

 

「(なら、遠慮なく…!)」

 

 かつて苦楽を共にした唯一の肉親に「貰い手ができるかお兄ちゃん心配だよ」と言わしめた程に、蛍は筋金入りの負けず嫌いだった。

 

 ドッッ!!!

 

「(っ⁉︎速い‼︎)」

 

 身体からの紫電に加えて足元から強力な風(・)元(・)素(・)を発する蛍が何気なく踏み込んだ一歩は地面を荒く抉り、砂利と音を置き去り彼女の姿がかき消えたようにチャシクには見えた。

 

 背後。今度ばかりはチャシクの目には追い切れなかった。

 

「"雷霆(らいてい)"!」

 

 ドゴオオッッ!!!!

 

 放たれたのは周囲一帯を焦がす特大の雷(いかずち)。槍の上から飛び降りたチャシクは掠める程度で済んだが、丁度避雷針の如く立っていた所に攻撃が落ちた為槍は黒焦げになり使えなくなってしまった。

 

「お、俺の300モラー!?!?」

「お金事情ひっ迫しすぎでしょ!ごめんね!」

 

 おニュー槍の変わり果てた姿に悲痛な叫びをあげるチャシクは——

 

「……なんだアレ」

 

 ——いつの間にか蛍の周囲を回る紫(・)電(・)を(・)帯(・)び(・)た(・)石(・)に気付き、眉を顰めた。

 

「避けてみて。………"勾玉"!」

 

 蛍の声に呼応する様に、周囲の勾玉が輝きを放つと一斉にチャシク目掛け殺到した。紫の軌跡を残しながら高速で飛来するそれは、いずれも濃密な雷元素を秘めていた。

 

 即座に戦士の表情に戻ったチャシクは左の片手剣を低く構えると、最初に到達した勾玉を難なく斬り飛ばし——

 

 ズッドオオォォンンッッ!!!!

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃあ!?!?」

 

 ——勾玉を破壊した剣から体を貫かれるような衝撃がチャシクを襲った。足をふらつかせながらも踏ん張ると、後から飛んでくる勾玉を回避すべく走り出した。

 

 足の回転速度は一瞬で最高点に達し、攻撃から距離をとるべくみるみる加速していった。しかしどうしたことか、高速回転しながら飛来する勾玉は競技場の端を弧を描くように駆けるチャシクにピッタリと追従し、引き離せないのだ。

 

「(クソッどうなってやがる!もしや蛍が遠隔で操作して……ん?あいつどこいったんだ⁇)」

「ここだよ」

「っ‼︎」

 

 チャシクの注意が逸れた隙に逃走経路の軌道上に蛍が先回りした事で、背後の勾玉と挟み撃ちの形となった。剣を構え正面から立ち塞がる蛍を突破しようと両手剣を横薙ぎに振るうと、それを片手剣で防がれ——

 

 ズッドオオォォンンッッ!!!!

 

「デジャビュビュビュビュビュウ!?!?」

「無駄だよ。私の"雷霆"を食らったんだから」

 

 ——またも先程と同じ電撃がチャシクの体を強かに打った。この雷元素の攻撃は勾玉によるものでは無く、蛍があらかじめ命中させていた元素爆発"雷霆"による効果だった。

 

 これを受けた者には雷元素が付与され、攻撃が当たると同時に追加攻撃が発生するというもの。しかも攻撃を防いだとしても僅かな衝撃で発動し回避も不可能という、威力が一撃必殺とはいえない点以外は凶悪極まりない性能を誇った。

 

 加えて蛍が放った"勾玉"はチャシクに付与された雷元素に引き寄せられており、命中するか彼女が解除するまで永遠に敵を追い回す代物と化していた。

 

「『戦士の性格は戦い方に出る』って何処かで聞いた事あるが、なるほどこの威力と追尾の執拗さ…腑に落ちたぜ」

「あ、まだ余裕ありそうだね。物足りないならもう何セットか増やす?」

「やっっっっべ、余計な事言っちゃった⭐︎」

 

 チャシクはこの勾玉を蛍からの直接攻撃と合わせて防御もできずに、雷霆の効果時間が切れるまでひたすら逃げ回るしか無くなったのである。状況を打開できるとすれば……

 

「(使いなよ、燃素)」

 

 蛍はそう心の中で呼び掛けながら、勾玉を容赦なく次々追加してゆく。3発、6発、9発…最初に放ったものと合わせて合計11発。未だ雷霆の効果時間中のチャシクが追い回されている間、蛍は次の一手に取り掛かる。胸元の装飾が緑色に変化すると、おもむろに片手剣を地面に突き立てた。

 

「"臥草若化"」

 

 するとそこに草元素で構成されたオブジェが顕現した。大きなキノコにも見える草元素で構成されたその名は「草蓮灯」。設置されると周囲に緑色の円が競技場の半分ほどに広がる。そこにすかさず蛍は操る元素を水に変え草蓮灯を水元素を含んだ手で軽く触れる。するとその効果範囲が更に広がり競技場全体を覆うまでになった。

 

「(アイツまだ何かするつもりか‼︎邪魔してやろうにもこの勾玉が振り切れない上に防御も封じられた今の状況じゃ……)……ありゃ⁇」

 

 思案しながら後方に視線をやると、それまで執拗に追いかけてきていた勾玉が不意に勢いを無くし次々と落ち始めたのだ。

 

 それは、"雷霆"の効果時間の終了を意味していた。

 

 チャシクはその様子を見届けるや否や片手剣を地面に突き刺し、それを軸に走る軌道を無理矢理に曲げると、こ(・)ち(・)ら(・)に(・)人(・)差(・)し(・)指(・)を(・)向(・)け(・)た(・)蛍目掛けて一直線に突っ込んでいった。

 

「攻守交代だ。覚悟しろよぉ?」

 

 凄まじい速度で蛍に迫るチャシクが、防戦一方だった鬱憤を晴らすべく渾身の力を両手剣に込めた時

 

 

 "草蓮灯"が蛍の手によって起動し、草元素がチャシクの足の裏で炸裂した。

 

 

 ボンッッ!!!

 

「うおっとと⁈」

「正面から突っ込んでくるとはね。君らしい」

 

 地面が吹き飛びたたらを踏んだ所に正面から無数の青い弾幕がばら撒かれ、チャシクはやむを得ず両手剣に隠れる様に防御をとった。

 

「……?な、何だ今の」

 

 飛んできた弾丸は剣に当たるとパシャパシャと水のように呆気なく弾けてしまい大した威力は無かった。拍子抜けしたチャシクが剣の陰から前方を伺おうとした時、自分の周りに見慣れない種のような物が大量に転がっているのに気がつき、動きが止まる。

 

「(………いや違う、見た事がある。じーちゃんに小さい頃教えてもらったはず。確かこれは)」

「よそ見し過ぎ」

 

 ドゴオオッッ!!!!

 

「(ぐうぅ⁉︎また食らった‼︎)」

「(…………戦ってる間ずっと違和感があったけど、やっぱりそうだ)」

 

 二度目の雷霆を今度はまともに受け片膝をついたチャシクから視線を外さず距離をとりながら、蛍は戦闘中に感じていた違和感の正体に気づいた。

 

「(彼は、元素を使う人間との戦闘経験がゼロなんだ)」

 

 神の目を持つ者同士の戦闘中、敵が操る元素による攻撃はなんであれ元素で守りもせずに生身で触れてはいけないのが常識だ。

 

 なのに彼は蛍からの元素攻撃を正面から突破しようとしたり、あるいは未知の元素反応に理解が及ばず動きが止まってしまう。本人は非常に高い戦闘力を持ちながら、それ程の実力者なら有して当然の元素の危険性に関する知識と経験がすっぽり抜け落ちているのだ。

 

 ち(・)ぐ(・)は(・)ぐ(・)な狂戦士。それが蛍の彼に対する率直な印象だった。どんな人生を歩んでこの様に歪な戦士が形成されていったのか、"勾玉"を召喚した蛍は少しだけ興味を引かれていた。

 

「まあ、それは私が勝った後にでも聞こうかな」

「っ‼︎二度と食らうか………あ」

 

 そこでチャシクはようやく、周りに転がっていた種の変化に気づいた。雷霆の余波を受けたすべての種が一斉に弾け、中から草元素の色に輝く光弾が空に向けて一斉に飛び出したのだ。

 

 戦闘をひと時忘れる程に美しい翡翠の彗星達。それが天高く舞い上がると空中で静止。次の瞬間、上昇時の数倍の速度で落下を始めた。

 

 チャシクの脳内で全力の警鐘が打ち鳴らされる。身を翻し逆方向へ駆け出そうとして——

 

「………………うそん」

 

 ——地面に落下した筈の勾玉が光を取り戻し浮かび上がるのを見てしまった。

 

 

 前後合わせて勾玉14個、及び空中の草原核弾22発。

 

 

 

「……ああ、これが」

 

 

 

 回避は

 

 

 

 

「超開花ってやつか」

 

 

 

 

 する気にもならなかった

 

 

 

 

 

ドゴゴゴゴオォォォォッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 最初に客席から上がっていた大歓声は今やすっかり静まり返り、競技場を揺さぶる程の大爆発を受けた彼が一体どうなったのか、観客全員がその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

 ある者は旅人の勝利を確信し

 

 

 ある者はチャシクの無事を祈る

 

 

 

 

「…………勿体ぶりやがって」

 

 

 

 

 そしてまたある者は、サングラス越しに———

 

 

 

 

「………………始まるか」

 

 

 

 

 ———これから起きるであろう未来を見通していた。

 

 

 

 

 

 自分で言うのもなんだが、楽な割に強力だなとつくづく思う。超開花の爆発によって巻き上げられた土煙の中心を見つめながら、私は片手剣を低く構えたまま様子を伺っていた。

 

 以前コレイと実戦に則した模擬戦をした時に規模は小さいが同じコンボを使い彼女をマジ泣きさせてしまった事がある。あの時はティナリにも手伝ってもらい、三日間かかって漸く機嫌を直してくれた。正直反省してる。

 

 だが彼にはこのぐらいの火力が必要だ。私の"雷霆"は一発でドラゴンスパインのイノシシ王を昏倒させる程の威力がある。それを二発受けて難なく立ち上がれるのはタフなんてレベルを超えている。カチーナとの特訓の際にも使っていたあの燃素のガードを破るには

 

 

 

 

 

 

「水球は千変万化の術(すべ)を齎(もた)らし、罪人に適する法罰となる」

「!」

 

 

 ………ズクリ

 

 

「草木は万物の可能性を齎(もた)らし、進化の枝葉は終(つい)に実を結ぶ」

 

 

 ……ズクリ

 

 

「いやぁ驚いた。草と水、そして雷の三位一体『超開花』。実際に受けたのは初めてだけど、いやはやじーちゃんの言ってた通りえげつない威力と性能だな」

 

 

 …ズクリ

 

 

「良い経験になったよ…………蛍」

 

 

 

 ズクリッッ

 

 

 

「勝(・)つ(・)つ(・)も(・)り(・)か(・)?(・)」

 

 

「……っっ‼︎」

 

 

 同じだ。カチーナを酷く罵られたあの時。すぐ隣で一瞬感じた、大(・)気(・)が(・)捻(・)じ(・)曲(・)が(・)る(・)ようなこの圧力。汗が一気に噴き出る。喉奥が痺れて渇く。自然な呼吸が思い出せない。

 

「超開花による大量の追尾弾幕で俺に反撃させずに押し切るといった算段か。悪くは無いが…………………見立てが甘かったな」

 

 何でも無い事のように笑顔で話すチャシクの細められた瞼が不意に開くと同時に、今までぼんやり見えていた立ち昇る燃素が突如彼の全身から一挙に吹き出し私の眼を灼いた。

 

「………今まで、全く燃素を使ってなかったの?」

「そう……て言ったら嘘になるな。俺の身体は何もしなくても絶えず微量の燃素が流れ続けてるみたいでな。戦闘用の『燃素加速(ヴェラ・ウィキ)』『燃素具足(ヴェラ・パレキラ)』はたった今発動した。お前にも、見(・)え(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)ろ(・)?(・)」

 

 思わず乾いた笑いが漏れた。あの反射速度も、圧倒的な膂力も、岩の如き打たれ強さも、全て自前のものだとでもいうつもりなのか、この少年は。

 

 今私の目の前に在るこの姿のチャシクこそ、彼本来の姿なのだろう。

 

「勿論弱点もある。大量の燃素を体内で流し続けるこの能力には時間制限があって、永遠には続かないんだ。そうだな……3分がいいとこかな?」

「………それ、私に教えたら時間一杯まで逃げられて負けちゃうとは考えないの?」

「ハハッ!テイワットに名を轟かせる英雄サマがそんな狡(こす)い戦い方する筈無いだろう?蛍には望み通り、全力で反撃してもらおうじゃないか」

 

 能力を開放した今のチャシクを相手にして、さっきの様な楽な戦いはまず望めないだろう。でも、彼の話が本当であれば活路はある。要は3分の間本気で正面からぶつかり合い最後まで私が立っていられたら勝利という、実にシンプルで分かりやすい提案を彼は持ち掛けているんだ。

 

 今まで出会い戦ってきた以上の強者、そして天理と戦う時がこの旅の先に必ず来る。

 

 本物の古龍と手合わせが出来るなら、この貴重な機会を逃す手はない。

 

「いいよ。私の本気が望みなら……見せてあげる」

「なら決まりだ…………構えろ」

 

 陽炎の向こうに佇むチャシクは私の返事に満足そうに頷くと、両手に持つ剣をそれぞれ左右に大きく広げるように構えをとった。その翼(・)を(・)開(・)く(・)様な独特の構えが、昨日初めて会った際の彼の姿に妙にしっくりと重なった。

 

 

「お前に見せよう。古龍の力、その深淵を」

 

 

 力の放出が、熱が高まっていく。

 

 

 

 戦士との戦いは終わり

 

 

 

 

 古龍との戦いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして思い知るがいい。全財産を叩いて買い揃えた我が半身(新米の長槍)の喪失、その痛みをなぁ!!!!!」

 

「台無しだよ」

 

 

 

 

 




一文無し→キィニチから銭貰う→高性能鞄買って一文無し→初仕事で収入入る→折った両手剣の弁償代+武器三種の購入(900モラ)→一文無し←イマココ

旅人ムービー内ではあれだけ好き放題元素を使ってるし、これぐらい出来るよねということで。

次回、主人公による反撃開始です。
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