恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
──陽の光が眩しい。
不忍池に刺す陽の光が──シャインの下半身を覆い隠している。
そんなシャインを護衛するかのように白い体毛の狼たちが唸り声を上げて腰を高くする。
「レモンさん、あの狼たちは……!!」
「ダイアウルフ……! 私達の世界では当たり前のように飼われてる軍用動物……ッ!!」
その名にイクサは心当たりがあった。
オオカミではなくジャッカルに近いとされている古代生物だ。
ただし、その体格は現生するハイイロオオカミよりも強大だったとされている。
一触即発の状況だ。全裸の変態が直立不動で構えていることを除けば、であるが──
「……レモンさん、ひょっとして侵略者ってこんなやつらばっかなの?」
「油断しないで。……こんなんだけど、戦った事のある私は分かる。シャインは──手段を選ぶということを知らないわ」
イクサは信じられない、という顔でレモンの顔を見た。
彼女も不本意そうに目を背ける。このような変態と知り合いであるということ事態が汚点だと言わんばかりに。
「酷い言いようだレモン。我々は旧知の仲だろうに」
「昔の事よ。私は──今の貴方を友だとは思わないわ。故郷を滅ぼした侵略者に与する貴方をッ!!」
「やっぱり極悪党じゃないか……しかもこんなのと友達だったのか……?」
「やめて。よりによって此処で私に幻滅しないで、本当に」
「おっと、勝手に盛り上がっている所大変悪いが──私の目標はあくまでも、そこの古牙イクサだ」
指を差され、イクサは後ずさる。
「だから何で僕なんですか! アナタのような変質者に狙われるなんて、僕は前世で何かしたんですか!?」
「……恐竜と対話する能力。そのチカラを我が統制主は欲している。是非とも我が手中に収めたい」
イクサの額に青筋が浮かぶ。さも当然のように自分の能力を目当てにしているシャインに向かい──力強く反駁する。
「……誰が仲間になるもんかッ!! 動物を道具のように扱うオマエ達の所に!!」
『そうだッ!! 生憎こやつは妾のモノだ。貴様の割って入る間等無いわ!』
「だろうな。──では、その反骨精神から先ずは摘むとしようッ! ──ダイアウルフよ、美しく戦場を彩れッ!!」
シャインの号令と共に、3匹の白い狼たちがイクサを狙って飛びかかる。
それを阻むのは長く太い身体を持つカガチだ。
己の身体を盾にし、狼たちの攻撃を一身に引き受ける。
次々に狼の牙がカガチの鱗に突き刺さるが、その肉を貫くには至らない。
その隙にメガは狼たちの群れを摺り抜け、単身シャインに襲い掛かろうとする。
『キャハハハハハァッ!! 貧弱ですわねえ!! 何匹がかりで噛みついたところで──』
「カガチッ!! 危ないッ!!」
『えっ!?』
──カガチが高らかに笑った瞬間、レモンは見逃さなかった。
シャインがキューブに不自然な操作をしていることに。
すぐさまレモンはキューブを掲げればカガチは粒子となって消失する。
当然──カガチに喰らいついていたダイアウルフ達は宙に放り出されるが──
「……せめて美しく散れ」
──直後。
ダイアウルフ達に取り付けられた装置が勢いよく爆ぜる。
熱。爆風が巻き起こり、それに煽られてレモンとイクサは吹き飛ばされる。
何が起こったのか分からないまま──メガは振り返り、呆然としていた。
『は? あ? え、一体──何が……ッ!?』
「余所見をしている場合かい? メガラプトル」
『ッ!!』
間髪入れずにシャインのキューブが展開され、そこから更に3匹のダイアウルフがメガに襲い掛かった。
最初は正面から相手をするつもりだったメガだったが──自爆したオオカミ達を見た手前、迂闊に近付くことが出来ず、大きく跳躍して引き下がるしかない。
『外道め……ッ!! あのオオカミ達は使い捨てかッ!!』
(イクサとレモンは──無事か!?)
風が吹き、黒煙が晴れる。
そこに横たわっていたのは──黒く焼け焦げたダイアウルフだったもの。
肉の焼け焦げる嫌な匂いが辺りに充満する。
「素ッッッばらしい!!」
その光景を前にして──シャインは大きく芝居がった仕草で両の手を開いた。
「命が散るその瞬間こそ、最高の芸術だッ!! これ以上ないッ!! 肉を散らせ、黒煙を揺らめかせる彼らは何と健気だろうかッ!! 命は、私のスイッチ一つで果てるッ!! 何と儚い事だろうかッ!!」
高揚した顔で絶叫するシャイン。
そのずっと後ろで──レモンはげほげほと咳き込みながら起き上がっていた。
「ッ……イクサ君、平気──ッ!?」
爆轟で耳がまだキンキンと痛む中──レモンはイクサを抱き起す。
しかし──イクサの目は大きく見開かれており、耳をずっと塞いでいた。
何かに怯えるように、ずっと──ダイアウルフの死骸を見つめている。
「あ、ぁあ、あ……?」
「イクサ君……!? しっかり!!」
「聞こえる……聞こえるんだ……ッ!!」
──い、だい……。
──か、らだ、が、ばら、ばら、に
──あつい、あついあついあつい
「あの子達の、声が、まだ聞こえる……ッ!!」
「……ッ!?」
レモンは──ダイアウルフ達の死骸を見遣る。
疑う間も無い即死のはずだ。自分達が死んだことになど気付く間もなく爆散したに違いない、と確信できる程に。
だが、イクサは──ダイアウルフ達の声がまだ聞こえると言い、耳を塞いでいる。
それを見たシャインはじわりと口角を上げた。
「そうか。やはり。やはり私の見込んだとおりだったか!!」
『しっかりせい、イクサッ!! 一体何を呆けておるのだッ!!』
メガが叫んでも尚、イクサは声に応える様子は無かった。
呆然と、膝を突き──ぼうっと目の前を見ているだけだ。
それを見て何か確信したようにシャインは叫んだ。
「古牙イクサのチカラは、ただ生き物の声を聞くだけではないということさッ!!」
メガに飛び掛かるダイアウルフ。
当然それを腰をかがめて躱すメガだったが──次の瞬間、またダイアウルフが爆散し、その爆風に巻き込まれてメガは吹き飛ばされる。
『がぁっ!?』
「やめろ──ッ」
──あつい。あつい、あつい、あつい。
爆風が遠くから吹き荒ぶ中、命の散る匂いが焚きつく中、イクサの体内から焼き付くような感覚が、そしてダイアウルフ達の断末魔の叫びが脳内に響き続ける。
彼の目は──最早、メガを見ていなかった。
倒れ込んだメガは起き上がろうとするが、爆風による衝撃ですぐに立ち上がることができない。
「やはりだッ!! 君は──生き物が死ぬ時、大きな精神的な負荷がかかるッ!! つまり、死んだ生き物の声も聞こえるということだッ!! 統制主の仮説は正しかったッ!!」
「何が、何が仮説よッ!? こんな、こんな惨いことをしておいてッ!!」
涙すら滲ませ、血が出る程に拳を握り締めてレモンは叫ぶ。しかし──何処吹く風でシャインは言い放った。
「申し訳ないとは思っているさ。私の検証の為に美しく散ってくれたダイアウルフ達にはね」
悪びれもせずシャインは屍たちに向かって一礼するのだった。
「だが彼らも感謝していることだろう。実験体として生み出された華の無い一生を、こうして美しく飾れたのだから──ね」
「見損なった──あんたは最低最悪の卑怯者だわッ!!」
「全ては統制主の検証の為だ。私達の行う”侵略”も、そして──今この瞬間も検証の一環に過ぎない。私達は──その少年の身柄さえ手に入れば良い」
「やめろ……やめて、やめてくれぇっ……!!」
爪を立てた手でヒステリックに両耳を塞ぎ、イクサは両肘を地面に突く。
今この瞬間も、彼の耳には幾つもの断末魔の叫びが反響し続け、心を蝕んでいる。
自爆させられたダイアウルフ達の無念と痛みが、他でもないイクサを焼き続けている。
しかし。
じりじりと更に2匹のダイアウルフが倒れ込んだメガににじり寄っている。
このまま組み伏せ、自爆するだけで──勝負は決する。
「──さあ、美しい幕引きと行こうじゃないか。検証も佳境だ」
「ッ……!!」
シャインがキューブに手を置いたその時だった。
──茂みから一台の車が飛び出してくる。
真っ白に塗装されたミニバンだ。
「ッ!?」
慌てて飛び退くシャイン。
そして、そのフロントガラスの奥でハンドルを握る男の姿を見たレモンは──すかさずイクサのキューブをひったくった。
「──メガッ!! 戻りなさいッ!!」
『う、ぁ……』
オオカミに迫られていたメガの身体は粒子となって消え失せ、キューブへと吸い込まれた。
そして、ミニバンはレモン目掛けて突っ込んでいく。後部ドアを開きながら。
運転手は親指で──「乗れ」と合図しているようだった。
すぐにレモンはイクサの首根っこを引っ掴み、ミニバンへ飛び乗る。
そのまま──ミニバンは一直線にその場から去っていくのだった。
怒涛の光景を前にして──シャインは呆気に取られていたが、すぐさま高笑いし出す。
「ハハハハハッ!! まさかの乱入で幕引きかッ!! この結末は予想していなかったよ、レモン!!」
前髪を大きく掻き揚げると──彼は不敵に笑みを浮かべる。
「……今回の所は私の敗けということにしておこう。だが、次はこうは行かない」
ダイアウルフ 生息年代:更新世 全長1.5メートル
史上最大のイヌ科。オオカミではなくジャッカルの仲間に近いとされている。