早朝。烏丸が特に理由もないまま、ふかふかのベッドから目を覚ました瞬間、何の意図もないままぽつりと言った。
「ちょっとこの辺、歩くか」
その言葉は、ホテルの内線電話でフロントに届いたわけじゃない。
ただ、彼の気配を察知したホテル中のスタッフゾンビたちのネットワークを通じて、電撃のように館内を“口コミ”だけで駆け巡った。
「(来るぞ)」
「(お客様が動かれる)」
「(全員配置につけ)」
「(来るぞ)」
「(動いた)」
「(急げ急げ急げ)」
次の瞬間、静まり返っていたホテルの裏方が、一斉に蜂の巣をつついたように動き出した。
*
烏丸が部屋のドアを開けるわずか数秒前。
廊下では、ホテルスタッフゾンビたちによる、すさまじい速度の「超高速お掃除レース」が展開されていた。
モップやブラシを両手で残像のように動かしながら、烏丸が歩くだろうルートの埃を完璧に払い落としていく。別のスタッフゾンビが「ガタタッ、ドササッ」と音を立てながら、廊下に転がっていた古びたインテリアや崩れた壁の破片を全力で物陰へと撤去していく。
屋敷からついてきたメイドゾンビたちは、烏丸の部屋のすぐ外で待機しながら、ホテルのスタッフたちがドタバタと片付けを終えるのを静かに見守り、烏丸がスムーズに歩き出せるよう先導の補助についていた。
烏丸が「なんか崩れたんだな」とのんきに首を傾げて通り過ぎる背後では、危機一髪で撤去を終えたホテルスタッフたちが、壁にピタッと張り付いて「あぶねぇ……」と言いたげに安堵の吐息(うめき声)を漏らしていた。
*
さらに現場がパニックになったのは、烏丸が「展望デッキ」に足を向けた瞬間である。
リゾートの最上階。そこは昨日、ホテルのスタッフたちが総出で完璧に整えたはずの場所だった。しかし不安が膨らむ。
展望デッキへ烏丸が進む速度に合わせて、スタッフゾンビたちの「先行突撃隊」が猛烈なダッシュで階段を駆け上がっていた。
「(お客様がデッキに到達するまで、あと30秒!)」
「(最後の仕上げ!!)」
「(窓を拭け! 床を磨け! 最高の景色をお見せするんだ!)」
彼らは生前のホテルマンとしてのプライドを燃料にして、限界を超えたチームワークを発揮した。烏丸がデッキの扉を開けた瞬間には、埃も汚れもない、文句なしに美しい極上のパノラマステージが奇跡的に完成していたのである。
「おお~」
烏丸は手すりにに近づき、嬉しそうに眼下の景色を見つめている。
きらきらと輝く海。
どこまでも青い空。
朝日に照らされた真っ白な砂浜。
ただそれだけで、彼は本当にいい顔をしていた。
彼が感嘆の声を上げるのを見て、物陰に隠れたスタッフゾンビたちは「ウアァ……(報われた……)」と音のない歓喜に震えた。
烏丸の少し後ろでは、ホテルのスタッフゾンビたちや、彼の身の回りを補助するメイドゾンビたちが、みんなで同じ方向を見つめていた。
「(いい景色だな)」
「(ああ、喜んでいただけているな)」
「(これでいいんだよな。ホテルマン冥利に尽きるな)」
静かで温かい、完璧なおもてなしの時間が流れていた。
しかも、育ちの良い烏丸は“立入禁止”と書かれた扉の中に素直に入らないでくれた。瞬間、後ろで見守っていたスタッフゾンビたちは一斉に「あうぅ……(よ、良かった…)」と、心底ホッとしたように小さく胸をなでおろしたのだった。
――その時だった。
「なんかここだけ、葉っぱが多いな?」
烏丸の足がピタリと止まる。
「(え)」
「(そこを見るのか)」
「(そこは別に、見なくていいやつだろ)」
スタッフたちの間に一瞬で色んな感情が流れた。
烏丸が指差したのは、デッキの隅に置かれた大きな観葉植物だった。
ほんの数センチ、配置のズレ。昨日のドタバタ清掃の際についた、わずかな乱れ。
「(……俺だ)」
「(お前かよ)」
「(すまん、急いでたんだ)」
清掃班ゾンビたちが視線で小突き合う。
だが、烏丸が気にしたのはスタッフのミスではなかった。その植物の隙間の奥。
壁の一部に、あからさまに不自然な“何もないはずの形”が、不気味に浮かび上がっていたのだ。
「(……?)」
「(え? なにそれ)」
「(あんな設備、ホテルの設計図にあったか?)」
「(知らん)」
後ろの方で直立不動で控えていたオーナーゾンビも、濁った目を限界まで見開いてその壁を見つめていた。
自分のホテルなのに、初めて見る形だった。
「(……知らん……。あんな隠し部屋、俺も本当に知らんぞ……)」
館内のすべてを把握しているはずのオーナーすら、完全に思考停止に陥った瞬間だった。
そう、ホテルの現スタッフは誰も、あんな場所に部屋があるなんて知らなかったのだ。
そんな大人の深刻な困惑をよそに、烏丸はわくわくした手つきで普通にノブを回して扉を開けた。
中に広がっていたのは、長い年月が作り出した埃と湿気のどんよりとした世界。
だが、その部屋の奥にある古い窓の向こうに広がる海だけが、先ほどのデッキのどこから見るよりも、異様に、そして極上に綺麗だった。
「うわぁ……」
烏丸が感嘆の声を漏らす。
「(うわぁ……)」
「(うわぁ……)」
「(うわぁ…。なにここ)」
「(知らんが、汚い)」
「(でも見ろよ!めっちゃ眺めいい…)」
「(何これ、めちゃくちゃ綺麗じゃん……)」
後ろにいたホテルスタッフゾンビたちも、烏丸の肩越しに中を覗き込みながら、一斉に心の中で「(うわぁ……)」と声を漏らした。全員が初めて見る、隠されたホテルの最高傑作の特等席だった。
烏丸がひとしきり景色を眺めている間、後ろにいたゾンビ達も同じように海を見ていた。
しばらくして、烏丸がふと劣化した棚の冊子へ手を伸ばす。パラパラとページをめくり、指を一箇所で少し止めた。
「ここ、最初のオーナーさんが作ったんだ」
その呟きに、再び現場の時が止まる。
「(初代……)」
「(初代オーナーって誰だ?)」
「(そんな昔の話、聞いたことないぞ)」
「(いや、社史に書いてあったかもしれない)」
スタッフたちがザワつくなか、一番後ろにいた現オーナーゾンビも完全にフリーズしていた。
「(……知らん……。そんな大昔の秘密基地みたいな部屋、俺も本当に知らないぞ……)」
世界が滅び、ゾンビになってから、初代の残したとんでもない隠し遺産を宿泊客に教えられることになるとは、現オーナーも夢にも思っていなかった。
オーナーゾンビは、もう一度だけ信じられないといった様子で部屋を見回した。
「(……俺、本当に知らんぞ)」
現オーナーなのに、自分のホテルのことを何も知らない。
なのに、初めて入ったはずの宿泊客はもう由来まで知っている。
なんだこの状況。
そんな大人たちの深刻な困惑をよそに、烏丸はわくわくした様子で窓辺へ歩いていった。
そして、古い窓枠に手をつく。
彼の指先に、うっすらと白い埃が付いた。
「(あ)」
「(埃だ)」
「(まずい)」
「(まずいぞ)」
部屋を囲んでいたホテルスタッフゾンビたちの視線が、一斉にその指先へ集まった。
烏丸は棚を見て、床を見て。
もう一度、窓の向こうの極上の海を見た。
何かを考えるように小さく首を傾げた。
「(気付かれた)」
「(完全に気付かれたな)」
「(あんな眺めのいい場所なのに……)」
「(汚れてるもんな……)」
ホテルマンとしての良心が、じわじわと胸に刺さる。
そして。
「ここ、掃除するか」
その瞬間だった。
彼の身の回りの補助を担当する屋敷のメイドゾンビ達が、その場から消えた。
――ではなく、次の瞬間にはもう隠し部屋のど真ん中に、掃除用具を構えて立っていた。そこらへんのスタッフゾンビから掃除用具を毟り取っていた。
「(は?!)」
「(返せ!)」
「(俺のハタキ!)」
「(早い)」
「(い、今、移動の残像すら見えなかったぞ)」
「(あれはもう、仕事の速度じゃない……!)」
呆気に取られるホテルスタッフゾンビたちの前で、メイドゾンビ達の両手は音を置き去りにして動き出す。
わずか数分後。
埃と湿気まみれだったはずの隠し部屋は、まるで“最初から気品溢れる貴賓室だった”かのような、完璧に磨き上げられた状態へと生まれ変わっていた。
終わると、メイドゾンビ達はフンスと鼻を鳴らし、ホテルのプロたちに向かって静かに告げた。
「(格が違うわ。これぞ若旦那様に仕えるプロの技よ)」
「(これが、我が家におけるお掃除の“標準”ですわ)」
「(まったく。若旦那様にこんなに埃を吸わせて!)」
「(標準が怖い……)」
「(うちのホテルの清掃基準、完全に負けてるぞこれ……)」
プロとしてのプライドを上回る圧倒的な技術格差に、ホテルの清掃班スタッフたちはガタガタと本気で動揺し始めた。
しかし、彼らもまたプロだった。烏丸が次の場所に向かおうと背を向けた瞬間、オーナーゾンビ、コンシェルジュゾンビがメイドゾンビに交渉した。
「(……あの、後ほどお掃除の講習を……)」
「(夜、お客様が寝静まられた後にお願いできますでしょうか……)」
「(……よろしいですわ。最高のおもてなしを直伝して差し上げます)」
世界が滅んだディストピアのリゾートホテルで、まさかの「夜間合同清掃研修」の開催が、無言のまま綺麗に成立した瞬間だった。
*
次に向かったのは、ホテルの奥にある薄暗い倉庫だった。
烏丸は、長年使われていなかったらしき埃を被った浮き輪や、カラフルなビーチパラソルが並んでいるのを見つけ、(これ、まだ普通に使えるな……)と目を輝かせた。
「これ、持って行っても……」
彼が最後まで言い切るより、本当に、ほんの一瞬だけ前のことだった。
その場にいたホテルスタッフゾンビたちが、全員一斉に、もの凄まじい勢いで首を縦に振った。
コクコクコクコクコク!
あまりの激しい肯定の残像に、烏丸は思わず息を呑む。
「え?」
コクコク。
「……本当に、いいの?」
コクコクコクコク!
スタッフゾンビたちの心は、すでに一つにまとまっていた。
「(全部持ってけ!!)」
「(むしろ、今すぐ全部プールへ持って行ってくれ!!)」
「(世界がこうなってから、この道具たちを使う人が現れるなんて、夢にも思わなかった……!)」
暗い倉庫の片隅で、烏丸が楽しそうにパラソルを選んでくれるその姿を見て、生前のホテルマンとしての喜びが蘇ったのか、ボロボロと大粒の音のない涙を流して静かに男泣きしているスタッフゾンビもいた。
烏丸の旅の補助を最優先する我が家のメイドゾンビたちも、彼らのそんな熱い大肯定(ホスピタリティ)を察すると、無言のまま、けれど「任されましたわ」とばかりに、妙に手際よく浮き輪やパラソルを次々と抱えてプールサイドへと運び出し始めたのだった。
ホテルの屋外プール。
そこは、太陽の光を浴びて水面がきらきらと輝く、文句なしに美しい場所だった。
そんな極上のプールへ入った烏丸が、部屋の荷物から取り出して一斉に投入したのは、なぜか大豪邸から大量に持ってきていた黄色い「あひるさん」のおもちゃだった。
ぷかぷかと水面を黄色く埋め尽くしていく、膨大な数のあひるさん。
パラソルの陰や物陰から声を殺してその様子をじっと見守っていたホテルスタッフゾンビたちは、一斉に遠い目をした。
「(……あひるだな)」
「(あひるだ)」
「(……あひる……?)」
「(紛れもなく、大量のあひるだな)」
「(これ海のおもてなしとして合ってるのか!?)」
「(分からん、だがお客様は最高に真剣だ! 邪魔をするな!)」
烏丸は真剣だった。
だから誰も止めなかった。
おそろしく真剣に、全力で、本当に楽しそうにあひるさんたちと遊び始めたから。
そこへ、部屋を出る際に烏丸から「一緒行こ」と声をかけられた老紳士ゾンビが静かに合流する。
老紳士ゾンビは無言で小さく頷いた。
世界がこんな風に壊れてしまってもなお、自分のことを本当の祖父のように慕ってくれる烏丸が、可愛くないわけがなかった。
老紳士ゾンビは、プール際に我が家のメイドゾンビがサッと設置してくれたビーチチェアに品良く腰掛け、あひるさんとおそろしく真剣にたわむれる烏丸を、嬉しそうに目を細めて眺めていた。執事ゾンビはそっとその後方に控えて見守る態勢に入った。
烏丸の生活補助に徹する我が家のメイドゾンビたちも、プールの傍らで温かい視線を送る。
「(楽しそうですね、若旦那様)」
「(そうですね。あんなに全力で遊んでいただけて、プールも本望でしょう)」
「(いいな、なんだか見ているだけでこちらも満たされるな)」
烏丸が真剣な顔であひるさんを水面に並べ続ける。
おもてなしの限界を超えたスタッフゾンビたちとメイドゾンビたちは、もはや見守るだけでは物足りなくなり、気づいた時には全員でプールサイドにしゃがみ込み、烏丸の邪魔にならないよう、けれどおそろしく丁寧な手つきで、一緒になってあひるさんを美しく整列させ始めていた。
最後には、老紳士ゾンビや執事ゾンビも、全員が脳内で大真面目なフォーメーションを組みながら、最高に真剣な顔であひるさんを等間隔に並べ続けた。
スーツを着た老紳士ゾンビの胸の奥に、生前すらやったことのない奇妙な遊びを通じて、死後一年以上経って初めて味わう(あ、なんかこれ、ちょっと楽しいな……)という静かな喜びが芽生えていた。
プールで遊び疲れた烏丸が、次に向かったのは敷地内のお土産物屋(売店)だった。だが、その一角は、昨夜までシャッターが固く閉ざされて錆びついていた場所である。
その裏側では、ホテルの夜間総力戦が繰り広げられていた。
「(お土産を買いたがっている気配がする!)」
「( 間に合わせろ!)」
「(無理だ、一年も通電していない)」
「(在庫の整理も終わっていない!)」
「(やるしかない! リゾートの売店が閉まっているなどありえない!)」
「(明日までに何が何でも形にするぞ!)」
「(倉庫から状態のいいモノをかき集めろ!)」
「(他の店舗からも、いいモノを持ってこい!)」
「(えっ、いいの?)」
「(使うやつ(人間)はみんな俺らが襲ったから居らん!)」
「(そうだった…)」
スタッフゾンビたちは文字通りの徹夜で、錆びついたシャッターを力任せにこじ開け、埃を払い、死に物狂いでかき集めた。
結果、一晩で一店舗だけを奇跡的に綺麗に開業させるのが限界だった。
フロントのアイロンを拝借してTシャツやアロハシャツのシワを限界まで伸ばし、チマチマした車のおもちゃを並べたり…。
ディスプレイを終えたのは明け方だった。
それでもできた。彼らにとっては、それで十分だった。
烏丸の「あ、開いてる」その嬉しそうな呟きが聞こえた瞬間、カウンターの奥で気配を消して立っていた店員ゾンビは心の底で咆哮した。
「(……勝った……!!! 一店舗だけだが、間に合わせたぞ!!!)」
店内を楽しそうにうろうろしていた烏丸は、棚の奥からやけに派手な南国風のアロハシャツを見つけ出し、隣で静かに佇んでいる老紳士ゾンビの体に当ててみる。
「似合う」
烏丸がぽつりと言った瞬間、売店内のすべての空気がピタリと止まった。
その場で試着した老紳士の姿に、メイドや店員ゾンビたちの脳内をもの凄まじい衝撃波が駆け巡った。
老紳士ゾンビの品のある白髪と佇まいに、そのアロハシャツが恐ろしいほどに、滅茶苦茶に似合っていた。
「(……似合う……!)」
「(お、おそろしく似合う……!!)」
「(なんでそんなに似合うんだ……!?)」
「(大旦那様がアロハシャツを着こなしておられる……!!)」
「(大旦那様が生前も着たことがないような派手な服なのに…?!)」
「(おかしいだろこれ! 紳士の品格とアロハが完璧に調和して芸術の域に達してるぞ!!)」
いつも高級な三つ揃いのスーツを完璧に着こなしていた老紳士ゾンビである。まさか南国のド派手なシャツを、白髪の佇まい一つで恐ろしいほどスタイリッシュに我が物にしてしまうとは、ホテルのプロたちも夢にも思っていなかった。予想外のダンディズムの暴走に、現場は大真面目に硬直する。
そんな中、後ろで見守っていたお供の執事ゾンビは、もう感情を抑えきれなくなっていた。
「(おそろしくお似合いだ……!! )」
蚊の鳴くような震える声を絞り出しながら、ボロボロと音のない涙を流して激しく号泣し始めたのだ。
世界が滅び、お仕えする主人がゾンビになってしまってもなお、烏丸からの贈り物(アロハシャツ)を静かに見つめるその姿が、あまりにも尊く、あまりにも美しかったからだ。
烏丸は、彼らのその激しい動揺っぷりを”大絶賛”、”嫌がってない”と解釈して、深く、満足げに頷くと、「よし、これ買おう」と、即座にお買い上げを決めた。
徹夜で一店舗だけを滑り込みで開店させた店員ゾンビは、そのあまりにも平和で優しいお買い物劇を見届けていた店員ゾンビの胸に、熱い感情が去来した。
「(よかった…。徹夜した甲斐があった……っ!)」
夕方の大浴場。
手に入れたばかりの新しい水着と、アロハシャツを着た老紳士ゾンビを連れて、烏丸が暖簾をくぐった時、そこにはすでに地元のゾンビたちが何体も先に入って、静かに湯に浸かっていた。
脱衣所を抜けて中に入ってきた烏丸は、広い湯船を見渡して、ただ一言だけ呟いた。
「広いな」
ざばぁ、と混浴状態の湯船に肩まで浸かる。
烏丸がのんびりお風呂に浸かっているのを見て、先に入っていた地元ゾンビたちの動きが、ほんの少しだけ止まった。
そして、一緒に湯船に浸かっていた地元のゾンビたちが静かに拳を握っていた。
「(……だよな)」
「(ほんと、広いな)」
「(ここ、いい湯なんだよな)」
「(明日は海に来るか?)」
「(漁師めし作るぞ!)」
けれど、声は出せなくても、彼らの心は不思議なくらいに完璧に揃っていた。
烏丸が気持ちよさそうに息を吐けば、少し離れたおじさんゾンビも同じタイミングで小さく息(うめき声)を漏らす。
同じ湯に揺られながら、のんびりと、静かに温もりを分け合っていた。
会話は一切ないのに、不思議と一つの大きな家族のように、最高に優しくて平和な時間が、夕暮れの湯煙のなかに溶けていった。
そして、正式なお客様である烏丸が湯船から上がった後。
残されたスタッフゾンビたちは、その極上の湯へと吸い込まれるように次々と浸かっていった。
「(あぁ……こんな感じだった)」
「(うん……)」
「(生き返る……最高だ……)」
彼らは誰もいない大浴場で至福の声を響かせながら、烏丸に感謝し、心ゆくまで湯浴みを満喫したのだった。
(第22.5話・完)