勝利の天に星は燃ゆ   作:さゝ0

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 旧作の方はかなり投稿間隔あけてしまったから謝罪とか書くことあったけど、何もないと書くとないですね。じゃ書かなきゃいいのに。


邂逅

 

 「……はぁ、またリリスがトップなの?あなた、本当に人間?」

 

 訓練終了後のロッカールーム。同期が汗を拭いながら、スコアボードを見て大袈裟にため息をついた。

 航空科の基礎課程を終え、戦闘機パイロットとしての訓練が始まって1ヶ月が経った頃。私の成績は、常に同期の頭一つ上をいっていた。

 

 「ふふ、悔しかったら次の模擬戦で落としてみなさいな」

 

 冗談を言い合いながら着替えていると、天井のスピーカーから放送が響き渡った。

 

『──通達。リリス少尉。13:00に特設研究室まで出頭せよ。繰り返す──』

 

 放送が流れた瞬間、ロッカールームの空気がピキッと凍りつく。

 

 「特設研究室って……あなた、先生に目を付けられるようなことしたの……?」

 「な、何も悪いことしてないはずだけど……?」

 

 同期の訝しむ視線を浴びつつ、腹ごしらえをするべく、私は食堂へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 「ふぅ……ご飯も食べたし、もうすぐ時間だから特設研究室に行ってくるね」

 「リリス、粗相のないようにね。骨は拾えたら拾うわ」

 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、優しい方なのはあなたも知っているでしょ?」

 「それはそうだけど……」

 

 心配そうに同期は言う。

 

 「だって、先生からの呼び出しなんて今までに前例がないのよ?リリスは最年少で成績はトップ、もしかしたら実験体にされるかも……」

 「怖いこと言わないでちょうだい……でも大丈夫よ、きっと。それじゃ、行ってくるね」

 

 とは言いつつも、私も少し……いや、かなり不安。

 特設研究室といえば、テンスイ特務大佐の本拠。私にとって、というより、新兵にとってその名は畏敬の念の対象ね。

 陸海空問わず、基礎課程における彼の指導力は凄まじいと言わざるを得ない。先生が指導についてから、新兵の成績はうなぎ登りらしいしね。みんな食い入るように聞き入ってたなぁ、私含めて。

 それに加えて、軍人に似つかわしくない柔らかい態度で、みんな"先生"って呼んでる。

 先生は多忙だから、講座は数回に1回だったし、基礎課程以外に指導を受け持つことは無い。そもそも滅多にお目にかかれない。正直、その後の課程も先生に教えてもらいたいな。他の教官が悪いわけではないんだけど、先生のが良すぎる。

 そんなことを考えながら歩いていたら、もう研究室近く……。少し、緊張する。

 

 「すうぅ…………はぁぁ…………落ち着いて、失礼のないようにしな────」

 

 瞬間、研究室から轟音が鳴り、爆風とともにドアと人影が吹き飛ばされた。

 

 「ゴホッ……一体何が……。いや、それよりも……先生!大丈夫ですか!?」

 

 すると、煙の中から影が見え、声が聞こえた。

 

 「ああ、すまないね。私は無事だよ。君は怪我してないかい?」

 「大丈夫です、何ともありません」

 

 煙が晴れ、姿が見える。そして私は思わず息を呑んだ。

 毛先のみが煤を塗ったように黒く染まった、鏡のように静かに煌めく銀髪。何より目を引くのは、その双眸。空色の虹彩に赫い瞳孔という、神秘的な瞳。

 爆風によって若干煤けてしまっているものの、その端正な顔立ちは健在であり、事故の直後だというのに表情に一切の焦りはない。

 

 「それはなにより。とりあえず…………ぼーっとしているようだけれど、どうかしたかい?」

 

 ……はっ、思わず見惚れちゃってた。あまりお目にかかれないから……。

 

 「いえ!何でもありませんよ?」

 「そうか、では中に入ろうか」

 「はい!」

 

 これはいけない。気を引き締めなくては。私は静かにそう決意した。

 

 

 

 

 

 「急に呼びつけて悪いね、リリス少尉。君にある提案をしたくてね」

 

 先生はドアを直しながら、話し始めた。……というか、もう直ってる。どういうこと?

 

 「いえ、お気になさらないでください。それで、提案というのは?」

 「私が基礎課程を受け持っているのは知っているね?実は、その後の訓練の成績などは目を通しているんだ」

 

顔の煤を拭いながら、先生はそう言った。

 

 「え、そうだったんですか?」

 「君の1ヶ月間の成績を見させて貰ったが……優秀であるのは誰の目にも明らかだろうね」

 「光栄です」

 

 まさか褒められるとは思っていなかったので、面を食らってしまった。……まずい。絶対、にやけちゃってる。

 

 「そこで、だ。君さえ良ければ私の個人指導を受けないか?私であれば君を更なる高みへ連れて行ける」

 「…………えっ?」

 

 思わず、驚きの声が漏れてしまった。それは、あまりにも甘美な申し出だった。

 

 「無論、通常の訓練より厳しいものになる。無理にとは言わないよ」

 「いえ……あの、嬉しいのですが、先生はよろしいんですか?私なんかに時間を使って」

 「問題ないよ。君の意思次第だ」

 

 ……思ってもみなかった展開ね。まさか、あの先生から直々にこんな打診があるなんて。人とあまり関わらない人かと思ってた。

 ───いや、それよりも、この機会を逃しちゃダメよね。

 

 「やらせてください。どんな厳しい訓練でも乗り越えてみせます」

 

 私がそう言うと先生はふっと微笑んだ。

 

 「よく言ったね。それじゃあ今後について説明するよ。まず、────」

 

 先生の説明によると、特例にて私は正規の訓練から外れ、先生が直々に指導する特別訓練を行うらしい。どうやってそんな特例を上層部に通したのかは疑問だけど、先生のことだから考えても意味がないとは思う。

 

 「───ということだ。説明は以上。早速明日から始めるから、8時にここに来てくれ」

 「了解しました」

 

 一礼して、私は研究室を後にする。時間を見ると、もうすぐ訓練の時間だった。少し小走りで訓練場へ向かう。

 途中、先程の事を思い出す。今でも夢見心地だけど、訓練に集中しなきゃね。

 

 

 

 

 

 翌日から先生による特別訓練が始まった。どんな訓練にも耐える覚悟はしていたけど、正直言って地獄だった。

 訓練内容は大まかに分けて4つ。座学、格闘、射撃、そして戦闘機の操縦だ。本来の訓練と比べてもそう差異はないけど、内容が格段に厳しいものだった。

 

 「いいかい?戦闘における基本はどれだけ相手の急所を突けるか。そして、そこに行き着くまでの戦術が大事になってくる」

 

 そこで、と先生が続ける。

 

 「現行の兵器や人体についての構造についてまとめてきた。まずは、これを全て頭に叩き込むよ」

 

 そう言って先生が渡してきたのは3000ページ以上はあるであろう分厚い本。重い。

 

 「構造を理解すれば、壊すだけでなく直すこともできる。機械も人体もね。全て頭に入ったら戦術の座学に移るよ。さあ、早速5ページを開いて」

 

 5ページを開く。とてもわかりやすくまとめられている。けど、内容は全くわからない。チラッと他のページを見たけど似たような感じだった。これがこの量あると思うと、気が遠くなりそうだった。

 

 「この構造として、パルスの────であるからして、────ファルシとなるため、────ルシということがわかる。つまり、コクーンで────から、────パージするということだよ」

 

 大丈夫だろうか。少し不安になった。

 

 

 

 

 

 「さあ、次は戦闘機の操縦だ。今日は指定のコースを飛んでもらう。まずは私が見本を見せるから、参考にしてね」

 

 それを聞いて、1つ、疑問が浮かんだ。

 

 「あの、先生って操縦できるんですか?」

 「ああ、心配はいらないよ。この世の誰よりも上手くできるから」

 

 先生はそう言うけど、正直信じ難いというか、科学者なのに戦闘機の操縦もできるとなると、流石に怖い。

 そんなことを考えていると、既に発進準備が完了していた。

 

『それじゃあ、しっかりと見ておいて』

 

 そう告げ、先生は空へ飛び立っていく。そして、その瞬間、気づいたことがある。

 

『いいかい。君は優秀だからある程度感覚でできているが、これに理論を組み────』

 

 先生が何か言っているが、正直耳に入らない。一切無駄のない、空を自由に駆けているような操縦。私どころか、その道ウン十年の教官達でさえ目ではない、そんな操縦だった。

 驚きで固まっていると、いつの間にか着陸体勢に入っていた。どうやらぼーっとしすぎてたみたい。

 戦闘機から降りた先生がこちらへ向かってくる。思わず、私は駆け寄った。

 

 「……先生、どこであんな操縦技術を身につけたんですか?」

 

少し悩みながら、先生は答えた。

 

 「そうだね……まあ、偉そうに言ってたけど私も感覚が大きいよ。実際、乗るのは3度目くらいだしね。君と差があるのは、君に比べても私の感覚が優れているのと、理論があるからだよ」

 「理論?」

 「そう、理論だ。飛行中に説明していただろう?戦闘機の特性、その日の天候、その他色々あるが……それらを身につけようってことだね」

 

 マウント取られたような気もするけど、理論……。それを身につければ、私もあんな風に……。

 

 「さ、それじゃ飛んでみようか。逐一、修正点は無線で伝えるよ」

 「はい!」

 

 その後はあまりにも細すぎる理論で殴られたり、感覚すぎる感覚で殴られた。風を感じるってなんなんだろう、機内なのに。

 

 

 

 

 

 昼休憩を挟み、午後への訓練へと移る。正直もう疲労が溜まっているが、泣き言は言っていられないわね。

 それにしても、指定された場所に来たが、見たことのない場所だ。ここでやるのかな?

 

 「先生、ここでやるんですか?」

 「そうだよ。従来の訓練場じゃ物足りなくてね」

 「勝手に作ったんですか?」

 「ああ。勝手に作った」

 

 少しこの人のことがわかってきた気がする。意外に問題児気質なのかもしれない。

 

 「午後は射撃と近接格闘を組み合わせた訓練やっていくよ。君はパイロットだから前線に出ることはまず無いだろうが、備えあれば憂いなし。体力作りにもなるしね」

 「はい!」

 「いい返事だね。まずは射撃からだよ」

 

 まずは先生がお手本を見せてくれるらしい。正直、もう予想はつく。武器はリボルバーみたい。こだわりかな。

 先生がスイッチを押すと数体のダミーが出てきた。止まっているもの、遅く動くもの、早く動くもの、様々な動作をしている。

 先生はそれを意に返さず、小気味よいリズムで、正確に的の中心のみを撃ち抜いている。

 

 「さあ、ここからだ。危ないから離れていて」

 「……?はい」

 

 疑問を抱きながらとりあえず離れると、先生がスイッチを操作する。

 すると突然、数十体のライフルやハンドガンを構えたダミーが現れる。そして、そのダミー達は一斉に先生目掛けて撃ち始めた。

 私は思わず先生へ叫ぶ。

 

 「危ない!」

 「大丈夫。そこで見てなさい」

 

 先生は私の叫びを意にも介さず、淡々と告げた。

 何が大丈夫なんだと、そう言おうとした瞬間だった。

 

 「はっ……?」

 

 目を疑うような光景が目の前に広がっていた。先生が銃弾を全て避けている。銃弾を、全て、避け……て……?

 

 「い、いやいや。いくら先生でもそんな……」

 

 有り得ない、信じられない。そう思ったけど、実際のところ、目の前では舞うように銃弾に掠りもせず避けている先生がいる。しかも、どんな体勢からも的確にダミーの頭部を撃ち抜いている。というかリボルバーだよね?いつリロードしてるんだろ……。

 もう驚かないつもりだったんだけどな……。と、思いつつ、しばらくその光景を眺めていた。

 1分ほど経っただろうか。一部のダミーの動きに変化が生じてきた。徒手での攻撃を仕掛けてくるようになっていた。

 それと同時に、先生もリボルバーを手放し、徒手での戦闘に移った。

 銃弾の雨を避ける最中、流れるように打撃をダミーへと叩き込んでいる。打撃を受けたダミーは10m以上は吹っ飛ばされているだろうか。人に向けたのなら、再起不能は免れないでしょうね。

 ……それにしても、

 

 「あの銃撃の中、掠りもしないなんて……」

 

 数体でも常人なら不可能なこと。それをあの数で、無傷で制しているというのはあまりにも人間離れしすぎている。

 反射神経や空間把握能力がズバ抜けているんだろうな。そもそものスペックが常人とは比べものにならない。

 

 その後、息切れすらしていない先生から告げられたのは、今と同じことを数体のところから始めるところだった。

 それはもう必死に説得した。私はまだ生きていたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくの時が経ち、リリスが最年少エースパイロットと呼ばれるようになった頃。

 

 「うん、大分動けるようになってきたね」

 「はっ……はっ……ありがとう、ございます……」

 

 エースパイロットとなった後も訓練は続いている。というより、そんな称号はテンスイにとっては二の次なのだ。

 

 「さて、少し休憩を────」

 

 突然、テンスイの言葉が途切れる。

 

 「……先生?どうかしましたか?」

 

 数秒の沈黙の後、テンスイが口を開く。

 

 「リリス、悪いけど休憩は無しだ。直ぐに戦闘準備をしなさい」

 「え、そんないきなり……どうしたんですか?」

 「いいから」

 「もう……、わかりましたよー」

 

 不承不承ながらも、リリスは戦闘準備のため基地へと戻った。

 

 「ふむ……何とも、嫌な"流れ"だね。しかし、何故突然……。ああ、なるほど。そこなら有り得るね」

 

 空を視ながら、テンスイはそう呟いた。

 

 数分後、彼の端末に緊急連絡番号からの通信が入る。

 

『テンスイ大佐、緊急事態だ。今どこにいる?至急戻ってきてくれ』

 「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そして世界は唐突に戦火に呑まれ、人類の平穏は終わりを迎える。

 





 今かなりモチベ高いので次回の更新は早い!かも!すみません、頑張ります。
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