恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
「ッ……レモンさん!! カガチを戻すんだッ!! 早くッ!!」
「……う、うん……!!」
ムカデのような触手を支えにして起き上がるユウティラヌス。
だが、今の間に時間は稼げた。レモンはキューブを掲げ、傷ついたカガチをストレージ内に収納する。
そして安堵したようにその場に膝を突くのだった。
(……これでカガチは助かった……! 後は、こいつを……ユウティラヌスを助けなきゃ……ッ!!)
「ケルルルルルァァァァーッ!!」
「ヴォルルルルルルルルルっ!!」
イクサを乗せたまま、メガがじっくりとユウティラヌスににじり寄る。
夜風が──二匹の羽毛を揺らした。
(あれは……ユウティラヌス……! 実物を見ると、ニワトリみたいなティラノって風貌だ……ッ!!)
鶏冠を赤く隆起させるユウティラヌスは、背部から生えた触手を地面に突き立て、完全に態勢を整えた。
その様を前にしてシャインは長い髪を撫でる。
「……さあて。始めようか、イクサ。さっきのように途中で立てなくなってくれるなよ」
「……さっきのようにはいかない……ッ!! 気をしっかり持て、僕……ッ!!」
しかし──流れ込んでくるのは苦痛に満ちた声。
発しているのはユウティラヌス本人だ。
『痛い、クルシイ……冷たい……!! 重い……!!』
ぞくり、とイクサの肩が疼いた。
そこにあるはずのない傷が、じんじんと痛んでいる。
「この感覚って……!」
『痛い、か。無理もあるまい』
「どういうこと? メガ」
『あれを見てみよ』
メガの黄金色の双眸が睨むのは──背中から生えた触手。
そして、それが伸びている機械とユウティラヌスを繋ぐ杭だった。
杭は機械とユウティラヌスを直接ビス留めするように打ち込まれており、首や肩甲骨と言った部分に深く深く突き刺さっている。
羽毛には血がこびりついているが、これは獲物のものではなくユウティラヌス本体のものであることをイクサは察する。
「ヨロイじゃない……直接、機械を身体に埋め込んでいるのか!?」
バイザーによって覆われた頭部。そこに昏く光る赤い眼光。
それは──助けを求めるように揺らいでいるように見えた。
胸が締め付けられるようだった。
痛々しいユウティラヌスの姿、そして叫び。
凶暴な咆哮の正体がイクサにだけは分かる。
『御主人、御主人……僕、僕、頑張るから……』
それは──自らの主人への必死の訴えだった。
「御主人……ッ!?」
「そのユウティラヌスは……シャインが昔から育てていた子よ」
「そうだったの……!?」
「こんなに大きくなって……体が弱くて、シャインが看病してたのが……ウソみたいだわ……!!」
ぽつり、と後ろでレモンが呟いた。
悲痛そうに彼女は俯く。
「……私の家がカガチを……シャインの家は、ユウティラヌスを守ってきた。あの子の名前は……」
「そんなものはとうの昔に捨てたッ!!」
シャインの声が劈く。
「……今の彼は、只のユウティラヌス……そして、私の美しき美術品だッ!!」
「違うッ!!」
張り合うようにイクサの声が轟いた。
「命だッ!! 生きていて、今……苦しんでいるんだ」
シャインは心底不思議そうに首を傾ける。
「……美しさは強さだ。命は苦痛に耐える時こそ美しく強くなる。違うかい?」
「ッ……違うッ!! そんな理屈、要らないんだッ!!」
その一言でイクサの中で何かが切れた。
叫ぶ。ただただ叫び続ける。
「ただ一緒に生きるのに、そんなものは必要ないッ!! 一緒に居るだけで、ただそれだけで嬉しいんだッ!!」
堰を切ったようにイクサは叫んだ。
「そのユウティラヌスは君の家族なんだろう!? 何で一緒に居た家族を……傷つけるんだッ!! 痛めつけるんだッ!! 苦しませるんだッ!!」
「一緒に居るだけで嬉しい、か……青いな、イクサ」
「ユウティラヌスは……絶対助け出すッ! 必ずッ!」
シャインはユウティラヌスの頭をぽんぽん、と叩きながら──口角を上げる。
「……聞いたかい? 彼は君を助けたいそうだよ。だったら──」
そして、笑みが消えた。
「……助けてみせたまえ」
紫電が機械触手から迸った。
空気が震えたかと思えば、一気に周囲の温度が下がる。
街頭に霜が張りつき、踏んだ芝生がガリガリと音を立てて砕ける。
イクサを乗せたまま──メガが突進する。
対するユウティラヌスも咆哮を上げながら白い息を噴き出し駆ける。
「侮るなよッ!! 君達の相手は美しき雪原の暴君ッ!! 生態系の頂点だッ!!」
巨大な顎が大きく開かれた。
真正面からぶつかれば、叩き潰されるのはメガの方だ。
『ハッ、それは此方の台詞ッ!! わざわざ貴様の土俵で付き合うか!!』
「──メガッ!! あいつの鼻先を踏み台にするんだッ!!」
メガはユウティラヌスの正面で跳んだ。
そして、今度は軽々とした足取りでユウティラヌスの鼻を踏みつけ、更に跳ぶ。
両前脚の鉤爪を大きく開き、そして機械触手の一本を目掛けて降り下ろす。
『貴様こそ──狩人の刃、侮るなよッ!!』
甲高い金属音が夜の上野公園に響いた。
メガの鉤爪が切り裂いたのは──触手の根本。
うねりながら、それは音を立てて地面に落ちる。
火花が夜の闇に迸った。ユウティラヌスの咆哮が響くが──
『あ、う、すこし、軽く、なった……!?』
苦痛のみならず、少しだけ楽になったかのような声が混じる。
「効いてる……先ずは触手を全部破壊するッ!!」
イクサは思わずガッツポーズした。
機械はユウティラヌスの身体に深く深く食い込んではいる。
だが機械さえ破壊すれば、これまでのようにユウティラヌスを解放できる──
「──いいや? 遠い道のりだな。せいぜい頑張り給え」
シャインが鼻で笑う。
同時にユウティラヌスの背から更に3本の触手が展開される。
「……どれだけあるんだよ……ッ!!」
『全部で5本か……残り4本、終わりが見えてきたのう!』
「ポジティブなのは君の良い所だと思うよ! だけど、敵の手数が多すぎる!」
ユウティラヌスの背から触手が伸びる。伸びる。伸びる。
それはまさしくムカデの群れ。メガを捕えるべく、冷気を噴き出しながら襲い掛かる。
「来るッ!! 右からッ!!」
『分かっておる!!』
一本、二本、そして──三本。
それぞれを紙一重のところで躱していき──そして四本目をも潜り抜ける。
──しかし。
「甘いんだよ」
──触手が一気にメガたちの方を向く。
今度は冷気などという生易しいものではない。
無数の氷柱の弾丸が空中に生成され、メガに飛んで行く。
「そんなものまで!?」
『ぬうう、小癪なァッ!!』
飛んでくるそれを鉤爪ではじき返し、走り、走り、走る。
弾丸のように飛び交う氷柱を避け、ベンチを盾にし、街灯を蹴り倒し、そして──再びユウティラヌスの懐に潜り込むメガ。
「此処ならば、触手も届かないッ!!」
後ろ脚を思いっきり振り上げユウティラヌスを再び蹴り飛ばす。
触手の統率は乱れ、ごろんと巨竜は地面に倒れ込むのだった。
しかし──ぽた、ぽたと雫のようなものが地面に落ちていることにイクサは気づく。
「ね、ねえ、メガ……それって」
『流石に全ては……いなせなかったかのう……!!』
メガの腹部は切り裂かれていた。
触手から放たれた氷柱だ。そこから赤い血がどくどくと流れていたのだ。
「バ、バカッ!! 何で言わなかったのさ!?」
『足を止めていたら、今度こそ死んでおったわ! ……おかげで奴に一撃加えられたからのう!』
「……そう君達は思っているんだろうが、状況は想像以上に悪いよ?」
バチバチと紫電が迸った。
先程切断された触手が蛇のようにうねり、そして宙を舞った。
イクサは目を見開く。そして吐きそうになるような絶望が込み上げてくる。
「おい、冗談だろ……!?」
『切った触手がくっついておる……!?』
ぎちぎちと生理的嫌悪を齎す音を立てて、切断面同士がチューブ同士を絡み合わせ、再び繋がっていく。
そして、何事も無かったかのように触手は元のようにうねっているのだった。