ゾンビ公認:この人間は食べられません   作:めぇ

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第14話:歪む観測『統計異常』

 

その日、観察はもう“観察”ではなかった。

 

同じシェルター内の合同観測班。

軍人二名、有志三名。

 

彼らは記録室ではなく、初めて“現場側”に降りていた。

見る距離が変わるだけで、同じものが少し違って見える。

 

それが最初の違和感だった。

 

 

 

 

「……昨日のログ、もう一度確認します」

軍人が淡々と言う。

 

端末には“彼”の行動が並んでいる。

 

財布。

花。

猫。

将棋。

ゲートボール。

そして何も起きない帰宅。

 

有志の男が息を吐く。

「全部、普通ですね」

 

軍人が即答する。

「普通すぎるのが問題です」

 

 

 

 

少しの沈黙。

 

有志の一人が言う。

「でもさ」

 

軍人が視線を向ける。

「何ですか」

 

「もう結論出てない?」

 

軍人は即答する。

「出ていません」

 

「いや、普通にいい人でしょ」

 

 

その瞬間、空気がわずかにずれる。

 

 

 

 

一日目:財布(再確認)

 

彼は歩いている。

ハヤテが後ろをついている。

 

歩道の端に財布が落ちている。

黒い革財布。

 

彼は立ち止まる。

 

拾う。

 

中を見る。

 

数秒。

 

「……交番、行くか」

 

それだけ。

 

 

有志の男が小さく言う。

「またそれかよ……」

 

軍人が記録する。

【行動反復:倫理判断優位】

 

 

 

 

そのとき通信が入る。

 

上位観測班。

『その財布の出所は』

 

軍人が答える。

「有志側の持ち込みです」

 

 

沈黙。

 

『意図は』

 

 

誰も答えない。

 

 

 

 

二日目:花

 

住宅街。

女の子のゾンビが座っている。

 

彼は花を取る。

髪に挿す。

 

有志が笑う。

「もうさ、それ癖でしょ」

 

軍人が言う。

「判断は保留です」

 

上位観測班のログ。

『意味を定義せよ』

 

 

 

誰も答えない。

 

 

 

 

三日目:ゲートボール

 

老人ゾンビとの対局。

 

彼は負ける。

また負ける。

 

笑う。

 

「これムズいな」

 

 

有志がぽつりと言う。

「この人さ」

 

軍人が聞く。

「何ですか」

 

「普通じゃない?」

 

 

 

軍人は答えられない。

 

 

 

 

四日目:将棋

 

商店街。

 

彼は負ける。

ずっと負ける。

 

そこに有志が言う。

「戦ってないよね」

 

軍人が反応する。

「戦っていない?」

 

 

「勝とうとしてない」

 

 

 

 

その瞬間。

 

ほんの一秒だけ、空気が止まる。

 

 

 

 

■ズレ(ここだけ異常)

 

観測端末が一度だけノイズを出す。

 

「……?」

 

軍人が画面を見る。

 

ログは正常。

映像も正常。

音声も正常。

 

何も壊れていない。

 

 

 

 

有志が言う。

「今さ、さっきの将棋のとこ、三人いなかった?」

 

軍人は即答する。

「いました」

 

「いや、今一瞬さ」

 

「錯覚です」

 

 

 

 

そのとき。

 

上位観測班の通信。

 

 

 

 

『記録に齟齬あり』

 

 

 

 

沈黙。

 

軍人が言う。

「どの部分ですか」

 

少し遅れて返る。

 

 

 

 

『将棋対局は成立していない』

 

 

 

 

 

 

■理解が崩れる瞬間

 

有志が笑う。

「いやいや、見てましたよ?」

 

軍人も言う。

「見ていました」

 

 

 

 

上位観測班。

『ではその“見ていた”は誰の記録か』

 

 

 

 

沈黙。

 

 

 

 

■何も起きていないのに壊れる

 

彼は立ち上がる。

 

「帰るか」

 

ハヤテが歩く。

いつも通り。

 

 

 

 

観測班は動かない。

 

軍人が小さく言う。

「記録を再確認する」

 

有志が言う。

「でもさ」

 

「さっきの何だったんですかね」

 

 

 

軍人は答えない。

 

 

 

 

■結論だけ残る

 

その夜。

 

報告書。

 

軍人:正常

有志:普通にいい人

上位:異常

 

そして最後の一行だけ一致する。

 

 

 

 

「対象の意図は不明」

 

 

 

 

■終わり

 

彼は縁側で麦茶を飲む。

「今日は平和だな」

 

ハヤテが隣にいる。

風が吹く。

 

 

 

 

(第14話・完)

 

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