恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
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「──アッハハハハハハ! レモンッ! のこのことやってきてくれて私は嬉しいよッ!!」
「ッ……シャイン……!!」
歯噛みしながらシャインと相対するレモン。
しかし、シャインの背後には──全身を豪奢な羽毛に包んだ巨大な肉食恐竜が咆哮している。
何より、その装甲からはムカデのような形をした機械の触手が幾つも生えており、それが畝りながら絶えず冷気を吐き出しているのだ。
「何なのよ、その怪物はッ!! 尊厳もへったくれもあったもんじゃないッ!!」
「ティラノサウルスの仲間は前脚がお留守だからね。そこで、このパワードアームが背部に増設された。どうだい? 美しいだろうッ!!」
「そのムカデのような触手が!? 冗談も大概にして頂戴ッ!!」
辺りの芝生は既に凍り付いており、息を吸うだけで肺が凍ってしまいそうな冷気が辺りに充満していた。
体が凍結するほどではない。だが、この真夏に想定外の冷気。
『クソッタレ……今すぐにでも、冬眠しちまいそうですわ……ッ!!』
人間とは違って変温動物であるヘビ──即ちカガチは強烈な眠気に耐えながら戦う事になる。
「……レモン、聊か間抜けだったと言わざるを得ないな。恐竜は恒温動物、人間や鳥類と同じで寒さに強いんだよ」
「ッ……寝ないでカガチ……此処が勝負どころだわ!!」
「ティタノボアは……ヘビは恐竜ではないッ!! 単純明快だが、そこが勝負の分かれ目さッ!!」
それでもカガチは善戦したと言わざるを得ない。
冷気を放出するユウティラヌスの暴れる触手を避けながら必死に急所たる喉を狙って喰らいつくべく組み合った。
しかし、冷気はそれほどまでに致命的だった。
(この冷気、ただの冷気じゃない……!)
酷暑とも言われる程の日本の暑い夏は夜すらも蝕む。
だが、今この場はどうだろうか。
あの鬱陶しい湿気は消え失せ、乾いた空気に突き刺すような寒さが満ちている。
レモンは呼吸する事すらもはばかられた。ただ、屋外にエアコンを設置しただけではこうはならない。
あのユウティラヌスの機械の触手が放っている冷気は──もっと、空気中の温度そのものに干渉している。
「特に我がユウティラヌスにとって、厳寒こそ最大の味方となるッ!! 一方、カガチではこの寒さに対抗できないだろうッ!!」
その冷気の中で、平然と暴れるは──白亜紀の頂点捕食者・ティラノサウルスの類縁種たる雪原の王者。
名はユウティラヌス。その名が意味するのは「羽」の暴君。古代の凍土を踏みしめ、蹂躙した恐竜の王だ。
この状況──地の利では、圧倒的にカガチが劣ってしまっている。
前述したとおり、その状態でユウティラヌス相手に果敢に立ち向かっているカガチは最大限の善戦をしたと言えるだろう。
──尤も、善戦したとて勝てるわけではないのであるが。
「カガチッ!!」
『ぎゃあっ!?』
地面に叩きつけられ、そしてユウティラヌスの鳥のように鋭い足がカガチの爪を思いっきり踏みつけた。
もう、逃げ場は何処にも無い。
「さあてレモン。思い出したまえ。子供の頃のかくれんぼを。君はいつも巧妙に隠れ果せていたが、結局体力に勝る私が勝っていただろう。そう、いつだってそうだ。勉強も運動も──結局私の方が君より上だった。しかし!」
何処か懐かしむように、そして慈しむようにシャインはレモンを見下ろす。
「──私と張り合い、並び合うのは君しかいなかったよ。いつだってね」
「昔話なんてして、どういうつもり……?」
「あの頃に戻ろう、レモン。私と一緒に来い。今ならまだ、カガチも助かる。私と一緒に──統制主様の所で……共に世に平定を成そう」
「ッ……」
レモンは一歩、また一歩と後ずさった。
このままではカガチが殺されることは嫌でも分かった。
今も尚、カガチはユウティラヌスの触手から放たれる冷気を浴びせ続けられている。
だが、それでもレモンは──シャインの提案を正面から飲むことなど出来なかったのである。
「バカ言わないで……ッ!! 国を滅ぼされて、貴方が連れ去られたって知った時、私が何年心配したと思ってるの!?」
「おおう! 流石レモン! 私の事をそんなに想ってくれていたなんて、嬉しいね」
脳裏に浮かぶのは──滅ぼされ、火の手が上がり、そして無数の巨大恐竜に踏み潰された王国の残骸。
そこに告げられたのは、シャインを始めとした子供たちが敵に連れ去られたという続報。
彼らを皆助け出す、と決意して幾星霜──レモンは王女としての立場と誇りすら捨てて、ずっとレジスタンスで反撃の準備をしていた。
しかし──数年後、目の前に現れたには恐竜と共に集落を襲撃するシャインの姿だった。
「死んだと思っていたあんたが、敵として現れた時の私の気持ちが……あんたには分からないでしょうねッ!!」
涙を拭いながら──レモンは叫ぶ。
それは裏切への怒り、悲しみだった。
最早、目の前にあるのは幼い頃から共に過ごした旧友に非ず。
破壊を振り撒き、仲間を傷つける敵だ。
しかし──
「だから何だって言うんだい? レモン──君は今、選択肢なんて与えられていないんだ。あるとすれば、この場で死ぬか、軍門に下るか。その二択だよ」
──シャインの顔は笑っていなかった。
「……シャインッ……!!」
『レモン様! 惑わされてはいけないですわ……私の事など構わず、戦闘の続行を……ッ!!』
「ッ……カガチ……!」
『相手の口車に乗せられてはダメ!! 奴の軍門に下るのはッ……がぁっ……死んだ、王国の人々の無念を踏みにじる行為ですのよ!!』
視線をカガチに移す。
だが、もうカガチに戦うチカラなど残っていないことは誰の目にも明らかだった。
この冷気がカガチの体温を奪い、代謝を停止させ、生きる力すらも奪い尽くしている。
「ンな事分かってるわよ……!!」
「ほう? では、私に勝つ策でもあるって言うのかい? それとも無いのに私に挑んだって言うのかい? だとしたら君は、大間抜けだなッ!! 亡国に相応しい落ちぶれ王女じゃあないかッ!!」
「だとしても、私が退いたら……あんたは無辜の人々を傷つける……私が、止めなきゃいけないの……ッ!!」
「──じゃあ、先にカガチを殺そう」
「ッ……!!」
『があああああ!?』
カガチが苦痛で絶叫した。
足の鉤爪が肉に食い込み、血が迸る。頭が踏みつけられ、押し潰されそうになっている。
だが、最後の一線を超える様子は未だに見せない。悲鳴が──辺りに響き渡っている。
「カ、カガチ……!!」
わざとだ。
わざとシャインは──死なないぎりぎりの所でカガチを踏みつけ、痛めつけている。
レモンの精神を甚振り、痛めつけ、その上で──折ろうとしている。
カガチがどれほどレモンと結びつきが強いか、シャインは理解している。
それが彼女の精神の綻びであることも。
「大した大義だよレモン。その大義を抱えたまま、カガチが死ぬところを黙ってみているが良い」
『い、けな、い、レモン様ァっ……』
「ッ……私は……」
レモンは手を突く。そして、キューブを掲げた。 此処でカガチを引っ込めれば、恐らく無防備となったレモンに冷気が浴びせられるであろうことは想像に容易い。
(考えるの、考えて……私……!! この状況を突破する術を……ッ!!)
「おや、まだ策でも考えているのかい? そんなものは無いよレモン。あるなら、こんな窮地に追い込まれていないだろうからね!!」
シャインの口角が上がった。確信したのだ。レモン・シトラスは──限界であることを──
「──ギャオオオオオオオオオオン!?」
──それ故に見逃した。
暗闇から迫ってきた、一陣の閃光を。
突然の来訪者がユウティラヌスに強烈な蹴りを浴びせたその瞬間を。
ユウティラヌスの姿勢が大きく崩れ、地面に倒れ伏せた。
信じられない、とばかりにレモンはその方向を見遣る。
「ッ……また、そんなものを恐竜に着けているのか……!!」
『全く以て寒い連中だのうッ!! 虫唾が走るッ!!』
両足による飛び蹴りを浴びせたのは──イクサを背中に乗せたメガだったのである。
イクサはすぐに、息も絶え絶えに流血しているカガチに気付く。
そして、後ろで信じられないという顔で此方を見ているレモンに振り返った。
「レモンさん……カガチ……!! 僕らの代わりに戦ってくれたんだね」
「違う……違うの、イクサ君!! アナタは只の民間人で……戦っちゃいけないの!!」
「だから先に行って戦ってたの? でも……僕が戦わないといけない理由ならあるよ」
イクサは、改造されたユウティラヌスに視線を向ける。
そして──傷ついたカガチに目を向けた。
最後に、今も尚不敵に笑うシャインを睨み付ける。
「やはり来たね、古牙イクサッ!! それでこそ、美しき私の美しき獲物に相応しいッ!!」
「僕はやっぱり……操られた恐竜を放っておけない。何より、命をゴミみたいに扱うこいつらを放っておけない」
イクサが拳を握り締めれば、共鳴するようにメガも足を踏み鳴らす。
自分の到着が遅れたことでカガチが大怪我を負った事、何より──その全ての引き金になったシャインに怒りが向く。
「僕は……どんなに傷ついても……お前だけは許さないぞッ!! シャインッ!!」
ユウティラヌス 生息年代:中生代白亜紀 全長8メートル
史上最大の羽毛恐竜。発見されたのは平均気温が10度と冷涼な中国の義県。ユウは北京語で羽、ティラヌスは暴君を意味する。尚、シャインが使役する個体は遺伝子改造によってティラノサウルス並みの全長13メートルにまで巨大化している。