ゾンビ公認:この人間は食べられません   作:めぇ

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第13話:三つ巴の観測崩壊『解釈の分裂』

 

観察チームは、三つに割れていた。

 

それは意図された分割ではない。

議論の結果でもない。

 

気づいたら、そうなっていた。

 

同じシェルターの中で、同じ対象を見ているはずなのに。

 

 

 

 

会議室は一つだった。

 

だが空気は三つに分かれていた。

 

奥の席。

中央の席。

端の席。

 

誰もそれを言語化しないまま、当然のように座っている。

 

 

 

 

第一層:軍人側

 

モニターには“彼”の行動ログが並んでいる。

 

財布を拾う。

花を挿す。

猫に巻き込まれる。

 

戻る。

 

軍人が言う。

「危険性はない。攻撃性も確認されていない」

 

別の軍人が続ける。

 

「ただし、行動が一定しない」

「一定しないのに一定している」

 

少し間。

 

「分類は保留だな」

 

さらに小さく、一人が言う。

「……保護対象として扱う余地はある」

 

誰も否定しない。

 

ただ、その一言だけが少し浮いていた。

 

 

 

 

第二層:有志側

 

「普通にいい人じゃないですか」

 

有志が言う。

「財布返すし、子どもにも優しいし」

 

軍人側の誰かが返す。

「予測不能だ」

 

有志は即答する。

「予測できないだけでしょ?」

 

少し空気が止まる。

 

有志が続ける。

「むしろ、壊れてないですよね」

 

その言葉に、誰もすぐには返さない。

 

「壊れていない?」

「この環境で?」

 

「だからじゃないですか」

 

それは理屈ではなく、感覚だった。

 

 

 

 

第三層:上位観測側

 

会議室の奥。

同じ部屋のはずなのに、空気だけが少し硬い。

 

「結論は」

「まだ出ていません」

「なぜ」

「分類が割れています」

 

資料が並ぶ。

 

軍人報告:非攻撃性・分類不能・監視継続

有志報告:安全・親和的・善良傾向

現場ログ:介入はすべて後手・影響なし

 

一人が言う。

「つまり、“確定できない”ということです」

 

 

沈黙。

 

別の声が落ちる。

「確定できない対象は、最も危険です」

 

 

 

 

分裂

 

同じ映像を見ている。

同じ行動を記録している。

それでも意味だけが割れていく。

 

軍人:「保護の可能性」

有志:「ただのいい人」

上位:「未定義=リスク」

 

 

誰も間違っていない。

 

そしてそのことが、一番まずかった。

 

 

 

 

その夜。

 

三つの報告書が同時に提出される。

内容はそれぞれ違う。

だが最後の一行だけが一致していた。

 

「対象の意図は不明」

 

 

 

 

そして決裂

 

翌日。

 

合同会議。

昨日と同じ部屋。

 

だが空気はもう“共有”ではなかった。

 

軍人が言う。

「現状は保留でいい」

 

奥の席が即答する。

「保留は最も危険です」

 

有志が割って入る。

「いや、何もしてないですよ?」

 

軍人が有志を見る。

「“何もしていない”ことが問題だ」

 

有志が返す。

「じゃあ何をすればいいんですか」

 

 

沈黙。

 

誰かが言う。

「そもそも、あの人は何なんですか」

 

 

 

誰も答えられない。

 

 

 

 

そして最後

 

端末の画面。

誰が打ったか分からない一行。

誰も止めないまま、そこに残る。

 

 

 

「こいつ何やってんの?」

 

 

 

 

カット

 

その頃。

 

河川敷。

彼はフリスビーを投げていた。

 

ハヤテが走る。

猫はいない。

 

風だけがある。

 

 

 

 

(第13話・完)

 

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